こじらせ女子ですが、何か?

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惑星シェイクスピア-第三部【5】-

2024年10月01日 | 惑星シェイクスピア。

 

 

「最後の決闘裁判」という映画を見ました♪

 

 見たきっかけというのがまあ、例によって(?)天ぷら☆にて「見放題終了」の表示があったのと、リドスコ先生が監督であったこと、またタイトルの「最後の決闘裁判」というそれがどのようなものだったか……ということに興味を惹かれたからでした

 

 >>14世紀のフランスを舞台にした、リドリー・スコット監督による裏切りと復讐の物語。ジョディ・カマーが圧倒的な演技を披露する。実際の出来事を基にしたこの作品で、マット・デイモンとアダム・ドライバーは、ジャン・ド・カルージュとジャック・ル・グリを演じる。カルージュの妻(カマー)がル・グリの暴行を告発したことにより、騎士であり、かつて友人同士だった2人の男が決闘裁判を行うこととなる。

 

 実際の出来事を基にした……とあったので、原作本を探してみたところありました。それで、こちらのほうはまだちゃんと読んでないものの、とにかくすごく面白いです♪

 

 ええと、「惑星シェイクスピア」の中には、騎士という存在が割と大きな存在として登場していて、騎士関係の本も少しばかり読んでみたのですが、<神明裁判>というものについては、わたしの書いたものの中では中世における実際のそれとは違う設定になってるんですよね(^^;)

 

 いえ、ようするに<神明裁判>っていうのは、原告と被告がそれぞれいて、お互いに「自分のほうが正しい」と主張していた場合――簡単にいえば決闘して勝ったほうが正しいとされる法制度のことと言っていいと思います。もちろん、普通こう思いますよね?「え?じゃあ、間違ってる側が間違ってるにも関わらず、勝負で勝ちさえすれば法的には正しいとされるってこと?」という話なわけですが、答えはイエスです。

 

 また、わたしが参考にした勝負シーンというのが、ウォルター・スコットの「アイヴァンホー」だったわけなんですけど、他の作品ではどんなふうに表現されてるのか知りたかったため、本のほうも注文してみることにしたというか

 

 んで、わたし個人のそうした事情なんぞはどーでもよく(ほんとにな☆)、映画のほうは大体三部構成かなって思います。簡単にいうと、カルージュの奥さんであるマルグリットが夫の留守中ル・グリに強姦され、マルグリットはそのことを夫に話し、怒ったカルージュは王にこのことを訴え、決闘裁判によって決着を着ける……といったような話の内容。。。

 

 最初にジャン・ド・カルージュにとっての真実が語られ、その次にジャック・ル・グリの真実、それから最後にマルグリット自身にとっての真実が語られ――そして、ふたりの決闘裁判がどのような形で決着が着くのか、という試合場面と後日談的なものが語られて映画のほうは終わりを迎えます

 

 試合の結果についてはあえて書かないものの、カルージュは不器用な金にうるさいイモ貴族といった役柄で、奥さんのマルグリットと結婚したのも、彼女が美しかったことや土地や財産的なことが大きかったらしい何分中世時代の、女心についてなどよくわかってない武人ですから、この結婚がマルグリットにとって幸福なものだったかといえば、「いや~、あんまし幸せそうじゃないけど、でももっと不幸な女性もいることを思えば……う゛~ん。どうなんだろ?」という、映画を見てる側としてはそんな感じ(^^;)

 

 一方、ル・グリはアダム・ドライバーが演じているとおり、ええとわたし、マット・デイモン好きなんですけど、映画の中では大体そんなふうな役柄なんですよね(^^;)まあ、カルージュが田舎騎士のイモだとしたら、ル・グリは洗練された気の利くハンサムだといったような……また、マルグリットは本を読んだりするのが好きらしく、知性的なル・グリと話が合いそうな場面というのもあり――映画のタイトル通り、カルージュとル・グリが決闘裁判をすることになるのは、マルグリットが強姦されたことが理由なわけですが、その部分までがわかると、大体「何が真実だったか」、いくつかのパターンが思い浮かぶと思うんですよね。。。

 

 実はそれは強姦ではなく、マルグリットがル・グリを誘って行われた性行為だった(=強姦の事実はない)、だが、カルージュとル・グリの間にはそれ以前に友情にヒビが入るような出来事があったことから、カルージュとしては「畜生、あの野郎ブッ殺してやるっ!!」となった……という真実の可能性もなくはない。マルグリットがこのあたりの露見を恐れて「強姦された」と夫に訴えた、という。

 

 でも実際の真実は、マルグリットはあくまで夫に忠実だったというものでした。また、確かにル・グリはハンサムなのですが、伯爵のお気に入りで、この奔放な伯爵さまと酒を飲んで破廉恥な行為に及んでいたりと、まあそうしたタイプの「悪い男」でもあったりするわけです。それで、カルージュはその後戦争に従軍し、従騎士から正式な騎士となり、サーと敬称をつけられる立場となるわけですが、ル・グリはそのまま従騎士の身分であったことから――ある時、カルージュが「今後は絶対自分にはサーをつけて呼べ」みたいにル・グリに迫る場面があります。ここ、自分的になんかすごく好きなシーンでした

