(※「ストレンジャー・シングス」に関してネタばれ☆があります。一応念のため、ご注意くださいませm(_ _)m)
「ストレンジャー・シングス」、その後2~4まで見終わりました♪
なんというか、ネタバレ☆なし方向で感想書くのが難しい作品なため、今回は文字数の関係もあり、極めて偏ったざっくりな感じで何か書いてみようかなと思ったり(^^;)
ええと、第三部の【2】のところで、ケイト・ブッシュの曲が「ストレンジャー・シングス」の3でフィーチャーされてるって書いてしまったんですけど、4でしたねアルバムのほうは1985年発表で、マックスの聞いてるのがテープだったことに驚きました
まあ、ケイトのヒット曲の中で、「嵐ヶ丘」と並んで有名な曲なんじゃないかと思うわけですけど……この頃、ケイト自身も精神的に結構危ういというか、ヤヴァいところがあったようで、自身を癒すためのアルバムでもあったんじゃないかなと思います(^^;)
なので、マックスが心の傷を癒すのにケイトのこのアルバムを何度も繰り返して聴いてたって、なんかわかる気がするわけですそれで、マックスの心の傷の元となった義理の兄のビリー・コスギ……じゃなくて、何かとキャラ濃すぎなビリー・ハーグローブ。2では、「う゛~ん。このあと、どんな形で話に絡んでくるんだろう?」と思ったりしたのですが、3は流石の終わり方と思いました
それで、1で酷い形で死ぬことになったバーバラにしても、親友がああした形で、自分のせいで死んだとしか思えないのに、ナンシーがそのことをまったくなんの形によっても表現しないというのはありえなかったりもするわけで……そのあたり、2ではとても丁寧に描かれていたような気がしますスティーヴはまあ、1を見てた時は「コイツ、そのうちどっかで死にそうだな」とか思ってたのですが、「格好いいのに何故かモテないキング・スティーヴ」として、メインキャラとして続投中――だったりして、キング・スティーヴっていうのも何か意味深ですよね。もしかして、1に関しては「こーゆーとことか、スティーヴン・キングに対するオマージュっちゅーか、パクりっちゅーか」みたいな指摘が多かったりしたということなのでしょうか(^^;)
3では、ナンシーとジョナサンとが新聞社でインターンをしてるわけですけど……ものすごいパワハラとセクハラの嵐ww1980年代はアメリカも日本と同じく(働く女性の地位って)この程度だったのかとあらためて愕然としますが、あれなんの映画でしたっけ。刑事ものの映画で、同僚の女性の背中に「彼氏募集中」みたいな張り紙をこっそりテープで貼って、他の警官仲間と笑いあうという。こちらも確か1980年代の映画だったと思いますが、今の時代では完璧アウトというやつです
なんにしてもわたし、きっとあのイケ好かない連中は、ナンシーが物凄いスクープをつかんだことで見返されることになるんだろうななんてぼんやり思っていたのですが、それじゃあまりにありきたりでつまらないと見越して、あいつもこいつも結局「もっとずっと悪いことになっちまったぜ」な形で始末されることに(^^;)
エピソード飛び飛びで申し訳ないのですが(汗)、2~3あたりでマイクもルーカスもすっかり恋に夢中になっていて「もうTRPGは卒業かあ。残念だなあ」とか思ってたところ、4ではみんながそういう(ヲタク)クラブに入っていて、「まだ卒業してない」ことがわかって、妙に嬉しかったものです
それで、エディという二年ダブってる先輩がいて、「裏の世界」のことを「モルドール」と言ってたことも嬉しかったそして、闇墜ちした残念な美形キャラがいるわけですけど(笑)、彼こそは冥王サウロン的存在にも近く――シーズン5ではこのあたり、どんなふうに決着が着くことになるのか、予想がつかないだけにとても楽しみだったり
そして、マイクとエルとウィルの三角関係(?)ですが、これなんか、ウィルの立場の切なさが見てて結構つらかったりしますよね(^^;)ウィルくんがドラマ内でもゲイなのかどうかはまだはっきりしませんが、もし仮に強い友情の想いだけであったとしても――ウィルくんがGMとしていいシナリオ書いたんだろうに、マイクもルーカスもそれぞれの恋に夢中で、「それどころじゃない」みたいな態度で……ウィルくんが「あれはなんだったんだよ!」みたいに怒るのもあまりに当然なわけで
もちろん、マイクとエルの繋がりの特別性というのは、誰にとっても理解できるものであるといえ……ウィルの立場に立ってみれば、「親友なんかもう空気も同然!今の僕に一番大切なのは恋人であるエルだ」というマイクの態度は――気持ちはわかるにしても、ウィルにとってはあまりに酷だなと思うわけです
