不適切な表現に該当する恐れがある内容を一部非表示にしています

こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

ティグリス・ユーフラテス刑務所-【14】-

2019年05月25日 | ティグリス・ユーフラテス刑務所


 さて、今回もここからまた「どこで切ったらいいんだ☆」問題が発生してたりしてww

 なんにしても、変なところでちょん切られていた場合、そういうことなんだと御理解くださいませm(_ _)m

 んで、今回の前文はまた、前回の続きということでよろしくお願いします

「コン・バトラーV」→「ヴィクトリーV」、「マジンガーZ」→「マイスタージンガーZ」、「トランスフォーマー」→「メタモルフォーザーX」、「ジャイアントロボ」→「ジャイアントマシン」、「装甲騎兵ボトムズ」→「装甲騎兵ガッディス」……いや~、ひどいもんですねえ(爆☆

 というか、「何故このロボットアニメのチョイスなのか」、「他にもっと色々あるだろうがww」という感じなのですが、割と有名どころから順に設定を調べてみて……「マジンガーZ」と「トランスフォーマー」と「ジャイアントロボ」は入れたかったので、全体として昭和の古いロボットアニメのチョイスになったというか(^^;)

 そんで、最後の「装甲騎兵ボトムズ」……わたし、実はボトムズもアニメほとんど見たことないんですよ(汗)。でもその昔、たぶんアニメの最終回あたりを見たことがあって、前後の意味がまったくわからないながらも、「何これ!すごい!!面白い」ってなったんですよね。

 あの全体的な世紀末の雰囲気漂う世界観とか、なんかものすごく好きだ~!!とか思って、以来ボトムズは「いつか絶対見たいアニメリスト」に入っていながらいまだに見ていないという

 もちろん、「マジンガーZ」も「ジャイアントロボ」も「ボトムズ」も、見ようと思えば密林さんその他の動画視聴サイト様ですぐにも見られるとは思います(^^;)

 ただ、ちょっと自分的に色々事情がありまして……とりあえず今は、映画のトランスフォーマーの小説版のほうを読んでいたり

 あと、「マジンガーZインフィニティ」の小説版も、偶然行った先の古本屋さんで見つけて買ってきました♪(^^)

 なんていうか、自分的にはなるべく書籍から攻めていって、最後に映像を見る……みたいな形にしたいと思ってるんですよね。一度映像を見ちゃうと、ある程度わかったような気になっちゃって、本とか読めなくなっちゃう気がするので。。。

 で、トランスフォーマーの映画版、最初にテレビで見た時には「金だけかけた(いい意味で☆)バカ映画だな」とか思ってたのですが(笑)、今小説読んでみて、あらためてすごく面白いなって思っています♪

 というか、トランスフォーマーって小さい頃にアニメでやってたような記憶が漠然とあり、その後もリメイク的な感じでアニメが放映になってたような気がするんですよね。なので、「ハリウッドもこんなに堂々とパクっちゃっていいの!?」っていう驚きが最初あったのですが、ウィキさん見ると、


 >>元々は日本国内でタカラ(現タカラトミー)から販売されていた『ダイアクロン』(1980年 - 1984年)、『ミクロチェンジ』(1983年 - 1985年)シリーズの内、後期に展開した変形ロボットをアメリカのハズブロ社が業務提携し、他社の変形ロボット玩具と共に新たな設定を加えた物を『TRANSFORMERS』として販売したものが北米を中心に大ヒット、それを日本に逆輸入したものが『トランスフォーマー』シリーズである。


 とあるので、「そっかー。じゃあべつにパクリ☆ってわけでもなかったのか」と、今さらながら気づいた次第であります(^^;)

 まあ、こんな形で順番にロボットアニメについて勉強していく予定なので、実際に書きはじめるのはずっと先のことになりそうなんですけど……南朱蓮さんと彼女の幼馴染みの一条アレンのお話の他に、たぶんジャンキー(クライヴ)のお話などもそこには含まれてくるんじゃないかな~とぼんやり想像したりしております。。。

 なんていうか、世界最終戦争の起きているその日、その時、世界の某所で誰々はこーしていたとかあーしていたといった多視点人間群像劇みたいになるんじゃないかなと思うので、書くこと自体はまあ結構大変そうだな~なんて思ったりはしてるんですよね(笑)

 大体のところのテーマは「神でも悪魔でもない。人間を滅ぼすのは結局のところ人間なのだ」といったようなことがテーマのお話になるんじゃないかなっていう気がしていたり。。。

 ではでは、次回は「ティグリス・ユーフラテス刑務所」こと「バベル塔」のその後といったところだったかなって思います(^^;)

 それではまた~!!

