ええと、わたしも「風とともに去りぬ」の続編について読んだのは、かなり相当昔なもので、細かい描写や内容については忘れてしまってるんですけど(汗)、とにかくこの続編を読んだ時にわたしが思ったのは「これはわたしのスカーレットじゃない!」ということだったでしょうか(^^;)
まあ、なんでこんなこと書いてるかっていうと、↓の中にほんの一行「風とともに去りぬ」の続編のことが出てくるからなんですけど、わたし、マーガレット・ミッチェルの「風とともに去りぬ」はかなりのところ夢中になって読みました
そしてわたしの場合、原作読んでから映画のほうを見たので、むしろこちらの映画のほうが何故「名作」とされてるのか、いまいちわかんないような感じだったり。。。
いえ、実際に映画見る前から、あのDVDのパッケージ(わたしの時代はVHS・笑)があまりに有名すぎるので、原作を読んでいる時も、主人公のスカーレット・オハラはヴィヴィアン・リー、レット・バトラーはクラーク・ゲーブルでしかイメージ出来ないくらいでした。
そして、あとから他の本の中で映画が大ヒットしたので、原作の本を読んでる人も同じくらい多かろうと思われそうだが、実際は「風とともに去りぬ」は映画しか見たことないという人のほうが多い……みたいに書いてあるのを読んで、ちょっとびっくりしたり
えっと、「聖書につぐベストセラー」みたいに本のあらすじみたいなところに書いてあったと思うので、てっきり原作の本を読んだファンの方が映画館にもなだれこんだ……とか、勝手にずっとそう思っていたので(^^;)
それはさておき、「風とともに去りぬ」の続編については、「わたしのスカーレットじゃない!」というだけで、内容や文章のほうなどはとても素晴らしかったと思います。当時の文化とか歴史的なこととか、色々と詳しく調べてあって、結局のところ誰が書いても不満が出ただろうことを思うと、そういう意味ではベストだったのでは?という、何かそうした印象だったでしょうか(いえ、これ以上上手く書けったって、誰も真似できないというくらい、本当に書き手の作家さんは素晴らしい仕事をしておられます。少なくとも、わたしの書いてる文章の百万倍はうまい)。
まあ、なんというか、「風とともに去りぬ」って最後、ちょっと欲求不満気味に終わるので(いえ、もちろんそこがいいのです♪)、続編ではそのあたりにちゃんと決着をつけた……みたいな、そんな感じだったでしょうか。。。
それにしても、↓の関連で言いますと、「名作と言われているが、クリスマスプレゼントとして贈られてもまるで嬉しくない書物」っていうと、何があるでしょうねえ
これ、アンケートを取ってみるとちょっと面白いかもしれません(笑)
ではでは、今回は(も?)本当にどうでもいいような駄文ですみませんm(_ _)m
それではまた~!!
聖女マリー・ルイスの肖像-【17】-
ラリーのことも交えた、マリーがマクフィールド家で初めて過ごしたクリスマスは、心楽しいものだった。子供たちはめいめいが欲しかったものをプレゼントされ、また子供たちのほうでも、マリーに日頃の感謝の言葉をメッセージカードに記した、心のこもった贈り物をした。
ランディはエプロン、ロンはジェーン・オースティンの論評集、ココは口紅をプレゼントした。口紅くらいして外出しないと、女として廃れるというわけだった。そしてミミはマリーのことをクレヨンで描いた絵をくれた。イーサンはネックレス、ラリーは散々迷った挙句に、アロマ加湿器をプレゼントに選んでいたのである。
マリーはこれらのプレゼントをとても嬉しがり、彼女が非常に感銘を受けたらしいことが傍目からも見て取れた。また、そのことが子供たちにも嬉しく、自分たちがめいめい、それぞれの欲しいもの――ランディは新しいゲーム機、ロンは漫画の画材道具一式、ココは某有名子供服ブランドのドレスとカチューシャ、それに靴――をもらう以上に、彼女の喜ぶことが嬉しかった。それに、友達や恋人と出かけてもいいのに、敬愛する兄もちゃんと家にいてくれて、さらにいつも面白い話をしてくれる兄の友達もいるということで、彼らにとっては何も言うことなしの最高のクリスマスだった。