1を見た時から、エルがあの異次元の扉を開いた……というのは、「ん~っと、でもなんで?」、「何をどうして」的疑問というのはあったものの、4ですべてが一本の糸に収斂されていく過程は「流石!」と思いました「夢の中で死ぬと現実の世界でも死ぬ」というのは「エルム街の悪夢」から来ているそうなんですけど、わたし、「エルム街の悪夢」はシリーズ全部見たのみならず、「フレディジェイソン」まで見たにも関わらず(ちなみに「13日の金曜日」も10まで見たぜ・笑)、何分見たの昔すぎて、内容のほうはもう部分的にしか覚えてなかったり(^^;)
んで、ケイト・ブッシュのアルバム「愛のかたち(Hounds of Love)」の中に、「氷の下」という曲があるのです
それで、この「氷の下」の世界から、曲中の女性が最終的に救出された(と思う)ように――わたしは間違いなくマックスは5で救われる道が残っていると信じています
あ、あとエルが引っ越した先の学校で、いじめっ子に逆ギレ☆してローラースケートで顔をぶん殴る場面がありますが、あのあたりも良かったなあと思います。いじめた側が悪いにも関わらず、相手に傷を負わせてしまえば、いじめられた側がさらに悪いとなる……という微妙さのことではなく、エルはああしてやって当然だった、というのがわたし個人の意見です(^^;)エルの「周囲になじめない」あの感じっていうのは、よく言われる「ひよこ(凡人☆)の中に一匹だけ別種のヒナが混ざっている」ようなもので、この場合ひよこはこの異端種のヒナの頭に穴が開くまでよってたかって嘴で突つき続けることになるんでしょうし、だから頭に穴が開くどころか、円形のハゲが出来る前にああしてやって良かった……と、わたし自身は思うものであります(いい笑顔☆)。
まあ、感想とも呼べないような雑文ですが(ほんとにな☆)、シーズン5は来年(2025年)配信予定ですか。。。なんとも待ち遠しいことですなあ
それではまた~!!
↓プロレスがはじまる前の前座じゃありません(笑)。口許のマイクは、当時はまだケイトのように全身を使って踊りつつコンサートするアーティストがいなかったため、苦心してこのような形のものを作った……ということだったと思います(確か)
↓我々は一体何を見せられているのか……そう!天才のパフォーマンスとは本来こうしたものなのです。狂気と天才は紙一重なケイトの才能をファンはみんな愛してる
↓音作りがあまりに緻密すぎて、「あの女、とうとうプッツン☆しちまったらしいぜ」とこの頃ケイトは批評家から批判されたらしい。ファンからしてみれば、「黙らっしゃい!この凡人(ブタ)ども!!」という話ww
↓サビの部分の「ガブリエルがわたしの前に、ラファエルがわたしの後ろに、ミカエルがわたしの右に、ウリエルがわたしの左に」というところが、もうゾクゾクするくらい最高に好き
惑星シェイクスピア-第三部【6】-
「バランさま、時の井戸が何故つながったのか、オイラにはその理由がなんとなくわかる気がしますだ」
「うむ。かくなる上は……まずはバリンとバロンそれぞれの領地まで使いを出す必要があるな」
バランはシャリオン村の惨状についてその理由がわかると、靴の踵を三度鳴らし、白い塔の聳える昼間のシャリオン村へロックとともに戻って来ました。おそらく、あの夜に白い光を放つ石たちは――何十年、何百年、いえそれ以上もの時の中で、モルガン姫の両親のように死霊の王と直接取引していなかったとしても、何かそれに近いことをするか、そうした事件に巻き込まれた人々の魂だということなのでしょう。
ところでこの時、バランが踵を一度鳴らし、ロックとともにつむじ風のように瞬時にしてボウルズ町まで移動した時のことです。そこは何故か、廃墟のようになっていました。バランは一瞬、時の移動先でも間違えたかと思いましたが、もちろんそんなはずはありません。そこで賢い彼はこう考えました。
「死霊の王という敵は、我々が想定している以上に手強い、恐ろしい奴に違いない。無論、死霊の王なぞという以上、そんなことは当たり前なのだが、想像していた以上に人智を越えた存在だということなのだろう。つまりな、ロクスリーよ。死霊の王の奴は我々ふたりが時の流れを遡り、真実を知り、これから何かをするだろうと察知した、ということなのだ。それが、このボウルズ町までが廃墟となった理由なのではあるまいか」
