え~と、いつも通りといえばいつも通りのことながら、連載2回目にして、前文に特に何も書くことないような……。。。
なので、これもまた毎回のことながら、本文に特に関係のないどーでもいいことでも、と思います(笑)。
主人公ロリちゃんの幼なじみふたりである、マリとルークがテニスをやってるっていうことで、前回のトップ画はテニスコートにしてみたんですけど……実をいうとわたしの人生を変えた漫画の2トップが『DEATH NOTE』と『エースをねらえ!』だったりするんですよね
やっぱり、デスノに関しては「ここまで緻密に考えてこそ、まったく新しい素晴らしい創作世界が築ける」と言いますか、デスノートを読んでからわたし、割とミステリーに初めて興味を持ったというか、何かそんな感じです(おっそ!)。
まあ、デスノートに関しては書いても書き切れませんので、次の『エースをねらえ!』なんですけど、とりあえずズバリその世代ではなかったりするんですよね、一応。だから、『エースをねらえ!』の原作をわたしが読んだのは、驚くほど「えっ、今ごろ!?」といった感じではあるんです(^^;)
もちろん、原作あってのアニメですので、原作は原作でこの上もなく素晴らしくはあるんですけど……はまったきっかけはアニメきっかけでした。確か、テレビ東京系で朝の8時くらいから再放送というか、月曜から金曜まで毎日やってることがあったわけですその時、特に見る気もなくなんとなく見はじめて、物凄く衝撃を受けたんですよね1ももちろんすごいとは思うのです。でも、特に2ですね。ほとんどアニメという名の宗教かと思ったくらいでしたから。このあたり、原作ではどんなふうに描かれてるんだろうと思って、原作漫画を読みはじめ、それからアニメのほうについてはどの部分がアニメオリジナルなのか、わかるようになったというか。
わたしが衝撃を受けた2あたりの展開というのは、原作にないアニメオリジナル部分ではあったんですけど、原作は原作でもちろんこの上もなく素晴らしいですし、わたし、アニメに関しては全部ではないものの、劇場版とか、自分がテレビで見てないほうのDVDまで買って見たくらいだったのです(^^;)
それまで、わたし自身は小説を書く時、ラストについてはハッピーエンド志向が強いと言いますか、登場人物についても、一応架空の人々かもしれなくても、書いたすべてのひとをなるべくなら幸せにしたい……みたいな気持ちや方向性が強かったんですよね。でも、それじゃダメだと思ったというわけでもなく、ハッピーエンドっていうのは、案外表現として「薄い」っていうんでしょうか。
ミステリーの場合、割と犯人がわかっちゃうと、それ以外のことを忘れてしまうことがあるように――「まあ、なんにしてもハッピーエンドで終わったんだからいいや☆」って、実はあんまり本当の意味で人の心に残らないんじゃないか……みたいに初めて思ったわけです。
萩尾先生の作品で言ったら(印象的な作品はたくさんあるにしても)、割とわたしの中でわかりやすいのは『マージナル』かなって思います。ストーリーの中のすべての人が救われるわけではないけれど、でもだからといってバッドエンドということでもなく、むしろ悲劇的な亡くなり方をしたキャラクターのほうがほとんど永遠的といってもいいくらい、読んだ人の心に残るわけですから。
わたしの場合、デスノではそれがLでしたし、『エースをねらえ!』では、主人公のひろみちゃんと宗方コーチの関係性がそうだったと思います
なんというか、『進撃の巨人』は多くの方にとって衝撃的な漫画だったと思いますし、最近読んだ漫画でいえば、『東京リベンジャ―ズ』も『チェンソーマン』も超がつくくらい、すごく面白かったわけなんですけど……あ、あと、萩尾先生は描いている漫画世界が素晴らしいのはもちろんのこと、人間性が素晴らしいということや、漫画を描く際においての作家としての誠実性など、すべてが芸術家として素晴らしい……といった意味でファンなので、えーと、デスノや『エースをねらえ!』がわたしに与えた影響とは、また別の話――みたいな感じのことだったりします(^^;)
つまり、それでいったら『鬼滅の刃』や『進撃の巨人』や『東京リベンジャ―ズ』や『チェンソーマン』その他、アニメだったら『エヴァンゲリオン』とか……素晴らしい創作作品はたくさんあるわけなんですけど、デスノと『エースをねらえ!』がわたしに与えた影響っていうのはまったく別物だったというか。ええと、誤解のないように書いておきますと、わたしにデスノや『エースをねらえ!』に与えた影響に相当するものを、『進撃の巨人』や『鬼滅の刃』、あるいはその他の漫画・アニメ・ゲーム作品などから受けた……という方も当然たくさんいらっしゃると思います(つまり、魂を直にガーンと殴られたような衝撃、とでも言いますか)。
う゛~ん。何かこううまく説明できなかった気もするんですけど(汗)、そういうのに相当する作品というのを、誰もが間違いなく持っているものだと思う……といったように、とりあえずまとめておこうかなと思います(^^;)
それではまた~!!
