あ~、あの……わたし、↓のアメフトの描写はめっちゃテキトー☆に書きました。なので、かなりのとこ間違ってる可能性があるっていうことでよろしくですm(_ _)m
いえ、最初書いた文章のほうでは「延長戦になって最後は……ということになった」みたいに、5~6行で結果だけ伝えるみたいに書いてあったんですけど、まあ、ほんの少しばかりアメフトのことを調べてその面白さがわかったことだし……という感じで書いてみたのですが、奥の深いスポーツなだけにわたしの稚拙な書き方だとなんともつまんない試合展開かな~という気がしたり
そんなわけで、今回はイーサンのアメフトの決勝の結果プラス、マリーとラリーがデートするらしい……といった話の流れだったでしょうか(^^;)
まあ、あと残りアメフトに関する描写ってないと思うので――今回はアメフトのことについてまた何か書いてみようかなって思ったり。。。
↓のような試合の様子を書くために、アメフト映画に関してはもっとたくさん色々見ようと思ってたんですけど……実際には大して見ずに終わってしまいました
でもその中でも、一番最初に見た「ルディ/涙のウイニングラン」は傑作だったと思います♪(^^)
以前のわたしと同じように「アメフト映画」と聞いただけで「見る気失せる」という方が見ても、物凄く引きこまれる内容だと思いますし、自分的には最初から最後まで一秒たりとも無駄なところのない、本当に素晴らしい映画だと思いました
それと、ノンフィクションでは「All or Nothing~アリゾナ・カーディナルスの挑戦~」というのを密林さんで見つけて見たんですけど、こちらもとても面白くておススメですこのあと、シーズン2の「ロサンゼルス・ラムズの軌跡」が追加されてて、こちらも面白そうだと思うんですけど、まだ見れてなかったり(^^;)
「タイタンズを忘れない」については以前書いたので、やっぱり今回は「しあわせの隠れ場所」について書いたほうがいいでしょうか??
原作のほうがとても面白かったので、映画のほうも期待して見たんですけど……わたし、原作の「ブラインド・サイド」には二重の意味があると思うんですよね。泊まるところを転々としていた黒人のマイケル・オアーくんは、白人のテューイ家に養ってもらうことになり、富裕層の白人ばかりが通うブライアクレスト・クリスチャン・スクールで学び続けるということになります
アメフトの映画を見てると、大体キリスト教関係のことが出てくるのですが、マイケルくんの場合もテューイ家の人々が彼を養子にしたのって、クリスチャン・デューティという考え方があってのものと思うんですよね。また、プライアクレスト・クリスチャン・スクールにマイケルくんが通うことになった理由というのも、彼が宿のひとつとしていたビッグトニーの息子が、彼のおばあさんが孫のことだけはクリスチャン校に通わせたいと遺言を残した……というのがきっかけでした。
というのもこのおばあさん、酒・タバコ・男といった生き方をしていたところをイエス・キリストに救われ、孫のことはクリスチャン校に通わせて将来は牧師になってもらいたいと思っていたのです。こうしてビッグトニーは息子とマイケルくんを連れて、メンフィスの中でもっとも貧しい黒人の住むウエストサイドから、白人の富裕層の住むイースト・メンフィスまでやって来ると、マイケルくんの運動能力をプライアクレストのアメフト部のコーチに見せたのでした。
196センチで154キロあるとは思えないくらい軽いフットワークで動くマイケルくんを選手として起用したかったコーチは、マイケルくんの編入許可を取ろうとしますが、ここである問題が……マイケルくんにはこれまでの間、あっちこっちの学校に通ったという記録が細切れに続いているという感じで、しかもそのどこでも成績のほうはど底辺といった感じだったのでした。
プライアクレストは偏差値の高い高校らしく、無理に入学させても、本人が苦労するだけなのは目に見えている……といった感じだったと思います。マイケル自身もその生い立ちから、まわりの人々に心を閉ざしてあまりしゃべらないといった青年だったのですが、献身的な先生の理解があったり、またテューイ家に引き取られてからはそのために家庭教師の女性が雇われたりと、マイケルくんも少しずつではあるけれど、学校の勉強に理解を深めていくようになります。
そして、アメフトのほうでも「すぐに大活躍」とはいかないまでも、マイケルくんが「試合で自分のなすべきこと」を理解してからは、その成長は目を瞠るものがありました。自分がブロックする相手をフィールドの外にまでエスコートしていったり(笑)、そんなマイケルくんのことを欲しがる大学のコーチたちは山のようにおり、大学をどこか一校にしぼるのが難しいほどでした。
けれども、やはりここで問題が……ある一定の成績を残さないと高校は卒業できないでしょうし、当然大学にも進学できません。そこでマイケルくんもがんばって猛勉強しますが、それだけでこれはどうにか出来る問題でもなく……これは映画には出てきませんが、実際にはマイケルくんは成績のことに関しては正攻法(?)でちょっとずるをしたようです(でもこれもまた、なんともアメリカらしいエピソード・笑)
さて、ここで再び「ブラインド・サイド」という本のタイトルには二重の意味がある、ということに戻りたいと思います。
マイケルくんはウエストサイドの、もっとも貧しい黒人の人々が住むようなところの出身です。お母さんは麻薬依存症、お父さんは何かのことで橋から落ちて死んでしまい、何人もいる兄弟のうち、父親はそれぞればらばらといったような環境で育ち……でも、まわりにいる黒人たちもみんな似たりよったりの人生を背負っており、将来は麻薬ディーラーにでもなるしかないといった環境でした。
けれど、唯一こうした場所から抜けだす方法としてスポーツということがあると思うんですよね
仮にそれがアメフトじゃなくても、サッカーでも野球でも……そして黒人の方にはこうした運動能力抜群の天分を持った人が多いわけですが、そのことを阻む問題がいくつかあるそうです。マイケルくん自身がそのことで苦しんだように、小さい頃からきちんと学校へ通えなかったり、また通えていたとしても、学業不振な子が多いため、そこで引っかかって大学へは進学できなかったり、あるいは麻薬や暴力といった事件を起こして捕まり、将来を嘱望される選手だったのにそのことでスポーツ選手としての未来がなくなるなど……こう考えていくと、これって、アメリカの人々が見て見ぬふりをして避けようとするブラインド・サイドなのでは?っていう話になってきますよね(^^;)
もしこの最底辺に住む黒人の人たちにテューイ家がマイケルくんに差し伸べたような手があったとしたら……テューイ家の人々だけでなく、他の多くの富裕層の白人の方が同じことをするなら、アメリカのみんなが見て見ぬ振りをしている問題に光が当てられ、救われる人がたくさん出てくるのでは?っていう、口でそう言うのは簡単でも、実際はそんな簡単なこっちゃねーよ☆という、これはアメリカのブラインド・サイドの問題でもあるんだなっていう、読み終わってわたしが感じたのはそんなことだったでしょうか。
いえ、実際他人の国の問題だからこんなふうに書けるっていう話であって、現実には本当にとても難しいことですよね(^^;)
映画だけを見る分には、マイケルくんの成長していく過程が「アメリカン・ドリーム」を体現していて見終わったあとに心があたたまって清々しい……といったところだと思うんですけど、マイケルくんのような奇跡を体現するひとりの青年の裏には、そのような<救いの手>さえあったら、麻薬のディーラーをしたり、あるいは麻薬取引のことなどでもめ、悲惨な死に方をしなくてすんだ……といった青年がたくさんいるというのもまた、アメリカの現実なんだなといったように感じました。。。
なんにしても、↓に書いてることはなんともテキトー☆な感じでお恥かしい限りなんですけど(汗)、アメフトというスポーツがこんなにも面白いものだと知れて、またキリスト教とも深い繋がりがあったり、選手にもクリスチャンの方が多いらしい……と知れたりして、その部分はわたしにとってもとても大きなことだったと思います♪
それではまた~!!