「バランさま、オイラ、もうすっかり金玉が縮み上がりそうになっちまったですよ。あんな死霊の王なんていうおっとろしい奴相手に、本当に人間が何か出来るんでしょうか?」
「出来るとも」と、バランは自信をもって力強く答えました。ポン、と優しくロックの肩に手をかけながら。「いかに死霊の王であろうとも、我々人間に勝てぬことはいくつかあるのだ。まずは神に対する信仰、これが第一だ。それから、私とロクスリー、おまえとの間にある信頼や友情、それから三つ目が愛だ。こうした人間の持つ美徳の力にはいかに死霊の王であろうとも、屈服せずにはいられないだろう」
「バランさま……」
バラン・ボウルズのような高潔な人物に友と呼ばれ、ロックはすっかり感動で胸が熱くなっていました。他の人間に同じことを言われたとしたら、「信仰に友情に信頼と愛?ふうん。そんなものかねえ」と思ったくらいだったかもしれません。けれどもバランに言われると、本当にそんな気がしてくるのですから不思議です。
(とにかく、このお方に任せておけばきっと大丈夫だ。バランさまならばきっとなんとかしてくださる)と、根拠もなく、ロックはそんなふうに信頼しきっていたと言って過言でなかったでしょう。
こののち、バランは踵を一度鳴らすと、ロックとともにつむじ風のように瞬時に移動してゆき、あっという間に弟バリンの居城まで辿り着きました。もちろん、そのままバロンのいる領地まで移動することもバランには可能ではあったでしょう。けれども、時の移動も空間の移動も、まったく疲れないということではありませんでしたので、彼も少し休む必要があったのです。
バリンは弟バロンの領地に信頼できる騎士二名を使者として遣いにだすと、バランから話を聞き、びっくり仰天したものでした。
「じゃあ、こういうことかい?その死霊の花嫁になったお姫さまを救いださないことには、シャリオン村にかけられた呪いもボウルズ町にかけられた呪いも解けないっていうのかい?」
「だと思う」と、バランは深く頷きました。「あの四十九人の死霊の騎士たちは、モルガン姫のことを死してなお今も守っているのだろう。きっとモルガン姫は死霊の王が嘘をついていて、本当は花嫁になる必要などなかったということを知らないんだ。つまり、法的にいえばその契約は無効にできるはずだ」
「ええっ!?だけどさ、兄さん。相手は死霊で、しかもすでに結婚式まで化け物どもに囲まれてしちまってるもんを、無効になんか出来るのかな。しかも、そんな大昔の昔話みたいなお話なのにさ……」
その後も、バリンは自分の執務室の中をうろうろ歩きまわりながら、なおもブツブツ呟いていました。バランは弟の現実主義的思考に水を差すつもりはなかったのですが、やはりこう言いました。
「確かに、これがもしただの人間の世界の法律であるならば、死霊のような存在にとっては守る必要のない、強制力の一切ないことではあるだろう。言うなれば、盗人が縛り上げられたあとで開き直るみたいなもので、『嘘をついたがどうした。ワッハッハッ!!』といったような話ですらある……だがな、死霊の王は自分が人間と約束したことは死んでも必ず守らせている。ということはだ、逆に我々のほうでも、この場合は逆に取引材料が存在するということになりはしまいか?人間の女性が騙されて結婚した場合は、そりゃあ名誉とか純潔とか持参金返せとか、色々な問題が生じるものだろうけど……ええとだな、正直私もこの場合の霊的結婚みたいなものがどういうことなのかはよくわからない。だけど、騙して実際にはない契約を死霊の王はモルガン姫に履行させたんだ。これはきっと、神の御名の元に無効にすることが出来るはずだ」
「やれやれ」と、バリンは肩を竦めました。彼も流石に自分の現実主義を曲げざるを得ないらしいと感じたようです。「霊的純潔なんてものが存在するのかどうかすら、俺にはわからないし、それがどんなものなのかも想像すらできないよ。だけどそれはモルガン姫だけじゃなく、あの四十九人の気の毒な騎士たちにしても同様だということなんじゃないか?人間が借りた金を十倍にして返したところで、死人を蘇らせることは出来ないように……彼らだって生きて甦るってわけでもないだろう」
「バリンよ、これこそがこの話の一番肝心なところなのだ。人間は何を犠牲にしても、己の魂ですら買い戻したりすることは出来ない。だが、我々があの気の毒なモルガン姫や、元は騎士だったというのになんの因果か死霊の王に囚われることになった彼らのために祈るなら……きっと、彼らは救われることが出来るだろう。少なくとも、私はそのように信じる」