P.S.なんかわたしのこの書き方だと、『進撃の巨人』や『チェンソーマン』みたいな、超のつくスゴ面白漫画読んでも「魂にガツンと来なかった☆」みたいに読める気がしたので、また別の前文で補足してみたいと思いますm(_ _)m
マリのいた夏。-【2】-
実をいうとリサの他に、ロリにはキャンプで会いたくない人物が他にもう一人いた。それが、リサの義弟のノア・キングだった(姓のほうが違うのは、複雑な家庭の事情によるものらしい)。
キャンプの時、みんなで篝り火を囲み、怪談をしたのち――誰かが飲み終わったバドワイザーの瓶ビールを転がし、「これからスピン・ザ・ボトルでもしようぜ!」と言った。実際に回すことになったのは、これも誰が飲んだのかわからないスミノフアイスだったが、この瞬間からロリは確かに嫌な予感はしていた。席を外そうともしたのだが、マリとリサの取り巻きふたりに左右からがっしり腕を組まれ、「ここからがいいところじゃないのよぉっ!!」などと、強制参加させられたわけだった。
ロリが恐れていたのはとにかく、自分の順が回ってくることばかりだったが――彼らの間のルールでは、好きな子を白状するか、ビンが向いた方向にいる子とキスするか、という選択肢があった――まさかその前に、「オレ、今特に好きな子とかいねえもん」と言って、ビンの口が向いた自分のほうへノア・キングがやって来るとは想像してもみなかった。
(あ~あ。まさかのアレが、わたしのファースト・キス……)
結局、ロリはどうにも居たたまれなくなって、真っ赤な顔をしたままそこから逃げだした。ノア・キングというのは尻軽(失礼!)の義姉と同じく、いかにも軽い雰囲気の男子だったから、きっと彼にとっては大したことではなかっただろう。けれど、ロリがずっと好きだったのはルーク=レイだった。もちろん、ルークの恋人は親友のマリだ。だから、(彼が自分に振り向いてくれたらいいな……)とすら、ロリは想像してみたことすらない。何か特に強い自制心がそこに働いていたというわけでもなく――おそらく自分はマリとルーク=レイのふたりことを見ているのが好きなのだろうと、ロリはそんなふうに自己分析している。
ロリが首都の高級住宅街にある、一軒の瀟洒な屋敷へ引越してきたのは、小学三年生の時のことだった。元はノースルイスという場所で生まれ育った彼女は、転校して仲のいい友達と離れるのがとても嫌だった。泣きじゃくる一人娘に対して、母のシャーロットはこう諭したものだった。「結局、同じ学校に通っていたって、次の新学期にはクラス替えがあるじゃないの。ここノースルイスも都会だけれど、それでも首都とは比べものになりませんからね。それに、ユトレイシアの中でもとっときの高級住宅街に住めるのよ!そしたら、ロリだってきっと色んなことが楽しくなるわ!」――だが、実際に引っ越してみる前までは、ロリは少しもそんなふうに思えなかったものだった。
そしてそれは、当初ロリが想像していた以上に本物のハイクラスの人々が住む場所であり……広い敷地内にはプールのあるのが当たり前、しかもそのプールを自分で掃除したり消毒するような人物はその居住区にひとりもいないほどだった。その後、ロリがそのアストレイシア地区を観察して子供ながらに思ったのは、(お父さんもお母さんも、随分無理したんじゃないかな……)ということだったに違いない。何故なら、アストレイシア地区にはこのシマを取り仕切っているとも言うべき大ボスが存在しており、それが上院議員を務める夫を持つ、ルイーザ=ハミルトン夫人であり(ちなみにルークの祖母に当たる)、彼女は当然自分でオルジェン家へ赴くことはせず、間者を送ってきた。
政治スキャンダルで失脚した、元下院議員だったケイレブ=レイカー家の屋敷に、一体どこの誰が新しく住むことになったのか、次から次へとオルジェン家には訪問客があった。大抵、その手には土産物として高級菓子の箱が握られており、この高級感漂う人々の眼差しはシャーロット=オルジェンの人柄や彼女の夫のトム=オルジェン大佐の品定めに向けられていたと言える。一人娘のロリには、あまりこれらの鑑識眼鋭き夫人たちの視線は集中しなかった。(地味な目立たない子。でも、少しは賢そうなところがあるわね)というのが彼女たちが口にしなかった、オルジェン家のひとり娘に対する感想だったようではあるが。
