週刊 新大土壌研

新潟大学農学部農学科 土壌学研究室の活動日記です 『週刊』を名乗っていますが、不定期に更新していきます

放射性降下物の土壌ー植物系における汚染とその除染に関する研究 その5

2011-04-22 | MN(野中)

 今回はH町の立地条件を異にする水田土壌中のセシウムと137とストロンチウム90の挙動を書きます。

 ①標高80mの丘陵地の洪積水田土壌(乾田)と②標高30mの沖積水田土壌(半湿田)と③標高1mの平地の沖積水田土壌(湿田)を比較しています。

 この3つの水田は当時、水系が同じでした。(ため池を利用)つまり、用水の流は①→②→③と考えて良いと思います。 

 粘土は①が表層から下層まで約50%、②は25%、③は40%です。腐植含量は①が表層で5、4%、②が表層で2,9%、③が表層で6%で下層も2、4%でした。

 土壌中のセシウム137の蓄積量は土壌1kg当たり、①が109Bq、②が149Bq、③が112Bqです。ストロンチウム90は①が36Bq、②が63Bq、③が32Bqです。

 その中で、土壌層位別蓄積割合は①では0~11cmにセシウム137が63%、ストロンチウム90が46%、11~25cmセシウム137が31%、ストロンチウム90が50%でした。②では0~11cmにセシウム137が49%、ストロンチウム90が36%、11~25cmにセシウム137が38%、ストロンチウム90が34%、ストロンチウムの場合、17~28cmに25%残っていました。③では0~12cmにセシウム137が98%、ストロンチウム90が74%、12~29cmセシウム137が1%、ストロンチウム90が24%でした

 これらの事実から、前回まで書いてきたように土壌中の粘土含量と腐植含量が多いと、これら核種の蓄積量は多くなりますが、この結果はその中で低地で水はけの悪い水田で蓄積されていることを示したいます。なお、②で多くなった原因を論文では比較的水はけがよかったので用水を多く引き込んだことが原因ではないかと書かれています。やはり、用水を通して標高の高い水田から低い水田へと核種の移動蓄積が起きているようです。

 特に、耕起により縦の浸透水を通した核種の動きも考慮しなければなりません。

 稲作可能な地域でもみなぐちにゼオライトや炭を置いたり、ビオトープを作り、水田への核種の侵入を防止する対策が必要と考えます。

 また、低地水田に用水を通して蓄積しないようにすることも大切です。


放射性降下物の土壌ー植物系における汚染とその除染に関する研究 その4

2011-04-21 | MN(野中)

 この研究では耕地土壌の透水性、土壌断面の各層位毎の化学分析・土性とセシウム137及びストロンチウム90の関係も調べています。          

 A町で近接する水田土壌の非常に排水が良い乾田、表層土壌の粘土の割合が7%、砂が60%、腐植含量2%と、排水の悪い湿田、表層土壌の粘土の割合が38%、砂が18%、腐植含量が8%で比較しています。湿田では下層まで粘土含量と腐植含量が乾田と比べて高いです。土壌採取は1965年です。

 その結果、土壌1Kg換算で乾田ではセシウム137が0~12cmに78Bq、12~23cm31Bq、ストロンチウム90が0~12cmに24Bq、12~23cmに16Bq、23~37cmに6Bq、37~50cmに1Bq蓄積していました。

 土壌1Kg換算で湿田ではセシウム137が0~12cmに98Bq、12~23cm25Bq、23~37cmに6Bq、37~50cmに7Bq、ストロンチウム90が0~12cmに38Bq、12~23cmに11Bq、23~37cmに1Bq、37~50cmに0.4Bq蓄積していました。

 この結果から、セシウム137とストロンチウム90は粘土含量と腐植含量が多い、湿田で高くなります。毎年耕作されていますので、耕作により湿田では下層土で保持されています。

 次に、G市の沖積水田土壌と約1Km離れたM町の火山灰水田土壌を比較しています。土壌採取は1967年です。

 沖積水田土壌の表層土壌の粘土の割合は26%、腐植含量は4.3%です。火山灰水田土壌の表層土壌の粘土の割合は32%、腐植含量は10%です。これら土壌の粘土と腐植は土壌下層まで同じ傾向を示しています。

 沖積水田土壌のセシウム137は0~16cmで91Bq、16~25cmで8Bq、25~35cmで11Bqです。ストロンチウム90は0~16cmで27Bq、16~25cmで12Bq、25~35cmで4Bq、35~50cmで3Bqです。