 

 それはさておき、今の時代でも「レイプされた」とおかみに訴えでるのは……まあこの場合王さまですが、相当勇気のいることです。マルグリットはその部分でも世間の好奇の視線どころか、恥辱の上にも恥辱に耐えるといった立場に置かれ、さらにはもし夫のジャンが勝利しなかったとすれば、ル・グリ側の主張が正しかったとして、彼女は全裸のまま処刑台の柱に縛りつけられ、生きたまま火あぶりにされる運命にもありました

 

 最後の決闘裁判の場面は、見ている側としてはマルグリットの潔白がはっきりしているため、応援するのは当然マット・デイモン演じるカルージュのほうだったりします(まあ、アダム・ドライバーファンは違う可能性ありますけども・笑)。でももしル・グリの側が勝利したとすれば、いかに正しいのがジャン&マルグリットのカルージュ夫妻であれ、間違っている側のジャック・ド・ルグリの主張が通ることになる……言うまでもなく、このふたりの決闘の模様は手に汗握る、果たしてどちらが勝つのかと、互角のように見えるがゆえに最後まで見通しのつかぬものであり――なんにしても、最後にトドメを刺された側と処刑の場面は凄惨なものだったと思います。

 

 

 >>ジャン・ド・カルージュが上訴人として最初に突撃し、決闘の火蓋が切られた。カルージュは槍置きで槍を支えたまま、右脇できつく押さえ、下段に構え、慎重に敵に狙いを定めた。そして馬に拍車をあて、試合場へと進みはじめた。ジャック・ル・グリは敵が動きはじめたことを確認すると、すぐに自分も槍を低く構え、馬に拍車をあて、敵めがけてまっしぐらに走りだした。

 

 相手めがけて試合場を走りだした瞬間、ふたりのあいだの距離は七十ヤード以上離れていた。しかし、強靭な軍馬は、ほんの数秒で全速力での駆け足から停止することができる。時速10~15マイル程度の穏やかな速足でも、たがいに近づいていくわけだから、五秒もあれば二頭の馬は接近する。

 

 試合場の脇にある台からようすを見ていたマルグリットにとって、その数秒間は永遠にも思えたことだろう。彼女は、夫が槍を低く構え馬を走らせるようすを、白い砂煙をあげて疾走する馬の肢が地面を蹴るたび、わき腹の筋肉が収縮するようすを見ていた。その直後にジャック・ル・グリが試合場の反対側で突撃をはじめると、蹄が立てる重々しい音があたりに響きわたった。試合場のすべての視線が、ふたりの突撃する闘士と、かれらの水平に構えられた槍に注がれた。

 

 これは馬上槍試合ではないため、試合場の中央には馬の衝突を防ぐための柵は設けられていなかったが、ふたりは「ひもで引っ張られているかのように、一直線に進んでいった」。ふたりの闘士はたがいに速度を上げて近づき、鋭い鉄の槍の先端がまるで必殺の飛び道具のように宙を切った。馬、人間、甲冑、槍が一体となった重みが、槍の先端に一トンもの運動量となってかかっていた。疾走する槍の一撃は、盾や甲冑、そして人間の肉を貫通し、骨まで届くだろうし、板金の継ぎ目を切り裂き、肩を脱臼させるだろう。あるいは敵を鞍から突き落とし、重い武具をつけたまま地面に叩きつけることだろう。そうなれば、敵は骨折や脱臼、ねんざを負う。

 

 疾走する闘士とともに槍の先で槍旗がはためき、飾り馬衣が舞いあがる砂埃の上でさざ波をたてた。雌馬がたがいをめざして疾走するなか、磨きあげられた鉄のかぶと甲冑の板金に陽射しが反射し、試合場の周囲に光線を投げかけた。試合場の中央には、式部官の白い手袋が落ちたまま砂上にあった。

 

 そのすぐそばの地点で、突撃してきたふたりの闘士はおそろしい衝突をとげ、「盾が真正面から激しくぶつかりあい、その反動で、ふたりの闘士は地面に突き落とされそうになった」。激しい衝撃に見物人がひるむなか、それぞれの男は「馬の尻のほうにのけぞった」。しかし、そこは両名とも乗馬の名手、「ふたりは馬を足で挟みつけ、なんとか乗りつづけた」。おなじ長さの剣で同時に突きあったため、どちらの男にもおなじだけの衝撃が及んだ。どちらも傷を負ってはいなかったし、地面に投げだされもせず、槍や盾を落としてもいなかった。突かれた衝撃から体勢を立てなおすと、「どちらも、自分の陣地のほうに戻り、しばらく休憩し、息をととのえた」。

 