 

     ティグリス・ユーフラテス刑務所-【14】-

 トルコに核爆弾が投下されてのち、ティグリス・ユーフラテス刑務所の外では、放射線量が高いままでした。けれども、ただ黙って刑務所内に閉じこもっていても、もはや物資が届くというわけではありません。また、アメリカのラングレーとは唯一連絡が取れましたから、向こうではなんとかして物資を送ることを約束してくれましたが、いつ・どのくらいということは今の段階では確約できないと言います。

 そこで、まずはサウジアラビアへ向かい、アラブ首長国連邦で物資を調達できないか、道を探るということになりました。アダム・オーバル、ジャン=ピエール、ラスティ・コールマン、サム・ボールドウィンの四人でそちらへ向かい、その後、二週間ほどして四人は戻ってきました。サウジアラビアは、今のところある程度落ち着いている情勢ではあるようなのですが、今後どうなるかはわからないということでした。石油のほうはいつでもただで持っていってくれて構わないが、出来ればアメリカなど、物資の入ってくるルートがあれば教えて欲しいと向こうでも言っているということでした。無理もありません。戦争が起きて以来、物資は値を吊り上げる一方でしたし、アラブ首長国連邦にはお金持ちがたくさんいるかもしれませんが、買えるものがなければ、お金などいくらあっても価値がありません。

 世界中の多くの国で、戦争を契機として、それまで当たり前のようにたくさんあったものがどんどんなくなっていきました。今はすでに多くの国で、お金の電子化が進んでいたわけですが、もし口座にお金がどれほどたくさんあったとしても――第四次世界対戦の勃発と同時に、いずれ店頭には物がなくなっていくとシンギュラリティ・コンピュータが予測していましたから、誰もが物資を買い占めようとして、デパートや百貨店、スーパー、コンビニなどからは、どんどん物が消えてゆきました。また、連日銀行には人が行列を作って、みなお金を現金化しようとしましたし、さらにそのお金を金(ゴールド)など、他の価値のあるものに変換しようという動きも進み、世界中で物の価値観に大きな変動が起きました。

 人々は、世界がこうした事態を迎えても、電力のある限りは判断をA.Iに委ね続けました。これまで、朝起きて予定を教えてくれるのもA.I、その日にしたほうがいいこと、すべきでないことを教えてくれるのもA.I、お金の投資についてアドバイスしてくれるのもA.I、相性のいい相手や運勢を占ってくれるのもA.I……という生活にどっぷり漬かってきた人々は、戦争の行方についてこれからどうなるのかもA.Iに聞き、この事態に備えて自分が何をどうすべきかについてもA.Iの指示や予測に頼り続けました。

 ところが、核兵器が投下された影響だけでなく、戦争中も各地に地震や津波、台風や豪雨など、数多くの自然災害があり、それと同時に飢饉がメキシコや南アメリカ、アフリカの国々を襲いましたから――今までは、余裕のある国が困難のある国を助けるというのが当然であったものの、流石に戦争が起きてからは、そのような余裕がどの国でも尽きていました。それでも、戦争が始まった最初の頃はまだ良かったのですが、ロシア軍がドイツに侵攻する頃には、世界で本当は何が起きているのか、メディアも正しい情報を伝えるようになっていましたから、恐慌とパニックがすべての国々で引き起こされました。

 核の投下ののちも生き残った人々は、残存物資や限られたエネルギーの奪い合いに明け暮れるようになり……もはや、法の秩序は意味をなさなくなっていましたから、スーパーやガソリンスタンドから物やエネルギーを奪うのは当たり前、また、その強奪した人々の間でもさらに争いになり――怪我をしたり、命を失う人がたくさんいました。

 また、自分たちの隣人や、弱い人々から物を奪う行為が横行し、その結果、心と体が傷つき、衰弱して亡くなる人もいましたし、この時代、家に閉じこもってアンドロイドなどのA.Iとだけ会話して日々を過ごす……という人も少なくありませんでしたから、家に蓄えられたエネルギーが尽きるのと同時、その後自殺したり、餓死したりする人も数多くいたと言います。