 一方、火山灰水田土壌はセシウム137は0~15cmで132Bq、15~28cmで12Bqです。ストロンチウム90は0~15cmで48Bq、15~28cmで33Bq、28~38cmで14Bq、38~50cmで10でBqでした。

 これらの結果は粘土と腐植が多い火山灰水田土壌では沖積土壌と比較してセシウム137とストロンチウム90の保持量が多いことを示しています。

 次回(可能ならば明日)は立地条件を異にする水田土壌について報告します。


放射性降下物の土壌ー植物系における汚染とその除染に関する研究,その3

2011-04-21 | MN(野中)

 まず、具体的な数字を出す前にお願いがあります。

 このデータは1954年から、旧ソ連、アメリカ、中国の核実験の結果、世界中に放射能核種がばらまかれました。新潟大学では1954年3月1日のアメリカビキニ環礁の核実験の際に新潟市で放射能を日本の大学として初めて検出したことから始まっています。

 その後、1969年新潟では柏崎に原発建設計画が起きて、この調査が継続されています。気象研究所地球化学研究部の三宅泰雄氏らのグループも盛んに研究を行っていました。当時、唯一の被爆国であった日本でこのように核実験から放射能が日本全体に降下することに対して、許せないという思いから研究が継続されたと聞いています。

 今回発表するデータは新潟県の農地や森林などの放射能が特別に高かったのではなく、日本全体で高くなったこと、現在、ほかの地域も含めて新潟では全く問題ないことを付け加えます。従って、今回の福島原発事故による放射能汚染問題は日本人全体の問題として考える必要があります。

 さて、森林と山岳土壌を紹介します。、

  佐渡ドンデン山標高850m、裸地に近い野芝草地土壌、赤泊標高320m、赤松林土壌からサンプリングしています。

  当時、ドンデン山は森林でないために直接日本に降下してきた放射能量を予測できます。

  1954年から核実験が始まったと書かれています。両地の土壌採取は1966年です。

  ドンデン山では10年間で降下した放射能は土壌Kg 当たりセシウム137が128Bq、ストロンチウム90が90Bqでした。毎年、降下していますから、下層への溶脱は少ないですが、セシウム137場合、0~10cmに81%、10~20cmに14%、20~30cmに5%でした。ストロンチウム90の場合、0~10cmに66%、10~20cmに12%、20~30cmに6%、30~40cmに9%、40~50cmに7%です。両方とも10年経過しても土壌表層に蓄積しやすいですが、ストロンチウムのほうが雨水で下層に溶脱しやすいことがわかります。

  次に、赤泊の松林ですが、土壌Kg当たり、セシウム137は3.32Bq、ストロンチウム90は1.92Bqです。セシウム137は0~10cmに100%蓄積しています。ストロンチウム90は0~10cmに89%、10~20cmに10%、20~30cmに1%です。

  先ほどの山岳地帯のデータと比較して、土壌に蓄積される量が少なくなります。これは葉や樹木と土壌のA0層(土壌表面の腐植層)に吸着されているセシウムやストロンチウムが多いと予想されます。

  これらのデータは標高が高く、遮蔽物がない場所ほど蓄積量が高くなることも示しています。

  福島の場合、森林の樹木や土壌、雪に直接蓄積したセシウム137とストロンチウム90がどの程度、雨水や雪に溶けて河川に流れるか監視しなければなりません。

 


放射性降下物の土壌ー植物系における汚染とその除染に関する研究、補足 野中

2011-04-20 | MN(野中)

 昨日から、上記論文紹介を始めました。

 まとめるには時間がかかりますが、この論文では新潟県内15ヵ所、約50地点の土壌を深さ別に採取して、ストロンチウム90とセシウム137を分析しています。

 誤解のないように、今朝、急いで土壌中のそれぞれの濃度をBqに換算しました。その結果、セシウム137は1kgの土壌当たり70~150Bq、ストロンチウム90はその4の1から5の1でした。

 現在問題となっていセシウム137は1 Kg当たり5000Bqです。

 昨日示した結果から、10年経過しても表層土壌に蓄積しているのですね、とのコメントを読者からいただきました。

 

 

 


新潟大学農学部土壌学研究室の放射性降下物の土壌・作物への影響研究紹介

2011-04-19 | MN(野中)

 かつて新潟大学で「放射性降下物の土壌ー植物系における汚染とその除染に関する研究」で学位を取られ、元土壌学研究室助教授 横山先生(83歳)に話を聞き、学位論文と当時の研究の様子を聞いてきました。

 この研究は新潟大学医学部・理学部も参加して「環境と放射能」汚染の実態と問題点(東海大学出版会、昭和46年)でまとめられています。関係者は横山先生しか生存していません。