 二回目の突撃に備え、ふたりは槍先を前回よりやや高く掲げ、敵の頭に狙いを定めた。ジャン・ド・カルージュは槍を低く構え、「盾を強く握り、馬に拍車をあてた。カルージュが突撃をはじめたのを確認すると、敵はしりごみすることなく、一直線にカルージュめがけて走りはじめた」。憤怒の形相でたがいに突撃すると、ふたりはふたたびおそろしい衝撃をとげ、「たがいに鉄のかぶとを槍で突きあうと、みごとに命中し、かぶとからは火花が飛びちった」。しかし、槍の刃がかぶとのてっぺんを刺したため、「槍はかぶとの上をすべり、ふたりは傷つけあうことなく、たがいに通りすぎた」。

 

 闘士たちは「火照って」いたため、三回目の突撃に備え、ふたたび息をととのえた。そして「盾をしっかり握りなおすと、前頬の隙間から相手のようすをうかがった」。それからまた拍車をあて、「槍を低く構え、足を踏ん張った」。こんどは、ふたりとも相手の盾に狙いを定めた。足音を轟かせながら試合場を走りぬけ、ふたりは「すさまじい激しさ」で衝突し、たがいに鉄の槍先で盾を突いた。そのおそろしい物音が、試合場の周囲の石壁にこだました。

 

 一撃の力が槍を粉砕し、槍の破片が「放りだされるよりもずっと高く、宙へと飛んでいった」。どちらの槍も軸のところで折れ、鉄の先端は折れた柄とともに、それぞれの盾に突き刺さったままとなった。この一撃の衝撃で「馬はよろめいた」。そして、闘士たちはその衝撃でうしろに押し倒され、あやうく馬から落ちそうになった。しかし、槍が折れたため衝撃がやわらぎ、双方の闘士とも、なんとか鞍の上にとどまっていられた。「槍が折れていなかったら、闘士のひとり、あるいはふたりとも、地面に落馬していただろう」。

 

 カルージュは呼吸をととのえると、ゆっくりした駆け足で試合場の端へと進み、向きを変え、役に立たなくなった槍を投げすて、突き刺さった槍の先端を盾からねじりとった。それから、鞍の輪から斧をはずした。ル・グリも試合場の反対側でおなじことをした。

 

 斧の準備がととのうと、ふたりの男はふたたび馬を走らせたが、今回はゆっくりとした速度で進み、有利な位置をとろうとした。試合場の中央に近づくと、ふたりは円を描きながら相手との距離を縮め、とうとう、馬の鼻が相手の馬の尾につくほど近づいた。ここまで接近すれば、男たちは斧をつかみ、相手を攻撃することができる。

 

 馬が円を描き、四方に砂塵を蹴りあげるなか、ふたりの男たちは「胴と胴、胸と胸」をくっつけあわんばかりにして、斧を振りあげ、ぎらぎらと頭上で刃を輝かせた。こうして騎士道における死の舞踏をくりひろげながら、ふたりは数回、斧で相手をとらえようとした。そして馬に乗ったまま、たがいの身体を前後に引っ張りあいながら、それぞれが「斧の湾曲した刃で相手を引っかけ、敵のバランスを崩し、鞍から落とそうとした」。

 

 何度か、ふたりは馬を走らせ、ぱっと離れては、相手を真っ二つに切り裂こうというように、ふたたび斧を掲げて近づいた。まえに後ろにと、獰猛に斧を振り下ろすふたりの下で、馬は揺れた。ふたりともあまりに近づいていたので、闘士たちはたがいを鐙のついた足で蹴りあい、鉄靴が甲高い音をあげた。ふたりはなんとか馬を操っていた。

 

 片手で闘っていたときには片手で盾を掲げ、相手の攻撃から身を守ることができた。しかし、片手では満身の力をこめて斧を振るうことができない。そこで盾はぶらさげたままにし、両手で斧をもち、振りまわしては、斧で攻撃と防御の両方を同時におこなった。鉄の刃が甲高い音を、木の柄が鈍い音をたててぶつかった。

 

 斧による闘いはどちらが優位に立つともなく激しくつづき、しだいに、ふたりの男は疲弊しはじめた。「何度か、ふたりは距離を置いて休憩をとり、呼吸をととのえ、そのあとにむなしくまた闘いを再開したのだった」。

 

(「最後の決闘裁判」エリック・ジェイガー先生著、栗木さつき先生訳/ハヤカワ文庫より)

 

 前文に使える文字数に限界があるため、引用できるのがこのくらいまでなのですが、騎士の出てくるファンタジーを書かれてる方だったら、割と参考になるんじゃないかな~と思ったりします

 

 ジョデカマちゃんはわたし、最初「どこかで見たことあるような……?」と思ってたところ、「キリング・イヴ」の殺人鬼だったことをあとから思いだしました(笑)。やっぱり衣装その他変わってしまうと一瞬わからないものですね。というか、「キリング・イヴ」見たの結構前だというそのせいかもしれないんですけど(^^;)

 

 それではまた~!!

