14日の記事
「隣人に一歩踏み込む」の記事が公開されてなかったので
改題・加筆してアップします
この日訪れてくださった皆さん、
空振りさせてすみませんでした
※昨日の話ではありません
今年度、
私は自治会の班長を担っていまして、昨日はその業務の柱「赤い羽根募金の集金」を決行しました
それは台風19号とは関係の無い、年中行事の集金で
春に500円秋に500円を15軒の皆さんの家をピンポン回って徴収するというミッション
社宅の居住期限が切れて転出、この地域の一員に加えて頂いてはや15年
車の入って来ない静かな私道を取り囲むようにして暮らす15世帯
挨拶を交わせば気持ちのいい挨拶が返って来る、良いご近所さんに恵まれました
でもそれは裏を返せば「挨拶を交わすくらい」とも表現出来る関係
特に四軒のお宅で構成されるアパートの方々に関しては、家族構成も在宅時間もかなり謎
一年の任期のうちに集金業務は四回あるのですが
このアパートからの集金は「今、手持ちがない」と言われたり、子供たちだけのお留守だったり二度三度の手間がかかります
台風で他にやることなかったし
その台風も過ぎた
25日の〆日も見えてきた
交通機関も職場もショッピング・レジャー施設も閉じている今なら
お留守も少なかろう
いつやるか?
「今でしょ!」
あわてて皆さんに渡す領収書を作り
千円札を出された時のための500円玉を家族からかき集め
訪問に乗り出しました
※団体によって優先順位がずいぶん違う内訳、募金すりゃいいってものでもないのですね
「すみません近所の麦ですが、赤い羽根ぼ・・」「はいはい、少しお待ちください」
「五百円です」「はいどうぞ」「ありがとうございます」「お疲れ様です」
だいたいこんなやりとりで終わるミッションの最後に、
今回思い切って
「台風、どうでしたか」
を付け加えてみました
「いやあ、今回は風より雨の方が大変だったよね!」
近年建て替えられた、外壁全面サイディング、大手住宅メーカーの鉄筋のお家に住む方々は、興奮の面持ちながらあっけらかんとしたものでした
「私の家は揺れて本当に怖かったんですよ~」と、話を振った責任を自虐で取って終わりました
「俺さ、昨夜河川敷まで観に行っちゃったよ!」と教えてくれたのはアパートのサダさん
昭和16年生まれだった【サダさんのお父さん】には本当にお世話になったのですが
最愛の奥さんを追うようにしてお父さんのサダさんが急逝するまで、
この人の存在をほとんど誰も知らなかったという
幻の息子さん
ニート引きこもりの呼び声高かったけれど、どうもちゃんとお仕事はされていているようで
未だ出勤する姿を誰も見たことがないだけのよう
白髪混じりの長髪をオールバックでまとめたスタイルはお父さんそっくり、
秋葉原でコアな電子部品を買って、職質受けてるイメージ(←失礼だな)
お父さんのサダさんと違って
恰幅のいいアザラシ的な体格
大きな目がキョロキョロする愛らさに
可愛いもの大好きクラブ会長としては親近感を持ちます
お元気そうで嬉しかった
これが初めての無駄話
「えええ!あの夜に?!一人で?」
「そうだよ」
サダさんは、多摩川が氾濫したのではなく支流が逆流して越水していたという事と
多摩川自体も堤防の5m下まで水が来ていた事
多摩川が本当に決壊したらここだって危なかったんだよと、教えてくれました
「でもでも、あんまり危ないことしないでくださいね」
「何言ってんの!こういう時はこの目で見に行かないと駄目駄目
大事なことは誰も教えてくれないんだからさ!」
いやいや、こういう人が「様子を見に行ってが死んじゃう」んじゃないだろうか?
