こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

惑星シェイクスピア-第三部【34】-

2024年12月10日 | 惑星シェイクスピア。

「メアリー&ジョージ~王の暗殺者~」というドラマシリーズを見ました♪

 

 全7話なのですが、とても面白かったです

 

 >>オスカー女優のジュリアン・ムーアといま世界で最もホットな英国俳優、ニコラス・ガリツィンが共演!17世紀初頭、国王ジェームズ1世が治めるイングランド宮廷を舞台に、一族の繁栄を望む野心的な母メアリーと、“英国一の美男子”と呼ばれ、王の寵愛を受けのし上がってゆく初代バッキンガム公、ジョージ・ヴィリアーズの愛、欲望、裏切りと転落。そして国王の死をめぐる知られざる真相を描く。

 

 と、天ぷら☆のあらすじにはあります

 

 いえ、実際のところドラマの内容、この通りではあるのですが……どこまでが脚色で史実なのか、歴史物に詳しくないわたしにはよくわからなかったのですが、エリザベス女王の次に王さまになったのがジェームズ1世らしく、なんとなくイメージとしてエリザベス女王の威光の影に隠れてしまった王さまなのかな……といったような印象を受けます

 

 あと、わたしが最初にバッキンガム公爵の名前を知ったのが、アニメの「三銃士」だったせいか、実は相当昔からある由緒正しい家系なんだろうな、バッキンガム公爵家って……みたいに、このドラマを見るまでずっと思ってました(無知☆"艸")。

 

 ところがですね、タイトルが「メアリー&ジョージ」とあるとおり、主人公がのちに初代バッキンガム公爵に成り上がるジョージ・ヴィリアーズとその母メアリーなわけです。ぶっちゃけこの親子、マジでかいぶつです。そして、ドラマの見どころがまあ大体、この母子がかいぶつとしてどこまでやるのかということかもしれません。

 

 なんにしても、どんな人間も最初から怪物だということはなく、その前段階というものが存在するものです。ジュリアン・ムーア演じる母のメアリーに関していえば、出身がまず卑しいというのか、元は貧しい家の出であったらしい。そして、一応は名家の家系らしいヴィリアーズ家へ嫁いできたものの、結婚した親父がとんだ怪物で、メアリーは「結婚生活と書いてじごくと読む」といったような生活だったようであり、次男のジョージはこの父親に暴力を振るわれることに耐えるといった家庭生活だった模様。。。

 

 さて、メアリーはこの酒乱らしい旦那と喧嘩して揉みあい、結局のところこの親父が階段から落ちて死亡してしまう。半ば殺意があったようにも思われる場面ですが、視聴者的には見ていて「やれやれ。しょうもねえ暴力親父だな」としか感じられないため、この点に関しては誰もが彼女に100%かそれ以上同情できるのではないでしょうか。

 

 ところが、ですね。ジョージの上にはジョンというお兄さんがいるのですが、精神薄弱と言いますか、そうした病いを生まれながらに持っているお兄さんだったらしい。そこでメアリーは兄のジョンのことも息子として愛しつつ、次男のジョージにすべての希望を託し賭けます。つまりは、そのことのためにジョージをフランスへ留学させ、洗練された人物へと成長させることに……ジョージはフランス行きを嫌がりますが、メアリーはそのお金の工面のために、旦那の死亡後二週間くらいで再婚することに決め、三回結婚している貴族の男に自分と四回目の結婚をする気はないかと持ちかける。

 

 さて、ジョージがその後どうなったかといえば、彼は母親に送り込まれた先で貴族として恥かしくないよう礼儀作法やダンス、剣の稽古などをつけてもらったようなのですが、他に男色についてもしこまれて帰ってきた模様。。。

 

 いえ、わたし、そーゆー話だってまったく知らなかったんですけど……このドラマの中心軸にあるのが、王さまであるジェームズ1世が男色家で、ジョージは母のメアリーに「早く王さまと寝るのよ」、「親密な関係になるのよ」的に囁かれつつ、最終的に王の一番の愛人になるまで成り上がるさまを描いている――ということだと思うんですよね(^^;)

 