 

 

       惑星シェイクスピア-第三部【5】-

 

「……の地所については、バロン・ボウルズに譲るものとする。さて、次にボウルズ家に代々伝わる家宝の<五十人の敵を前にしても絶対勝利する宝剣>と<五十人の敵を前にしても絶対無傷でいられる大楯>、それに<五十人の敵を前にしても絶対逃げられるブーツ>だが、これは我が家の伝統でな。当主の亡くなるという時に長男から順に選ばせる、というしきたりになっておるのじゃ。そこでバランよ、まずはおまえからこの三つの品から好きなものを取るがいい」

 

(ま、まずいぞっ!!)と、バロンは風にひるがえるセルリアンブルーのカーテンの陰で思いました。(そうだ。実際のところ、「ちょっと待ったあっ!!」とばかりオレが中へ入っていくってわけにもいかないんだから、本当はこの前日にでも昔のオレか兄さんのどっちかにでも事情を説明しておく必要があったんだ。じゃあ、もう一回時の移動をやり直して……)

 

 バロンが焦りつつ、そこまで思った時のことでした。驚いたことに、バランは自分の父親に向かい、こう言っていたのです。

 

「では、私はこの<五十人の敵を前にしても逃げられるブーツ>をいただきたく存じます。と言いますのも、ガへリス伯父さんとガレス伯父さんの勇敢な死が良い教訓となりました。そのような誰を前にしても必ず勝利できる剣など、むしろ末の弟のバロンにこそ必要なものでないかと考えるからなのです」

 

「うむ、よくぞ申した、バランよ。では、バリンは宝剣と大楯のいずれがよいかな。兄の有難い忠告はともかくとして、おまえはおまえで好きなほうを選ぶがよいぞ」

 

「ははっ。ですが父上。確かに俺は剣の腕前では兄上に今一歩及ばないことを考えると……このように素晴らしい宝剣を手にしてみたい気持ちもありますが、ここは<五十人を前にしても無傷でいられる大楯>を選びたく存じます。これは、俺にとっては騎士として驕り高ぶらぬようにとの、己に対する戒めでもありますゆえ」

 

「うむ、よくぞ申した、バリンよ。わしはおまえたち三兄弟にこれまで随分厳しく接したこともあったな……じゃがそれもまた、おまえたち息子の将来の幸福を思えばこそのこと。最後にバロンよ、三人の中ではおまえが剣においても槍においても普通並であった。これも、剣豪と呼んで差し支えない兄ふたりと比べてのことではあるが、今後ともその宝剣の所有者として相応しい者となれるよう、騎士道に励むのじゃぞ」

 

「ははっ。父上、このような素晴らしき剣、バラン兄上かバリン兄上こそが所有するに相応しきもの……ですが、もっとも力の及ばぬ者であるオレこそがこの黄金の柄を握ることになった以上、ボウルズ家の家名にも宝剣の名にも恥じぬよう最善を尽くすことを、今ここにお約束いたします」

 

「うむ、よくぞ申した、バロンよ。この父、実は三兄弟のうち、わしはおまえのことが一番心配だったのじゃ……というのも、バランはガへリス伯父さんに、そしてバリンはガレス伯父さんに似て、真の勇者の心を持つ豪の者であったが、このわしだけは違ったのでな。そうした意味で、バロンよ。自分にそっくりなだけに、わしはおまえの行く末のことが一番心配だったのじゃ……無論、バランのことは長兄として心から誇りに思い、バリンよ、おまえのことも常に心にかけてきたつもりじゃ。その父としてのこのわしの想い、説明などせずとも、おまえたちならばわかってくれるな?」

 

「もちろんです、父上っ!!」

 

 ここでバロンが堪らなくなって、カーテンの陰からそっと部屋の中を覗いてみると――四柱式寝台の背もたれに背をもたせたカラドスが、三人の息子たちと涙ながらに抱擁しあっているところでした。

 

「さて、わしはこれからバランに、今後のこのボウルズ家の領地の治め方その他について、少々ふたりで話しあわねばならん。バリンとバロンよ、おまえたちはそれぞれ大楯と宝剣を手にして、今後のことをよく考えるとよい」

 

 ――バリンとバロンのふたりが部屋から出ていくと、カラドスは早速とばかり、<五十人の敵を前にしても必ず逃げられるブーツ>には、他に<時をかける力>のあることを説明しはじめました。実をいうと、事はこうしたことだったのです。今から約十三年前のあの時、バランとバリンは扉の外で、こっそりカラドスと未来からやって来たバロンの話を聞いていたのでした。

 

『兄上、あの話、どう思う?』

 

『いや、あの未来のバロンに対する父上の態度は、決してペテン師に対するものじゃなかったと思うんだ』と、二階にある部屋の一室から、門へと向かって歩く父と大人バロンの姿を眺め、バランは言いました。『父上もまた、<時をかけるブーツ>の所有者であればこそ色々なことがすぐにわかったんだろう。だがこの場合、細かい事情はよくわからないにしても、とにかく将来的に僕とおまえのふたりはまずいことになるらしい』