 これは、ティグリス・ユーフラテス刑務所でもまったく同じ問題に直面していました。地下倉庫には、まだ十分な物資が備蓄されていましたが、刑務所内に四百人以上も人がいたのでは、いずれなくなるのは時間の問題だったでしょう。さらにそこへ、戦争から逃れて、命からがらメソポタミア刑務所までやって来た人々もいました。

 ビアンカはこうした人々を追い返さず、中に受け入れていましたから――入居者数はすぐに七百名を越えました。またさらに、中に収まりきらなかった人々は、外に天幕を張ってそこで暮らすようになりました。メソポタミア刑務所のことやその場所を知っている人というのは世界でも極少数でしたが、やって来た人々はそこに大きな希望を見出していたのです。

 けれども実際は、ティグリス・ユーフラテス刑務所でも、他のどの場所でも条件は同じでした。それどころか、このような砂漠の真ん中にぽつんとあるだけの場所に、七百名以上もの人々がいるというだけでも……他より条件は悪かったとすら言えたでしょう。アメリカのほうで手配した物資のほうは、おそらく速くても一月以上はかかるのではないかと思われましたし、何分、今世界はこのような情勢でしたから、途中で誰かに奪われるなどして届かない――ということもおおいにありえました。

 そこで、ティグリス・ユーフラテス刑務所の責任者であるビアンカ・バルトは、戦争が終わって約半年した3月19日、この刑務所を開放・解散することを宣言しました。また、彼女自身責任者を下りてここから出ていくということ、後継の責任者が欲しければ再び選挙するようにと言ったのです。

「これは、あくまでわたしの私見だが、ここに七百名以上もの人間がずっといても、集団的自滅の道を歩むだけだと思う。これからは、考え方を変えて、自ら汗水流して土地を開墾して作物を得、そのような形でみなが協力して生きていくべきだろう。だが、見てのとおり、ここは見渡す限りの砂漠地帯だ。そして、地下倉庫にある物資もいずれは尽きる……ここで醜く物の取りあいをしたり、殺しあったりしても仕方あるまい。とにかく、わたしは外へ出る。放射線量が高く、それで早死にしようと、ガンになってかかるべき医者がいなかろうと、この先のことを思うと、その選択のほうが少しはマシに思えるからな」

 ここで、ビアンカに続いて外へ出る選択をした人々もいましたが、半数以上の人々は、刑務所内に残る選択をしました。というのも、刑務所内はソーラーパネルによって電力には困りませんでしたし、石油もほとんどただに近い形で手に入ります。水は井戸から引いてきてありますから、当分は困るということはないでしょう。

 こうした条件の良さから、四百名近い人々がメソポタミア刑務所にい続ける選択をしたわけですが、外へ出ていく決意をした人々は、行動するのが早かったと言えます。そして、その中に秀一と涼子もいました。赤ん坊のことを思うと、放射線量がもっと低くなってからと思いましたが、それだと今度は食糧などがなくなるということになるとわかっていましたから。

 ティグリス・ユーフラテス刑務所には、車が四台ありましたが、それらのうち二台は、夜間のうちに逃亡した人々によって奪われていました。また、残り二台は刑務所内の人々が外部から物資を運んだりするのに必要となるでしょうから、基本的に徒歩で人々は砂漠を越えていくことになりました。この旅は非常に過酷なもので、正確なナビシステムを持っていて迷子になることだけはないとはいえ――シナイ半島に出るまでに、三週間以上かかりました。さらにそこから数日かけてエジプトへ到達した人々もいましたが、それは最後までリーダーであるビアンカについていけた人たちだけで……実をいうと秀一と涼子は、途中で彼らについていくのを諦めていました。

 旅をはじめて三日もしないうちに、シュートがぐったりと疲れた様子をしているのを見て、彼らはティグリス・ユーフラテス刑務所へ戻ることにしたのです。放射能から守るためにマスクをし、目のまわりも防塵ゴーグルで覆われ……しかも、外の温度は夜はともかく、昼間は三十五度もありました。大人でもつらいものを、赤ん坊に耐えろというのは土台無理な話です。そしてその帰途途中、凄まじい砂嵐に遭遇し、秀一も涼子も自分たちはこのまま死ぬのではないかと思いました。しかもその時、らくだに乗ったアラブ風の男たち数人に襲われそうになったのです。彼らは手や背中にライフルを持っていましたから、秀一は涼子や子供を守ろうにも、どうしていいかわかりませんでした。