↓SJくん、超可愛い~♪(^^)そして彼とマイケルくんの友情がほんっとうに微笑ましい
聖女マリー・ルイスの肖像-【18】-
年末年始、イーサンは自宅の屋敷のほうにはいなかった。というのも、セイドローク・ドラゴンズとの決勝戦に向け、合宿所でアメフト部の部員たちとささやかばかりのカウントダウンパーティを開いていたからであり――こうして結束力をより高める形で一月七日、ノースルイス・スタジアムで行われた試合は、両者とも一歩も引かぬ接戦となった。
まず第一クォーター、ヘッドコーチのブル公こと、ケネディ・ジャクソンの判断で、クォーターバックはイーサンではなく、二番手のクリス・オコーネルが出ることになっていた。イーサン自身に深刻な怪我や故障といったことがあったわけではない。敵方のラインバッカーの一人に<QB殺し>の異名を取るダニー・スニークという選手がおり、彼はこのプレーオフの頂上決戦にのしあがってくるまでの間に、何人ものクォーターバックを病院送りにしていた。
ある者は足や腕を骨折し、また別のある者は靭帯を裂傷し……その中には頚椎を損傷した選手までおり、こうなるともうクォーターバックにかかる精神的重圧はとてつもなく大きなものとなる。つまり、いつもは出来る冷静な判断力が損なわれたり、スニークのことを恐れるあまり、動きが鈍くなったところを攻撃されたりと、ダニー・スニークという選手の与える重圧は、敵チームにとってすでに呪縛と呼んで差し支えないほどに大きくなっていたと言える。
もちろん、クリスもこのスニークを心底恐れていた。キャプテンであるマーティン・ローランドや他のオフェンシブラインマンたちが声を揃えて「蛇のことはオレたちがなんとかする」と請け合ってくれても、その恐怖心は容易く消えはしなかった。
ダニー・スニークは身長190センチ、体重98キロの黒人選手で、パッと見、それほど相手を威圧するといったタイプにはまるで見えない。だが、彼が「蛇(スネーク)」と呼ばれる他に「サイレント・キラー」とも呼ばれるとおり、スニークはいつでもいつの間にか相手の背後を取り、そこから攻撃を仕掛けてくるのだった。
なんでも彼の話では、これは幼い頃より東洋かぶれの叔父に習った中国武術の賜物であるという。
このくらいの大学レベルの試合ともなると、マークが多少甘くてもどうにかなるといった選手は当然ひとりもいないため、ダニー・スニークにばかりかまけてもいられないというのが実情ではあったが、もし仮にクリス・オコーネルを潰されたとすれば、次に登板してくるイーサンをも潰されかねない……そのような緊張感を持ってオフェンスチームは戦いへ向かい、最初、オフェンシブラインメンは地味で目立たないながらも着実にいい仕事をし、スニークの動きを封じ続けていた。
第一クォーターが終了した時点でのスコアは、14-0と、このままスニークの動きさえ封じられれば勝利の女神はユトレイシア・ガーディアンズに微笑むのではないかと、そのように思われた。だが、第二クォーターの終わりから試合の流れが変わりはじめる。スニークはどのオフェンシブラインメンがどのような動きで自分を封じてくるかをそれまでの間に冷静に観察し、着実にその流れを読んでいた。
そして、まるで馬鹿のひとつ覚えのように、外側から相手を抜くという攻撃を繰り返したあと――第二クォーターの終わりでレフトタックルのマーティンを内側から抜き、QBのクリス・オコーネルをサックしたのである。この次にもまたマーティンはスニークに素早く動きをかわされ、クリスがパスを出す直前に蛇のサックを許してしまった。
この時、クリスは容赦のない強烈なタックルをスニークから食らい、その場に昏倒した。骨を折られるところまでは行かなかったが、打撲傷の他に脳震盪を起こしていたため、彼は担架で運ばれるということになった。ここでハーフタイムとなったわけだが、なんとも嫌な前半戦終了の幕切れであった。
プレーオフの決勝戦とあって、ハーフタイムショーでのチアガールたちの応援も熱のこもった華々しいものであったが、イーサンの恋人であるキャサリンはゲーム後半から自分のQBがあの蛇にしつこく攻撃されるだろうと心配だったし、クリスティンはマーティンが落ち込んでいるだろうことを思うと心配で、またクリスの恋人である東洋系の美人マチルダ・コーもまた、担架で運ばれた彼のことを思う心痛で胸がいっぱいだった。
だが、ハーフタイムショーのチア対決のほうは、どうやら先にユトレイシア大の側に軍配が上がったようである。というのも、セイドローク大のほうも健闘したとはいえ、キャサリンがリーダーを務めるチア部のほうがより難しい大技を派手に繰り出し、これでもかというくらい自軍を応援して盛り上げまくったからである。
とはいえ、その間、ロッカールームで作戦会議を開いていたユトレイシア・ガーディアンズの面々は、一様に厳しい顔をしていたといえる。あれほど<蛇封じ>のための作戦を色々と立て、そのための特訓も繰り返してきたというのに……これ以上、どうすれば自分にスニークを食い止めることが出来るのか、マーティンは頭が真っ白になっていた。とにかく、組み合うことさえ出来れば自分が勝てる。だが、スニークのほうでそれ以上に素早く動いて、こちらの動きをかわせるようになった今――百戦錬磨のジャクソンコーチの指示を仰ぐ以外、マーティンに出来ることはなかったのである。
「そう落ち込むなよ、マーティン」
みながキャプテンの自分に対し、そう言って慰めてくれればくれるほど、マーティンは落ち込みのスパイラルに嵌まっていきそうなほどだった。だがここで、クリスが骨を折られてはおらず、打撲傷と脳震盪を起こしたことが知らされると、再びユトレイシア・ガーディアンズの指揮は上がった。
「よし、みんな!ここまでの展開は最初から予想していたことだ。後半戦はイエロー・ピューマから行くぞ。あいつらがセットしたかと思う間もなく、容赦なく速攻叩き潰してやれ!!向こうも徐々にこちらの手を読みつつあるが、それでも今年、この試合に勝つのはやはり我々だ。ダリル・ストークス!後半からはおまえがレフトガードに入れ。自分が何をしなくてはならないかは、説明されなくてもわかってるな?」