もともと、ルイーザ=ハミルトン夫人のみならず、このアストレイシア地区に住む人々は、自分たちの高級住宅街に「変人」、「おかしな人」、「相応しくない人」が住まぬよう、常に目を光らせてはいた。すなわち、首都に存在する大手不動産業者に手を回し、普段から「もしそんなことをした業者がわかりでもしたらお宅の株価が明日どんなことになるか、楽しみですわね。おほほほほ」と、常に睨みをきかせることによって。
ゆえに、最初から前情報として、ハミルトン夫人の元へは「ユトレイシア陸軍の大佐が友人の海軍将校の紹介で、売りにだされたレイカー家を借りたいと言ってきているがどうか」とは、懇意にしている不動産会社経由で連絡があったのである。その海軍将校というのが、今はすでに引退しているとはいえ、元海軍提督の夫の友人の部下であったことから――ハミルトン夫人は「まあ、いいでしょう」と返事をしたのだった。その屋敷ではその昔、不幸な事故があって以来、持ち主が転々と変わっている。そのような事情から、一括で屋敷を買える財力を持たぬ程度の人物が、その後法的に差し押さえられ転売された家を「借りる」というのでもいいだろう……ルイーザ=ハミルトンを頂点としたアストレイシア地区婦人会ではそのように決定がなされたわけである。
さて、そのような形で自分たちが「居住を許可」したともいえるオルジェン一家であるが、この婦人会の面々の「不快な品定め」について、いい意味で鈍感な庶民だったロリの父も母も気づかなかったところがある。ロリが思春期を迎える段になる頃には、両親のこの<鈍感力>が自分にも遺伝していたらどんなに良かっただろう……そう感じることになる極めて特殊感覚的な<鈍さ>である。
トム=オルジェンは長身だがさしてハンサムということもなく、誰とでも決まりきったような退屈な話しかしない人物だった。だが、これで彼がもし自動車のセールスマンだったら、誰もオルジェン氏から車を買おうとはしなかったろうが、何分相手は陸軍大佐という階級にある立派な人物である。ハミルトン家の友人である元海軍提督のジョージ=ブランチャードのように、いつでもウィットのきいた会話をする人物でなかったとしても――国の軍部において四角四面で決まりきった堅苦しい業務をこなすうち、そのような性格が醸成されたのであろうとして、トム=オルジェンの不恰好で無愛想なとっつきにくい態度というのは、近隣住民の誰からも見逃されるということになった。「お国の大切な仕事をされている方なのだから、尊重しなければならない」というわけである。
ゆえに、トムが近所の夫人たちの誰かしらの前で、他の誰かしらが持ってきた高級菓子の箱をバリバリ破り、「やあ、こりゃうまそうだ」とか、「暫くの間、うちでは菓子を買う金が浮くな、シャーロット」などと言っても、彼女たちは見なかった振り、何も聞かなかった振りをしていたというわけだった。
一方、オルジェン夫人に対しては、夫人連の誰しもが好感を抱かずにいられなかったと言える。ノルウェイ出身の祖父母を持つシャーロットは、典型的なほっそりした北欧美人だった(何故母のこの血筋が自分に遺伝しなかったのだろうと、ロリは溜息を着くばかりである)。また、シャーロット自身の持つ得な性質として、やはり彼女も夫とはまた別の意味で「鈍かった」ということがあったろう。彼女は近隣住民の営む高級な生活と、自分の家の違いをいちいち取り上げ、繊細に悩むということがほとんどなかった。ゆえに、広い敷地内の庭については、見栄を張って業者に頼むということさえなく、すべて自分で手入れしていたし、その様子に感心した近所の人々が「どうやったらあんなに綺麗に芝を生やすことが出来るか」、「毎年綺麗に花を咲かせることが出来るか」と、そのコツについて誰もが知りたがったほどである。また、オルジェン夫人には引っ越してきてからすぐ、強力な味方が出来てもいた。つまり、それが道を隔てて向かい側に住む、同学年の子供を持つミドルトン家の人々とハミルトン家の人々である。