 あらすじのところに、「英国一の美男子」なんてあるわけですけど、その彼の美貌を持ってしても、すぐさま王の目に留まってその寵愛を得たわけではありませんでした。ジョージが宮廷にもぐり込んだ時、そこではジェームズ一世の一番の愛人であるサマセット伯爵が権勢を振るっていたからです。また、このふたりの愛し合い方がある意味特殊っていうんですかね……王さまの飽くなき破廉恥な欲望に応え続けられるとすれば、このサマセット伯爵しかいないんじゃないかというくらいの親密っぷり

 

 ジョージの若い肉体と美貌を持ってしても、そこへ入り込むことは難しく思われたわけですが(実際のところ、彼は結構なイジメや嫌がらせ、命の危険を感じるような目にもあっている)、サマセットがその後失脚してしまうわけです。サマセットは王さまのお気に入りではありましたが、そのことを快く思わない政敵も数多くおり、奥さんがある人物を呪い殺そうとした文書などが出てきて、サマセットもまた絞首刑になるという。

 

「えっ!?呪い殺そうとしたって、そんな理由」と文章的には感じられますが、ドラマを見ている分にはちゃんと順に説明してあるので説得力があります(というか、わたしの説明が下手くそなだけです・笑)。ジェームズ王も愛人のサマセットを助けようとは思うわけですが、議会や枢密院といった政治的機関もサマセットのことをずっと快く思ってなかったわけですから、こうして宮廷において栄耀栄華のひと時を築いたサマセット夫妻はその舞台から去ってゆくことに。。。

 

 こうして、ジョージが愛人となる時代が到来したわけですが、あらすじのほうに「裏切りと転落」とあることから……わたし的には最後のほうでサマセットと似たようなことになるのかなって想像してました。でも、ここまで見てきたところでサブタイトルに「王の暗殺者」とあることなどすっかり忘れていたものの、この暗殺者というのが本当に意外な人物で……なんにしても、ジョージの最後は王の寵愛を失い、サマセットの二の舞となった――といったものではない、わたし的には「そうなったか」みたいな感じのラストだったと思います

 

 なんにしても、このドラマの面白いところはたぶん、ジェームズ1世が男色家であったことから、母親のメアリーが「王と寝るよう」催促したり、「あなたほどの美貌があったら絶対誘惑できる」とばかり、息子の尻を叩きまくってることではないでしょーか

 

 いえ、フツーに考えた場合、これが娘といったパターンのお話なら、割とあるんじゃないかと思うわけです。そして、ジェームズ1世はこの自分のお気に入りの愛人に対して、思うまま領地や資産的なものを与えたようですから、メアリーは女伯爵の地位まで与えられている。また、メアリーは娼館で知りあったレズビアンの関係の愛人がいるのですが、彼女が「ここらで手を引いてどこかへ逃げたらどう?」みたいに言っても耳を貸さない。十分すぎるほどの土地や資産的なものがあってさえ、「こんなんじゃまだ全然足りないわ」とメアリーはさらに強欲の手を伸ばてゆく。

 

 かいぶつから生まれた子はかいぶつ……と言うのかどうか、ジョージもだんだんに権力欲のかいぶつとなってゆき、この母と子のかいぶつ二人が行き着いた、その欲望の果てにあったものとは!?という、「メアリー&ジョージ」は大体そんなよーなお話だったような気がします

 

 衣装なども「金かかってんなー」と見ている側が惚れぼれする、目の保養となるものであり、お話のほうはなんとも言えない展開によって終わりを迎えますが、何分初代バッキンガム公爵ですからね(^^;)最初の名もなき身分からよくぞここまで成り上がったものだと――その点については惜しみなく拍手喝采を送りたいところです

 

 なんにしても、同性愛的な濃厚な描写が苦手でない歴史物好きな方にはとてもお薦めな映画やも知れませぬ

 

 それではまた~!!