本来はライトガードのダリル・ストークスは、ただ静かに首肯してヘッドコーチのブル公に返事をした。身長はスニークと同じ190センチ、体重は彼よりも若干目方の重い107キログラム――顔立ちはどこか涼しげな優男風だが、多くの人は一目見ただけで彼の体型に何か奇異なものを感じたに違いない。上半身に比べ、異常なほど太腿や尻まわりにがっちりとした筋肉がついており、両手がまるでグローブのように大きいのだ。
ヘッドコーチのケネディ・ジャクソンは、オフェンス担当のアシスタントコーチとも相談しながら、ダリルに<蛇封じ>のためのある秘密の特訓を課していた。それはもしレフトタックルのマーティンとタイトエンドのトマス・レガードの二枚看板でスニークを止められなかった場合の、三枚目の看板だったと言える。
果たしてこれでどうなるか……ジャクソンはマーティンには<グリズリー>の異名を取る敵のディフェンシブエンドと当たらせることにし、イーサンのことは心配せずに凶暴なクマのことにだけ集中しろと伝えた。なまじ、深い友情の絆で結ばれているだけに、それが裏目に出ないとも限らないと考えての措置だった。
もちろん、マーティンはヘッドコーチのこの裁断には大いに不満だったが、二度も蛇に抜かれたあとでは、何かを強く訴えるということも出来ない。だが、イーサン自身が「心配するな。俺は蛇のことなぞ恐れちゃいない。蛇ってのはなんでも、耳が聞こえない生き物らしいからな。ダリルもあいつと組んだ時には言ってやればいいさ。『このつんぼめ。土に這いつくばってちりでもなめてろ』ってな」と言うと、一同はこの聖書の創世記をもじった話に大笑いだった。
そして、このあとも細かな作戦上の指示が続いたのち、選手たちは互いの拳を合わせながら――「1、2、3!ガーディアンズ、GO!!」と叫び、再びフィールドへと戻っていった。
一方、セイドローク・ドラゴンズ側では、ようやく敵の本星が登場するということで、ますます闘志をたぎらせていたといえる。実をいうとダニー・スニークがQB潰しに拘るのは、ある理由があってのことだった。彼は特にイーサン・マクフィールドのようなタイプのクォーターバックが大嫌いなのだ。顔よし、成績よし、女子にもモテまくってチア部の美人とイチャつくといったタイプのQBが彼は死ぬほど嫌いだった。
スニークは、幼い頃より女性という生き物にモテたことがない。母親には疎まれ、姉や妹からもその影響から嫌われ……学校という場所でも、「あいつとだけはダンスなんて絶対したくないわ」とすら言われたものだった。いや、好き嫌いはあるにせよ、スニークは決して醜男ということはなかった。ただ、顔が若干蛇のように細長く、目も細めでずる賢そうに見えるというだけだった。
学校では女子に嫌われるだけでなく、いじめにもあった。だが、ある時自分にはアメフトに関して才能があると気づいて以来――彼は今度はむしろ自分がフィールド上で弱い者いじめをするのを楽しむようになったのだ。そして彼はクォーターバックというポジションに長く憧れ続けたが、結局のところどのコーチからもラインバッカーがおまえの天職だと言われ、今日に至っていたというわけである。
そのようになかなかに複雑骨折した怨念を試合の中で消化してきたスニークにとって、イーサン・マクフィールドは必ず潰さなければならない象徴のような男だったといえる。また、ロッカールームでコーチから作戦上の指示を受けつつ、テレビでハーフタイムショーの映像を見て、「このブロンドがマクフィールドの女なんだとよ」と言いながら目つきを険しくしていたのは何もスニークだけではない。
セイドローク大学は工業大学であったため、実際他の一般大学よりも女性の学生が少ないこともあり――後半戦がはじまった時、ドラゴンズのオフェンス側の攻撃は凄まじいばかりのものがあったといえる。前半戦終了のホイッスルが鳴った時、スコアのほうは23-14だった。それが続けざまに2タッチダウン決められ、逆転されてしまったのである。
観客席にいたガーディアンズのファンたち及び、テレビを見ていた人々は、クリスの怪我や退場のことが選手たちに心理的に響いていると思ったことだろう。だが、そうではなく前半の時以上の闘志をドラゴンズの選手たちがたぎらせているのに押されてしまったという部分のほうが実は大きかったに違いない。
ハーフタイムの間、「ハンク、おまえは引き続きベンガルトラに当たれ」、「DJ、おまえはマントヒヒのフェイントに注意しろ」などとコーチが指示を出すのを聞きながら――「やれやれ。まるで動物園だな。まともな人間はひとりもいないのか?」などと笑っていたガーディアンズの面々だったが、もはや彼らの顔にも余裕の笑みはなくなっていた。
そして、イーサンからの的確なロングパスを受け、ワイドレシーバーのイーライ・マッキャノンが見事タッチダウンを決めた時……「どうだ!霊長類の凄さを思い知ったか!!」と彼が叫んでも、ドラゴンズの選手たちにはイーライの言っている言葉の意味がまるでわからなかったことだろう。
こうした形で、ユトレイシア大がタッチダウンすれば、次の攻撃でまたセイドローク工業大もタッチダウンし……ということが第四クォーターまで繰り返された。この間、一番の特筆すべきことはやはり<蛇封じ>が功を奏して、ダリル・ストークスがイーサンの壁となってスニークを自軍のQBにまるで近づけさせなかったことだろうか。
ダリルはスニークにとって、実にやりずらい相手だった。自分と同じかそれ以上の足の速さがあり、フットワークも軽く、一度組み合ってしまうともう梃でも動かすことが出来なかった。それでもスニークはイーサン・マクフィールドを潰すことに意欲を燃やし続けたが、何度もダリルに阻まれるうちにコーチから厳重注意を受けるようになる。「QBをサックすることよりも、本来の自分の仕事に集中しろ!」と二度目に注意された時、カバのような顔のコーチが本気で怒っているのを見て――(これは三度目はないな)ということをようやく悟ったのである。
だが、一度はイーサンに対するサックを諦めたかに見えたスニークだったが、攻撃のサインがブリッツだった時に初めて急襲をかけることが出来た。スニークはタイトエンドのトマス・レガードを振り切ると、別の選手と当たっていたダリルを尻目にイーサン・マクフィールドの死角から襲いかかっていったのである。
「!!」