マリの母親のエマ=ミドルトンと、ルークの母親のシャロン=ハミルトンは、遥か昔、学生時代に遡っての親友同士であったから、今さらここに誰か親しい女友達を迎え得ようとは、自分たちの年齢では想像してもみないことだった。けれど、シャーロットがいい意味で世間知らずの鈍い女性であり、彼女が周囲の人々と自分の家庭を比べ、あくせくすることが決してないとわかると――そのあたりについて神経質になるよう育てられたエマとシャロンは、シャーロットの持つ魅力にすっかり参ってしまったわけであった。すなわち、シャーロットは近所の人たちに失礼のないよう振るまうにはどうすればいいか、ただ素直にミドルトン夫人やハミルトン夫人に訊ねたわけであるが、これもまた親からの遺伝的特質によるものとして、彼女たちも自分たちの気に入らぬ人物に対し素っ気なく、「何も教えない」態度を取ることも出来たはずである。けれど、ふたりは自分たちの親友同盟にオルジェン夫人を仲間に加えてもいいと思った。それはシャーロットが自分のことを彼女たちふたりが実は悪く言っているのではないか……などと、くよくよ悩むような性格とは無縁だったことが起因していたろうことはほぼ間違いない。
こういったわけで、親のみならず、自然とロリもミドルトン家の二人姉妹やハミルトン家の三兄姉弟(きょうだい)と親しくなることになった。もっとも、ロリには両親の持つ「鈍感力」がまったく遺伝してなかったし、繊細で人見知りする性格でもあったから、自分から彼ら・彼女たちに挨拶したり、積極的な態度を見せることはほとんどなかったと言える。また、この家族づきあいしている二家族の子供たちに横たわる複雑な人間関係について、ロリがきちんと理解するようになったのは――初めて出会ってから随分のちのことだったと言ってよい。
まずロリが仲良くなったのは、ミドルトン家の長女のフランチェスカだった。その名前に相応しく、フランチェスカはフランス人形のように可愛らしいだけでなく、誰に対しても親切だった。母親に連れられていった教会学校にて、フランチェスカは他の同じ年ごろの子にロリのことを紹介してくれた。この時、その教会で牧師をしているマーティン=オースティンの息子・娘たちともロリは親しくなったし、その中でも同じ年のエリカとはすぐ親友といえるような間柄になった。
こういった事情により、ロリのほうではフランチェスカに対しては今も感謝と尊敬の念しか持ってなかったと言ってよい。フランチェスカは美人なだけでなく、そのことを鼻にかける様子は微塵もなく、さらには才色兼備の高嶺の花として男子たちの視線を集めるような女の子でもあった。成績のほうも良く、学校の先生たちも「どんなふうに育てたらあんないい子に育つのか」と、ミドルトン夫人によく訊ねるほどですらあった。
だが、ミドルトン家にはミドルトン家の悩みがあって、それが妹のマリのことだった。彼女は姉のフランチェスカが周囲の人間から褒めそやされれば褒めそやされるほど、両親に対して反抗的な態度を取り――小さな頃からこのひとつしか年齢の違わぬ姉妹は、険悪な関係にあったと言える。もっとも、この美人姉妹の間には特に「何かあった」というわけではない。フランチェスカはその生来の優しさから、妹にも優しく接しようと努力していたし、両親だけでなく、周囲の誰の目から見ても悪いのは妹のマリであるようにしか見えなかったことだろう。だから、いつでもミドルトン家で叱られるといえばマリのほうだったし、彼女の両親や姉に対する理不尽なまでの我が儘な態度というのは、そうした悪循環に嵌まり込んで一向にやむ気配を見せなかった。
もっともこれは、ロリが随分あとになってから知ったことであるが、ミドルトン夫人曰く、マリはロリと友達になって以降「すっかり変わった」ということであった。どんなふうに「変わった」かというのは、変わって以降のマリのことしか知らないロリにとっては、よく理解できないことではある。ただ、ロリがまずフランチェスカと親しくなり(いい子の姉が通っているという理由から、マリは教会へはやって来なかった)、その後、ハミルトン家の三兄姉弟である、マーカス、アンジェリカ、ルークに紹介され、少しばかり親しくなると――マリは子供ながらに一計を案じたようである。