 

 

 

P.S.本文の最後のほうに出てくるアイパッチですが、貼るタイプの眼帯のことです(^^;)アイパッチで検索をかけると「発達期の小児に対する弱視治療」といったように出てくるのですが、そういった視力矯正の他に、眼帯と同じ目的で使ったりすると思うんですよね。他に、わたしの知る限り脳卒中や交通事故などで目が見開きっぱなしになった患者さんに看護師さんが使っているのを見たことがありました。ただ、↓にあるように「仮眠用に」使用している方は流石に見たことないかもって思います(笑)。

 

       惑星シェイクスピア-第三部【34】-

 

「おっかえり~、ギベルネス!!」

 

「ただいまです……なんていうのも、何か変な感じがしますね。とにかくまずはお礼を言わせてください。ユベール、あなたのお陰で本当に助かりました」

 

 ギべルネスとユベールはハグしあうと、お互いの肩をぽんぽんと叩き合った。ユベールはいかに苦労してギべルネスのことを捜し出したか、またギべルネス遭難後、自分がいかに恐ろしい思いをしてダンカンやアルダンの殺害された死体の始末をしたかなど……直接話したいことは山のようにあった。ギべルネスにしても、自分がたった今体験したことなど語りたいことは山のようにあったが、今それはとりあえず後回しにすることにしたのである。

 

 というのも、今メインブリッジの巨大スクリーンには惑星シェイクスピアの地上の様子が、いくつもの部分に分割されて映し出されていたからだ。中でも一番大きいものは、ハムレットたちが今どうしているかという場面を映したものだったが、彼らは現在、ライルフィリー城砦にある城館のひとつにて軍事会議を開いているところだった。それから、ユベールはタッチパネルを操作すると、他に四隅に折り重なるようにして待機させてある画像にそれぞれ触れ、それをひとつひとつ呼び出してギべルネスに見せた。

 

 ひとつ目は、クローディアス王が自身の拷問室にて、拷問官吏たちが両手両足をX状態にした罪人の腹を生きたまま開き、そこから腸を出して何メートルあるかと巻き上げて調べているという凄惨な場面であり、ユベールはこちらに関してはすぐに消した。「やれやれ。この国の有事に、よくこんなことやってる暇があるもんだよな」と嫌悪感とともに呟いたあとで。

 

 ふたつ目は、ラ・ヴァルス城砦からほうほうの体でどうにか逃げ出した騎士や兵士が、アデライール州の州都にあるアディル城に達すると、留守を預かっていた奥方のアナベラや息子のアクロイド・アグラヴェインに彼らの主君であった公爵の死を告げるという場面であった。

 

『わ、わたくしは信じませぬ……我が夫が、あのように武勇にも秀で、軍を統率する力にも優れたアベラルド・アグラヴェインが、たかが庶民に虐殺されて死亡したなどと……っ!!』

 

 年老いてなお美しいアナベラではあったが、その美しさの中にはある種のプライドの高さと性格の高慢さを窺わせるところがあり――そうした意味で、彼女に対して(美人だが、苦手だ)と感じるのは男性のみならず、女性にも多かったようである。

 

 急使として馬を走らせに走らせて来た騎士のひとりは、ただひたすらに恐縮し、その場に顔を伏せていた。このアディル城から主とともに出発した時には、煌びやかな甲冑に身を包んでいたというのに――彼はいまやすっかり泥で汚れた乞食にも等しい姿に成り果てていたのである。

 

『母上、落ち着いてください』と、<公爵の間>の、騎士から見て右側の座席に座っていた体格のいいアクロイド・アグラヴェインが隣の玉座の母に言った。『そなたの姿を見れば、よほど苦しい思いをして逃げ帰ってきたであろうことがわかる……だが、我々にはやはり俄かには信じられぬのだ。つまり、庶民らが貴族たちに刃向かい、逆にそのような恐ろしい暴挙に走ったこともそうだが――その征伐へ向かった父上がよもや討ち死にしようなどということはな』

 

 夫の死の報告を聞き、こめかみの血管を青く浮き上がらせてショックを受けたアナベラとは違い、アクロイドはあくまで冷静であった。というのも、使者の言葉によってのみ、そうと聞かされても――彼にはすぐには父の死がピンと来ず、実はそれが誤報であって、あとから実は生きているとわかるのではあるまいかと、アクロイドはその微かな希望を完全に捨て去ることが出来ずにいたのである。

 

『いえ、本当のことでございます、アクロイドさま、アナベラさま』と、アデライール騎士団に所属する騎士は平伏したまま申し上げた。『我々も、本当に庶民らが我々貴族に刃向かおうなどという事態については想定しておらず……いえ、そうと聞いてはおりましたが、直にこの目で見るまでは、俄かにそうとは信じられませんでした。ところがですな、きゃつら、手に手に肉切り包丁やら鉈やら熊手やら、とにかく武器に出来るものを手にして我らに襲いかかってきたのです。しかも、力ある騎馬兵らに何度蹴散らされようと、馬で踏みつけにされて殺されようと、再びしつこくこちらへ刃向かってきたのですよ。何分数の上では向こうのほうが上ということもあり、取り囲まれて兵を分断されると、時には庶民らのほうが優位ということにもなり……』