ラリーもこの時、ほんの僅かではあるがマリーと心の距離が縮まった気がして嬉しかったものである。ただひとりの客人ということもあり、食事のことでは色々と気を遣ってくれたし、アロマ加湿器のかわりに藍色のマフラーも彼女からもらうことが出来た。ラリーが今持っているのは父親がくれたカシミアのブランド物だったが、寮へ戻ってから「こんなものはもうポイさ!」と、某通販番組の真似をして、ラリーはマリーにもらったマフラーを首に巻いていたものである。
そして、それを傍で見ていたルーディが、鏡の前のラリーに対し、大笑いしたのは言うまでもないことだった。
「やれやれ。そんなに楽しいクリスマスだったんなら、俺も行けばよかったな」
クリスマス休暇に入り、寮内は学生がおらずがらがらの状態だったが、ふたりは数少ない学生たちとここで年を明かすつもりだった。去年も一昨年も彼らはそうしていたし、侘しいとか寂しいとかいうこともなく、これはこれでとても楽しいのだ。
「そうだよ。おまえも来りゃ良かったんだ、ルーディ。マリーさんの料理も美味しいし、この家族の絆の中で自分だけ除け者ってこともなく、心あったまるいいクリスマスだったよ。たださ、あの人……たぶん、俺とは違う意味でおそらく家庭運に恵まれてない人なんだろうな。なんか子供たちからクリスマスプレゼントを貰う時に、涙ぐんだりして、「こんなに嬉しいクリスマスは初めてよ」とか言ってたっけ。それで、俺も初めて思ったんだよな。子供たちはもう、自分のパパやママが生まれた時からパパとママだと信じて疑わないみたいに――あの人のこと、木の股から生まれたみたいに親戚が他にいるとかなんとか、まるで考えないみたいなんだ。だから俺もあえて何も聞かなかったけど、あとでイーサンにだけ言ってみた。『彼女、他にクリスマスを祝うような親兄弟や親戚はいないのかい?』って。そしたら……」
「そしたら?」
「イーサン自身も怖くて聞けないんだそうだ。ほら、あいつも最初は私立探偵でも雇って彼女のことを調べようと思わないでもなかったって言ってたろ?だけど、今じゃもう……むしろ何か都合の悪いことを知ってそれが自分の態度にでるとか、そういうことのほうが怖いから、あえて何も知らずにいたいんだって。たとえば――これはあくまでたとえばであって、本当にそんな過去が彼女があるとかいうわけじゃなくさ、実は父親が暴力を振るうろくでなしで、母と自分を虐待するっていうのである日父親のことを刺したとか、何かそんなことがあったとしたら、むしろ知りたくないんだって。もし自分が知ってることがわかった途端、彼女に家から去られたりしたら困るって……」
「あいつ、俺には推理小説の読みすぎだなんて言っておきながら、自分はメロドラマの見すぎなんじゃないのか」
ルーディは二段ベッドの上のほうにごろりと横になったまま笑った。彼は実家でクリスマスを過ごし、父と母からそれぞれ高級万年筆と『風とともに去りぬ』の続編をプレゼントされた。彼にとってはあまり嬉しくないプレゼントだが、まあ二十歳もすぎればサンタクロースの魔法も解けるのであるから、おそらくこんなものなのだろう。
「でもほんとに……なんか完璧すぎて怖いとは俺も少し思ったかな。第一、イーサンの話じゃあ、彼女があの家に来てから怒ったりしたところを見たことは一度もないそうだ。まあ、それに近い状態になるとちょっとの間口を聞かないとか、そういうことはあるらしいけど、それはイーサンに対してだけであって、子供たちにはそういうことはないんだってさ。『ただ<子供>だっていうだけで、それが免罪符の役割でも果たしてるみたいに、ろくに叱りもしない』って。で、そういう役は全部自分がやることになるもんで損だとか言ってたっけ。俺、それ聞いておかしかったよ。だって、イーサンがそんなだから彼女のほうでは子供を叱る必要がないんじゃないかって、そんな気がしてね」
「へえ……」
ルーディの中でも、この時ますます謎が深まっていた。彼が今書いている小説――「聖女と悪魔」の中でマリー・ルイスが一部モデルの女性は、自分の過去を消し、整形までしているという女性だった。もちろん、主人公の体のきかない父親に色々と性的なサービスをしたのも、すべては遺産目的である。ところが、この父親の息子というのが予想外に格好よく、最初は彼のことをも骨抜きにして財産のすべてを我が物としようとしたにも関わらず……実をいうと、ここのところでルーディの筆は止まっている。