 ところがその時、砂嵐の中から幻のようなふたつの白い影が現れると、彼らが英語で何かを叫んでいるのが聞こえました。最初、涼子にも秀一にも彼らが何を言っているかわかりませんでしたが、唯一「Run away!!(逃げろ)」という言葉だけははっきり聞き取れていたのです。

「Run away!!(逃げろ)」

 二人のうちの一人がアラブ風の男たちに向け、銃を発砲しました。それが首領とおぼしき男の頬を掠めた上、彼が「次は外さんぞ!!」と叫んだため、彼らは駱駝を翻して砂嵐の彼方へやがては消えていったのです。

 体格のいいもうひとりの男のほうは、すぐに秀一たちのほうへ近づいてきました。そして、らくだを下りるなり赤ん坊を抱いた涼子に手を差し伸べました。それから自分のらくだに彼女を乗せると、「こっちだ」というように秀一に手で合図してきたのです。

 秀一も涼子も、口許は布でしっかり覆い、目のところにはゴーグルまでしていましたから、なんとかふたりの男たちについていくことが出来ました。暫くいったところに、砂漠の砂が幾層にも積み重なって出来た山のような場所があり――銃を撃った男のほうが、何かスティック状のものをピッとリモコンのように操作しました。すると、砂が左右に流れてゆき、そこにはジェラルミン製のような光沢ある銀の扉が現われ、男たちはその中へ順に避難したのです。

「あ、ありがとう。いや、サンキューか。サンキュー、サンキュー、スーパー素晴らしくベリーサンキュー!!」

 秀一がそう言うと、男たちはふたりとも強く陽に焼けた顔に笑みを浮かべていました。彼らはカンドゥーラという白い衣装に、頭にクトゥラと呼ばれるターバンに似た布をアカールという紐で縛っていました。目には真っ黒いサングラスにも似たゴーグルをしているため、秀一も涼子も彼らをアラブ人か、あるいはまだこのあたりにいるという遊牧民(ノマド)のいずれかだろうと思っていました。ところが、ふたりとも流暢な英語をしゃべり、聞けば、このあたりに埋もれた遺跡を調べる、博物館の研究員だと言います。ちなみに、ふたりともイギリス人でした。

「遺跡調査をしている途中で、戦争が起きたらしくてね。本国とは一切連絡が取れなくなった。このあたりには、ベドウィンの生き残りの遊牧民がいるし、キャラバンも通るんだ。彼らは、僕たちのようなのに高値で物を売って儲けたりしてる。それで、君らは?」

 赤ん坊を連れたカップルが砂漠のど真ん中で遭難――その理由を助けた側が知りたがるのは当然だったと言えたでしょう。

「バベルの塔の住人なんじゃないかい?」

 もうひとりの男――銃を発砲したほうの男がそう聞きました。彼は名前をジェームズ・オルフェンと言い、らくだを最初に下りたほうの男は、名前をアルディ・ラシックと言いました。

「バベルの塔?」と、涼子がシュートのゴーグルをとり、マスクもとると、息子の顔を撫でさすりながら聞きました。もし何かあってこの子が死んだらどうしようと、頭にはそのことしかありませんでした。

「そうさ。ほら、強化ソーラーパネルで出来た、七階建てくらいの、ガラスで出来てるみたいに見える場所だよ。遊牧民たちもキャラバンも、あそこがどういう場所なのか知りたがってた。でも、彼らが言うには、よくアラブ系のイスラム教徒たちが連れられてくる、秘密の拷問基地なんじゃないかってことだったね」

「僕たちもどういう名前の建物なのかわからないから、とりあえずバベル塔って、そう呼んでいたのさ」

 人が中に一歩足を踏み入れた時点で、地下の内部には明かりが灯っていました。ガス灯の明かりにも似た電灯が左右にあり、それが階段のずっと地下のほうにまで続いているようでした。

「ここは、どういう場所なんだい?」

 メソポタミア刑務所へやって来てから、英語が少しばかりしゃべれるようになっていた秀一がそう聞きました。彼らの質問に答えることのほうが先だったかもしれませんが、そこまで長い科白を英語で話すのは、今も秀一には少し面倒でしたから。