 

『そんな馬鹿なことがありますか……っ!!』と、アナベラは突然悪寒がしたとでもいうように身を震わせると、再び玉座に深く腰かけ直していた。『相手は、あなた方のような立派な防具も冑も何もつけていないのですよっ!それなのに……いいえっ、そんなことはもうどうでも良い。そんなことより、アクロイドよ。父上の仇を取るためにも、すぐに出陣の準備をおし。そんな平民の軍と平民を率いる砂漠の田舎者ハムレットの軍など、一息に片づけて全員殺してしまうのです』

 

(簡単に言ってくれるなあ、母上は)と、アクロイドは深い溜息を着いた。彼は息子として父親のことを尊敬していたが、アベラルドが妻のことを苦手としていたように、アクロイドは息子としてこの母アナベラのことが苦手であった。それは彼のふたりの妹にしてもそうだったろう。そのせいかどうか、他州の貴族の元へ嫁ぐという時『父さまや兄さまと離れるのは寂しいけれど、母さまの害をもう受けずに済むかと思うと嬉しいですわ』などと口にしていたものである。

 

 ようするに、アクロイドの母のアナベラは支配欲の強い管理魔なのだった。アナベラは結婚における理想の夫像をアベラルドに課し、そこから出ることを生涯許さなかったし、同様に理想の公爵家像、その素晴らしき息子と娘たち……という肖像画のようなものを家族のひとりひとりに演じさせ、その額縁(フレーム)からはみ出すことを断固として許さない女性でもあった。

 

 アクロイドは戦争、と聞いただけで心に怯えが走ったし、今まで実戦経験といったものを経験したことも一度としてなく、彼にとって騎士同士の騎馬戦に参加することは、実際にはただのスポーツであった。というのも、公爵の息子である彼には誰ひとりとして本気で打ちかかってなど来なかったし、臣下たちは空気を読み、適度な打ち合いののち落馬して倒れる振りをしてくれていたからである。

 

 父アベラルドがクロリエンス州へ討伐に出かけるという時も、アクロイドは反対した。ここ、アデライール州の領域をハムレットが侵したとなれば、当然討伐隊を派遣すべきではあったろう。だが、彼はクロリエンス州に続き、ラングロフト州の危機を聞いても、そんなことはどこか遠くの空想の国で起きていることであって、自分たちの城砦とその周囲のみは何があっても守られると――なんの根拠もなしに呑気に信じ込んでいたのである。

 

(ハムレット軍が目指しているのは間違いなく王都テセウスなのだから、むしろクローディアス王が動くのを待てばいいのだ。そしてその時、側面から兵で衝くなり、背後から襲えということであれば加勢もしよう。だが、今はまだ差し迫った危難が迫っているのでもない以上……自分から出撃しようなどとすれば、父上の二の舞ということにもなりかねないではないか)

 

『母上、俺は正直、ここはまだ静観すべき局面ではないかと思いまする。それに、父とともに討ち死にしたモルドレッド公爵のご子息であるラルドレッドがどう動くかにもよりましょうぞ。ここは、まずはモルドレッド家に使者を送り、攻め上ってくるハムレット軍を挟み撃ちにするのが得策かと思われますが、いかがかと?』

 

『おお、おお……っ!!』と、未亡人になったことへの涙を流しつつ、アナベラは悲嘆に顔を覆って言った。『そうだわね、アクロイド。まったくおまえの言うとおりです。母はお父さまの死を嘆くあまり、どうやら冷静さを欠いてしまったようです。これ、執事のアルスや、書記にアクロイドが今言ったことを立派な書面として書き記させ、公爵印を捺してのち、モルディラまで急いで使いをだすのです』

 

 母アナベラがこう執事アルスに申し付けたことで、アクロイドはほっとした。報告の騎士ルドガーの話では、ラ・ヴリント城砦、ラ・トゥース城砦などからも、騎士や兵士らはアデライール州目指して戻って来ているとのことであったし、ここは残り約一万八千ほどの兵士らをハムレット討伐隊として差し向け、どうにか自分は無事ここアディル城砦にて、安全なところからハムレット軍が王の軍隊に敗れ去るところを見届けられればと考えたのである。