イーサンは野獣の群れたちを避け、ランニングバックのサム・ワイスにパスを繰り出すところだったが、おそらくスニークの攻撃がもう一秒遅れていれば彼の手からはボールが離れていたことだろう。だが、そこに横からタックルを食らってしまった。第四クォーターを迎え、試合の残り時間が一分五十秒を切る中……スコアが58-52と、ユトレイシア・ガーディアンズがリードしている中でそれは起きた。
イーサンがフィールドに倒れ、その手からボールが離れると、すかさずドラゴンズのミドルラインバッカーがそれをさらい、一気にエンドラインを駆け抜けてタッチダウンしたのである。58-58。このあと、ドラゴンズの名キッカーがトライフォーポイントでもう一点入れ、スコアは58-59。
この後、ユトレイシア・ガーディアンズも逆転すべく力を尽くしたが、ドラゴンズの守りもまた堅く、この一点をどうにかして死守すべくその野獣性を剥きだしにして、ガーディアンズのオフェンスの面々に襲いかかっていったのである。朝から雨の降り出しそうな空模様ではあったが、誰もが試合中に雨の降らぬことを願っていた祈りが天に通じたのかどうか……試合終了のホイッスルと同時に、ポツポツと初めて雨が降りだし、それはやがて土砂降りの雨となってノースルイス・スタジアムのフィールドに容赦なく降りはじめた。
試合後――言うまでもなく、敗れたユトレイシア・ガーディアンズのロッカーでは、悔しさに身を震わせながら泣く者、まるで「何が起きたのかわからない」というように途方に暮れる選手や、ロッカーを壊さんばかりに叩く者や……イーサンもまた、とにかくただ呆然とした。スニークのサックを受け、屈辱的な思いはさせられたものの、痛みのほうは脇腹の打ち身程度で済んで良かったと思っていた。タイトエンドのトマスが最終的に抜かれたとはいえ、それまでの間に十分スニークの勢いを殺いでくれていたそのお陰に違いない。
キャプテンのマーティンまでもがベンチに力なく座り、男泣きに暮れているのを見て、イーサンはいつもは彼がしている役目を代わって務めることにした。まずはダリルやトマスの元へ行き、<蛇殺し>の技を駆使してくれたことに感謝の言葉を述べ、また、三年のレギュラーメンバーたちには、「おまえらにはまだ来年があるだろ?」と言って慰めた。それから最後にマーティンの隣に座ると、「今まで、ありがとうな」と言った。「マーティンがいたから俺はアメフトを続けてこれたし、おまえが必ず危険なディフェンダーを止めてくれるって信じてたから、ずっと安心してプレイしてこれたんだ。だから、ありがとう」
ふたりの間では、もはや言葉にしなくてもわかりきっていることを、イーサンはあえて口にした。それから試合に負けた悲しみと悔しさが少しだけ鎮まると、ワイドレシーバーのイーライ・マッキャノンとランニングバックのサム・ワイスが「あいつらが動物園の檻に入れられたら、今度見学に行こうぜ」などと言いだし……それぞれの選手の特徴などを真似しだした。また、動物の名前で呼ばれていない選手のことも「あいつはブタで十分だ」だの、「あのコーナーバックはワニ男でいいだろう」、「いや、しつこさっていう点でいやスッポン並みだ」だのとみなで大笑いして慰めあった。
こうして一同はこの日、ノースルイスの酒場へ繰り出していくと、ブル公の奢りで明け方まで飲み明かしたのだった。イーサンもまた、まるで優勝した時のようにシャンパンタワーから琥珀色のシャンパンが流れて来るのを見てはしゃいだが、実際の心の中は虚ろだった。仲間たちと馬鹿騒ぎしながらも、何が敗因だったのかを頭の中では探り続け、やはりクリスではなく自分が最初からフィールドに出るべきではなかったかと、そう思いもした。
だが、仮にこれから試合の模様を収めた映像を繰り返し見、敗因がわかったところで……この決定的な「負け」は覆りはしないのだ。イーサンは他のメンバーたちとは違い、時間差を置いてこの時悔しさがこみあげてきたため――一度、席を外すとトイレにこもって少しの間泣いた。自分の大学生活のすべてはこれで終わったと思った。
もし今日、ここでセイドローク大に勝てていたなら、これから先の人生、いついかなる時に大学時代のことを思いだしても、最良の結果のみが自分を追いかけてきたと、そのように思い返せたことだろう……だが、最後の最後でやはり自分は負けたのだと、かなりいいところまで行っていながら結局一番欲しいものは手に入らなかったというこの虚しさ、これを青春の最後の記念碑とするしかないのだと思うと、イーサンは何かがやりきれなかった。
そして去年同様、キャサリンのイーサンに対するサービスは凄まじいばかりのもので、実際、彼女と高級ホテルで数日過ごしてから自宅のほうへ彼は戻ったわけだが――ランディもロンもココも、彼が帰るなり実に気遣わしげな様子を見せ、兄の留守中に自分たちがいかにいい子であったかなどをいじましく話して聞かせたものだった。
またこの翌日、ラリーが親友のことを慰めにやって来た。彼とルーディとサイモンとは、はるばるノースルイス・スタジアムにまで試合を見に来ていたのだが、残念な結果に終わったことから、あえて何か言葉をかけることをせずにユトレイシアまでの長い電車旅行をして首府まで戻ってきたわけである。
ふたりはリビングのところで抱きあうと、少しの間決勝の時の話をし、そのまま肩を抱きあいながら三階の応接室へ上がっていった。この日、マリーは客人が来た時の常で、ワゴンに紅茶と菓子類を積むとそれをテーブルに並べてからメイドよろしく部屋を出ていこうとしたのだが……「あ、マリーさん」と声をかけられ、彼女はふと振り向いた。
「来週の土曜など、お暇ではありませんか?」
マリーは暫し黙ったままでおり、何かの救いを求めるような眼差しで、束の間イーサンに視線を向けていた。
「どうせおまえ、暇だろ」と、イーサンのほうでは事もなげにそんな彼女の視線を切って捨てる。「土曜といえば、ガキどもも学校は休みだ。ミミの面倒くらいは俺が見てやるし、あんたもたまには息抜きくらいしたほうがいいだろう」
「でも……」
(わたし、暇じゃないんです)と言って断るのも変な気がして、マリーは言い淀んだ。この屋敷内こそは彼女にとって神聖かつ平和な憩いの場であって、そこから追い出されて誰かと過ごさねばならないだなんて、苦痛以外の何ものでもないのだった。それを息抜きと呼ぶだなんて、とんでもない。
「いいから、ラリーと映画を見るとかなんかのコンサートに行くとかして来いよ。あんた、確かまだ二十五、六歳だろ?うちの豚児どもがある程度一人前になってからなんて言ってたら、デートなんかしてる間もなく二十代が過ぎていっちまうだろうが」