 

『ふうむ。じゃあ、未来を変えるためにはどうしたらいいのかな。父さんが今から十三年後くらいって言ったっけ?そんな日のことは考えるのも嫌だけど……もし、その日その瞬間がやって来たら、俺たちはどんな選択をするのがもっとも正しいということになるんだろうか』

 

『すっかり大人になったバロンが言ってた通り、たぶん僕が<時をかけるブーツ>を選べばいいんじゃないかな。何分、シャリオン村はここから近いんだし、そこになんらかの異常があったと報告があれば、このあたりの地所を継ぐらしい僕がそちらへ向かうのはある意味当たり前のことだ……これから僕も、あらゆる歴史の書物なんかを当たって、たとえば死霊の伝説であるとか、昔のそうした言い伝えの中で参考になるものがないかどうか、調べてみるつもりだけど――とにかくシャリオン村へは夜には向かわず、昼間そこで昔何があったかを<時をかけるブーツ>で調べたほうがいいってことなんだろうな』

 

『そうだ!!あとは大楯の所有者である俺と宝剣の持ち主となったバロンのことを呼べばいいよ。そんな素晴らしい剣をバロンの奴に譲るのはちょっと癪だけど、実際のとこ、俺たち三人の中であいつが一番弱っちいっていうのは事実だもんな』

 

『まあ、未来のことはわからないけど』と、バランは笑った。『遺言の席でバロンがブーツを選び、僕が宝剣を選んで、それがまずい失敗に繋がることになったっていうのは、なんか理解できるんだ。よし、バリン。今日のことはしっかり日記にでも書き記しておいて、お互い、時々――そうだな。毎年誕生日が巡って来た時にでも――「あのこと覚えてるか?」とでも言って、互いに確認しあうとしよう』

 

『いつも通りグッドアイディアだ、バラン兄さん!!』

 

 仲のいいこの兄弟はお互いに手を打ち合わせると、そう約束しあいました。

 

『父さんもさ、なんかちゃんと遺言を言い終わらないうちに亡くなったっていうことだから、俺たちや執事の口から、それとなくその日に備えるよう言ったりしたほうがいいのかもしれないな』

 

『そうだな。父さんも未来から末の息子のバロンがやって来た今日という日のことを――決して忘れることはないだろうけれど、何分未来のことはわからないものな。なんにしても、僕たちは今からそうした心積もりでいることにしよう』

 

 バランとバリンの二兄弟がこんなふうに目の前で実際に見たり聞いたりしたことを、そのまま素直に信じられたのは……もしかしたら彼らがまだ年齢としては幼かったという、そのせいもあったかもしれません。とにかく、彼らは十三年後に起きるという父カラドスの臨終の席のことをその後も忘れませんでした。また、このままいくと将来は『死ぬより恐ろしいことになる』らしいとも思い、父親の厳しい指導に応え、互いに心身を鍛えることを怠ることもなかったというわけなのです。

 

 ――こうして、バロンはそれ以上特に何かする必要もなく、茂みに姿を隠してぺちゃくちゃしゃべっている三人の仲間の元へ戻って来ました。

 

「あっ、バロン、また目を赤くしてるわね!まったくもう、泣き虫さんなんだからっ!!」

 

「そう言うなよ、ラヴィ。孤児のオイラにしてみたら、バロンさまは立派なご家族がいらっしゃって、まったく羨ましい限りだもの」

 

「んだ、んだ」と、頷いてグリン。「ほいで、バロン。万事滞りなくうまくいっただか?」

 

「ああ。うまくいったのはいいんだが……」

 

 ここへ戻って来るまでの間、疑問になったことについてバロンは思わず口にしていました。

 

「バラン兄さんが<時をかけるブーツ>を選び、バリン兄さんが大楯を、そしてオレが宝剣を選んだということは――これから時間軸を未来に戻ったとすれば、すべての運命が変わっている、ということになるだろう。だけど、今実際のところオレはまだこのブーツをはいたままだし、ということはどうなる?未来に戻った途端、オレは大楯とブーツを同時に失い、この宝剣だけがオレに残された持ち物となる、ということなんだろうか?」

 

「確かにそうだ」と、ロックも腕組みをして考えこみます。「第一、未来が変わったってことはオイラたちだって、こうして友達になってるかどうか……」

 

「う゛~ん。どうなんだろ。そこはそれ、あたいたちは結局のところ何か別のことで同じように仲間になってるとか?」

 

「とにかく、帰ってみればわかるべ」と、あっけらかんとしてグリン。「バロンはさっき、靴の踵を二度打ち鳴らしてオラたちをここまで連れてきただ。そんで、三度鳴らせば、帰るべき場所へ帰れるんだべ?とにかく、問題はそういうことだよ。バロンが三回<時をかけるブーツ>の踵を鳴らしゃあ、きっとオラたち、それぞれ居るべき場所へと帰れるんでねえだか?」