「ふうむ……兄さんにそこまで言われちゃ仕方ない」バリンは深々と溜息を着いて言いました。兄バランの言っていることが正しいのはわかるのですが、そのことに伴うリスクのことを想像すると、彼はやはり恐ろしくなってくるのでした。「バロンがここまでやって来るだけでも、ちょっと時間がかかるだろうからな。その間、みなで星神・星母の神殿に籠り、厚く祈りを捧げることをひとりでも多くの民たちに呼びかけるとしよう」
「私もそれがいいと思う。とはいえ、バロンの宝剣があってなお死霊の王に勝利は出来まいからな……その点についてはよくよく考えねばなるまいぞ」
――こうしてバリンの領地においては、神官や修道僧や修道女などの呼びかけによって、民衆が神殿のまわりに集まり、あるいはそれぞれ各人の家、集会所などで、神に向かって厚い祈りが捧げられることになりました。この時代の人々はとても迷信深かったこともあり、『そんな大昔にあった伝説みてえな話、誰が信じるかってんだ!』となる人のほうがむしろ少なかったのです。誰もがみな、モルガン姫のことを可哀想に感じ、四十九人もの騎士たちのことを気の毒がりました。また、ボウルズ町が一夜にして廃墟になったと聞き、次は自分たちの領地が死霊のえじきになるかもしれないと恐れたせいもあったに違いありません。
一方、時の中を移動中だったバロンとラヴィとロックとグリンは、こうした様子のすべてを映像としてすべて見ていました。そして、宝剣を継承したバロンの元に使者の騎士たちがやって来ると、彼は驚いてすぐにも彼らふたりとともに兄バリンの領地目掛け、旅立ってゆく姿が見えました。
おそらく、過去が変わったためなのでしょうか。バロンはひとりでなくカラドス騎士団の護衛ふたりと一緒でしたし、バリンが城を構えるガレスの城下町へ行くまでに(そこはもともとガレスの息子が所有していた土地であり、彼は町に父親の名をつけたのです)、バロンはグリンとラヴィにそれぞれ出会っていたのでした。
この時過去が変わったことで、どういった変化があったのかを流れる映像として見ていた四人でしたが、ハッと気づくとすでにロックは時のトンネルから姿を消していました。それから次にグリンがフッと消えるようにいなくなり、時の流れのあるべき場所へと帰ってゆきました。ラヴィもまた「ねえバロン、もしかしてこれって……」と口にしていたところで、バロンとグリン、それにふたりの騎士のいる夜の森の映像の中へ消えていきました。
(ええっと、これでいくとオレってどういうことになるんだろ……)
バロンは考えこみました。当然彼は今も時をかけるブーツを履いたままです。けれど、過去改変後の未来では、ブーツのほうはバランの所有になっているはずなのですから。
(まさか俺、辻褄のあわない存在としてこんなところにずっといなけりゃならないとか!?)
バロンが不安になり、もう一度ブーツの踵を三度鳴らそうかと考えていた時のことです。彼もまた、グリンやラヴィがちょうどそうであったように――<現在>の居るべき時の流れの一場面へと、やがて吸い込まれてゆくことになりました。
* * * * * * *
「ちょっとおっ、どうしちゃったのよ、バロン。なんか心ここにあらずって感じで、ボーッとしちゃって」
「ああ、うん……」
ドカッと背中をラヴィに叩かれ、バロンはハッとしました。気づくとそこは、ロックの仮住まいから進んでいったところにある林道で、これからみんなでシャリオン村へ向かうところのようでした。他に、バランやバリンもいれば、ロックにグリンといった仲間たちも全員一緒です。
(あ、あれっ!?オレもうブーツ履いてないや。ということは……)
この時、バロンは自分の背中に手をやって、一瞬心臓がドクリと力強く脈打ったほど驚きました。震える手で宝剣の黄金の柄を掴まなくとも、そこにそれがあるということがはっきりとわかったからなのです。
(そ、そうか。なるほど……そういうことなのか。今のオレには、過去改変前のラヴィやグリン、ロックと出会った時の記憶もあるが、その後の未来が変わってからの彼らとの出会いも同時に存在している。わかったよ、父さん。時を移動できるからといって、必要な時以外これを絶対使ってはいけないと言っていた父さんの言葉の意味が……おそらくそれは、バラン兄さんだって父さんからそう聞いて知っており、身に染みて今そう感じていることなはずだ)
