仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

「大いなる助走」 筒井康隆

2006-01-04 12:29:04 | 讀書録(一般)
大いなる助走 <新装版>

文藝春秋

このアイテムの詳細を見る


お薦め度:☆☆☆+α


1979年に文藝春秋社から刊行された。
文壇のカリカチュアとして評判になつたが、當時の私はちやうど浪人中で、讀んでゐなかつた。
あれから四半世紀。
たまたま文春文庫で「新裝版」が出たので讀んでみた。

中央文壇と地方同人誌。
その昔、地方の同人誌は文學修行の場としての價値を持つてゐた。
しかし、同人誌經驗を經ずに各種の文學新人賞を受賞して文壇デビューを果たす新人が増え、それに伴つて同人誌のありやうが變質してきた。
この作品ではさうした同人誌の變容と、文學賞受賞のために文壇におもねる新人、そして新人からの饗應を受ける文學賞選考委員をカリカチュアとして描き出してゐる。

作者のあとがきによれば、この作品が文藝春秋に連載されてゐた當時、モデルとなつた選考委員の作家が「別册文藝春秋」編集部に怒鳴りこんできたことがあるらしい。
確かに、この作品を讀んでゐると、とある特定の作家の顏が頭に浮んでくる。
その作家は既に故人であるが・・・

いまや時代は「活字離れ」「書籍離れ」の時代だ。
しかもインターネットの發達で、誰もが自由氣ままに自分の思ふところをホームページやブログで表現することが出來る。
この時代にあつて、「本」を出版することの意味が改めて問はれることになるだらう。
そして、文學や文壇のありやう、出版のありやうも自づと變化してきてゐる筈だ。

筒井はかうした變化を捉へて、「巨船ベラス・レトラス」といふ長篇を「文學界」に連載してゐるさうだ。
完成は今年のやうなので、「大いなる助走」以降、筒井康隆がどのやうにこの變化を表現してくれるのか樂しみである。


2005年10月27日讀了


コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「τになるまで待って」 森博嗣 | トップ | 「巨大古墳の被葬者は誰か」... »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは (イーゲル)
2006-01-04 12:58:13
TB有難うございました。

筒井康隆は殆んど読んでいませんが、この作品は友人に薦められて読みました。初めて読んだ時は主人公の悲惨さにばかり目がいっていましたが、新装版の文庫になって改めて読み返すと、文壇を取り巻く環境の特殊さ、滑稽さをてんこ盛りの毒でデフォルメしている作品だと思いました。続編が非常に待ち遠しいです。

(私はモデルの唇の厚い作家先生が未だわからない未熟者です。)
返信する
大きな脣 (仙丈)
2006-01-04 13:51:49
イーゲルさん



コメントありがたうございます。

「文壇」て、魑魅魍魎の巣窟のやうですね(笑)

「大きな脣」の選考委員といふと、私には、芥川賞も受賞してゐる推理小説界の大御所が思ひ出されます。

さう、あの「松○○張」さんです!

違つてたらゴメンなさい「清○」さん!

返信する
TBありがとうございます (鈴之助)
2006-01-08 12:42:46
遅くなりましたがTBとコメントをさせていただきに

参りました。

モデルは「松○○張」さんで間違いないようですよ。

(私が見聞きした例をここにあげることができませんが【削除されてました】、全員の名前を置き換えたサイトやら文を見たことがあります)



文壇もそうですが、同人誌の世界も怖ろしいなあと思いながら読みました。

返信する
あ、やつぱり? (仙丈)
2006-01-09 22:12:47
鈴之助さん



あ、やつぱり「松○○張」さんなんですね(笑)

ううむ、大きな脣の大家といふとなかなか他にゐないですもんね~



ブログは氣樂で良いですけど、同人誌は怖いです。

人生を賭けてしまふやうな人が多いのでせうか・・・

「大いなる助走」を讀むと、笑へると同時に辛いものがあります。



返信する

コメントを投稿