夏休みの終わる数日前、マリはオルジェン家にやって来ると、ある取引をロリに持ちかけたのである。「ねえあんた、フランチェスカ姉さんのこと好き?」――不躾に二階のロリの部屋をじろじろ眺めまわしてのち、マリは突然そう切り出した。正直、ロリのマリに対する第一印象というのは、あまりいいものではない。(お姉さんのほうが、ずっと話しやすくていい人だわ)と、そう思ってもいた。
「ええ、好きよ。とても親切で優しい人ですもの。それに、フランチェスカのお陰で新しく友達もできたし……」
「でもあんた、姉さんより絶対わたしと仲良くしたほうがいいわよ。だってそうでしょ?あの人、わたしたちより一学年上ですもの。もし三日後、クラス替えの表見て、あたしと同じクラスになってたらあんた、一体どうするつもり?」
「…………………」
ロリは黙り込んだ。この時になるまでロリはマリとほとんど話らしい話すらしたことはなかったが、向かいの開いた窓や庭などからは、彼女が両親や姉にけんつくを食わせる声や、激しく喧嘩の応酬をする汚い言葉が聴こえたことから――(敵にまわしたくない、意地悪そうな子)という印象を持ってはいたのである。
「そうね。もしあんたがこの先ずっと永久に……友達としてわたしにだけ忠誠を誓うとしたら、わたしがすべて按配よく手回ししてあげる。そのかわりあんた、もう二度とフランチェスカとは口を聞かないと誓ってちょうだい。いいわね?これがわたしとあんたが友達になる、譲れない絶対条件よ」
次の瞬間、ロリは笑いだしていた。理由については彼女にもよくわからない。ただ、自分と大して変わらない年の子供が「按配よく手回し」などと、大人みたいな口調で言ったのがおかしかったのかもしれない。
「二度と口を聞かないだなんて、どんなに努力したって無理よ。だって、あんたの姉さんはとてもいい人だし、それなのに向こうから『おはよう』とか色々挨拶してきても無視しろっていうの?ねえ、あんた知ってる?自分がされて嫌なことは、相手にもしちゃいけないのよ」
「…………………」
マリは一瞬黙り込んだ。その態度からはロリが一も二もなく自分と友達になりたがるだろうという思い込みが透けて見えるかのようだった。
「ふうん。『三日後、あたしと同じクラスになったら見てなさいよ!』と言ってもいいけど、まあいいわ。ロリ、あんたにもきっといずれわかるわよ。フランチェスカ姉さんの優しさや親切心といったものが、いかに薄っぺらいものかがね。だって、みんなに薄いせんべいを一口ずつ食べさせて、『わたしったらなんて親切なんでしょう!』って思ってるっていう、あの人の優しさなんか、そんな程度のものでしかないんですもの。まあ、でもみんな、姉さんの見た目に大抵のことは誤魔化されてしまうわけよね。だけどこのあたしは違うわ。あたしはね、一度『この人』と決めたら、ずっとその人にだけ忠誠を尽くすの。ねえロリ、あんたは姉さんなんかより、このあたしにしなさいよ。口を聞くなとはまでは言わないけど、とにかく姉さんよりもこのあたしに味方をするの。その条件でならわたし、あんたと友達になってあげてもいいわ」
――ロリはマリのこの条件をのむことにした。マリの言うことにも一理あると思ったからではない。まだ小学三年生であったから、そもそもロリはこの件に関してそう難しく考えていなかったのである。今後とも、フランチェスカとは学校の廊下や近所の道、公園、あるいは教会学校などで会えば必ず話はするだろう。それはそれで、おそらく問題などないはずだ。また、マリとは4クラスしかないというユトレイシア第一小学校で同じクラスになるとは限らない(四分の一の確率によって)。とはいえ、マリが違うクラスでも、彼女がその気になれば、「フランチェスカと口聞いちゃダメ!」と言ったのと同じく、誰かれとなく「あの転校生と口聞いちゃダメ!」と命じるくらいの力が……彼女にはあるのだろうということくらいは、幼いロリにもぼんやり理解できていた。
だが実際、胸をドキドキさせながらエリカと一緒に登校してみると(彼女はわざわざ遠回りして迎えにきてくれた。何故なら新しい学校生活でうまくやっていけるかどうか、ロリが悩んでいると知っていたから)、ロリはマリ・ミドルトンのみならず、エリカ・オースティンとも、さらにはルーク=レイ・ハミルトンとも同じクラスだったのである!