この時、バロンは過去が変わったことで、自分が少しはマシな人間になっているかと期待したのですが、そこのところはまったく変わっていなかったらしいとわかり、自分でもがっかりしてしまいました。というのも、父カラドスの臨終の席にて、『ボウルズ家とこの宝剣の所有者として恥ずかしくない生き方を……』云々などと言っていた割に、その後彼はやはり堕落した放蕩生活を送っていたからなのです。
(やれやれ。まったく、しょうもないな。が、まあそんなオレであればこそ、わかることもあるってもんだ……何故といって、酒、ギャンブル、娼館通いその他、やめられない駄目人間であればこそ、『どうか神さま、こんなしょうもねえ人間であるところのオレを救ってくだせえ』なんて祈ることが、年に一回か二回ばかりあるようなオレであればこそ――そんな救われない状態から救われたい、蟻地獄からどうにかして逃げ出したい、そんな人間のことを必死になって助けたいという燃えるような熱い想いを持つことが出来るんだからな)
とはいえ、前方を歩く兄バランとバリンに対し、そんな自分などより遥かに立派だとも、バロンは尊敬の念とともに感じていました。地獄の死霊の王だの、闇の骸骨騎士だの、そんな聖なる武器類でしか対抗できぬような存在とは、バロンならば二度と会いたくないとしか思えなかったことでしょう。
(そうなんだよな……考えてみりゃ、前の時はまだしも良かった。<五十人もの敵を前にしても絶対逃げられるブーツ>なんて聞いてたもんで、どんな恐ろしい敵が相手だろうと必ず逃げられると思えばこそ心強かった。が、今度はそれはなく、そもそもオレにはバラン兄さんやバリン兄さんほどの剣の腕前もないってのに……)ここでバロンは今さらながらハッとしました。(そうだよーっ!!よく考えたらほんとにそうだっ!!にも関わらず、オレが攻撃メインキャラとして、最前線に立ってあのおっそろしい死霊の騎士どもと戦わなきゃならないんだっけ!!)
バロンはあらためてショックを受けるあまり、ガビ~ン!!という、まるで頭の中で割れ鐘でも鳴っているような状態に陥りました。さらに、彼がショックだったことには――「もうほんと、一体どうしちゃったのよ、バロンったら!!」と、話しかけてきたラヴィに、過去改変前、また改変に至った経緯について覚えているかどうかと聞いてみたのですが(時の不思議なトンネルのことを覚えているかどうかといったこと、その他)、彼女にしてもグリンにしてもロックにしても、さっぱり覚えてなどいなかったのです。
(つまり、こういうことか?過去改変後の未来において、ラヴィやグリンやロックの中ではおそらく、記憶の統合のようなことが起きたってことなんじゃないか?それで、過去から未来へ至る道として、それはおそらく一本道ってことになってるんだ。ただ、時をかけるブーツを所有していた人間にとってだけ、そのいくつも枝分かれする可能性のある道筋の両方が記憶として残されるんだ。なんて恐ろしい……時をかけることの出来る超越的な力の代償が、誰にも理解してもらえない、そんなひどい孤独だなんて……)
「大丈夫か、バロン?」
「あっ、ああ、うん。兄さん……」バロンは、何故か不意に振り返ったバランに、そう答えていました。本当は全然大丈夫でなどなかったのですが。「だけど、本当にあの入口の見当たらない白い塔に、モルガン姫は眠っているのかな?もし仮に四十九人いるっていう骸骨騎士を倒せたとして……」
「しっかりしろ、バロン」と、バリンもまた振り返って言いました。「俺も、ガレスおじさんが竜退治のため、冒険の末に手に入れた聖なる剣を手にしているが、それでもおそらく限界があるだろう。今回は俺とそれにバラン兄さん、それにおまえの三人が揃ってるんだ……こんな恥ずかしい言い方をするのはなんだがな、言ってみれば『信・仁・勇』の三つの美徳が揃ったも同然なんだぞ?相手が死霊だろうとなんだろうと、これで勝てないはずがない」
「う、うん。そうだね……」
(そういえば、こっちの時間軸においてバリン兄さんはまだ死霊の騎士とは戦ってないんだっけ……でも、竜殺しの剣なんてなかったとしても、兄さんは聖なる大楯だけでも十分戦える人だもんな。オラ、オラァ!!とばかり、相手が死霊だろうと悪魔の騎士だろうと、盾だけで殴りつけて倒してしまうに違いない……)
