こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

残酷な庭で遊ぶ子供たち。-【4】-

2021年07月02日 | 日記

(※萩尾望都先生の漫画『残酷な神が支配する』のネタばれ☆を含みますので、閲覧の際は一応ご注意くださいm(_ _)m)。

 

 ええと、実は前回、「急がずゆっくり……」なんて書いたんですけど、なるべく急いで結論部までまとめたいと思います(^^;)

 

 なんでそうなったかというと――実をいうと前回の【3】までは、「残酷な神が支配する」を読んで間もなく書いたからなんですよね。でも、ここからはちょっと時間が経ってしまったもので、「あーいうことを書こう」とか「こーいうことも書こう」とか、色々細かく思ってたことを忘れてしまい、大体おおまかなところしか記憶に残ってないというそのせいです(殴☆)。

 

 なんにしても、第1巻の登場時、ジェルミは15歳だったわけですが、この年齢の経過っていうのもすごく大切なことのような気がします。ボストンへ戻って髪を赤く染め、キャスと男娼をして暮らし、落ちるところまで落ちたように見えるジェルミの生活……そこへイアンが彼を助けにきた時、ジェルミはようやく16歳でした。

 

 せめても、ジェルミが未成年でなく、何人かガールフレンドとも交際したことのある、二十歳を過ぎた大学生くらいだったら――それだってもちろん、グレッグのしたことが赦されるわけではまったくないにしても、このくらいの十代の思春期の子って、自分の思ってることをなんでも理路整然としゃべれる能力がまだ発達してないというか、とにかくそうしたところがありますよね。

 

 だから、「何故誰かに助けを求めなかったか」とか「何故逃げようとしなかったか」とか言われても……基本的に無理なんですよ。けれど、人生の迷路を悪いほうへ悪いほうへ彷徨っているようにしか見えなかったジェルミの前に、母親のサンドラの幻が現れ、息子を彼女が死んだイギリスのほうへと導きます。

 

 このあたりは物語を最後まで読んで、もう一度このあたりを読み返さないとピンと来ませんが、ある意味、「こんな人生をいつまでも送ってちゃ駄目だ。生活を再建しなくちゃ……でも、わかっててもどうにも出来ない」と悩むジェルミに、母親が微かながら啓示のように現れて、息子をどうにか良い方向へ導こうとしたようにも読めます。

 

 けれども、この時点で何より強いのは、母サンドラの「愛している(赦している)」という言葉や幻よりも、グレッグからの罪悪感による締めつけ、こちらの力のほうが圧倒的に強いがゆえに――ジェルミはロンドンへ戻ってからも、再び自分に罰を与えるという無限ループを繰り返します。

 

 そこからどうにかしてジェルミのことを救いだしたいイアンですが、セラピストの鉄則として、患者というか、クライアントと肉体関係を結ぶなどとは御法度なはずなのに、「あんたはここまで墜ちて来れないだろ!」という、ジェルミの売り言葉を買ったイアンは、彼と男同士で関係を持つようになります(まあ、べつにイアンはセラピストってわけじゃないですもんね^^;)。

 

 また、その後自己嫌悪に陥るイアンですが――読者の目からすると、セックスを通したイアンとジェルミの会話こそ、この物語の一番の読みどころでもあり、そうした身体も通した会話がなければ、ジェルミが真の意味で癒されることはないのではないだろうか……ということは、読者のほうに最初から直感されてもいる、了解事項のことのような気がします。

 

 ただ、イアンにはナディアという名前のガールフレンドがいて、最終的にジェルミか、ナディアかという選択において、イアンはジェルミを選んでいる。確か、物語の途中でイアンがナディアや彼女の家族と、ロンドン・フィルの「真夏の夜の夢」を見にいってた気がするのですが、この時の夏至祭的イメージというのは、ジェルミの持つ陰鬱な冬至的イメージと対比されている気がします(というのも、ジェルミがグレッグを殺そうとしたのがクリスマス時期だからであり、この時に殺害を決断し、そう行動できたということは、ジェルミの中で彼を支配する残酷な神を殺した日であると同時、本当の慈愛あふれる神を自ら殺害した日でもあったから)。

 