もっともこの時点においては、ロリにとってルークのことはどうでも良かった。フランチェスカからハミルトン家の子供たちを紹介された時、ロリが好感を持ったのは彼の兄マーカスのほうであったし(彼はまるでフランチェスカを男性にしたように優しく親切だった)、長女のアンジェリカと弟のルーク=レイはふたりして『仲良くする値打ちのある子かどうか』と、値踏みするような視線を自分に向けてきたからである(ロリには不思議なことだったが、マリとアンジェリカとルークは三人で同盟でも組んでいるかのように親しかったので、マリがこの同盟に彼女のことを引き入れてのち、ロリはこのふたりとも徐々に口を聞くようになっていった)。
つまり、ロリのルーク=レイに対する第一印象というのは、マリと同じく非常に悪いものだったと言える。彼と姉のアンジェリカは優等生の兄が「向かいに引っ越してきたロリちゃんだって。ルーク、同い年なんだから、仲良くしたらどうだい?」とニコニコして言うと――「ロリちゃんだって。可愛い名前ね」と、アンジーはファッション雑誌からちょっとだけ目をあげるとぷっと吹きだし、ルークはリビングでゲームしているところだったので、顔をしかめてコントローラーを投げだしていた。マーカスが一瞬自分の集中を逸らしたせいで、攻撃機がボス戦で大破してしまったからだ。
この時、特に「何かあった」というわけではない。ルークは再びゲームを続ける前に、ロリのほうにちらと視線は送ってきた。けれど、まるで何も視界に入ってこなかったとでもいうように彼はゲームを続け、アンジェリカはファッション雑誌に目線を戻したというそれだけだった。けれど、繊細なロリの心はたったそれだけのことでも傷ついた。何故なら、アンジーは馬鹿にしたような意地の悪い眼差しを投げかけて、「ぷっ。ロリちゃんだって」と笑ったのだったし、マーカスが「弟は恥かしがってるんだよ」と言うと、ルークのほうではゲームの画面に向かい、「超うぜえ!」と呟いていたからである。
なんにしてもこの時、ロリの頭にあったのはただひとつのことだけだった。「エリカと同じクラスになれますように!」と神さまに祈っていたら本当にそうなった――そのことを彼女は隣で掲示板を見上げるエリカ・オースティンと互いの手を打ち合わせて喜んだのである。
マリはルークと親しかったから、普段クラスにいる時から普通に話していたものの、ロリとエリは彼とそんなに話す機会はなかった。ただ、今風に言うとしたならば、ふたりがともにこの頃から「イケてる勝ち組」だったのは間違いない。マリは女子グループのまとめ役であったし、ルークはマーク=オコナーという、スポーツの出来るもうひとりの親友と、クラス内における目立つ存在だったからである。
この時の、小学三年・四年時のクラス以降、マリとロリとエリ、それにルーク=レイが同じクラスになることはなかった。その後、マリとロリとエリは小学五年・六年時にはそれぞれバラバラとなり、中学時代はマリとロリが同じクラスで、エリとルークが同じクラスだった……といったように。また、中学時代、ロリとエリはマリに半ば強制されるような形でテニス部へ入部することになり、その後マネージャーに転向した。放課後、ロリはマネージャーの仕事をする傍ら――隣の男子テニス部の練習風景についても、時々目をやることがあったものだ。ただひとり、ルーク=レイの姿が気になるという、それだけの理由によって……。
けれどこの頃、ロリは決定的な失恋を経験するということになる。大体中学二年生くらいの頃から、マリはルークに試合で勝てないようになってきており、彼女はルークが本気を出して勝てば勝ったで文句を言い、マリがあんまりうるさくけんつくを食わせてくるのでわざと負けたりすると――それにはそれて腹を立てるということが続いていた。
ロリもエリも、そんな様子のふたりを心配して遠巻きに見ていたが、中二の夏休み、マリの家にあるテニスコートで……ふたりが夕暮れの中、ロリはキスしているのを見たことがある。マリに用があって訪ねたのだが、マリとルークがテニスで真剣勝負していることがわかると、声をかけられなくて、暫く庭のほうからそんなふたりの様子を眺めていた。
結局のところ、この時も勝ったのはルークであり、マリは随分口汚い言葉を夏の暑い空気の中へ叫ぶと――一本数万円はするテニスラケットを地面に叩きつけ、それが柄のところでへし折れるまで繰り返しそうしていた。