「…………………」
マリーは返事をしなかった。そしてそのまま室内から出ていったため、それは彼女が年をバラされたがゆえに苛立ったせいのようにも見えたことだろう。
「あー、俺、なんか言い方がまずかったのかな」
ラリーは赤い髪をしきりとかきながら、顔を赤くして言った。今の彼女の態度からして、自分に脈がないらしいのは明白だったが、彼にとってはなんにせよ、マリーとふたりきりになれるチャンスが欲しいのだった。
「いや、関係ないさ。あいつはたぶんあんまり男に免疫がないんだ。男に興味がないだなんて言うから、昔よっぽど男にひどい目に合わされたのかとも思ったが、ようするにそういう方面についてあまり開発されてない女なんだろう。ラリー、おまえはそう思って少し強引にでも事に当たったほうがいいぞ」
一度親友に好きな女のことを譲ると決めてからは、イーサンの切り換えは早かった。マリーとは同じ屋敷にいてもなるべく一線を画すようにし、彼女がいつもそうしているように、子供のこと以外では余計なことを話さないように心がけてもいる。
「……あまり開発されてないなんて、どうしてそんなことがわかる?」
「いやまあ、そりゃあな。一緒に暮らしているとなれば、多少そういう面についても察しがつくというか、なんというのか」
このことについて、イーサンはそれ以上は語らなかったが、それはマリーが一度、ダイニングテーブルで具合悪そうにしていたことに起因する。彼女の顔が青ざめて見えたため、イーサンはそのことが非常に気になった。もしかして、何か持病があるのを隠しているのではないかと思ったからだ。だが、しつこく問いつめてみると「生理痛」だということがわかった。キャサリンかクリスティンあたりならば、生理痛という言葉も、あるいはタンポンという言葉も、男の前で口にするのを気にすることはなかっただろう。
けれど、自分が重病ではないかと心配したがゆえに彼女はようやくのことで「生理痛」という言葉を口にした。その時の反応で、マリーがどういう種類の女かがイーサンにもあらためてわかったという、これはそういう話である。
「とにかく、おまえは男らしく強く押していけばそれでいい。マリーはうちの豚児どもをせめても立派に育てるのが自分の務め……とかなんとか、そんなふうに思ってるらしいから、それ以外のことをしているとどうも罪悪感を覚えるらしい。まあ、変な女ではあるが、そこがあいつのいいところでもあるし、俺があいつのことでおまえに頼みたいのは、べつに罪悪感なんて覚えずに楽しめばいいってことを教えてやって欲しいってことなんだ」
「そうか。でも、なんか難しいな。あんなに迷惑そうにしてるのに、無理にここから連れだすっていうのも、なんだか気が引けるよ」
ここでイーサンは、いつも自分がマリーにどう接しているかを教えてやった。つまり、彼自身はかなり強引に自分の指針に沿って行動しているが、大抵の場合彼女はそれを認め、顔の表情はどうあれ文句を言ったりしたことはほとんどないこと、ゆえに、マリーが会話の最中に沈黙していたり、言葉少なだったとしても大して気にする必要はない。とにかく自分の言いたいことをどんどん話していき、向こうがそれにポツポツとしか返事しなくても、それが彼女の<普通>なのだと思って、変に気を回すことはない――これがマリー・ルイスと会話する時のポイントだということを伝授してやった。
「今のところはな、俺がデートの相手でもラリーがデートの相手でも、はたまた教会の男やもめの誰かが相手でも、あいつの態度は大して変わるまい。ただ質問されたことにお義理的に答えて、頭の中では子供たちのことを考えるという、何かそんな感じさ。おまえも、あいつが自分に慣れるまではそんなものだと諦めて、デートを重ねていくうちに、少しずつあいつが変わっていくのでも待つしかないと思ってつきあえよ。まあ、こんな面倒くさい女と金輪際デートなんかするかと思ったら、それはそれでそれきりで終わりにしておけばいいという、これは単純明快な話さ」
「いや、それはないよ、イーサン」
ラリーはマリーが運んできてくれたシフォンケーキやパウンドケーキを、さも有難いもののように一口一口食べ、紅茶に至っては黄金色をした甘露だとでもいうように、嬉しそうに飲んでいた。
「俺はべつに彼女との間に、共通の趣味を見つけてその話で盛り上がりたいとか、そんなふうに思ってるわけじゃないんだ。ぶっちゃけ、話なんて大して出来なくてもいい。ただ一緒にいて彼女との間にある親和力に俺は先に気づいているが、マリーさんはまだそのことに気づいてないようだから、いずれ近いうちにそのことに気づいて欲しいという、それだけのことなんだ」
「親和力ねえ。そういや、ゲーテの小説か何かにそういうのがあったっけな。まあ、それはさておき、ラリーが何を言いたいのかは俺にもわかる。だが、あいつは鈍いからな……いや、とりあえず、仮にマリーが嫌がってるように見えたとしても、とにかく定期的にあいつのことをデートに連れだしてやってくれ。そしたらそのうちにきっと、だんだん何かがあいつの内でも変わっていくさ」
「だといいんだがなあ」
理想の恋を夢想する若者の横顔で、ラリーはフルーツのたくさん詰まったパウンドケーキを食べ、オレンジピールの入ったシフォンケーキにはクリームをたっぷりとつけてから食した。そして、すぐそばでそんな親友のことを見ていたイーサンは、複雑な嫉妬の入り混じった気持ちに早くも悩まされていた。彼が今ラリーに向けて口にした言葉はみな、嘘ではない。そう思っている気持ちも多くあるというのは事実だ。だが、ラリーの言う<親和力>とやらに、確かにマリーはいずれきっと気づくだろう。その後のことはもう、イーサンには想像してみることさえ苦痛だった。食卓で特に何も会話など交わさなくても、ふたりの眼差しの間には特別な親和力があるという、例の恋人同士の絆の間にイーサンは置かれることになるだろう。そして、ラリーはそんなイーサンのことを透過するようにマリーのことを見つめ、マリーのほうでも同じようにラリーのことを見つめ返すのだ……。
この日、カレッジフットボールで惜しいところで負けた親友を慰めるために、ラリーは去年と一昨年の院の進学試験の問題集を持ってきてくれていた。なんでも、今大学院にいる寮の先輩たちのツテを頼り、そのようなものが代々密かに後輩に渡されることになっているのだという。
