昨年夏に出版された内田樹の『コモンの再生』について、面白いところがふんだんにあって何度も読み返している。
以前に、この内田樹の『結婚は安全保障』という考え方に触発されて当ブログ記事にした。その続きとして内田樹の文章が実にわかりやすく面白いので少し長くなりますがそのまま掲載します。
『結婚は安全保障上のリスクヘッジです。夫婦が同時に失業するとか、同時に病気になるということは確率的にあまり高くありません。一方が要支援の状態になったときにでも、他方はパートナーを支援できるくらいの経済力と健康がある。どちらかの身にも同じことが起き得るわけですけれど、その時期が「ずれる」なら、短期間に生活が破綻して、ホームレスになるというリスクを回避できる。
今の日本は残念ながら、社会制度が整備されていません。生活保護制度はあることはありますけれど、受給者に対するバッシングはすさまじいものです。失敗した人間は自己責任で路頭に迷え、弱者に税金を投じるのは無駄だというようなことを広言する人たちがネットどころか政策決定過程にまでひしめいているという「後進国」です。自分で自分を守る手立てを考える必要がある。貯金なんかしても安心できませんよ。国のシステムそのものが破綻しかけているんですから。
これからの日本社会でリスクヘッジをしようとするなら、とにかくわが身に「もしものこと」があったら、支援してくれる人の頭数を増やしておくこと、それに尽くされます。相互支援のネットワークを構築して、そのメンバーとして積極的に活動すること。それが1番のリスクヘッジです。
たしかに面倒ですよ。相互支援ネットワークは「もしものとき」に備えての保険ですから、「もしものとき」が来ない限り、ずっと「支援の持ち出し」になるんですからね。出した分だけはきっちり回収したいというような合理的な頭の作りの人には相互支援ネットワークは作れません。
でも結婚も同じなんですよ。結婚の本質は「成員二人の相互支援ネットワーク」です。だから、わが身に「もしものとき」が来るまではずっと「持ち出し」なんです。
「持ち出し」の様態はさまざまです。収入が多い方の配偶者は「よけいに負担している」と思うし、家事労働が多い方の配偶者は「よけいに負担している」と思う。気づかいの多い方は「よけいな気を使わせられている」と思うし、我慢している方は「よけいな我慢を強いられている」と思っている。
でもご安心ください。全ての夫婦がそうなんです。例外はありません。「うちの場合は、全部旦那の持ち出しで、私は左うちわなの、ほほほ」なんていう妻はおりませんし、「妻が稼いで、家事をして、オレのエゴをなでてくれて、オレは何もしてないんだよ、ははは」なんていう夫もおりません。
すべての配偶者は「私の方が持ち出しが多い」と思っています。でもそれでいいんです。そういうものなんです。相互支援ネットワークというのは「まず持ち出し」から始まって、主観的には「ずっと持ち出し」なんです。それが嫌だという人はこのゲームのプレイヤーにはなれません。』
見返りを少しも期待しない持ち出しか、心と懐に遊びや余裕がないとなかなかそういう風にはいかないとも思う。結婚が安全保障上のリスクヘッジというのも、若いときやミドルエイジまではピンとこないかも。
歳を重ねて身体のあちこちに不具合が生じると内田の説はよくわかりますよ。