 

 一方、モンテヴェール州のモリア城においては、また少し事情が違ったようである。ユベールがそちらのほうへ配備した昆虫を介した映像を映しだすと、父親の死にいきり立ったラルドレッドが、今にも兵を率い、ラ・ヴァルス城砦へと乗り込むべく準備中だったからである。

 

『おお、待っておくれ、ラルドレッドよ……!!』

 

 ラルドレッドの母ラリスは、すでに甲冑を着こみ、モリア城の廊下を従者とともに大股に進んでいた息子のことを呼びとめていた。このラルドレッドの顔は父によく似ており、ラリスのほうはアナベラのようなハッとするような美貌を有してなかったにせよ、一目で彼女のことを愛さずにはおれないような、優しい雰囲気が彼女からは漂って見えたものである。

 

『止めないでください、母上。あの父上が亡くなったのですよ?あれほど勇敢で、父としても、ひとりの男としても尊敬すべき人が、たかが庶民の手によって殺されたというのです。そのような叛逆の市民ともども逆賊ハムレットのことなぞ、この俺が必ず手打ちにしてやります……っ!!』

 

『その息子としての気持ち、母として嬉しく思います。ですが聞いておくれ、ラルドレッドよ。お父さまはきっと、母さまの父と母とが自殺したと知り、きっと取り乱してしまったのだと思います。それできっとご無理をしてしまい、その死を早めてしまったに相違ないのです……おお、おお、我が息子ラルドレッドよ。愛しき夫によく似たおまえよ。この上、もしこの可哀想な母が息子のおまえまで喪ったとしたら、残されたこの老婆めは一体どうなります?一度冷静になって、ここはよく考えておくれ……っ!!』

 

 言うまでもなく、ラリスはまだ老婆というような年齢ではない。だが、相次ぐ悲報を聞き、彼女の髪の毛には白いものが一晩にして増えていたのは事実である。

 

『冷静にですって!?これが一体冷静でなどいられますかっ。亡くなったお祖父さまもお祖母さまも、それはそれは孫の我らにとって優しき方でした。幼き時分より、妹たちと出かけてゆけば、いつでも目に入れても痛くないというほど可愛がってくださり……そのおふたりまでもが亡くなられたのです。それというのも、あれもこれもすべて、ハムレットとかいう血筋のあやしい男のせいではありませぬかっ。母上、俺はあなたさまがいかようにして止めようとも戦いにゆきますぞっ。そうして必ず、父とその友であったアベラルドおじの仇を見事討ち果たしてみせますっ!!』

 

『わたくしからも、どうかお願い致します、ラルドさまっ!!』と、青緑に蝶や花の刺繍がふんだんに描かれたドレスを着た女性が、息を切らせながら走って来た。彼女はアベラルド・アグラヴェインの上の娘であり、名をユリエと言った。『まだ子供たちも小さいのですから、この息子や娘のこともお考えになってくださいませ。わたくし、ラルドさまにもしものことがあったすれば、とても……とてもこの先、生きてはゆけませぬっ……』

 

 このように、母と妻という最愛の女性ふたりに挟まれて、生来が優しい性格のラルドレッドは、少しばかり自分の性急さを反省した。

 

『そうだな……ユリエ、おまえの父の仇を取りたくもあるが、事を急いては仕損じると言うからな。第一今ごろおまえの兄、アクロイドも俺と同様いきり立っていよう。だがよく考えてみれば、確かに今は単独で動くべき時ではないやも知れぬ。そうだ!まずはアディル城へ使いの者を出そう。そうして、これから間抜けにも我らが領地のどちらかを足の下に踏もうというハムレット軍のことを挟み撃ちにし、撃退してやろうぞ』

 

『それが一番と、母もそのように思います』と、ラリスは涙の流れる頬に、少しばかり微笑みを浮かべた。『今後のことはクローディアス王にも使者を出して相談してみませんとね。きっと我が州の軍のみで逸った行動に出たとすれば、お叱りを受けてしまうかもしれませんよ』

 