「うわ、ずけえな。これを参考にしたら、かなりのところ試験対策のほうは容易になる。ありがとう、ラリー」
「なんの、なんの。結局のところ、あのままおまえが寮にいさえすれば、自動的にこれはおまえの手に入ってたんだから、俺なんぞに感謝する必要はないさ」
今までコツコツ勉強してきたことに加えて、これさえあれば――もはや合格を手にしたも同然だというのは流石に早いが、それでもかなりのところポイントを絞って集中的に勉強できるということだけは間違いなかったといえる。
「でもラリー、おまえはいいのか。ルーディはあと二年遊びたいから、駄目元で院の試験は受けるだけ受けてみると言っていたが、弁護士になるのがもし嫌なら、他の道だっておまえにはいくらでも……」
「いや、いくら国立とはいえ、学費のほうは結局のところ、親父の懐から出てるわけだろ。そう考えた場合、確かに今の俺には弁護士になるくらいしか道はないのさ。将来的に親父の鼻を明かしてやる地位につくにしても、弁護士というのは割合ニュートラルな立場でそのあとのキャリアとしてなんにでもなれる。ようするに、そういう意味でも俺の親父は医者か弁護士と言って寄こしたわけだ」
「そうか……」
ラリー・カーライルの父親のダルトン・カーライルは、今現在ユトランドの経済相の地位に就いている。長男のほうはすでに経済省の高官であり、彼らにとっては弟のラリーにも「それなりに恥かしくない経歴」を持っていてくれないと困るという、そのような考えであるらしい。
「もともと、俺にはルーディのように作家になりたいとか、マーティンのようにプロのアメフトの選手になりたいというような夢もなかったからな。親父の言うとおり嫌々ながら勉強しているうちに今の今までどうにかなってきて――次第にその「嫌々ながらも何かする」というのが、普通のことになってしまったんだろう。だから、法律の勉強をするのも苦痛ではないんだ。ただ俺は、マリーさんのような人にそんな自分を可哀想がってもらって優しくしてもらいたいという、それだけなんだ。そうしたらたぶん、嫌々ながらのことの内にもなんらかの喜びを見つけて、マリーさえいればそんなこともどうでもいいとかそんなふうに思えるようになっていくだろう」
「…………………」
この時、イーサンは(やはり自分の判断は正しかった)と思ったものの、それでいて翌週の土曜日、スーツ姿のラリーにエスコートされ、上品なドレスを着たマリーがリムジンの後部席に収まるところを見た時には――やはり、心の内に封じこめた嫉妬の情が激しく燃え盛るのを感じずにはいられなかった。
ラリーがクラシックのコンサートに誘ったことがわかると、イーサンはマリーに彼の隣にいるのにいいようなドレスを見繕って買ってやることにした。ココはこのことに対して非常に協力的であり、ラリーがはっきり自分のおねえさんに好意を持っていることがわかると、「ロマンスだわ!!」と叫んで、実に興奮していたものである。
ランディとロンもこのことには特に感情を害されるでもなく、むしろ嬉しい様子だった。ロンに至っては、「ラリーさんのような人だったらこの屋敷に是非来てもらいたいな」と言っていたほどだ。「イーサン兄さんも、一番の親友と一緒に住めるなんて、こんなに嬉しいことはないでしょ?」と……。
だが、マリーがデートに出かけたこの一月中旬の土曜日――イーサンはリビングで試験勉強をしながら、色々な想像が頭の中を駆け巡るあまり、ある瞬間にビリビリビリッとノートを引き裂いていた。そば近くでうさしゃんとキュボロをして遊んでいたミミは、驚いて振り返っていたほどだった。
「にいたーん、どうしたの?」
「いや、なんでもないさ。兄たんはちょっと試験勉強で煮詰まったというそれだけだ」
イーサンはハッと正気に返ると、夕食のピザを注文し、それが届くまでの間、ミミの相手をしてキュボロの塔にビー玉を通したりして遊んだ。その間も、(今日が最初のデートだ。せいぜいが手を繋ぐというのが関の山で、キスかそれ以上の関係にだなんて、絶対に進むはずがない)というようなことを頭の隅で考えつつ、ビー玉が長い距離をあちこち冒険した果てに、うさしゃんの元まで届くよう計算し――実際そのようになったところで、リンゴーンと家の呼び鈴が鳴ったのだった。
イーサンはココとロンとランディを呼びつけて、夕食のピザが届いたことを知らせた。最近ではめっきりピザを注文することも少なくなったので、家族は最初、このことをとても喜んでいた。けれど、いつもの夕食とは違い、食卓の真ん中にピザしかない光景というのはなんとも侘しく、何故か五人の間でも会話があまり弾まなかった。
「おねえさん、ラリーさんと今ごろどうしてるのかな……」
「野暮なこと聞くもんじゃないわ、ロン。今ごろふたりは~、クラシックのコンサートを聴いて~、ちょっといい雰囲気になって~、それからお食事をしにいって~……いいわよね、いいわよねえ。ラリーさんは頭もいいし、会話も面白いし、家柄もよくてお金もたっくさん持ってるんですもの。何より、教会の男やもめのおっさんたちと違って、財産目当てでもない上、若くて格好いいんですもの。そしたら結婚かあ~。わたし、おねえさんのブライズメイド、やらせてもらえるかなあ」
茄子のミートピザを片手に、ココはうっとりと夢見る目つきでそんなことを言った。ロンとココとは違い、ランディはとにかくひたすら食べることに夢中だ。
「なんだ、ココ。おまえ、たまにしか教会になんて行かないくせに、随分情報通なようだな」
「ふふっふ~。だって、学校で毎週教会に通ってるメラニー・リードと、たまに学校の廊下なんかで話すことがあるんですもの。そしたらメラニーが、何人かのハゲタカのおっさんがマリーおねえんさんのことを狙ってるから気をつけてって教えてくれたの。婦人会の人たちはみんな、そういう男の人たちは全員、マリーおねえさんの財産目当てだって信じきってるみたいっていう話よ」
ピザのほうは、四種類のピザを一枚で楽しむタイプのものを四つ注文したので、子供たちとイーサンの好きなピザがそれぞれ配分よく混ざっているという形だった。その中のミミが好きなマルゲリータとシーフードミックスを一枚ずつ、イーサンは彼女のミッフィーの皿にのせてやる。そのうちの一枚はうさしゃんの前に置いた皿にのせておいたが、「おいしいですかあ~?」と聞きながらも、結局のところ食べるのはミミである。