ロリがはらはらして、その場にいてはいけないのではないかと思った瞬間のことだった。「どうしてよ……っ!なんでわたし、あんたなんかに勝てないのよっ!!」と、マリが膝をついて泣きじゃくりはじめ――すると、ルークもまた腰を落として、マリの前のほうへ屈みこんだ。そして、こう言ったのだ。「テニス以外のことでは全部、おまえがほぼオレに勝ってるんだから、それでいいだろ?」と。それからルークがマリにキスすると、ふたりの体はその後、暫く重なりあったままだった。
歩いて5分ほどの帰り道(ミドルトン家のテニスコートは、広い敷地内の中でも奥まった場所にあったから)、ロリは自分が泣いていると気づいて驚いた。そして、突然気づいたのだ。小学三年生の時、同じクラスになって以降、ずっとそれとなくルークの姿を追っていたことや、中学時代にはテニスコートの彼を見るとはなしに見ていたことを……それからハッとした。(ああ、そっか。こういうのを初恋っていうんだ)と。
ロリの恋は、自分でそうと自覚するのと同時に終わっていた。マリはルーク=レイのことを「なんでこのわたしがルーク如きとつきあわなきゃなんないのかしら」と、彼自慢をしているのではなく、本気でそう思っている口調で言うのだったが、そうしたことも含め、確かに間違いなくふたりはお似合いのカップルだったに違いない。
ロリにしても、最初のこの失恋のショックが過ぎ去ると、マリとルークのことは心から祝福するようになった。そう思おうとしても、心の奥底はじんと痛んだ……といったようなこともなく、マリと彼の恋の進捗状況について、エリとふたりしてただ黙って聞いたりしていたものだった。その後、高校生となり、ロリとエリは同じ公立高校へ進んだが、マリは有名私立女学校へ進学し、ルークは私立校としては名門中の名門として知られるロイヤルウッド寄宿学校のほうへ合格していたわけである。
マリの進学したマリアンヌ女学校は、首都ユトレイシア内でも、中心部寄りに存在していたわけだが、ルークは快速列車で軽く四時間半はかかる田舎町の寮へ入ることになるため――別れる前に初めて体の関係を持ったと、ロリとエリはそんなふうに聞かされていた。
(ふたりの関係があんまり素敵すぎて眩しくて……それでわたし、嫉妬する気すら起こらないってことなのかしら)
むしろその後、エリがクリス・ノーランドに告白されつきあいはじめると、ロリはむしろ彼らのほうが羨ましいくらいであったかもしれない。クリスは真面目で成績のほうも良かったが、軽くオタクっぽいところのある好青年だった。ロリはクリスがエリに気があるらしいと真っ先に気づいていたし、その関連からよく彼から恋愛相談を受ける――という、何かそうした関係性だったのである。
(さて、と。まずはわたしの直近の悩みは、来週の週末にある夏キャンプのことよね……)
実をいうとロリは、「リサの元義弟のノア・キングは来るの?もしそうなら絶対行かないんだけど……」と、そうマリに聞くことも出来ず、この時も悶々としていた。何より、ロリが彼にキスされてから冷静でいられなかったのは、そのあとすぐ、当のノアと目があったからではなく――何故か、彼の背景のひとりであったルーク=レイと目があったことによってだった。そのせいで頭にカーッと血がのぼり、その場から逃げださずにはいられなかったのである。
(そうそう。それで、ノア・キングのほうでは今年は彼女を連れてきたりなんかして、「オレら、去年キスなんかしたっけ?いや、してねえよな」といった態度を取られる可能性もあるわけだし……)
ロリがベッドの上で右へごろごろ、それから左へごろごろしていると、部屋のドアがノックされた。そこには母のシャーロットが立っていて、手に持った麦わら帽子に、庭で摘んだ薔薇その他の花がそこには横たわっていた。
「ロリちゃん、明日お父さんが帰ってくるの覚えてる?半月もいたらまた基地のほうへ戻っておしまいになるから、その間だけでもお行儀よくしてね」
「う、うん。そうだったっけ……まあ、ちゃんとした良い娘を演技するよう心がけるわ。どうせ話すことなんてほとんどなんにもないんだけど……」
シャーロットは娘の部屋に入ってくると、勉強机にある花瓶に持ってきた花を綺麗に活けた。ピンクの百合を中心に、小振りの薔薇やトルコ桔梗、斑入りのグリーンリーフなどなど。
