ネットでは「情報弱者(情弱)」という言葉をよく目にする。情弱というのは、「無知ゆえに、いろいろな釣り広告に引っかかって損をし続ける人」のこと。
この場合の釣り広告というのは、例えば「私の言う通りにしさえすれば、間違いなくインターネットで1000万以上が確実に儲かる」みたいなものだが、情弱が騙されるのは、こういうネットビジネスに限った話ではないようだ──と、そんなことを、その記事を見て思った。
記事を書いているのは、富永喜代という医師だが、ここに述べられていることは病院に限らず、街の治療院、鍼灸院、接骨院/整骨院などにも当てはまると思うので、ここに引用したい。なお元記事は「医者が教える「ダメ医者」を見抜く方法」。
(前略)富永ペインクリニックには、長年痛みで悩んでいたり、あの病院、あの治療を受けても痛みがとれなかったと訴え、来院される患者さんが多くいらっしゃいます。
そのような方には初診時に、「今までどのような治療を受けてきましたか?」と伺うのですが、私が問診していて、当院を受診する前に受けていた治療成績が見事なほどに悪い患者さんたちに共通することがあります。
それは、「大丈夫、私が絶対治してあげるから」と発言する医者にかかっていたということです。
患者さん達は医者にこう言われ続けてきたのに、一向に治らないから当院を受診されているわけですが、「なぜ、治らないのに、長年、通い続けたのですか?」と質問すると、多くの患者さんはこう答えます。「だって、先生が絶対治るから、絶対治してあげるから、とおっしゃっていたから。それを信じて」と。
その言葉を聞くたびに、私はう~ん、と頭を抱え込みます。なぜ、一向に症状が改善しないのに、この方は通院を続けたのだろうか?と。
(中略)
では、なぜ効かない薬を飲み続け、他の治療方法を模索しなかったのでしょうか?
私は、この患者さんは、痛い、辛いという症状に悩んでいるので、この症状を治せると言い切る医者が欲しかったのではないか、と考えています。
「この薬や手術はこんな副作用も出る場合もありますが、あなたの症状ならガイドラインでこの治療方法が推奨されていますので、成功率は〇%の治療を進めます」
このように、本来、インフォームドコンセントといって、医療従事者側と患者さん側、双方の同意を得て医療は治療を進めるのです。
しかし、患者さんが欲しいのは、「私の症状が治るのか、治らないのか?」。その情報、ただその一点です。
医者が絶対治す、と言っているのだから、いつかは治るに違いない、と妄信してしまい、一番大切な症状改善度の評価が甘くなっていたのでしょう。
絶対治りたい、と思うのは人情です。しかし、この患者さんは“情”で動いた結果、「絶対治る」という甘い言葉に誘惑されたことに気づかず、治療を長引かせ、大切な時間をロスさせてしまいました。
(中略)
患者さんは、医者に「あなたは絶対に治る」と言ってほしいのです。そして、そう答えることが名医だと考えられた時代もありました。しかし、医学における治療は侵襲性を伴う以上、患者さんの同意なくして成立しないものです。
そして、患者さんはその治療に同意するということは、治療に医者と一緒に参加して、その治療選択に責任を負う、という意味でもあります。治療方法の医者への丸投げは、患者さん自身の病気に対する責任放棄と一緒です。医学知識を知らなかった、では済まされないのです。(後略)
「医学知識を知らなかった、では済まされないのです」とは、これまた厳しい要求だと思うが、この記事の一番のキモは
治療成績が見事なほどに悪い患者さんたちに共通することは、「大丈夫、私が絶対治してあげるから」と発言する医者にかかっていた
という点だろう。
これだけ見ると笑ってしまうような話だが、カラダに不調を抱えて悩んでいる人には、「絶対治してあげる」という言葉をスラリと口にする/口にできる医師というのは、救いの神のように思えてしまったとしても不思議はない。
この記事とは別に、私が取っている治療院経営に関するあるメルマガに少し前、こんな記事があった。そのメルマガは消してしまったので、必ずしも正確なものではないかもしれないが、
はやっている治療院の院長には共通することがある。それは患者から「治りますか?」と聞かれたら、自信や根拠などなくても「絶対治ります」と嘘がつけること。
患者はその嘘を求めて来ているのだから、それに応えられることが繁盛につながる
というような内容だった。
これについてどう考えるかは読者諸兄に委ねたいが、「絶対治る」という言葉が嘘であることを承知の上で、その医師なり治療家なりに頼り続けるなら、それはその患者の判断ということで尊重すべきだろう。ただ、少なくともその言葉が嘘か本当かくらいは見抜ける目を持たなければならない。それもまた非常に厳しい要求ではあるのだけれど。
これは治療院系コンサルがよく言うことです。
でもこれだけを取り出して独り歩きさせているから
患者も不幸になるし、こういうコンサルに指導を受ける治療者も不幸になります。
コメントありがとうございます。
本文の最後に述べたメルマガを出している先生は、患者に「絶対治る」と言ってあげることを「やさしい嘘」と書いていました。「治療家は、いい人になって本当のことを言うのではなく、やさしい嘘がつけるようになれ」と。
「絶対治る」という言葉には(たとえ嘘だとしても)力があるし、そういう言葉に需要があるのは間違いないこと。だから「売上を増やすため」と割りきってそういうことを言うのは、商売としてはアリでしょう。
私はメルマガを取っているだけで、その先生にお会いしたことはなく、また考え方も好きではないので教えを請うたこともありません。ただ、その先生が言っていることがいいか悪いかはともかく、そういう医者、治療家の元にはそういうもの(やさしい嘘)を求める患者が集まってくる、ということはあるかもしれません。
あとは私たち一人ひとりが、そういう患者に囲まれて仕事したいか、という選択の問題だと思います。