何故かというと、主人公の男のほうを最終的に勝たせるべきか、それとも女のほうを勝たせるべきかで迷っているのだ。彼としてはどちらのキャラクターにも愛着があり、ふたりが対等の関係のまま結ばれてハッピーエンドという結末も用意できることにはできるが、それではどうしても面白くない。男と女の関係として最高潮に盛り上がっていながら、その頂点で破綻し、どちらかが滅びる……そうでなければ、ドラマというものはどうしても成立しないし、ミステリーというジャンルでは、殊更にそうなのである。
「ラリー、おまえさ、仮にそのマリーさんっていう人にどんな過去があったとしても……本当に愛せるのか?」
ラリーは下のほうのベッドで、藍色のマフラーの匂いをかぎ、キスまでしてから、ようやくそれをヘッドボードの棚のところに置いていた。そして枕元の電気を消す。
「いや、俺もそこのところの意見は、イーサンと一緒なんだ。彼女の過去がどうとか関係なく、今目の前にいるマリーさんがすべてというか……今回のクリスマスで少しだけど心の距離も縮まった気がするし、年が明けて少しした頃にでも――思いきってデートに誘おうかと思ってる」
「えーっ!?そっかあ。じゃあ、仲間内で寂しいひとりもんはこれで本当に俺ひとりってことになっちまうなあ。だが、彼女と結婚ってことにまで話が進んだとして……おまえ、親父さんのことは説得できるのか?俺、おまえがあんまり真剣なんで、なんかだんだん心配になってきた。ラリーの家は筋金入りのというか、折り紙つきの家柄の良さだものなあ。おまえの厳しい親父さんが過去に何やらあやしいところのある女性を本当に受け容れてくれるものかね?」
「先祖が貴族ってだけで、そんな大した血筋でもないさ。第一、俺は一人息子ってわけでもなく、上に出来のいい親父の溺愛してる兄がいて、そっちはもう親父の望む家柄のいい女性と結婚もしてるんだ。何も問題なんかあるわけないよ」
一度ヘッドボードの棚においたマフラーをもう一度手にとって、ラリーはその匂いをかいだ。自分の父親が結婚に反対なんぞしたら、たとえ勘当されようとも、そうなったらカーライル家を出てやるまでだと、彼はそうも思っている。
「そうかな。だってほら、まだおまえの兄貴夫婦には結婚して三年にもなるのに、子供が出来ないんだろ?そうなると跡継ぎとしてラリーとマリーの間に生まれた子が可愛い男の子だったりした場合……家督を継ぐのはその子ってことになるじゃないか」
「そんな話は関係ないよ。俺は親父の再婚した性悪女とその意地の悪い娘という存在に我慢し、なおかつ、最低でもロイヤルウッド校以上の私立校に受かれと尻を叩かれ、そのロイヤルウッドに受かったかと思いきや、「兄のように何故フェザーライルに合格できなかったんだ」と祝福の言葉も言われず、将来政治家にならないんだったら、医者か弁護士以外の職業は認めんと言われて――医者になろうとしたが医大受験に失敗したから、じゃあ弁護士かというので大してやりたくもない法律の勉強までしてるんだ。これ以上結婚する女のことにまで文句を言われたんじゃ、あの親父は俺に刺されて死ぬしかない。そうだろ?」
「ああ。まあ、そりゃあな……」
ここでルーディは思わず笑った。彼が以前、『自分が父親をぶっ殺して刑務所に入った暁には、俺は赤毛のキラーモンキーとでも呼ばれて周囲に恐れられているだろう』なんていう話をしたことがあったからだ。
「やれやれ。赤毛のキラーモンキーと、虐待の果てに父親をぶっ殺した娼婦のカップルとはな。そういやあのマリーさん、おまえの容貌についてはどう思ってる感じなんだ?おまえはおっぱいの馬鹿でかい後妻に『まあ、ものすごい赤毛ね!』と言われ、その不細工な娘には『キンシコウっていう赤毛猿みたい!』と言われて、こんな奴らはこの天地の続く限り、未来永劫自分の敵だと思ったんだろ?」
「いや、なんかあまり問題はない気はするな。あの人はそもそも、容姿で人を差別するような人じゃないんだ。それも、チビとかハゲとかいうので人を差別してはいけないとかいう、そういう強い理性の力で差別しないっていうんじゃなくて……ただ、当たり前なんだよ。何かの条件で人を差別しないっていうのが、彼女の中ではあまりに当たり前なんだ。だから、赤毛でもブロンドでも黒髪でも――目の色だって、べつに何色でもいいんだろう。俺には、イーサンの親父さんが彼女に心を開いてあの屋敷まで残したわけがわかるような気がするな。イーサンの親父さんは相当面倒な患者だったらしいが、マリーさんは他の患者と同じように分け隔てなく接したんだろう。そりゃ感動して、改心したくもなるさ。自分の死期が近いとなったらそれは尚更のことだったろう。それであの人は、そんなイーサンの親父さんに子供たちのことを託されたから、その義務を忠実に愛をもって果たしてるというわけさ。普通の人にはちょっと出来ることじゃない」