一方、バロンはといえば、そんな野蛮なばかりの勇気がもともと性格的に足りないのでした。バリンが城主の城にて話しあわれたことによれば、彼らの立てた計画としては、次のようなところだったのです。バランのブーツによる空間移動は、おそらく今際の際の追い詰められた状況においては、他の五人の仲間とも一緒に移動できるに違いありません。ですが(つまり、状況がまずくなれば最悪そうした形で一塊となり、一時退却するということです)、バリンの城から一度にシャリオン村まで全員移動できるほどの力はありません。ゆえに、そこまでは馬か徒歩によって移動する必要があること、またシャリオン村へは昼間入ること……そして、例の白い塔の前で、みなで同時に中へ入れないかどうかを試みる、とのことでした。「そのくらいの短い空間移動――つまり、壁を越える程度のことなら、六人同時でも可能だと思うんだ」というのは、バランの言葉です。また、六人同時に中へ入れたのならば外へ出ることも可能なはずだというわけで、最初にまずそのことを試す必要があったわけでした。
果たして、廃墟にも等しいシャリオン村の、例の白い塔の前までやって来ると、六人の仲間たちはバランを中心にして、彼の体のどこかに摑まりました。途端……そこはどこともわからぬ部屋の一室に変わっていたのです。
「イテっ!!」
「うわっ!!」
「何よもうっ!!」
「アイタタタ……」
「こりゃ一体どこだ!?」
「…………………」
あたりは夜のような黒い闇に覆われていましたので、バリンが持参してきたランタンにまずは火を点けました。そして、それ以前に彼らが最初に何より驚いたのは、あたりがこの上もなくひどい臭気によって満ち満ちていたことでした。バリンが鼻を片手でつまみつつ、あたりを照らしてみると――バランにとっては予想範囲内のことでしたが、そこには白骨化した遺体がいくつも転がっていたのです。
もちろん、白骨化してからそこへ放り込まれたということであれば、こんな鼻がへん曲がるような匂いはしなかったことでしょう。けれど、バランがバリンからランタンを借り、調べてみたところによると……その遺体には、拷問を受けたと思しき痕跡がいくつも残っているということでした。
「そ、そんなこと、わかるの!?」と、驚いてラヴィ。彼女はあまりハンカチなど普段使いしないタイプの女子でしたが、この時は流石にハンカチで鼻のあたりを覆っていました。
「ああ、骨の曲がり具合や、割れ方などからな……」と、眉をしかめてバラン。「とにかく、一刻も早くこんな場所からは出よう。みんな、忘れるな。心をひとつにして恐れることなく、また少しも慌てる必要すら我々には一切ないということを。我々にはあいつら死霊の騎士などより、遥かに大きな力があるということを絶対に忘れてはいけない」
「んだ、んだ」と、グリンは頷くと、鼻をつまみつつ、鉄の扉のあるほうへ歩いてゆきました。「それに、万が一の場合にはバランさまに摑まって逃げればいいことを思えば百人力だよ」
この時グリンは、まずは大男の自分がこの石壁に囲まれた監獄の扉に体当たりしてみようと考えたのですが、意外にもそこに鍵はかかっていませんでした。正確にはその昔はかかっていたのでしょうが、扉の外へ出てみると、時の経過とともに赤錆びた大きな錠前が、ちょっと押しただけでガチャリと床に落ちたのでした。
廊下のほうも牢獄内と同じく、タールで塗りこめたかのような真っ暗闇でした。月の光のない夜でも、これほどの闇を見、感じたことのある人はいなかったことでしょう。六人は口に出しては何も言いませんでしたが、それは物理的な闇というよりも精神的な闇――もっと言うならば、霊的闇にも近い何かだったのです。
「……ねえ、もし出口なんてなかったとしたらどうする?」
いかにも不安げな顔をして、ラヴィが自分の両腕を抱きながらそう聞きました。六人はバリンを先頭にして、ひとつひとつの部屋を調べてみましたが、どこも同じく、陰気な地下牢のようにしか見えませんでした。そしてもう一度、例の赤錆びた錠の落ちた場所へぐるりと廊下を回って戻ってきたのでした。
「あの白い塔は」と、ロックもまた、自分の両腕をさすりながら言いました。気のせいか、気温が下がってきているような気がします。「一輪挿しの花瓶みえてに、下のほうがでっぷりしてて、上へ行くに従ってほっそりした塔みたいな構造だったはずなんだ。ということは、オイラたちは今どこにいるってことになるんだろ?」
「移動してみよう」とバランが言いました。「この際、物理的にありえないといった考え方は捨てたほうがいい。私が思うには……あの白い石というのは、人の魂や思念といったものを閉じ込めたものなのだと思う。そして、あの白い塔はそれを塗りこめて壁の材料にしたものなのではないか?つまり、その中の誰かが死んだ時の物理的な場所や記憶の反映なのではないかという気がする……あくまでも、憶測のひとつに過ぎないが」