「俺たちにも、よくわからないんだ」

 アルディはそう言って、ゴーグルを外しました。ジェームズも同じようにすると、アルディはグリーングレイ、ジェームズは青い瞳をしているのがわかりました。

「このあたり一体のほとんどの建物が、イスラエルのナノテク兵器、そしてイランの核兵器とで吹き飛んだ。けれども、建物の一部とか昔あった遺跡の一部なんかが、砂漠の中からは結構見つかるんだよ。僕もアルも、この砂漠の調査にすっかり夢中でね――シリア……いや、今はもうかつてシリアがあった場所と言うべきかな。大体そのあたりに簡易住居やテントの並ぶ小さな村があるんだ。どういう事情かはわからないけど、君たちはあの場所を追いだされて路頭に迷っていた……というそういうことなのかな?それとも違うのかい」

「追い出されたっていうよりも、自分たちで出てきたのよ。前まで、あの場所には七百人以上もの人がいたの。だけど、今度の戦争で、物資がもう届かなくなったでしょ?だから、生きるためには外へ活路を見出す必要があると思ったんだけど、わたしたちは赤ん坊連れだから……やっぱり無理じゃないかと思って引き返すところだったのよ。そしたらあの砂嵐が来て――あなたたちが助けてくれたってわけ。本当に、どうもありがとう」

 ここで、涼子が息子に流動食タイプの完全栄養食を少しずつ食べさせました。シュートは自分から自然と乳離れしていましたので、今は主に離乳食を食べていたのですが、普通の缶詰タイプのものは中身が心配だったので、これを食べさせていたのです。

「へえ。で、その子の名前は?」

「シュートっていうの」

 男たちはふたりとも、何故か赤ん坊を抱きたそうにしましたが、今はそんな時でないと思い、涼子は彼らに「抱いてみる?」とは聞きませんでした。

「その、君たちの集落に、俺たちも連れていってもらえるかな?」

「もちろんだよ」

 アルディはにっこり笑って請け合いました。

「ただ、村長は元ベドウィンの人だし、なんていうのかな……考え方なんかが古いからね。そのあたりのことは注意しておいて欲しい。たとえば、俺とジムとはその……」

「ゲイってこと?」

 聞きにくいことをはっきり聞いたのは、涼子でした。姉の京子が同性愛者なため、そのあたりのつきあいで、彼女にはゲイコミュニティに昔から友人が多かったのでした。ゆえに、出会ってすぐ、勘でピンと来ていたといえます。

「そうなんだ」と、今度はジェームス。「そのあたりのことは秘密にして、仲のいい友人同士っていうことで通してる。まあ、その点君らは問題ないよね。村の人たちも赤ん坊のいるカップルってことなら、すぐ気を許してくれると思うし」

 このあと四人は、砂嵐が過ぎ去るまで、先の戦争のことにはじまって、お互いのことを色々と話しあいました。そして、最後には涙を流すことになったのです。何故なら、お互いにもう、帰れる祖国がなかったのですから……。

 それから、会話が途切れて暫くしてのち、秀一は、下の闇の世界を眺めてあらためて聞きました。微かに冷気というのでしょうか、この場合はむしろ霊気とでも呼びたい何かが、そこからは流れてくるように感じていたからです。

「その、さ。ここがどういう場所かわからないって言ったけど、さっき、リモコンみたいなものでピッってやってたってことは、少しは下に下りていって調べてみたってこと?」

「ああ、まあね。だけど、相当気味の悪い場所さ。考古学者としては興味深い限りだけど、何分今は遺跡の発掘なんてやってる場合じゃない。俺たちも、いつもは村のほうで畑を耕したり、羊や山羊を放牧したりしてるんだ。今日はたまたま、ちょっとした時間に遠出しようと思い立ったってわけなんだけどね。だから君たちは相当ラッキーだったよ」

「そうだな。こんなような出入り口が砂漠の中にはいくつかあって――中はちょっとした地下迷路のようになってるんだ。俺たちはシュメール文化の地下遺跡なんじゃないかと思ってるんだが、本当にそうなのかどうか、今のところ『それっぽいな』以上のことは言えない。特徴としては間違いなくそうなんじゃないかと確信してるんだが、この軟弱な手回し懐中電灯で見たってだけじゃね」

 そう言って、ジェームスは腰につけたポーチの中から懐中電灯を取りだし、手で回す部分をくるくる回転させていました。

「どうにも、あの巨大な闇に立ち向かうには、心許ない。一応こう……ギリシャ神話のアリアドネの糸じゃないけどさ、紐をつけて中へ入っていくんだけど、たったの二人だけじゃ、好奇心よりも恐怖心のほうが勝ってしまってね」