「ラリー、おまえの恋心に水を差したいってわけじゃないが……やはり俺はその点が腑に落ちんのだなあ。単に子供に愛情を注ぎたいというのであれば、発展途上国の孤児院にでも行けばいいって話じゃないか。何故それがマクフィールド家の四人の子供たちじゃなくてはならないんだ?もちろん、俺も一応マリー・ルイス本人には会ってるから、彼女が顔に善良って書いてないのが不思議なくらいの雰囲気を持ってることはわかってる。だが、そこにもちょっとうさんくさいものを感じるというのは、俺の性格がひねくれ曲がりすぎてるそのせいか?」
ルーディは枕元の照明だけで、自分の書いた原稿を読み返しながらそう聞いた。高級万年筆を使って小説を執筆すれば高級な小説を書けるというわけではないが、父からもらった万年筆でちょっとずつ言い回しを変えたり、増やしていったりするという作業を続ける。
「いや、むしろおまえのその感覚のほうが普通だよ。つまりさ、マリーさんのほうがある意味異常なんだ。そうだ、ルーディ。おまえ、『マリー・ルイスの異常な愛情』っていうタイトルで本でも書けよ。とても善良な美しい心を持った女性が、赤毛のキラーモンキーをも改心させるって話さ。きっと売れるぞ」
「売れるか、そんな本」そう言ってルーディは笑った。「なんにしても、俺はこれから小説執筆モードに入るから、余計なことは言わないでくれ。そいじゃ、おやすみ、ラリー」
「ああ、おやすみ。だけど俺、ほんとに良かった。結婚するとか、恋人として結ばれるとか、そういうこと以前に――いや、そうなれることが最善にして最高であるにしても――ああいう女の人がこの世にいるということ自体が救いなんだ。彼女は俺の至高なるベアトリーチェにしてグレートヒェンに違いない」
「寝言は寝てから言えよ、ラリー」
このあと、ラリーは何か発作でも起こしたようにさも愉快そうに笑い、それから暫くすると、下段のベッドのほうからは寝息が聞こえはじめた。一方、ルーディは今のラリーの話を聞いていて、女のほうを始末し、主人公の男を勝たせるということに結末のほうを決めた。そして、一度そうと決まってさえしまえば、筆の進みのほうは速かった。ルーディの頭の中の構想としてはこうだ。男が女に彼女の過去の行状その他を突きつける、女のほうでは「それがどうしたの?」と哄笑する。男のほうでは、「嘘でもいい。せめて俺のことだけは愛していたと言ってくれ」と迫り……女のほうでは本当は男の言うとおりであるにも関わらず、「あんたのことなんか、一度だって愛していたことなんかないわ」と捨て科白を残してプライヴェートジェット機から海へ落ちて死ぬ。男のほうではわかっていた――彼女が最後の最後で追いつめられないように自分のことを始末することも可能であったことを。だが、彼女はあえてそれをしなかった。そして、父親の莫大な財産のすべてを受け継いだ彼は……今もパーティなどで女性の群れを見渡すたびにこう思う。何分、海に落ちた彼女の遺体のほうは発見されなかった。もし、万が一奇跡にでも彼女が生きているというのなら――また顔を整形して自分に会いに来て欲しい。そしてそんな女の<顔>をたくさんの女性の群れの中に探し、彼はいつも思うのだ。もしもう一度彼女に出会うことが出来たなら、今度はその幸福の頂点で自分こそが死にたいということを……。
深夜の二時頃、ルーディは執筆もそこそこに眠りに就くことにした。物語の最終ページにまで辿り着くにはまだ遠いが、それでも大体のところストーリーの終わりが見えたというのは彼にとって収穫だった。そして、ベッドの下段にいるキラーモンキーのむにゃむにゃ言う寝言を聞きながら、ルーディは笑った。
