仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

読書録 2024年3月下旬

2024-03-31 21:38:00 | 読書録(備忘)

『明治文学小説大全』 (全50篇)

3月21日
明治28年(1895年)
『書記官』 川上眉山

初読。短篇。略体字、現代仮名遣。
川上眉山という人を初めて知った。
とある湖の近くにある温泉宿で、書記官つまり官僚の奥村辰弥は実業家の三好善平と出会い、善平の末娘、光代に懸想するのだった。
なんともたわいもない話。
同年の日清戦争を日清事件としているのが興味深い。

3月22日
明治29年(1896年)
『照葉狂言』 泉鏡花

初読。長篇。略体字、現代仮名遣。
幼い貢くんが手毬唄を歌うと昔話を語り聞かせてくれる小母さん。阿銀小銀(おぎんこぎん)の哀しくて怖い話。この小母さんがこの物語のサブキャラかと思えばさにあらず。
お向かいのお雪お姉さんに心を寄せる貢と、その貢を可愛がる女狂言一座の女たち、特に小親(こちか)との物語。
貢の伯母が賭博開帳で逮捕されたあと、貢を引き取って育てたのは小親だった。
姉上(お雪)と小親。
小親の愛情を捨てるのか貢、それとも…

3月28日
明治30-35年(1897-1902年)
『金色夜叉』 尾崎紅葉

初読。長篇。
歴史的仮名遣ながら略体字なのが残念。「瀆す」を「涜す」とはあんまりだ。
前篇の最後、かの有名な熱海の海岸、貫一お宮の別れの場面、あれが一月十七日のこととは知らなんだ。阪神大震災の日ぢゃないか!
「(前略)可いか、宮さん、一月の十七日だ。来年の今月今夜になつたならば、僕の涙で必ず月は曇らして見せるから(後略)」
現代なら何の不思議もないお宮の判断ながら、明治の頃にはまったく理解されなかっただろう。貫一も哀れだけれど、なんとも女々しい。
中篇。
前篇の4,5年後、貫一は高利貸の手代となっていた。
たまたま夫婦で招かれていた子爵邸で、これもまた偶々訪れた貫一に邂逅した時のお宮の様子がいじらしい。自らの美しさの価値を知り打算的な判断をくだした女とも思えぬばかり。
富山の妻となった宮ではなく、鴫沢の宮が恋しいという、いつまでも女々しい貫一。
後篇。
高利貸の主人、鰐淵直行とその妻お峰が狂女の放火によって焼死せらるる、その焼跡で貫一と直行の嫡子直道が語り合う。直道が貫一に改心するよう説得するところで物語は終わる。どうにも尻切れトンボ。
と思ったら、紅葉の死によって未完とのこと。知らなかった…

3月30日
大正6年(1917年)
『続金色夜叉』 長田幹彦
初読。
紅葉の死後、書き継がれたらしい。
この本には、この『続』と『続続』と『新続』が収められている。
さて、貫一がかつて敬愛していた先輩の荒尾とお宮との偶然の出会いから物語は始まる。お宮の切なる願いにほだされたか、荒尾は貫一を訪ねて高利貸をやめるように説得するのだが…
それにしても、参事官として静岡に赴任したはずの荒尾の落ちぶれようはといえば、高利貸の連帯保証人になったせいだったとは。しかも今の債権者はあの貫一に思いを寄せている赤樫満枝だったとは!なんとも出来過ぎだね。
この物語のおしまいは貫一の夢。さて、どこからが夢? 
 


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