「お父さんも、休暇でしか帰ってこれないからね、お母さんとはともかく、ロリちゃんとは確かに何話していいかわからないかもしれないけど……お父さんが遠く海外基地で働いてらっしゃるからこそ、お母さんもロリちゃんもこんなにいいお屋敷に住んで、何ひとつ不自由なく暮らすことが出来るのよ。だから、お父さんが帰ってきた時くらい、お母さんとロリちゃんでせめてもお父さんのこと、居心地よくしてあげなくちゃいけないわ。わかるわね?そのこと……」
「もちろんそうだよ!心配しなくてもお父さんと喧嘩したことだってそもそもないくらいだし……お父さんのほうでわたしにどう歩み寄っていいかわかんないだろうから、わたしのほうで少しは気を遣えってことでしょ?そのあたりのことはわきまえてますとも」
「そう?ならいいんだけど……」
(わきまえてますとも)という娘の言い方がおかしかったのかどうか、シャーロットはくすりと笑った。それから、ロリの座るベッドの隣に腰かけて言う。
「来週、今年もマリちゃんたちとキャンプへ行くの?」
「うん。一応その予定……」
本当は本心では行きたくないということも、何故そう思うかについても相談できないロリは、無意識のうちに溜息を着いた。
「まあね。ロリちゃんもお年ごろだから仕方ないけど……あんまり羽目を外しすぎないように、気をつけてね」
何かを憂えているように、シャーロットのほうでも溜息を着く。そして彼女は、「今日のお夕飯はラタトゥイユよ」と言って、再びしずしずした足どりで階下へ下りていった。
『羽目を外さない』というのがどういった意味のことなのか、ロリにもはっきりとはわからない。ロリは去年の夏キャンプであったことも母親には話していない。『マリが最悪なビッチを連れてきて、そいつがビールがばがば飲んで、テントで大麻までふかしやがんの。もう最悪!!』とか、『で、そのリサ・メイソンって女の義理の弟とスピン・ザ・ボトルで嫌々ながらキスすることになってさあ。あれ、わたしのファースト・キスだよ、ファースト・キス!!』……といったように、なんでも明け透けに話せればいいのに、とまではロリも思ってなかったにしても。
(でも、お母さんともお父さんとも、ある意味ずっとそうなのよね。お互い、『必要最低限、娘としてこのラインは守ってくれ』っていう水準をわたしのほうでも守ろうとし、お母さんからは『ママの受け容れられないロリちゃんにだけはならないでね』って、小さな頃からそれとなく暗示をかけられ続けてる感じっていうか……)
もちろん、ロリは母のシャーロットのことを愛していたし、娘として母親の信頼を裏切りたくないとも思っている。父親に対しては尊敬している部分もありつつ、海外基地から帰ってくるたびに思うのは、(お父さんは本当は何をどう考えているんだろうなあ)ということだったりする。そして、父のほうでもきっと娘に対して(ロリは本当は何をどう考えているんだろうなあ)と、そんなふうに思っているに違いない。
ロリにとって何より驚きなのは、自分が父親に対して何の関心も抱いていないことだったかもしれない。一応、休暇で帰ってくるごとに、その時にいた駐屯地の土産物などを買ってきてくれ、「うわあ!いつもありがとう、お父さん」といったやりとりはある。だが、ずっと離れて暮らすうち、彼女にとって父親というのは血の繋がった赤の他人にも等しい何ものかに成り果てていたのである。
(まあ、わたしはまだしもいいとして……お母さんはきっと、もっと悩みが深いわよね)
ロリはもう一度溜息を着くと、階下へ下りていって母親の手伝いをすることにした。ロリは自分でも、自分は甘やかされて育ったという自覚がある。何故といって、母のシャーロットは専業主婦で、その上料理・裁縫・掃除と、そうした家の中のことをするのが好きな、実に家庭的な人だったから――「将来のために少しくらいお料理しなさい」とか、「ボタンくらいつけられなきゃ、女の子として恥かしいでしょう」と言われたことは一度もなく、そのせいでロリは今もろくに包丁を握ったこともなければ、繕い物については気づけばすべて母親がやってくれる……といったような、娘としてこの上もなく贅沢な身の上だったのである。
それでも時々はロリも、母親につきあって庭仕事を一緒にしたり、夏休みの夕方、一緒に食事作りをしたりするということはあったわけだけれど。
>>続く。