「さっきのリモコンは、ただの簡易ロックだよ。自分たちでも浅ましいって思うけど、最初にここを見つけた時には本当に興奮してね。この手柄を誰にも横取りされたくなかったんだ」

「浅ましいだなんて、そんなこと、全然思わないよ。まあ確かに、その遺跡の中にどんな金銀財宝が眠っていようとも――今のこの御時勢じゃ、もうあまり意味なんてないものな。もちろん、これから生き残った人々の間で、経済が再び復活したら……確かに、億万長者にもなれるかもしれないけど」

「確かにね」と、肩を竦めてジェームス。「今はもう、どんなセンセーショナルな考古学的発見なんていうのを発表しても、誰も見向きもしないだろうからな。もう少し時勢が落ち着いたら……だなんてこと自体、僕らももう考えてないんだ。毎日、ただ虚しく一日一日を生き延びることを考えてるよ。何故といって、それ以上のことを色々考えていたら――未来のない未来、将来のない将来のことなんて考えていたら、頭がどうにかなってしまいそうだからね」

 この時、アルディが例のジェラルミン製のように見える扉を持ち上げると、砂嵐の去ったことがわかりました。そこで、ジェームスとアルディはらくだを外に連れだすと、彼らに水を飲ませてやってから、再び自分たちの住む集落のほうへ向かいました。

 らくだのほうはふたりでも乗れるということで、秀一はアルディのらくだに乗せてもらい、涼子はシュートを抱いて、ジェームスのらくだのほうに乗せてもらいました。日が沈むと砂漠は涼しくなりますが、その日の夕陽はなんとも言えず不気味でした。例の遺跡の入口から出た時も、あたりの空気は赤みがかっていたのですが、そこを赤い夕陽が照らしたもので、なんとも言えない不気味な雰囲気が周囲に漂っていたものの……秀一は見慣れてくるうちにその景色を「美しい」と感じるようになり、そのあとは考え方を変えました。

(そうだ。これはただの自然現象なのに……人間の主観的な考え方で、あれこれ判断するほうがどうかしてるんだ。あの地下の闇にしたってそうだろう。闇の中に何かいるというよりも、人間の『もし何かいたらどうしよう』という想像力のほうが強いゆえに――自分で自分に恐怖心や不安を与え、それが人を前に進ませないようにするんだろうな)

 秀一はこうした感覚を他で覚えた経験はほとんどないのですが、あの地下の闇にはどこか、心惹かれるところがありました。誰か人が中へ入っただけで、住宅のフットライトよろしく、パッとあたたかな橙色の灯りが燈ってみたり……もちろん、ジェームスとアルディ以前に誰かがここを見つけ、階段部分の灯りはあとから設置されたものである可能性は高かったでしょう。けれどもこの日以来、秀一の頭からはあの遺跡の入口のことが頭から離れませんでした。そして実際にジェームスやアルディと三人で、再びそこへ向かうことになるのですが――それはまた、もう少しあとのお話のこととなります。

 この時、秀一たちがらくだに乗ってかつてシリアのあったイラクとの国境付近まで行ってみますと、秀一も涼子も驚きました。そこではすでに砂漠のオアシスを中心にして、思った以上に大きなが存在しており、さらにはユーフラテス川から水を引いて灌漑農業まで行なわれていたからです。秀一がパッと見た印象としては、人口のほうは軽く百人、あるいは二百人ほどもいるだろうかといった印象でした。

 テントはみな雨風と砂にさらされ、薄汚れた印象でしたが、かなりのところしっかりした構造をしており、そこで臼を引いたり、台所で家事をしている女たちの顔は明るいものでした。みな歌を歌ったり、楽しげにおしゃべりをしています。テントの軒先には砂漠で獲った小動物がぶら下がっていたり、あるいは燻製肉なども同じように吊るしてありました。

 あまり衛生的とは言えなかったにしても、秀一も涼子も、(それでも我慢できないほどではない)と思っていたかもしれません。ティグリス・ユーフラテス刑務所は、施設としてはここよりずっと清潔で格段に優れてはいましたが、それでも人々の間にある諍いがそうした一切をすべて駄目にしてしまうといった環境でしたから……。