と心配だったけれど
サダさんのこの言葉が真理だと知ったのは
ずいぶん後になってからでした
「私は、東中まで避難しに行ったの、
一人暮らしだし、停電するかもしれなかったし」
同じくアパート住まいの女性のムラマツさんは多分60代後半、小柄の色白おかっぱワンレングス、姫君を見守るしっかり者の乳母役が似合いそう
いつもはっきり聴こえるくらいの鼻歌を歌っておられるのが印象的
「入り口で住所と名前を書いて、毛布を貰って寝るの
テレビでみるまんまよ?」
支給されるのは毛布だけ、避難所の床の冷たさを感じずに寝たければ敷物
お腹がすくなら食べものと水
「避難所に必ず持っていくべきものは何ですか」
帰るべき家が無くなったら
そこでしばらくそのまま暮らすことになるだけ
そんな命運をどうしても想定しない私は
トンチンカンなことを聞くのでした
「・・お水じゃないかしら?」
避難は日没前にはして、翌朝五時に安全を確認して帰ってきた事
周辺住民全員が避難できるような広さはとてもない事
帰る時には受付でチェックを受けてから帰らないと行方不明者してと心配されてしまう事
私の知りたかった話を沢山聞かせてくれました
築50年の家に1人で住む86才のサクラさんは私が一番心配していた人でした
家の前の大きな木が一本無くなっていたのに気が付いたのは最近のこと
お向かいのよしみでコマメに手入れをしていた「お父さんのサダさん」がもういないので、伐採されたのでしょう。
すっぽり開いたその空間が「面倒見のサダさん」の存在感のような気がします
「今日、おやすみ?」
向かいのアパートの窓から、サダさんの声が聞こえてきそう
訪ねた時はお留守
週末様子を見に来こられる息子さんのお家かな?
と引き返そうとしたら、向こうから歩いてこられる姿を発見
「ああ、集金?ごめん。ごめん。あんた、ちょっと寄っていきんさい」
小さな庭の縁側に招き入れられ「あそこ座りんさい」
「いいんですか❤」
横に4歩、縦に15歩くらいの小さな小さな庭
実は一度入ってみたかったのですごく嬉しかった
アパートを左に三階建ての家を正面に、そこに庭木の葉っぱが日光を遮るので
森のような薄暗さ
昨日の雨の湿気で柔らかくなった土は、私の足をふんわりと受け止め
背の低い大きな葉陰に何人かコロボックルが住んでいそうな
優しく静かな空気が満ちていました
取り急ぎ五百円をもらったあと
「あんた、お腹空いとる?」
絹製の巾着袋の中の、レジ袋から上等の海苔でくるまれた醤油のおかきが出てきました。
「食べんさい、ほら」
昨日の台風は、息子さんが来てくれて一緒に過ごしたけど、寝てしまったしどうってことなかった
という話もそこそこに
「あんた、おこわ好きかい?」
おかきが入った巾着袋から、今度はパックに入った御赤飯が出来て
「ハラさんちの様子見に言ったら持たせてくれたけど、私一人だもんよう食べんし」
ああ、そうだ、と四つん這いの勢いで縁側から家の中に入って行ったかと思うと
「これも飲みんさい」
と出て来たのは大きな瓶に詰まったマンゴー100%の高級ジュース
「サクラさん、私スーパーで働いてたから知ってるけど、このジュースはすごい高級品です
これは貰えませんよ」
「そうそう!私も働いとった
色んなところ転々としたけど、あのスーパーが一番長かった
まああ、いろいろあったよね、アンタも思うところあって辞めて他いったんだと思うけど
楽しかったしょ?悪くないところだったよ」
白濁し、カフェオレの色をしたサクラさんの目に真っすぐ見られて
「そうでしたかねえ・・」
実はもう、
あの頃のことがよく思い出せない
黒く生い茂る葉っぱの向こう
狭い青空の中を
足早に動く薄い雲が見えました
念の為マンゴージュースをもう一度固辞したら
「あんた
運が良かったね!」
そんなこんな、一時間くらいかけて
一軒を残した他の皆さんからの集金が完了し
重くなった集金用の缶と
ジュースとお赤飯とおかきと
大事なものを沢山受け取って帰ってきたのでした
長くなったので
とりあえずそんな話
出勤~( ̄▽ ̄)ノシ
🐸