 そして、ジェルミはナディアに自分の罪のすべてを告白してもいるわけですが……彼女は泣いて混乱するだけで、ジェルミを救う存在とはなりえませんでした。ジェルミはおそらく、グレッグからひどい性暴力を受けている時、彼女のオルガンの音色に慰められた経験から、<何か美しくて清らかなもの>に縋って赦されたい……何かそうした無意識のうちにもあった動機から、ナディアに自分に起きたことを告白したように思われますが、そうした彼女の反応を見ても、ジェルミは全然ショックを受けているように見えません。

 

(ああ、やっぱりそうなんだな)と再確認したくらいなもの、というか。(普通の善良な人にこんな話したって、受け止められるはずがないのに……僕は一体何を期待してたんだろう。ほんとに馬鹿だな。その上、こんなに彼女を泣かせてしまって)といったようなところだったのではないでしょうか。

 

 ただ、ナディアにはお母さんのサンドラに似ているところがありますから、(彼女なら、もしかしたら……)との、藁にも縋る思いというのが、ジェルミにはあったのかもしれません。

 

 さて、ここまでで大体文庫版6巻くらいまでの内容かなって思います(^^;)ただ、次回はたぶん、7巻からの内容というより、ちょっとエピソード的に飛ぶかもしれません。

 

 そんでもって、書き忘れてましたが、6巻の最初のほうにジェルミが「きゅ、きゅっ、きゅー」みたいに言ってる場面があって……8巻あたりにある、マネキン人形のようなジェルミの体がバラバラになるシーンもそうですが、こういう心理描写なども、本当に見事だなあって思います。

 

「閉めるんだ、蛇口を。きゅーっと閉めないと。きゅーっと。あれもこれも、あれもこれも出てこないように」……ジェルミほど大きなトラウマを負っていなかったとしても、こうしたジェルミの気持ちがわかる方というのは多いのではないでしょうか。

 

 わたしの場合これ、「とん、とん」でした。「豚、豚」じゃなくて(笑)、頭の中で自分の心臓の形をしたものを、「とん、とん」って言いながら包丁でみじん切りにするんですよ。リズムよく、「とん、とん」。でも、そんな言葉を実際に人前で口に出して言ったりしたら、頭おかしい人だと思われるので――友達とか、会社の同僚の人とか、普通に笑顔でしゃべったりしつつも、頭の片隅で「とん、とん」ってやってるととても落ち着くのです。。。

 

 なので、7巻の最初のほうで、ジェルミが手の甲のあたりに待ち針みたいのをたくさん刺したオブジェを作ってるのを見て……あれもすごくわかるなあって思いました。わたしだったらたぶんこれも、心臓の形を作って、それに針を無数に刺しただろうと思います。何故そんなことをするかって?自分がいかに傷ついているかというのを、実際に一度視覚化できると、これもまた心がとーっても落ち着くからなのです。

 

 でも、そんなの作ってるところを人に見られたりしたら、これもやっぱり「あいつヤヴァい奴なんじゃね?」みたいに思われるとマズいので、こちらもジェルミみたいに人前でやるということはないと思います(^^;)

 

 そして、ジェルミのこうした行動っていうのは、自分で気づいてないにしても、周囲の人にSOSを送っているということでもあるわけですよね。わたしの場合は、ジェルミほど心の傷が深いわけでもなんでもないので、理性の領域で「そんな物つくったら変な奴と思われる」とわかってるので制止できるわけです。ところが、ジェルミは心の傷がそれだけ深いだけに――周りの人がおかしいと思うとか、変に感じるだろうということまで気を回せる余裕がないんだと思います

 

 性的虐待やレイプというのは、魂の殺人と言われたりしますが、ジェルミはこの魂の殺人者であるグレッグ・ローランドの肉体を完全に滅ぼそうとしました。読者の目には、グレッグは死んで当然の性の化け物にしか見えないわけですが(グレッグ イズ セックス・モンスターとかって書くと、妙に笑えて困る^^;)、それはジェルミの犯した罪よりも、グレッグの罪ほうが遥かに重く、死をもってしても償えないほどのものだと、そのように感じられるからではないでしょうか。

 

 それではまた~!!

 

 

 

 

 


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