今日、ここに発表する写真は、1977年『神への告発』というタイトルの本の著者・箙田鶴子さんを広島へ訪ねた時の作品。
当時私は25歳、神戸の写真学校の助手として雇われ安月給ながら、初めて経済的、時間的に安定していたこともあって
写真家として自分の作品作りを模索していた時期であった。
自分で現像することを前提にしていたので写真はモノクロ、テーマはあくまで『人間』・・・と、そこまでは決めていた。
それにしても箙(えびら)さんの本を読んで、感銘を受けたからと言って著者に会いに行った当時の自分の行動力に驚く。
子供の頃の私は自意識過剰気味で、人と相対することが苦手な質であったから、後にカメラを人に向ける写真家を目指す
ことになる事自体が以外であったのに…。
でもそこには自分なりのトリックがあって、『写真機の後ろに自分を隠す』術をあきらかに使っていた。
こういった行動力がその後もずーっと続いていたら、今頃はもしかしたら有名写真家であったであろう。
箙さんの本のどこに感銘うけたか?詳細は覚えていないが、脳性小児麻痺という障害に生まれついた彼女自身の半生を描いた
自伝小説風の内容は、若造の私にとって衝撃的であり、その困難を乗り越えようと必死に生きる姿に圧倒されたのだろうと思う。
当時彼女は足で絵を描いて、生計のたしにしていたようだ。
どこからともなく彼女を手助けするボランティアの人達が集っていた。
車椅子が物凄く重く、路肩が傾いていると危なかったことを覚えている。(私と箙さんの写真)
今ではその経緯を覚えてないが、この写真の青年の家に一泊させて頂いた。
『神への告発』という強烈なタイトルの本を書くほどの人であるから、彼女の性格にも頑な一面があることは感じた。
そうであるからこそ、障害者として社会で虐げられる不条理をこの著書で訴えることが出来たのだ・・・。
彼女に会いに行き、本に書かれているような人間の憎愛物語が、彼女の現実生活に起こっているような錯覚(?)に
私は陥(おち)いった体験・・・は今でも忘れられない。
これらの写真は今日まで未発表であるが、これを発表する肝心の『行動力』・『想像力』の欠如が
写真家として無能であることの決定的要因であった、と今にして思う。
彼女の存在を実感された…とのことですが、
写真の素晴らしいところですね。