「俺も兄上に賛成だ」と、バリンも同意しました。「下層階にいるのは、大抵が雑魚の警備兵と相場が決まっているものだ。もしモルガン姫がいるとしたら……それはより上の、おそらくは最上階のあたりなのでないかという気がするからな」
みながバランの意見に賛同したため、再び彼を中心にして、空間移動を試みようとした時のことでした。『あのお~』というどこか控え目な声が、闇のどこかからしてきたのです。
「誰だ?」
バリンが思わず剣を抜いてそう聞きました。それというのもその声は、危険なほど近くからしてきたからなのです。
『あのお~、もしもしィ?ちょっといいですかァ~?』
「一体何よ、あんたっ!?今、すっごく大事な、大変なところなんだからねっ!!」
声がしてきたのは、実はラヴィのアメジスト色の魔法の指環からでした。バランもバリンも、死霊の指環の首ちょんぱ能力については聞いていましたが、そこに誰か死霊の住人が住んでいるなどとは、流石に想像してもみなかったのです。
『ブツブツ。ひどい……いつもワタシのしゃべる声が小さいっていうけど、そんなの、ラヴィに聞く気がないからなかなかワタシの声が届かないってだけなのに……』
「い、一体誰なんだ、おまえは……」
指環の宝石から声が聞こえるなど、バリンにとっては不気味以外の何ものでもありません。けれども、この時なんと!!この死霊は指環の中から出てきて、その姿をみんなの前に見せていたのです。
「うっわー……あんた、最初に会った時以来、あんましよく見てなかったけど、ますますキモさに磨きがかかってるんじゃない?」
『放っておいてください』と、指環の死霊は半分肉の崩れた顔で続きをしゃべりました。『まあ、ワタシのこの、気味の悪いヴィジュアルにはしばし我慢していただくとしてですね……イッヒッヒィ~!!』指輪の死霊はここで数秒かけ、おどろおどろしい姿を縦や横に引き伸ばして不気味に大笑いしました。ですが、誰からもなんの反応もありません。『あ、なんかあんまし受けなかったみたいですね。それはさておき、このタワーについてはワタシのほうが構造についてよく知っています。そちらの立派な方が先ほど申されたとおり、ここにモルガン姫は眠っておられるのです』
「それで、一体どこにいるんだ?」
バリンが話の先を促すと、『ご案内いたしましょう』と言って、指環から半分体の出たまま、死霊の指環の主は進むべき場所を手で指し示しました。よく見るとそこには、錠の形をした窪みがいくつも付いています。
『初歩的なトラップです。どこの牢にも、錆びた錠前がかかっていたと思いますが、それをこの壁にすべて嵌め込めばいいのです。ただし……』
死霊の言葉を最後まで聞かず、「オラ、持ってくるだ!!」、「オイラも!!」と、ふたりがバリンの手からランタンをひったくるようにして奪ったかと思うと、通路の先へあっという間に消えてゆきました。そして、暫くシーンとした沈黙ののちのことです。「うわっ!」、「ぎゃあ!!」、「ほんげえっ!!」、「オラオラオラッ!!」、ヒュンッ!!、ズビシッ、バゴズゴバゴ……しーん。「うわっ!」、「ぎゃあ!!」、「ほんげえっ!!」、「オラオラオラッ!!」、ヒュンッ!!、ズビシッ、バゴズゴバゴ……しーん。といったようなことが、五~六度ばかりも繰り返されてのち、ロックとグリンは錠前を六つばかり手にして戻ってきたのです。
「い、一体何があったんだ?……」
バリンが戻ってきたふたりにそう聞きましたが、とりあえずグリンもロックもまったく無傷で、とても元気そうでした。ふたりとも、少しでも何かの役に立てることが嬉しくて堪らなかったのです。
「死んでるとばかり思ってたガイコツどもが襲ってきただよ。そこで、オラのこのこん棒でバゴバゴ殴って文字通り粉々してやっただ」
「オイラも、この弓矢で脳天を一撃にしてやったんだ」
――といったようなわけで、バリンが錠前を受け取り、ひとつひとつ壁の窪みに埋め込んでいきますと、どこかから「ヒィ~」と不気味な悲鳴がするのと同時、ゴゴゴゴゴ……ッ!という物凄い地響きとともに奥の壁が横にずれ、そこに階段が出現しました。
「す、すげえな。なんだかまるで、地下にいる悪霊や死霊のような連中が、今の地震で全員目を覚ましちまったんじゃないかというくらいの……」
『はあ。ある意味、バリンさまのおっしゃる通りです。今の音は塔にいる全員に、侵入者のあったことを知らせる役目も果たしとるもんで……』
「な、なんだって!?」