 

「それもそうね!!」、「そうだな」、「オイラもそう思うだよ」……三人はほとんど同時にそう言ってしまい、互いに顔を見合わせて笑いました。とにかく、こうしたわけでラヴィとロックとグリンの三人は、再びバロンのガウンの裾やら革のベルトやら肩やらにそれぞれ掴まり――再び時の移動を開始したのでした。

 

 今度は、踵を二度打ち鳴らしたのではなく、三度打ち鳴らしたからでしょうか。何か、移動する時に見えたものが色々と違って見えました。たとえば、兄のバランがシャリオン村へ向かい、骸骨騎士を前にして、ロックとともに<時をかけるブーツ>の踵を二度打ち鳴らし、移動した時の先のことなどが見えました。そしてここからは、そこでバランがどんなふうにしてシャリオン村で起きたことの解決をはかったかの、その原因除去の物語……ということになります。

 

 

  ~悲しみと後悔の姫、そして四十九人の嘆きの騎士の物語~

 

 昔むかし、あるところにとても我が儘で傲慢なお姫さまがいました。その国の王様とお妃さまは心から愛しあっていましたが、長く子宝に恵まれず、ようやくしてこのお姫さまがお生まれになっておりましたので、小さな頃から甘やかして育てたのがその原因だったと言えたでしょう。

 

 しかもこのモルガン姫、国一番の器量よしでしたので、誰もがその美しさの前には平伏さずにはいられなかったのです。どうにかしてこのお姫さまの関心を惹こうと、誰もが周囲で常に競っていましたし、彼女が年ごろの娘に成長した時――それは危険な凶器のようなものであるようにさえ、よく目の見えるものには感じられたに違いありません。

 

 国王もお妃さまも、随分お年を召してからのお子さまでしたので、ふたりともなるべく早く姫には結婚してもらい、安心したいといったように考えていました。ようするに、この場合は婿取りということですが、モルガン姫の愛を得るために、第一回目の馬上槍試合が開かれるということになったのです。とはいえ、この時姫はある条件を付けていました。優勝しても、自分が気に入られなければ結婚は出来ないということ、また、準優勝やそれ以下の者であっても、自分がその者のことを気に入れば、その者に彼女の手で王冠を授けることを、などです。

 

 さて、これで何故この馬上槍試合の頭に第一回目とついたのか、おわかりいただけたでしょうか。もっともその頃、モルガン姫はまだ十三歳でしたから、結婚するにはまだ早いとして、周囲の人々も無理強いまではしませんでした。こうして、第二回目の馬上槍試合、第三回目の馬上槍試合と開催され……モルガン姫が二十歳にもなろうという頃、馬上試合は第七回目ということになっていました。けれど、姫は優勝した騎士のうちの誰の手も取りませんでしたし、準優勝やそれ以下の者になど、最初から目もくれないといったような始末だったのです。

 

 ところで、国王さまが憂慮されていたことがありました。というのも、馬上槍試合のほうは真剣勝負でしたので、時に槍によって急所を突かれ落馬後に死亡する者など、国が誇りとする優秀な騎士たちが、第七回目を迎えようとする頃には四十九人ばかりにも膨れ上がっていたのです。国王さまは今この時に至るまで、可愛いひとり娘のことを叱ったことは一度もありませんでしたが、隣国が戦争の準備をしていると伝え聞くと、その次の年の馬上槍試合は中止する、ということにしました。

 

「可愛いモルガンや。結局のところこのル・フェイ王国にはおまえの気に入る男なぞ存在しないのだろうよ。にも関わらず、これ以上この国の貴重な戦力を失うわけにはゆかん。もしおまえに結婚する気がないのなら、王冠は従兄弟のエル・シャダイのものとしよう。わしも母上ももう年じゃからな。これ以上はとても待てぬ」

 

「従兄弟のエル・シャダイのものですって?そんなこと、とんでもないわ、お父さま!わたくし、お父さまが亡くなったら、喜んでこの国を継いで女王になります。何故ですの?男しか王になってはいけないだなんて、そんな話、ちゃんちゃらおかしくって笑っちゃう」

 

 この時、モルガン姫がさもおかしそうに「ぷーっ、くくくっ」とお腹を抱えて笑いだしたので、いつもは気も長くお優しいお父さまもついカッと頭に血が上りました。いいえ、それだけではありません。あれほど可愛がり手塩にかけて育てた娘の頬を、バシッ!!と生まれて初めて叩いていたのです。

 

「女が一国の王になるだと!?馬鹿も休み休み言えっ!!もしおまえがそんな聞き分けのない、愚かなことを言うのであれば……そうだ、これだけは決してすまいと思っていたが、我が国へ戦争を企てているというカルヴァリー王国にでも嫁ぐのだな。そして、この国はおまえの従兄弟のエル・シャダイが継ぐのじゃ。そうじゃ……よく考えれば、初めからこうしておったら良かったのじゃ。せめても自分の直系の者に、などと拘ったりせずに。さすれば、自分の父が死ぬのを待っていたなどという、ひどい親不孝な言葉をわしも聞かずに済んだことじゃろう」