 

 

 横山先生の了解が得られましたので学位論文の内容を図・表等をリメイクして、このメーリングで紹介して行きたいと思います。横山先生は土壌分析のプロでしたのでデータは信頼できます。

  この論文の内容を示します。

  新潟地方の農作物の放射能汚染

    水稲・野菜

  牧草中のストロンチウム90及びセシウム137濃度

  土壌の放射能汚染

    土壌中のストロンチウム90の抽出法

    水田土壌中のストロンチウム90とセシウム137濃度

    畑地土壌及び草地土壌中のストロンチウム90とセシウム137濃度

    原野、林地、山岳、湖底土壌中のストロンチウム90とセシウム137濃度

  汚染除去機構に関する研究

    各種土壌中に添加したストロンチウム90の行動

    各種資材添加土壌中におけるストロンチウムの行動

    各種の酸を処理した土壌中のストロンチウムの行動

    各種塩類を添加した土壌中におけるストロンチウムの行動

    各種土壌中に添加したセシウムの行動

    アンモニウム及びカリウムイオン共存土壌中におけるセシウムの行動

  以上です。

  

 

  土壌の放射能汚染では土壌の断面調査をもとにセシウムと137とストロンチウム90の垂直分布を調べています。1954年~1977年まで核爆発実験が行われ、土壌採取は1964年~1966年までで、原水爆実験により放射能核種が新潟に降下してから10年後の土壌採取とのことです。横山先生の話では放射能核種が降下し始めて10年が経過しているので雨により土壌下層への移行が起きていること、また、農地ではその間、耕起による攪拌で下層への移動も起きていたと推測しています。

  つまり、この論文は放射能核種が新潟に降下し始めて10年後のデータと考えてほしいとのことです。

 

  10年後の実際の割合は、

  佐渡のドンデン山山頂の土壌中の全ストロンチウム90中、0~10cmに66%、10~20cmに12%、20cm以下に22%移行していました。全セシウム137中、0~10cmに81%、10~20cmに14%、20~30cmに5%です。

  佐渡赤泊林地土壌ではストロンチウム90は0~16cmに84~94%蓄積し、セシウム137は100%でした。

  水田土壌では土壌型・土性・施肥管理・耕作により変動しますが、ストロンチウム90は0~10cmに全ストロンチウム90の70~30%が残りますが、50cmの深さまで移行しています。

  セシウム137は0~10cmに96%から50%残りますが、50cmより深く移行していません。腐植含量が多い土壌は下層への移行が比較的少なくなります。表層に有機物が多いほど、表層にとどまる割合は高くなるようです。

  これは当時、放射能核種が降下してきましたから、耕起しても均等には混じらず、毎年表層に蓄積したと考えられます。

 

  当時、農家の耕作は普通に行われたのでストロンチウム90やセシウム137が耕作で攪拌して、下層土壌まで長く残ってしまったことが何より残念であった、と話していました。

 

  深耕や天地返しのように土壌を攪拌して薄める行為は土づくりをしてきた農家にとって最も避けなければならないと思います。

  表層土壌だけの汚染にとどめ、それを除去し、有機物を投入して放射能核種が除染された夢のある新しい農業を始めることができるようにすることが最善と考えます。

 

  これから、時間が許す限り、横山論文の解説をしたいと思います。


放射能核種の土壌汚染修復と夢を持てる農業へ、農地の修復をー新潟大学・土壌学研究室 野中

2011-04-18 | MN(野中)

福島原発事故による放射能核種の環境への放出と農業に与える影響を考えて見ました。

1950年代から1960年代においてソ連、アメリカ、中国等の原水爆実験で日本には多くの核種が落ちてきました。

 そのころ、新潟大学土壌学研究室も含めて土壌中の挙動と作物への影響について研究が行われました。東大の研究も含めてのその当時からの知見の紹介です。

 ウランが核分裂すると今回問題となっているヨウ素131、セシウム137、ストロンチウム90等が生成されます。化学の教科書の元素の周期表を見ると判りますが、ヨウ素131(第17族)は崩壊してとなりの元素キセノン(第18族)となり、その時γ線を放出します。同じようにセシウム137(第1族)はバリウム(第2族)となりγ線を放出します。ストロンチウム90(第2族)はイットリウム(第3属)となりβ線を放出します。毎秒1回崩壊すると1ベクレル(Bq)と呼んでいます。このベクレルはウランの放射能を発見したフランス人の名前に由来しています。つまりベクレルが多いと1秒間に放出されるγ線やベータ線が多くなります。