 ラリスはモンドレッド公爵家のただひとりの跡取り息子が思い留まってくれそうなのを見て、心底ほっとした。こんなにも短い間に次々と自分の愛する親族を失おうとは、彼女は深い嘆きのあまり心の整理もつかぬままだった。だが、かくなる上はせめても息子の命だけは自分のそれに替えても守り抜こうと彼女は固く決心していたのである。そのように子孫の血を守り繋いでゆくことが、せめてもの夫や両親の魂の供養ともなることだろうと信じて……。

 

『うむ、母上。父の死に逆上するあまり、このラルドレッド、すっかり冷静さを欠いておったようです。まことに正しきご助言、ありがとうございます。母上のおっしゃるとおり、ここは王都テセウスとアディル城のそれぞれに使者を遣わす必要がありましょう。そしてクローディアス王の軍と我々公爵家の軍とで、逆賊ハムレットの軍を必ずや粉微塵にしてやります……っ』

 

『よくぞ言ってくれました、ラルドレッドよ。まったく、その判断こそこの場合における最上の決断。これ、従者たち。おまえたちのうちの誰か、執事のモーガンを呼んでたもれ。そして用向きを伝えてくれさえすれば、あれは忠実な良い男だから、書記を呼び、適切な書簡を二通作ってくれましょう。ラルドや、おまえはそれに目を通して、最後に公爵印を捺し、封をすれば良いのです』

 

『ああ、良かった。本当に良かった……ラルドさま、それにお義母さまも……実の父と、実の父にも等しい方を失ったばかりというのに、この上ラルドさままでと考えただけで……このユリエ、もう生きてゆく気力がすっかりしなえてしまいます』

 

『本当ですよ。ユリエさんったら、懐妊してまだあまり間もないというのに、あんなに急いで走ったりして……こたびのこと、ショックとは思いますけれど、女ふたりでどうにか耐えてゆきましょうね。ラルドや、おまえもこのお腹の子がショックに次ぐショックで流れてしまうことがないように、くれぐれも今後とも慎重に行動しておくれ』

 

『はい、母上。それにユリエも……すまなかったね。もしお腹の子にもしものことがあったとすれば、間違いなくそれは俺の責任だ。今後とも、体のほうはくれぐれも労わって過ごしておくれ』

 

 ――こうした会話を、城の石壁に張り付いた蜘蛛を介して聞くうち……ギべルネスもユベールもなんだか胸が痛んだ。確かに、公爵家といった貴族に生まれたのは彼らの責任ではないし、アグラヴェイン家にもモルドレッド家にもそれぞれ彼らなりの事情があったろうことは間違いない。

 

「まあ、なんにしてもとにかく、死傷者の数だけは少なくしてハムレット王子の軍を北の、王州テセリオンへ至らせるにはどうするのが最善かを考えなければなりませんね」

 

 ギべルネスは溜息を着いて、ユベールの隣に座った。精霊型人類たちと約束したも同然である以上、最後まで責任を持つ必要があると感じていた。とはいえ、自分たちなりに最善を尽くしつつも、そこから零れ落ちてしまったミスについては彼らがカバーしてくれるだろうとわかっているのはなんとも心強い。

 

「<神の人>ギべルネ先生がいなくなってから……あの赤毛のカドールって奴や、ギネビアちゃんたちが戻ってのち開かれた軍事会議の様子、一応録画しておいたんだども、見る?」

 

「ええ。そうですね……まあ、べつにユベールが観察していたのであれば、大体要約して教えてくださってもいいのですが……」

 

 ギべルネスがそう言ううちにも、ユベールは「ちょちょいのちょい!」などと呟きつつ、録画のリストを取り出すと、その一番上に出てきたものを再生させた。

 

『ギへルネ先生は、我々がどのような戦略を立てて進もうとも、とにかく最終的に勝利するので、あとはもう安心して進んでゆけといったように申されておりまして……』

 

 カドールが玉座に座すハムレットに近いそばのテーブルからそう言うと、彼はギネビアやレンスブック、ホレイショやリシャールなど、あの時共にいた仲間たちのほうを順に見た。それは『確かにそうだったよな?』と確認するようでもあり、『自分がもし間違ったことを言っていたら正してくれ』と目配せしているようでもあった。

 