 

 生まれて初めて父親から叱られ、モルガン姫はどうしたら良いかわからなかったのでしょう。彼女は母親であるお妃さまに縋りましたが、お母さまはこの時も「お父さまのおっしゃるとおりです」としか言ってくださらなかったのです。というのも、お母さまもまたお優しい方で、怒っているところを一度も見たことのないような方でしたが、いつでもなんでも「国王であるお父さまのおっしゃるとおりです」と、まるで毎回決まった場所に判でも押すように言うばかりの人だったからなのです。

 

(お母さまには自分の意見ってものがないのかしら……結婚することを拒んでさえいれば、きっとそのうち『そうじゃな。よく考えればモルガンよ、おまえが女王になるのが一番じゃった。何故そのことにもっと早くに我らは気づかなかったのであろう』と言ってもらえるに違いないと思っていたのに……)

 

 こうして、父親と母親に初めて反抗心を持ったモルガン姫は、家出――それとも城出でしょうか――をすることにしました。年老いた両親に心配をかける、良くない選択であることは彼女自身よくわかっていましたが、従兄弟のエル・シャダイが国を継いで王になるのであれば、すでに自分は用済みだとも思っていました。

 

 モルガン姫は城を出て、当てもなく旅をはじめたのですが、憂鬱なのは最初のうちだけで、そのうちだんだん貴族としての習慣から完全に解放された自由を味わいはじめました。彼女は男のような成りをして、顔のほうも泥で汚したりしていましたから、汚い言葉を使って勇ましい態度を取っていれば、男のように見えなくもなかったのです。

 

 とはいえ、両親のお膝元の城下町にずっといたのでは、いずれ連れ戻されてしまうでしょう。そこで、モルガン姫は三日ののちには商人の出入りに紛れ、城砦の外へ出ました。カルヴァリー王国のある方角へは当然向かえませんし、かといって従兄弟のエル・シャダイが治める領地へ向かうというのも、なんだか癪に障ります。そこで、新天地を求めて――進路を北へ取るということにしました。とにかく、道があるということは、その先には町があったり村があったりするものだろうと、そんなふうに思っていましたから。

 

 ですがこの時、モルガン姫は知りませんでした。実は、彼女のお父さまとお母さまは子供が欲しいがために、死霊の王と取引をしていたのです。もし生まれたのが王子でも王女でも、その子が結婚した時、その第一子は必ず失われる、という約束を……また、もしその王子なり王女なりが結婚もせず、子も儲けずにいた場合、必ずその王子や王女自身に災いが降りかかるという、それはそうした契約でした。

 

 何故愚かにもそのような取引をしたのかと、きっと誰もがそのように思うことでしょう。けれども、人というのは自分の願うことはいつでも正しいものだと信じがちなものですし、初孫が必ず死ぬと聞かされても――その前に子供が欲しいと願う夫婦にとっては、それは将来本当に起きることなのだろうかと、なんとなく疑わしいようにすら感じられることだったのです。

 

 モルガン姫がいなくなったと聞き、国王さまもお妃さまも、この死霊の王との取引のことがありましたから、半狂乱になって国中を探させようとしました。けれども、モルガン姫はこうした探索の手を逃れ、遠く……この世ではない死霊の国へと次第に足を踏み入れようとしていました。また、モルガン姫がルフェリス城を出た時点で、すでに呪いは始まっていたのです。モルガン姫がいなくなったと聞いた時点で、お妃さまは卒倒されており、そのまま病いにかかってお亡くなりになってしまったのですし、お妃さまの気も狂ったような嘆きようがそのまま乗り移ったように国王さまも頭がおかしくなってしまわれました。そして国王さまはその後、お妃さまのあとを追うように、老衰によって亡くなられていたのです。

 

 自分がどんな親不孝をしたかも知らずに、モルガン姫は災いの待っている道をどんどん真っすぐ進んでゆきました。最初は緑豊かな麦畑の広がる農地だったのに、次第次第に牧草地だった場所は緑の樹木もまばらになってゆき、そのうちペンペン草ひとつ生えぬ荒れ地へと変わってゆきました。やがてあたりは暗くなってゆき、モルガン姫は不安になって来ました。優しく温かいお父さまとお母さまの顔が浮かび、この時初めて(帰ろうかな……)と思ったモルガン姫ですが、今から帰るにしても、とりあえず一晩くらいは野宿する必要があったに違いありません。

 

 モルガン姫は荒れ地に吹く冷たい風にぴゅうと吹かれただけで、もうそれ以上道を進む気にはなれませんでした。そこで、少しばかり引き返し、大きなオークの樹があったところまで戻ってくると、そこで一晩休むことにしました。踵に靴擦れが出来るほど歩いたことなど生まれて初めてでしたから、モルガン姫はあっという間に眠りに落ちてゆきました。