 半減期はヨウ素131の元素集団がキノセンに変わり、異なる元素となるまでの時間で、ヨウ素131の場合は8日でヨウ素131は半分となります。

 また、作物にとって大切な土壌からの養分吸収を考えると、セシウムは第1族でカリウムと同じ属です。ストロンチウムは第2族でカルシウムと同じ属です。したがって、それぞれ1価、2価の+(陽イオン)を持ちます。

 土壌の粒子や有機物は多くのマイナスイオンを持ちます。つまり、+のイオンを保持する能力を持っています。これら土壌に保持された+イオンの元素は植物の根から吸収されます。基本的に同じ属の金属元素は土壌中で似ている挙動を示すと言えるでしょう。

 これら基本知識をもとにそれぞれ、土壌や作物への影響を考えてみます。

  ①ヨウ素131はガンマー線ですが、ヨウ素は-イオンですし、半減期は8日ですので、土壌への長期蓄積はありません。現在の汚染は降下物としての農作物への付着だけです。

  ②セシウム137はガンマー線ですが、半減期は30年です。土壌中では水には溶けにくく、土壌中に50~70%保持されます。土壌中では動きにくいですが、カリウムがあると置換されやすく、作物への移行を抑制できます。原子の周期表ではカリウムとセシウムは同じ第1族で挙動が似ています。土壌中では表層土壌に蓄積すると考えられます。

   カリウムは体内では腎臓を通して尿から排出されやすいようにセシウムも体内から排出されますがガンマー線ですので細胞や染色体に影響を与えることに変わりはありません。

  ③ストロンチウム90はベータ線で、半減期は28.9年です。事故発生直後から環境中に放出されていたとみられますが、土壌から検出されたのは約1カ月後です。ベータ線は測定に時間がかかるために遅れたこともありますが、ヨウ素131、セシウム137と比べて重いために拡散が遅れます。ストロンチウムは同じ2族のカルシウムと置換されやすいです。したがって、土壌中ではカルシウムがあると作物への吸収は抑制されます。また、土壌の中で20~30%が水に溶けて、下層土壌への移行と作物への吸収がセシウム137と比べて1桁大きいです。

   人間の体内に入るとセシウムより危険です。なぜなら、カルシウムと同じ挙動を示すので、カルシウムと交換して骨に蓄積してベータ線を出し続けます。骨細胞を破壊してガンになり易くなります。

 畑作物の場合、土壌中に蓄積したセシウム137の吸収率は0.05%以下と考えられますが、イネの場合は湛水状態で0.1%~1.0%程度まで高くなるようです(今回の農林水産省では土壌1Kgに蓄積したセシウムが1000分の1=0.1%がイネに吸収されるとして係数を0.1としています)。ただし、先にも書きましたが土壌中のカリウムイオンと置換されて、カリウムがセシウム137の作物への吸収を阻害すると考えられます。有機農業のように長年有機物を投入して+イオンの保持能力を上げた土壌でもセシウム137の吸収を抑制する作用があると思います。ストロンチウム90はセシウム137と比べて、作物への吸収量は一桁多くなるようです。この吸収も土壌中の有機物で抑制できる可能性は大きいです。

 今後、稲作を行う場合、土壌中の核種だけでなく、集水域から農業用水に含まれる核種も問題となります。活性炭・ゼオライト等やみなぐちのビオトープである程度、除去可能かと思います。  

  また、現在大気中から降下してくる核種はカバープラントで付着させて、土壌中への蓄積を少なくすることが大切です。また、土壌を耕起しないことも大切です。セシウム137は土壌表層だけに蓄積していると思いますので、農作業による土壌粒子の舞い上がりによる汚染を気お付けなければなりません。

 チェルノブイリでは菜の花で植物除去を行っていますが、これも栽培・収獲時に作業する人が完全防御服で行っています。また、この点についてはセシウムやストロンチウムがミツバチを通して花粉から拡散しているとの論文が多くあります。また、アカザ科やキク科の植物の吸収が良いことを示す論文も多くあります。土壌汚染程度が低い地域では有効でしょう。  

 セシウム137とストロンチウム90が土壌に蓄積した場合、土壌表層(0~5cm程度)の入れ替えしかないと思いますが、どの程度で入れ替えが必要か基準を決める必要があります。

 また、森林土壌に上記2核種が蓄積した場合、きのこに濃縮蓄積されやすいので露地栽培きのこは気お付けなければなりません。

 更に、牧草地では地上部に蓄積させて刈り取り除去をすることしか手がないと思います。

 

 最後の強調したいのは汚染土壌の分布は風向き、地形により異なります。関係市町村でも場所により汚染の程度が異なるはずです。きめ細かなモニタリングで安全である場所と汚染場所の詳細な情報を公開して、予測可能ですので対策を早く行い、特定の地域や福島県全域が汚染されているような情報を出すことは良くないと思います。風評に惑わされないようにしましょう。

 

 

 

  これから農作業が始まる時期になり、私たちにできることはなにか?