『だが、それはそれとして、我々は我々なりに最善の策を練って進軍してゆかねばなるまい』とハムレットが言うと、『左様でござりますな』と、ルーアン・バグデマスが何度も頷いている。

 

『<神の人>ギべルネさまは、我々がいかように進軍しようとも神のお助けによって必ず勝つといったように申されていたと思いますが……それはおそらく今ハムレットさまが仰せられたとおり、我々が最善の、正しき道を進もうという時のみ、何かの危険が迫ろうとも助けてくださるという意味ではありますまいか?何分、拙者はギべルネ先生とはあくまで短いおつきあいなれど、あのような善い素晴らしき方が突然にして、あんな不思議な方法でいらっしゃらなくなったことで……多大なショックを受けるあまり、暫く茫然とするばかりだったのでございます。それは他のみなさま方はもっとそうだったに違いありません。何せあまりに急なことだったもので……』

 

『そうなんだぎゃ』と、いつもはこうした軍事会議というお堅い場では発言することが滅多にないレンスブルックが、深く嘆息して言った。『これで本当にお別れなんだと、よくわからんだども、先生はどこかへ行ってしまうんぎゃと思うと、悲しみで胸が詰まるあまり――これからどうすべきかといったことを具体的に細々聞くのを、つい忘れてしまったぎゃ』

 

『そんなの、みんな同じさ』と、今もまだ喪失感を胸に抱えたまま、ギネビアが寂しげに言った。彼女がこんなふうに落ち込んだ顔をするのは珍しかった。『だけど、確かにこれからはあーしてこーしてそーすれば必ず勝てる……なんておっしゃって去られるよりも、どの道を進もうがとにかく勝てるだなんて――それこそ奇跡としか思えないけど、ラ・ヴァルス城砦の城壁がべろりとすっかり失われているのを見た時、何か確信したんだ。それが王都テセウスのどれほど堅固な城壁であろうと、ここと同じく何かしらの奇跡的なことが起きて、きっと我々は……いや、ハムレットさまの軍は、必ずや勝利に次ぐ勝利によってこのまま進軍してゆけるに違いないって』

 

『そうだ。ギネビアの言うとおりだ』と、ハムレットが玉座から言った。彼は愛する女性であるギネビアがハンカチで目尻の涙をぬぐう姿を見、ズキリと胸の奥が自分のもののように痛んでいたのである。『我々はこのまま、星神・星母が遣わしてくださった<神の人>ギべルネの残してくれた言葉を信じ、進軍してゆこう。我々の立てた、最善と信じてはいるけれども、もしかしたら十分でない軍事作戦についても、今後ともなんらかの形で神の力が働き、我々正義の軍を守ってくださるに違いないと、そう信じ切ることこそが最善ということなのだろうから』

 

 大広間のあちこちから、『ハムレット王子……いえ、ハムレット王のおっしゃるとおりです』とか、『そうだ、今までだって我々は兵士を誰ひとり失わずしてここまでやって来たんだ。この先もきっとこうした奇跡が起きると、ギべルネさまはお約束して去っていかれたのだから、これからも勝利に次ぐ勝利のみが待っているだけだと信じるべきだ』、『これこそ星神・星母さまのお導きと信じなくて、なんとします』といった声などが方々から次々に上がる。

 

 映像を見ているギべルネスとしてはなんとも不思議だったが、この時大広間にいた全員が神の名の元に心をひとつにし、じーんと感動にさえ満たされているようだったのだ。(やれやれ。ユベールがどんなに苦労したかも知らないで……)ともギベルネスは思ったが、それでいて彼もまた嬉しかった。その仲間たちの友愛に、感動にも似た心癒されるものさえ感じていたくらいである。

 

 そして、ユベールがこの映像を消すと、次に現在のハムレット王子軍の姿がライルフィリー城砦に現れた。ユベールの話によれば、ここもラ・ヴリント城砦も、アグラヴェイン公爵やモルドレッド公爵の軍が完全に引き上げていったことで――人々はまた別の、秩序を失った混沌とした状態にあった。ゆえに、王子の軍はここでもクロリエンス州などと同じく兵の人員を裂き、秩序の回復をはからねばならなかったのである。

 