 

 ところが真夜中のことです。どこか林の奥のほうから、誰かがしくしく泣くような声が聞こえてきます。モルガン姫は驚いて、鳴き声のするほうに「一体誰なの!?」と震え声で呼びかけました。というのも、明かりのない森の真夜中というのは、それはもう言葉では尽くせぬほど不気味なものだからです。

 

「しくしく……悲しい。もう誰も、私のことなど必要としてくれないことが……身も世もなくこんなにも悲しいのです」

 

「まあ、何を言うの。おまえがどこの誰かは知らないけれど、誰も必要としないなんてこと、決してあるものですか。そうだわ!おまえ、わたしが必要としてあげるから、こっちへいらっしゃい」

 

「そうですか。ありがとうございます……」

 

 若い男は手にランタンを持っておりましたので、モルガン姫としてもほっとしました。男はなかなか身なりのほうも良いようで、そこらの農夫といったわけでもなさそうです。

 

 ですが、モルガン姫がいくら悲しみの理由をさらに深く聞こうとしても、男は答えようとしませんでした。それでも、名前を聞くとセヴァン・パーティントンと答えましたが、モルガン姫はその名前を初めて聞いたような顔をしたという、それだけでした。彼は第一回馬上槍試合の時、準決勝戦で命を落とした騎士だったのですが、彼女はその名前すら覚えてはいなかったのです。

 

 とにかく、男がしつけの行き届いた無礼でない青年であることがわかると、モルガン姫はセヴァンに自分を守る騎士としての任務を与えました。こうして、彼に守られつつ生まれ故郷のルフェリス城まで戻ろうとしたモルガン姫でしたが、翌日も、その翌日もおかしなことには目的地に一向辿り着く気配がありません。ただ、夜になるとしくしくと泣く誰かの声が聞こえ、訊ねてみると「自分の家に帰れないのが悲しい」とか、「道に迷ってしまってもう帰れないのが悲しい」とか、そんなことしか言わないのです。

 

 彼らもまた、それぞれ自分の名を名乗り、それぞれ第三回目や第六回目の馬上槍試合のどこかで敗れた騎士だったのですが、モルガン姫は彼らが自分のために戦うところも、急所に槍を受け、落馬して命を落とすところも見ていたはずなのに――名前を聞いても全然ピンと来ていない様子でした。

 

 とはいえ、どんなに道を歩いても、彼女自身城のほうへ辿り着けなかったのですから、彼らと同じ不幸の渦中に自分も巻き込まれてしまったことに、モルガン姫はようやく気づいたというわけなのです。

 

 そんなふうにして五十日目を迎えると、騎士の数は四十九名にも上っていました。そして五十日目の夜――それまで従順にかしずいていた騎士たちが、とうとうその正体を現しはじめました。その日、モルガン姫の故郷の城ではありませんでしたが、別の古城が遠くに見えたので、彼女たちはそちらへ向かうことにしました。騎士たちは狩猟が上手でしたし、その他木の実やキノコなど、必ずどこかから食料を調達してきてくれるので、モルガン姫は食べ物に困ることはなかったのです。

 

 けれども、その古城で過ごした夜のことです。夢の中に死霊の王が現れたかと思うと、国王やお妃と自分がどんな約束をしたかを彼は告げました。死霊の王はこの時嘘をついて、生まれた娘がもし結婚しなかった場合、必ず自分の花嫁にするという約束をした……と、そのようにモルガン姫に絶望的な宣告をしていたのです。

 

 死霊の王はなんとも恐ろしい顔をしており、こんな怪物と結婚だなんてとんでもないとしかモルガン姫には思えませんでした。けれども、この翌日には四十九人の死霊の騎士たちに囲まれ、モルガン姫はこの死霊の王と結婚式を挙げることになってしまったのです。しかも、その婚礼の席は招待客が化け物ばかりの、身の毛がよだつばかりのもので――テーブルに居並ぶ死霊の騎士の姿を見て、初めてモルガン姫はハッとしたのでした。この、馬上槍試合で命を落とした、勇敢な騎士たちのひとりを選んで結婚さえしていれば……きっと今ごろ自分はこんな思いをせずに済んだのだろう、ということに。

 

 その日以降、モルガン姫は毎日泣いて暮らしました。けれども、どんなに嘆き悲しみ、自分のした過去の選択を後悔しても、もうどうにもなりません。この昔話の広く伝わる地方一帯では、こう言い伝えられています。夜中に幽霊のすすり泣く声を聴いても、決して耳を傾けてはいけないと……何故ならそれは、あなたの魂を死霊の国へ導く道案内で、悲しみと後悔のモルガン姫の家来にされたが最後、もう二度と帰っては来れないだろうから、と。

 

 

 >>続く。

 

 

 

 

 


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