(確かに、今書いてる小説に関して言えば、俺にとってもマリー・ルイスはミューズだ。もっとも、彼女に俺のこの小説を読ませても、こんな性悪女と自分にどんな共通点があるのかと思うことだろうが……究極、俺の中では聖女と悪女っていうのは同じようなものなんだよな。もっとも、この俺の意見にラリーは猛反対することだろうが……)
ルーディはここで、小説世界のことは一旦切り離して、真面目に現実世界のことを一渡り見回してみた。照明を消した薄暗い部屋に、すぐ近くにまで迫った天井――自分たちが角帽に黒のガウンを纏って卒業する予定なのが来年の六月。つまりもう半年ないわけである。ラリーは父親の意向通りロースクールのほうへ進学し、サイモンはユトレイシア中央市役所への就職がすでに決まっている。マーティンはプロリーグからのスカウトを受けて恋人のクリスティンと結婚する予定だという。イーサンは四月にある院への進学試験に万が一落ちたとしたらどうするつもりなのだろう……。
そしてその延長線上にあることとして、ルーディはラリーとマリー・ルイスのことをイーサンはどう考えているのだろうと思った。ルーディが以前一度問いただしてみた時には、「あいつに譲るさ」と、男の余裕すら感じさせる顔でイーサンは言っていたものだった。「何せ俺はあいつに随分借りがあるからな。変に横恋慕するでもなく、素直に応援するさ」
だが、ルーディは彼のその言葉を額面通りには何故か受け取れなかった。何分、すでに一緒に暮らしているという事実からしてイーサンのほうが優位だというのがある。それに、「少しは彼女、ラリーにその気がありそうか?」と聞いたら、「俺にはあいつのことはよくわからん」としか答えなかった。仮にそれが事実なのだとしても――ルーディには何か引っかかるものがあった。だが結局のところこのことについてイーサンが何をどう思い感じ、考えているのかなど、イーサンにマリー・ルイスのことがわからぬのと同様、ルーディにもわからないことだった。
(まあ、とどのつまるところ俺の思っているのは、長く続いた美しい男の友情というやつに女ごときのことでヒビが入りやしないかっていう、そういうことなんだが……)
ルーディの知る限り、イーサン・マクフィールドという男は間違いなく<目的達成型>の人間である。つまり、国の最高学府とされるユトレイシア大学へ入りたいとなればただ一筋にその目的に向け努力し、入学後は学業に励む傍ら(というのも、その頃よりすでに院へ進学したいという望みが彼にはあったため)アメフト部に所属した。顧問のブル公の覚えもめでたく、二年の時にはすでにクォーターバックのポジションを手にし、カレッジフットボールではベスト4まで進出。その翌年には決勝戦で負け準優勝。そして今年こそはと雪辱の思いに燃えて再び来月にはその決勝戦へ向かうわけだ。しかも相手は去年と同じく、ユトレイシア大のアメフト部が長く宿敵としてきたセイドローク・ドラゴンズとの死闘が待っていると見て間違いない。
(まあな。この死闘のことと院へ進学するための勉強に、弟妹たちの養育、それにキャサリンとの交際……ややこしくて面倒な色恋の三角関係は退けて、まずはカレッジフットボールでの優勝、それに大学院の合格、キャサリンとの交際の清算と、イーサンもやるべきことが多すぎるわな)
と、ここまで色々と親友のことを思い巡らしてから、ルーディはベッドの中で苦笑した。人のことより、自分も己の将来のことについて考えなくてはならない。実をいうと大学院への進学試験はルーディも受験するつもりでいる。だが、彼の場合は「万一もしも受かったらいいな」くらいの気持ちで受けるため、自分でも十中八九落ちるだろうと見ていた。そしてその際には祖父が会長、父親がCEOを務めるガルブレイス出版に編集者として就職する予定だった。
(あーあ。大学在学中の四年の間に、作家としてデビューできれば就職しなくていいなんて、今までずっと楽観的に考えてきたんだがな……)
ルーディにとって、このユトレイシア大学での四年間ほど、人生で楽しく、面白おかしいことはなかった。だが、これも「良き青春の日々」として封印し、卒業後は社会人一年生として実直かつ真面目にやっていかなければならないわけだった。
そしてルーディは、この麗しき青春の日々の最後が――男同士の友情のひび割れによって醜いシミをつけて終わるのではないかとの危機感を感じ、人ごとながらまるでそれが我がことでもあるかのように心配で堪らなかったのである。
>>続く。