「つまり、大体のところまとめると……次のようなことになりますか?ハムレット王子の軍が、ここからアデライール州やモンテヴェール州へ到達するまでにはまだ時間がかかるでしょうが、先ほどのアディル城やモリア城の様子を見ていて思うに――向こうもすぐに動いてハムレット軍を叩こうとはしていない。クローディアス王が親友らしい公爵ふたりの死をどう受け止めるかはわかりませんが、拷問という自分の趣味に耽っている場合ではないとして、怒り狂って兵を集め、アグラヴェイン公爵やモルドレッド公爵の息子が率いる軍と合流した場合……我々はこの三つの軍をそれぞれ、なるべく早い段階でどうにかする必要があるということになりますね」

 

「そゆこと」と、ユベールは微かに笑った。「ま、ラ・ヴァルス城砦の時のようにミサイルをぶっこむってのは、ある意味最終手段であるとして、ギべルネ先生、俺はあんたの気象コントロール装置を使うっていうのでいいと思ってるんだよな。一応俺のプランとしてはさ、他にイリュージョンを使うのが一番いいんじゃねえかと思ってたんだ」

 

「あっ、そうですね。ユベール、私のアイディアなんかより、あなたの提案のほうがよっぽど善きですよ」と、ギべルネスは尊敬と感心の入り混じった目で、隣の相棒を見返した。「そうだ、そうだ。何も星母神書に書き記されているような奇跡を実際に行う必要はないんですよ。ただ、天から火の玉や隕石などが降り注いで、自分たちの軍に襲いかかってくるという幻影を見せるだけで……敵軍は勇気がすっかりしなえて戦う気力を失うでしょう」

 

 このあと、ギべルネスとユベールはニッと笑いあうと、互いの片手を握り合わせ、それからハイタッチした。そしてユベールは「あ~、俺腹減った~!!」と大きく伸びをし、ギべルネスもまた「私もです」と同意したのだった。

 

 とりあえず、ハムレット軍、公爵軍、王州軍ともにこの三者とも、暫くの間大きな動きはないものとして、ふたりは一旦休んで食事することにした。食堂のほうにも同じように大きなスクリーンがあり、彼らの動向については何気なくにでもチェックし続けることが十分可能である。

 

「実質的な時間としては、ほんの一年弱のことなのに……実際にはもっとずっと長くここを留守にしていたような気がします」

 

「そりゃそうだよな」と、ユベールは調理ロボットのひとりにスパゲッティ・ボロネーゼを注文しながら頷いた。途端、調理ロボットが『一人前で約708キロカロリーですが、他に栄養バランスも考えて、お野菜や果物などもいかがでしょうか』と、なんの表情もない顔で訊ねてくる。

 

「いや、今はちょっとすきっ腹を満たしたいだけだからさ、スパゲッティだけでいいや」

 

『かしこまりました』

 

 ギべルネスはスパゲッティ・カルボナーラの他に、シーザーサラダやオレンジジュースも注文した。こうした食材の保存方法は人間のコールドスリープと基本的には同じ原理・方法によって保存されて倉庫に積まれているか、宇宙船内でロボットたちが栽培して新鮮な野菜や果物を収穫する、あるいは超真空パックと呼ばれるパックによって保存されているか、フードインクといった一から食べ物を組み立てる方法によって調理がなされている(栄養価は同じであったにせよ、人体内における吸収のされ方が違うため、なるべくフレッシュな野菜や果物を食べるということが今でもやはり推奨されているのだった)。

 

 ロボットシェフたちの熟練の料理は七分ほどで完了し、ギべルネスとユベールはやたらと広く感じられる食堂内にて、テーブルに向かい合わせになって座った。

 

「それで、私がいなくなったあと……こちらでは何があったんですか?」

 

 この食堂へ来る前に、メディカル・ルームにふたりは先に寄っていたが、ギべルネスの診察によってもロルカ・クォネスカは処置なしだった。AIクレオパトラがそう診断したという時点で――ハイクラスの惑星にある医療カプセルに入らなければ、このまま同じ植物状態が続くとの――ギべルネスは自分の診断も同じものだろうと予測はしていた。だが唯一、ロルカ・クォネスカの、閉ざしても閉ざしても見開かれる瞳のほうは、アイパッチによって閉ざすことが出来た。AIクレオパトラによれば、『ああ、そういうふうにも使えるんですね。ひとつ勉強になりました』とのことである。

 

 

 >>続く。

 

 

 

 

 


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