「だが、そういうおっさんの中には意外に純情な人もいて、本当にマリーのことが好きなのかもしれないじゃないか」
教会の婦人会のババアどもがなんと言ってようとも、イーサンの意見は違う。彼らの頭にはおそらく財産のことなどさしてない。どちらかというと、マリーの優しい「夫人の手」とやらが欲しいという、その可能性のほうが遥かに高いだろうと、イーサンとしてはそう思う。
「うーん。どうなんだろ。どっちにしてもわたしは、あんな男やもめのおっさんなんてやだわ。この家によその他人の子がやって来るのもいや。それだったら断然ラリーさんのほうがいいもん。みんなだってそうでしょ?」
「おい、ロン。そのポテマヨのピザ、一枚俺に残しておいてくれよ」
色気より食い気のランディは、妹の話自体をあまり真面目に聞いていないようだった。そこでロンが、「うん。僕もラリーさんだったらおねえさんの相手として言うことなしだな」と答える。そして、「イーサンは?」と聞かれ、ソーセージとペパロニのピザを食べていたこの家の長兄は――ビールをぐびりとやったわけだった。
「そりゃ、ラリーが相手でもし不満があるなら、マリーは一生誰とも結婚できないで終わるだろうよ。といってもまあ、ふたりは今日が初めてのデートの日だからな、結婚だのなんだのいうのは、おそらくもっとずっとあとの話さ。ラリーはこれからロースクールに入るから、その間に交際を深めてそのあと結婚できるのが理想なんじゃないか?」
「へええ。お熱いことでございますこと!」
ココが物知り顔にそんなふうに言ったため、イーサンだけでなくロンとランディも笑った。ミミは他の兄弟たちよりゆっくり食事をしながら、「おねえさん、結婚すりゅの~?」とのんびりした口調でそう聞く。
「さあな。まあ、ミミはそう心配する必要はないさ。おねえさんのミミを愛する愛は、これから何があろうと変わることはないと思って安心していい」
「うん。ミミ、これからもずっとおねえさんと一緒なの!!」
それからミミは「ねーっ!」と隣のうさしゃんに話しかけ、プリンセスうさしゃんは強引に頷かされたというわけだった。
食事が終わり、ピザの箱が片付けられると、子供たちは何故か物欲しそうな顔をしてイーサンのほうを見た。その視線の意味するところがわからなくて、彼は首を傾げる。
「なんだ、おまえら。ピザの他に何か食いたいものでもあるのか?」
「うん!!」と、無邪気な顔をしてランディ。「いつも、夕食のあとはデザートが必ず出てくるんだ。甘いものか~、何か果物か~」
(やれやれ)
そう思いながら、イーサンは冷蔵庫の中を見た。本当はマリーも夕食の仕度をしてから出かけると言ったのだが、それを無碍に断ったのはイーサンのほうである。そこで、冷蔵庫の中を見てみると、明日のおやつ用に作ったものかどうか、レアチーズケーキが出てきた。そしてそれを出してやると子供たちはすっかり満足し、再びめいめいの部屋へ戻っていったというわけだった。
そして、この時点で時計を見ると八時であった。そろそろコンサートも終わり、マリーはおそらくラリー行きつけのフランス料理店で食事でもしていることだろう。彼が利用するのはいつも個室で、そこには有能なメートルドテールがいて、実に絶妙なタイミングで食事を運んでくれるのである。店の雰囲気も最高にロマンチックなので、おそらく今ごろはマリーも……ラリーに対して心を開き、普段自分には話さないようなことを、彼に対しては話しているかもしれなかった。
(それでもまあ、あいつはお堅い女だから、別れ際にキスするとか、そんなことまではないだろう)
イーサンはラリーが持ってきてくれた問題集もまるで手につかず、いつの間にかうさしゃんを抱いて寝入っているミミの姿に気づくと、妹を抱っこして彼女の寝室まで連れていった。本当は服のほうも着替えさせるべきだし、歯も磨かせなくてはいけない。だが、そこまでのことはイーサンはずっとマグダ任せにしてきたため、自分で監督したことまではないのだった。
(やれやれ。これからはもうマグダにも頼れないとなると……うちは本当に、マリー抜きじゃ何も回っていかないということになるな)
このあと、さらにじりじりした思いでイーサンがリビングでマリーの帰りを待っていると、子供たちが少しの間一緒にテレビを見て他愛もない話をし、それからロンとココとランディは「おやすみなさい」と言ってまた部屋へ戻っていった。イーサンはその後、見てもいないテレビをつけっぱなしにしたまま、新聞を読むポーズを取ってラリーがマリーを送ってくるのを待った。
だが、流石に十時ともなると、何かが心配になってきた。きっと、何かのことをきっかけにして、会話のほうが弾みに弾んで……などと、イーサンが再び深い妄想の罠に陥ろうかという時、ようやく表に車のやって来る気配がして、マリーがそっとドアを開けながら屋敷へ戻ってきたのだった。
「……随分遅かったな」
彼女の隣にラリーのにこやかな顔があるものと想像していたイーサンは、彼女がひとりだけだったので、何故かほっとした。外からは車の去っていくような微かなエンジン音が響いている。
「色々、ラリーさんとお話することがあって」
(ようやく解放された)との思いで、マリーはほっと胸を撫で下ろしていた。だが、外から戻ったばかりで、寒さのせいで彼女が頬を紅潮させていたがゆえに、イーサンはそれを全然別の意味に受け取ったのだった。
「子供たちはもう寝てますか?」
「ああ。まったくもって静かなもんだ。それで、あいつとのデートはどうだった?」
イーサンは一番聞きたいことを、さり気ない調子でズバリと聞いていた。ブルーグレイのドレスを着たマリーは、髪も綺麗にセットしており(ココに絶対に美容室へ行くべきだと説得された)、地味ながらも気品に溢れていて、まったく美しかった。
「べつに、どうということもありませんし、もう二度とこういうことはないということでお話のほうも落ち着きましたので、何も問題ありません」
「はあ!?」と、イーサンは自分でもびっくりするくらい、素っ頓狂な声を出した。「あんた、あいつとまずはおクラシックのコンサートに行って、そのあと結構いい雰囲気の店でメシ食ったりしたんだろ?ようするに、それは何か?ラリーのことをたったの一度のデートで振った、それも振るためにそのつもりでただ一度デートにつきあってやったっていう、これはようするにそういうことか?」