「ちょっとお。あんた、そういうことはもっと早くに言いなさいよねえ。そんで?あんたはあたいのことを色々知ってるかも知れないけど、そういえばあんたの身の上については聞いたことなかったもんね。そんで、あんたは結局のところ一体どこの何者なのよ?」
階段のほうは螺旋状に伸びており、大の男が並んでふたり……こう申してはなんですが、まあ2.5人と言いますか、ふたり+0.5人くらい並べるくらいの広さがありました。
「言うまでもないことかもしれないが、これは我々に不利だぞ」
バランが、剣の柄に手をかけたまま言いました。彼もまた、伯父ガへリスの残した竜殺しの剣を持っていたのです。
「相手は人間ではない死霊や骸骨騎士が相手だということもそうだが……物理攻撃においては、階段の上にいる者のほうが当然優位となる。何を言っているかわからんかもしれんが、攻囲軍側が、城壁を登攀して城壁上にいる兵士を剣や槍で攻撃するのにも似て、こちらの剣を相手の首に届かせるより、向こうのほうがこちらを攻撃しやすい立ち位置になるということなんだ」
「兄さん、それはわかってるけど……」
ここで、ずっと黙っていたバロンが、初めて口を聞きました。
「オレに考えがある。みんな、この階段はふたり並んで歩けるけど、一列に詰めて並んで欲しい。オレの後ろは、道案内っていう意味でもラヴィがいいかな。で、三番目がロックがいいと思う。あと、後ろのほうは後ろのほうでもうひとつランタンに火を点けて照らしてくれ。一度通ったところに敵はもういないのではなく、また何か敵の攻撃があるかもしれないから、気をつけて」
しんがりはグリンが務め、その前をバランが明かりを手に持ち、後方についても注意するようにしました。列の四番目がバリンです。というのも、竜殺しの剣が死霊その他の怪物らに対しどの程度効果があるのか、まだ未知数であったため――このような並びになったというわけでした。
「注意しろよ、バロン」
「うん。ありがとう、兄さん……」
バリンの考えでは、自分とバロンが並んで先頭を進み、時に応じて自分が弟を守り、そうしていながらバロンが宝剣で攻撃する――と考えていたのですが、まずは弟の言うとおりにしてみようと思ったのです。
バロンのこの考えは、実際のところうまくいきました。というのも、まず最初に、不気味な薄紫の肌の、でっぷり太ったナメクジのような怪物が出てきたのですが……バロンが剣の鞘を抜くまでもなく、そいつの飛び出た目玉がピカッ!と不気味に光ると同時、剣で足払いを食らわせてやった時のことです。
途端、ナメクジの怪物はゴロゴロゴロッ!と階段を真っ逆さまに転げ落ちていきました。次に粘液状の怪物が襲ってきた時にはバロンも焦りましたが、これもまたロックが弓に矢をつがえ、そいつの一つ目玉を射た途端、すぐ無害なヌルヌルの液状になってしまったのです。
大抵の怪物や化け物たちは、このような形で倒されてゆきました。体中目玉だらけの怪物や、体中大きな口だらけの化け物もいましたが、聖なる宝剣によって体のどこかを一刺しされただけで――体が破裂して消えてしまう場合もありましたし、まるで霧のように雲散霧消する場合もあったりと、確かに相手の姿に恐怖せず、勇気さえあれば十分戦えるようでした。
敵が一体のみならず、他にもう一体いたり、子分を引き連れていることもありましたが、そんな時にはロックが弓矢で射てくれましたし、指環の死霊も巨大な骸骨になったかと思うと、相手を食い散らかして飲み込み、指環の中へ封印してしまいました。敗者復活戦とばかり、どこまでも下へ転がっていったように思われた怪物が、再び体を引きずって戻ってくることもありましたが、そんな時にはグリンがこん棒でボコボコにし、そのまま蹴飛ばして終わりです。
バランとバリンも、自分たちの竜殺しの剣が怪物に効果があるかどうか確かめるのに、「えい!」、「やあ!」とばかりグサリグサリとこの怪物らを刺してみたところ――「ギャアッ!」、「ヒィッ!」と叫びつつ、階段を下へ転げ落ちていくのを見て……自分たちも十分戦えるようだと確認してもいたのです。
こうして、怪物や化け物たちを五十体ばかりも倒して先へ進んでいくと、やがて、いくつもの部屋の並んだ通路へ出ました。彼らは再び、例の四十九体もの死霊の騎士と戦わねばならぬと考えていたため、非常に用心していたのです。何分、先頭のバロンは少しずつではありますが体力が削がれてきていましたし、死霊の騎士に対してはバランとバリンも対峙して戦おうと考えていました。
ところが……。
>>続く。