 アルディとジェームスのふたりが通りかかると、多くの人が挨拶の言葉を投げてきたり、彼らの横について何かしゃべりだしたりしました。英語を話せる人もいましたが、そのほとんどはこの特有の言語によって行われていましたから、秀一にも涼子にも彼らが何を言っているのかさっぱりわかりませんでした。けれど、その人たちがいかにも屈託なく、気さくな様子なのを見るにつけ、(善良そうな人たちだ)との思いを――メソポタミア刑務所にいた人々よりも、彼らのほうが遥かに善良そうだとの思いを――ふたりは抱くのみだったと言えます。

 秀一と涼子は一旦、ジェームスとアルディの住居に身を落ち着けました。そこは日干し煉瓦で出来たテントよりも快適な住居であり、ほとんど土のコンクリートといってもいいような強度、それに暑さと寒さを凌げる快適さがありました。

「これは、一体何で出来てるのかな?」

 全体として、テント側のよりも、よりオアシスに近い側にこうした立派な住居が建設されているらしく、その茶色と砂色の間といった色合いの建物は、見た目以上にしっかりした構造をしているようでした。みな一階建てなのですが、柱にはちょっとした模様も刻まれており、何か古代の歴史的建造物……といったように見えなくもありません。

「ここからもう少し行ったところに――トルコとの国境付近にある山から、粘土質の土を取ってくるんだよ。それを型に入れて日光で乾かすんだ。亀裂防止のために、砂や藁を混ぜるんだけど、そうやって長方形のものを形作って積み上げて、最後にその境目が見えないように均一に漆喰を表面に伸ばすのさ。で、これから君たちを案内する神殿のほうも、大体同じ造りではあるけど、色々模様や絵を描いて意匠をこらしてあるから、なかなかに立派だよ」

「そうだね。の長であるツヴァイ村長も立派な人だ」と、ジェームス。「まずは、君たちをツヴァイ村長のいる神殿のほうへ連れていこうと思う。村長の他に、ここには長老が数人いるんだが、おそらくツヴァイ村長に挨拶しておけば、大体のところ問題ないだろう。さ、ついておいで」

 アルディとジェームスは、身にまとっていた銃やウエストポーチなど、余計な荷物を体から外すと、村長に会うということで、鏡の前で身支度をしていました。そこで、秀一たちも砂にまみれた自分の衣服などを整え……シュートのオムツを替えてから出かけることにしたのです。

 といっても、オアシスまで歩いていくのに、さして時間はかかりませんでした。オアシスには長老たちの住居など、の中でも偉い人々が特に住んでいるのと同時に、広場などは村の人たちの憩いの場所でもあるようでした。

「この建物の雰囲気さ、古代メソポタミア文明のジッグラトに似てる気がする」

 秀一がそう言うと、ジェームスとアルディはふたりとも同時に「おや」という顔をしていました。そして、砂漠の道を後ろからついてきていた秀一を振り返り、少し速度を落として彼と並んだのでした。

「そうなんだよ!」と、興奮気味にアルディ。「ほら、今世界はこんな状態だろ?かつてアインシュタインは言った――もし第三次世界大戦が起きたとしたら、その次の戦争で我々は石と棍棒を手にして戦っているだろう、と。トルコに核が投下されてから、そこが今どんな惨状なのかも、俺たちには知りようがない。他に、今世界でどのくらいの人々が生き残っていて、どんなふうに生活しているのかもわからない。皮肉だよな。ほんの少し前まで、インターネットさえ繋げれば、世界中のどんなことでもニュースで知ることが出来たっていうのに……今はもう、世界の文明はおそらく後退をはじめたんだ。それで、また一からはじめなければいけない頃合に差しかかったんじゃないだろうか」

「しかも、その時期にちょうどこの、ティグリス・ユーフラテス川付近にいるだなんて、物凄い偶然だと思わないかい?」

「そ、そうだね……」

 涼子はシュートの様子が心配で、何もしゃべりませんでしたし、秀一にしても、心境として複雑でした。もちろん、ジェームスもアルディも、もし今も祖国があるなら、何をどうしてでも帰ろうとしたはずです。それは、秀一と涼子にしても同じでした。それに、核が投下されて日本という国は文字通り地図上からなくなった――などと聞かされても、到底信じられませんでした。せめても、かつて日本があった場所の上空を飛行機で飛んで確認でもしないことには……到底信じられないことでした。それに沖縄や北海道など、本当にかつて日本と呼ばれた土地がどこにも残っていないのかどうか――そのあたりのことも知りたくて堪りませんでした。