ふたりの関係がまるきり進展しなければ、自分はどれほど安心することだろう――イーサンはずっとそう思っていたはずなのに、意外にもこの時、彼は憤慨していた。それも、これ以上もないというくらいに、腹が立っていたといっていい。
「あのなあ、マリー。あんたはきっと何もわかっちゃいないんだ。このユトレイシア中……いや、ユトランド中といっても過言ではない。ラリー・カーライルほどに性格も見た目もよく、高潔な人物など存在しはしないんだ。世が世ならあいつは、なんとか赤毛公だの、なんとかエメラルド公とでも呼ばれて、一国の領主か何かとして臣民に慕われていたことだろう。いいか、マリー・ルイス。あんたはそんな素晴らしい男をよく知りもしないうちからフッたんだぞ。ふん!これからの長い人生、せいぜい後悔に泣き噎ぶがいいぜ。あんないい男を、あんなにいい奴の俺の親友を――」
「だからです」
いつになく、相手からぴしゃりとした硬質の態度で返されて、イーサンも驚いた。いや、この怒りの気配の内在は、確かに随分前から感じていたものではある。大体、自分がせっかく高級な服を買ってやったというのに、そのことをまるで喜んでいなかったあたりからして、この女は頭がおかしいのだ。
「ラリーさんならきっと、わたしのような者でなくても、もっと家柄のいい素晴らしいお相手がいるはずです。ですから、そのように申し上げて、もう二度とこういうことのないようにとお断りしたというそれだけの話です」
「おい、待てよ」
自分の存在を無視するように二階へ上がっていこうとするマリーを、イーサンは呼び止めた。今の説明だけでは、まるで納得がいかない。
「ただの一度、デートしたくらいのことで、あんたに男の何がわかる?鈍いあんたのこったから、今はすぐにラリーの本当の良さには気づかないかもしれない。だが、この先あんたがもし教会の男やもめのうちのひとりとでも結婚しようっていうんなら、それは……」
「一体なんのことですか?」
まるで聞き捨てならないとでもいうように、マリーは途中まで上がった階段を下りてきた。まるで、流石に我慢の限界だとでもいうように、それがあまりに決然とした足取りであったために、むしろイーサンのほうが気圧されたほどだ。
「教会は神の家であるはずなのに、婦人会の人たちもあることないこと色々並べ立てて……あなたもそうよ、イーサン。わたしはデートなんてしたくないってはっきり言ったのに、これは自分の命令だのなんだの言って、無理やり人が行きたくもない場所へ行かせた挙句、帰ってきたら帰ってきたで今度は文句を言うだなんて!大体、こんなドレスが八百ドルもすること自体馬鹿げてるのよ。くだらないったらありゃしないわ」
マリーが一方的にそう言い残し、ずかずか階段を上がっていったため、イーサンにしてもそれ以上のことは何も言えなかったし、聞くことも出来なかったといえる。なんにせよ、彼はこの時初めて目撃することには目撃したわけだ。子供たちがリビングやダイニングでめいめい自分勝手なことを言っていても怒ったことなど一度もないというのに――マリー・ルイスはこの時、らんらんと目を輝かせて本当に怒りに肩を震わせていたのである。また、その後もイーサンは、彼女が怒っているところを見たのはこの時が最初で最後であったといっていい。
(あんないい男とデートしてきたくせして、一体何が不満だ!?)とは、イーサンには最早言えなかった。そして、マリーに聞けない以上は、明日あたりにでもラリーのほうに詳しい話のほうを聞くしかないとそう思ったのである。
この時イーサンは、何かが実に面白くなかった。マリーとラリーの関係がなんとなく駄目になってくれればと、心の隅で堅く願っていたにも関わらず、自分でもこんな気持ちになるとは思ってもみなかったのだ。そして、自分の寝室でベッドに入ってからも、不消化の怒りによって彼はなかなか寝つくということが出来なかった。
(なんにしても、女というやつは恐ろしい)とすら、イーサンは思ったほどだ。何故といって、マリーはここに至るまで、実際そう大したことをしたわけではない。自分に対しては子供たちの面倒を甲斐甲斐しく見てやったというだけであり、ラリーに対してはほんの少し小指をひねっただけなのに、向こうが何か勘違いして入れあげてしまった――何かそんな感じだった。そしてイーサンはマリーが大したこともしていないのに、自分とその親友を振り回したということが、何より面白くなかったのである。
(あーっ、クソッ!!絶対に今にあの女に思い知らせてやる。ラリーの復讐もこめて、絶対にだ!!)
そのように怒りを蓄えつつ、イーサンは眠りに落ちていったのだが、一方、マリーの帰宅をずっと二階の柱や彫像などに隠れて待っていたロンとランディとココは……実にがっかりしていたものである。三人は、ふたりの恋人が何か笑いさざめきながら玄関ホールへ入って来、最後に抱きあい、口接けしてから別れるといった、そのような場面を想像していたのだった。
「そっかあ。ラリーさん、おねえさんに振られちゃったのかな」
ランディがポケットからラムネを取り出し、それをぼりぼり食べながら言った。彼は実はおやつの中ではラムネが大の好物だった。
「まだ、わかんないんじゃない?だって、おねえさんはラリーさんに『そのようなお申し出はわたくしには相応しくありません』みたいに言って断ったんでしょ?ぼくがラリーさんならそんな理由じゃ諦めないなあ」
「なんにしてもがっかりよ。せっかく本物の恋人同士の抱擁やキスをこの目で見られると思ってたのに――ラリーさんが今度この屋敷にやって来るとしたら、相当しょぼくれた犬みたいな様子をしてるに違いないわね」
「あーあ。なんでおねえさん、ラリーさんみたいないい人フッちゃったんだろ」
三人はそんなことをブツブツ言い合ってから、そろそろ眠くなってきたせいもあり、めいめい自分の部屋へ戻って眠った。明日は日曜日であり、ロンはケイレブ・スミスに会うために日曜学校へ行くつもりだったし、ココもそれは同様だった。何より、ラリーほどの男を振る以上、マリーおねえさんには他に誰か教会あたりにでも相手がいるかもしれないので、そのあたりを探りにいこうと思っていた。ただひとり、ランディだけはお昼までぐっすり寝よう……などと考えていたにしても。
>>続く。