 中越地震の時、原発が火事になっただけで、柏崎の有機栽培農家は風評被害で2年間苦労したと話していました。

 私たち消費者も含めて皆さんで、正確な知識をもとに真剣に考えて、農家を応援しましょう。

 

 東京電力と国を信じるとして出来るだけ多くの農地で来年度から作付ができる見込みを農家に示すことが大切と考えます。

 

 今年は出来るだけ土壌に蓄積させないために植物や紙マルチ等、マルチングによる>手段が考えられると思います。また、土壌汚染されている場合も表層土壌汚染にとどめるべきです。

 

 最後に、私は大変な作業ですが、汚染度をマッピングして、それに応じて翌年から農業ができるように表層土壌を除去して、有機物など土壌改良材を投入して優良農地に変えるまで政府と東京電力の責任で行うべきです。

 

 今から、農家に対して今年は耕作できなくても、来年から耕作できる手段と農産物の安全を補償する仕組みと手順を示すことが大事です。

 

 農業に対して、夢を取り戻し、新たな出発ができるように皆さんで応援しましょう。


土壌からの放射能検出について

2011-04-14 | 原田

土壌研ブログに千葉の有機農業関係の方から次のようなコメントをいただきました。

 

「現在福島原発から、放射性物質が放出され、関東にも届いていることは分かっていますが、農業土壌にふさわしい濃度というのはどれくらいが上限なのでしょうか。チェルノブイリでは、高濃度汚染地域が半径700km近くまで及んでいますが、今後の風向きや降雨の状態で、当地もそうした地域にならないとも限りません。高濃度では、恐らく立ち入り制限や避難地域と指定されることもありうるわけですが、そうならなかった場合、どれくらいが許容レベルで残れるか。また、除染ですが、ひまわりが最も吸収力があり95%近く吸収してくれるとあります。これは、栽培して吸収させたものを放射性廃棄物として適正処理を行えるような仕組みを公的に整備しておけば、有効な手段と思いますが、現実性としてはどうなのでしょうか。
夏作と冬作の2作を除染作物だけを栽培することで、土壌浄化も早まるのではと思うのですが、冬は麦やアブラナ科のもの(チェルノブイリは菜種ですが)などが適しているでしょうか。

ご意見いただけると嬉しいです。」

 

ご記名がございましたが返信先がわからなかったので、ここで私の見解を述べさせていただきます。

 

1. 農業土壌にふさわしい濃度

お答えするより先に「土壌中のCs-137濃度が5,000 Bq/kgを超える水田では作付禁止」という政府基準が出てしまいました。イネだけの基準ですが、放射能の暫定規制値である500 Bq/kgを念頭に、移行係数が0.1という厳しい仮定(土壌中Cs-137の10%が白米に移る)で計算されていて、消費者からみても妥当なところなのではないでしょうか。

他の主要作物についても同様に、暫定規制値 500 Bq/kgにならないように作物ごとに移行係数を勘案して土壌中Cs-137濃度の規制値を決めるという手立てになるのではないでしょうか。もちろん、出荷される作物の放射能濃度チェックも行うでしょうから、ダブルチェックになります。

ただ心配なのは、今は大気から降下したCs-137が土壌表層に蓄積しているのですが、耕してしまうと混ざってしまい、結果的に残留期間が長くなる恐れがあること。問題がありそうな土壌については一律に表層数~数10 cmを剥いで「放射性廃棄物」としてどこかで管理することが必要に思います(いわゆる排土)。その後、健全土壌で覆うと一層効果的でしょう(これは客土といいます)。

2. ひまわり等による除染

ひまわり等の植物がCs-137の除染に効果的という話があるのは承知しております。が、95%というのは水耕栽培の結果と思います。土耕では他の養分との競合や土壌への吸着(Csは強く吸着します)があるので、せいぜい数%程度の吸収率ではないでしょうか。

もちろん除去促進はできますのでやらないよりやった方がいいかもしれませんが、過度の期待は禁物と思います。やはり、まずは排土・客土が効率的でしょう。また、植物を使った場合には除染に使った植物体は相当嵩高くなるため、その処理が頭の痛い問題になります。

 

以上です。

 

最後に、ご返信がたいへん遅くなったことをこころよりお詫び申しあげます。