 また、アメリカには核が投下されただけでなく、カリフォルニアのほうで大きな地震が起きて大惨事になっているとも、戦争中に聞いていましたが……それでも、ラングレーやワシントンと連絡が取れたことから、アメリカ出身の者、あるいはそこに友人や親戚、あるいは知り合いを持つ人などはそこに大きな希望を持っていました。ビアンカもアメリカ人でしたし、そうした理由もあって彼女たちはスエズ運河のあたりから船に乗り、どうにか祖国へ帰れないかと考えていたのです。

(そうなんだよな。俺たちにはシュートがいるから……今はまだそう無理も出来ないし、アルディが言っていたように『未来のない未来、将来のない将来』についてだなんて、考えたって仕方がない。ただ、俺と涼子が考えるのは、シュートのことだけだ。なんとかギリギリ予防接種は刑務所のほうで受けて来れたけど……これから先のことなんてわからないもんな。医者のカーター先生も、ビアンカたちについていってしまったし、あと刑務所には看護師の女性が三人くらい残ってるはずだけど……一度出ていった人間が戻っても、もしかしたら追い返されるだけかもしれないもんな)

 それでも、秀一と涼子は、シュートのことを介して医療スタッフとは仲が良かったですし、警備兵のうちにも親しい友人がいましたから(ラスティとノアは、ビアンカたちについていきましたが)、入口のところで門前払いにされるということだけはないと思われました。また、病気の際にはおそらく、少しくらいは医薬品を分けてもらえるでしょう。この日の夜、シュートが熱をだした時にも、ふたりはそんなことを考えていました。この時は翌朝に熱が下がっていたから良かったですが、熱が下がっていなければ、一度刑務所へ行ってみようと思っていましたから。

 ジェームスとアルディにオアシスのそばの神殿まて連れていってもらうと、秀一と涼子は七つの階段の上に座しているツヴァイ村長の前に跪きました。村長は意匠を凝らした柱に囲まれた御座におり、椅子にはライオンやトラといった動物が刻まれています。そして、天井からは青や金の糸で縁取りされた白い布が床にまで垂れ下がっていました。

「彼は、シューイチ・キリシマ、そして、女性のほうはリョーコと言って彼の妻です。そして、赤ん坊の名前はシュートと言います」

 ツヴァイ村長は、身なりのほうはテント村のほうにいる人々とあまり変わりなく、素朴な印象の七十代くらいの男性でした。髪にも立派な髭にも白いものが混じっており、目は黒く、肌は陽に焼けて綺麗な茶色をしていました。

 ツヴァイ村長は、アルディとジェームスの話を聞き、何度も頷いておられました。そして、彼らが滞在の許可を求めると、そのことにも頷いておられました。ジェームスが村長の話を訳すと、それはこうしたことなようでした。「好きな場所に好きなだけいなされ。他の者たちも反対はすまい。子供は今いくつじゃ?」、「一歳半ほどです」とアルディがかわりに答えると、「これから大変じゃな。どれ、わしがひとつ祝福してやろう」……そんなわけで、涼子がツヴァイ村長に息子のことを差しだすと、彼は子供の顔や頭を撫で、「いい子じゃ」と言って、神の御名においてシュートのことを祝福し、そうしてから涼子の胸に子供のことを返してくれました。

 秀一と涼子は、暫くの間ジェームスとアルディの家のほうに身を寄せることになり、そこで五人で暮らすということになりました。村のほうでは東洋人の新顔が珍しかったのでしょう。次から次へと人が訪ねてきては、色々なものを置いていってくれました。また、涼子が息子の熱っぽいことを心配していると、赤ん坊でも飲めるという薬草を持ってきてくれて、上手に飲ませてくれました。

 もっとも、涼子はその善意の女性がシュートのことを抱きあげて、無理に薬草を煎じたものを飲ませようとするので不安でしたし、彼女が帰ったあと(下痢になったらどうしよう)と心配したのですが、翌日シュートの熱が下がっているのを見たあとは――その女性に心から感謝したのでした。



 >>続く。





この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ティグリス・ユーフラテス刑... | トップ | ティグリス・ユーフラテス刑... »
最新の画像もっと見る

ティグリス・ユーフラテス刑務所」カテゴリの最新記事