醸楽庵だより

芭蕉の紀行文・俳句、その他文学、社会問題についての評論

醸楽庵だより  423号  白井一道

2017-06-09 16:14:21 | 日記

 おもちゃ屋のショウケン

 おもちゃ屋のショウちゃんこと、ショウケンはインテリだ。政治や経済の話を好む。居酒屋で酒を飲みながら政治や経済の難しい話をするからショウケンと話をする人は少ない。そのショウケンがぬけぬけと言う。若い頃はジャニーズ系の顔でモテタもんだと、とニタツく。前頭がはげ上がり、顎の肉が垂れ下がり首がどこにあるのかわからない。オナカがふくれて垂れ下かつている。どこがジャニーズ系なのか、今は昔、信じる人はいない。
 最近、ショウケン来ないねと、ママに話しかける。「うん。仕事が忙しいんじゃないの」。「景気のいい話だね」。
「仕事が忙しいんじゃ、良かったじゃない。この間、オモチャの単価を二円何十銭とか親会社から値切られて、もうやっていけないとコボシテにいたけど、我慢してるんだ」
「ショウケンが我慢なんか、するもんかね。止めちゃったみたいよ」
「今、仕事が忙しいと言つたのはウソなの」
「だから夕方から翌朝にかけて、長距離トラックの配送所でアルバイトをしているみたいよ。東京近辺から関西以西に荷物を運ぶ。荷物を降ろした近所でまた荷物を積み、関東まで運送する。その連絡を運転手にするような仕事をしているみたいよ」
「アルバイトの仕事が忙しいんだ。本業の方の機械は、止まったままなんだ」
「そうなんじやないの。お客さんの注文を聞いて、運転手に連絡するだけなんじや、いにい仕事じやない」
「それが、そうでもないみたいよ。高速代がいくら、ガソリンの消費がどのくらい、そういう細かなところを調べてどのトラックを配送るかを決めなくちゃならない。損することもあるみたいよ」
「寝ずに一晩中、仕事をするんじゃ大変だね」
「今は、公務員が一番よ。ショウちゃんも景気が良い頃は、旅行に行くと必ずと言っていいほど、お上産を買つてきてくれたけどね。最近じゃ旅行に行くこともないんじゃないの」
「じゃー、もうショウケンの奥さんから妬まれることなくなって良かったじゃない」
「そうね。でもお土産はもらいたいね。ショウケンも馬鹿なのよ。奥さんと私に同じものをお土産に買ってくるんだもの。いつだったか、私、蛇の目傘、欲しいのよと、ショウケンに何の気もなく言ったことを覚えていてくれて、私に買ってくてくれたのよ。私、踊りをやっているでしよ。小道具で必要な時があるのよ。それでショウケンに言ったみたいなの。それを覚えてにいてくれて、買ってきてくれたのは、いいんだけど、奥さんにも私と同じ蛇の目傘を買ってきたのよ。ショウケンの奥さんは着物を着ることもないでしょう。それも踊りで使うようなものだったから、奥さんから疑われてしまったのよ。ショウケンとは何の関係もないのに、奥さんが焼き餅やいてさー。困っちゃったことがあるのよ。よく言うじやない。女房焼くほど亭主もてやせずってねー。私だって、まだ選びたいね。男なら誰だっていいというわけにはいかないわ」
 ショウケンの酒の相手をしているいつものママさんとは違う。辛辣なことを言う。その言葉をなんとなく納得してしまった。いつもショウケンは機械を一日中動かして、仕事を終えて飲みに来る。顔が埃で煤けたように見える。指は太く、手の皺に染み込んだ汚れはいくら洗っても落ちそうにない。金のなくなっだショウケンはもう昔のショウケンではないのかもしれないなー。

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