逝きし世の面影

政治、経済、社会、宗教などを脈絡無く語る

ソマリア沖の靴投げ

2009年02月06日 | 軍事、外交

早い話が:ソマリア沖の靴投げ=金子秀敏 (専門編集委員)毎日新聞 2009年2月5日

海賊の出没するソマリア沖に海上自衛隊の護衛艦を派遣することになった。
場所が瀬戸内海だったら海上保安庁の巡視船が取り締まるところだが、ソマリアはあまりにも遠い。だから、遠洋航海向きの護衛艦を出すのである。

ところがマスコミの解説のなかに「ソマリアの海賊は重武装なので巡視船では歯が立たない、だから護衛艦を出す」という議論を見受ける。この論理はおかしい。
「重武装」というと、金銭目当ての強盗集団が、あたかもテロ戦争のゲリラ軍のように映る。
両者は似て非なるものだ。
海賊は警察力で取り締まる対象である。一方、ゲリラ軍は軍事力で掃討する交戦相手だ。護衛艦は海上警備行動という警察行動に行くのであって、対テロ戦争に出陣するのではない。
ソマリアの海賊はあくまで強盗である。
昨年12月半ば、ソマリア沖で貨物船「振華4号」が襲撃された。セントビンセント・グレナディーン船籍だが、船主は中国企業。約30人の乗組員は船長以下みな中国人である。
高速ボート2隻が振華号に接舷した。
船腹にロープをかけて9人の海賊がよじ登ってきた。船員は高圧放水で応戦したが、海賊は甲板に上がりAK47自動小銃を構えた。船ごと船員を拉致して、船主から身代金をとる腹だ。
船長は国際海事局にSOSを出した。
船員は、船橋からビール瓶に可燃油をつめた即席の火炎瓶を投げた。海賊は艦橋の船長に向かって叫んだ。
「シューズ!」。「シュート(撃つぞ)」ではない。「靴をくれ」という要求である。
船長は自分の靴を投げつけた。海賊は裸足だった。甲板には火炎瓶が割れガラスの破片が散乱していた。
足が痛くて動けなかったのだ。
数時間後、マレーシアの駆逐艦から飛び立ったヘリが現場に着き、威嚇射撃し海賊は退散した。船員には船主から高額のボーナスが出た。
海賊はソマリアの陸の上で暮らしている。
身代金で建てた豪邸がある。高級車を乗り回す海賊青年は娘たちのあこがれの的である。海賊希望者は後をたたない。だが、破綻(はたん)国家には取り締まる政府がない。
海賊問題の本質は海上ではなく陸上にある。
国際社会の外交の力でソマリア問題が解決しなければ、海賊の脅威もなくならない。麻生太郎首相は護衛艦を戻すめどはあるのだろうか。ソマリア沖作戦の「出口戦略」はイラク撤収の時より難しいのではないか。

『ソマリア沖であわや軍事衝突』

インド潜水艦?と中国艦隊 2月4日(香港4日時事)
4日付の香港各紙によると、アフリカ・ソマリア沖で1月15日、海賊対策のため派遣された中国海軍の艦隊が、ある国の潜水艦に追跡されていることを察知して逆に潜水艦を包囲し、一時攻撃態勢に入るという事件があった。
中国紙・青島晨報の報道として伝えた。
 同紙は潜水艦の国籍には言及していないが、インド海軍が保有するロシア製のキロ級潜水艦だったことを示唆している。 

 『海賊対策:中国軍の駆逐艦、台湾船など護衛』

ソマリア沖 毎日新聞 2009年1月13日
新華社通信によると、海賊対策のためにソマリア沖に派遣された中国海軍の駆逐艦2隻が12日、台湾商船を含む4隻を護衛した。
中国の軍艦が台湾船を護衛するのは初めて。中国政府は派遣前、申請があれば台湾船も護衛すると表明していた。
護衛任務は今月6日に続き2回目。台湾商船「宇善」のほか中国商船2隻、中国船籍のフィリピン商船1隻を一列に並べ、駆逐艦2隻が紅海の出口から約1000キロにわたって伴走した。
中国艦隊幹部は「海上輸送路と船舶往来の安全を守ることは、海峡両岸(中台)の同胞を含む平和を愛する人々の共通の願いだ」と語った。

『撃沈「海賊船」実は漁船』 

ソマリア沖でインド海軍 2008/11/26 (共同)
国際海事局(IMB)海賊情報センター(クアラルンプール)は26日、インド海軍のフリーゲート艦INSタバールがソマリア沖で18日に「海賊母船」として撃沈した船がタイの水産会社に所属するトロール漁船Ekawat Nava5(566トン)だったと明らかにした。
乗り組んでいたカンボジア人1人が4日間漂流後に他の船に救助され事実関係が明らかになった。
その他の乗員はタイ人1人が死亡、14人が行方不明になっている。
海賊情報センターは18日、漁船が海賊に乗っ取られたとの情報を受け、付近をパトロールする米海軍などの艦隊に漁船の情報を伝えた。
しかし、独自にパトロールをしているインドやロシアは直接の通報ルートに入っていなかった。
PTI通信などによると、インド海軍は、ロケット砲や銃を持った海賊が威嚇してきたため、「自衛」のため、沈没させたとしていた。
海賊情報センターのノエル・チュン所長は「各国海軍の連携が重要だ」と語った。

『インド海軍、海賊船(タイの漁船)撃沈は当然』

国際海事局(International Maritime Bureau、IMB)はアデン湾でインド海軍の軍艦が撃沈した海賊の「母船」は、実はタイ船籍の漁船だったと発表した。
一方、インド海軍は同日、同船は敵対的だったと主張した。
インド海軍報道官は「(撃沈した)船は複数の海賊情報で警戒されていた船と似ていた」と述べた。
また「われわれは、船舶に対し臨検のため停船するよう何度も呼びかけたが、乗員はこちらの船を粉砕すると言って威嚇してきた。船の甲板にはグレネード・ランチャーを持った海賊たちがいた」
と述べ、攻撃を受けるまで海軍側は発砲しなかったと強調した。問題の船舶には爆発物も確認されたという。
また、別の海軍関係者も「攻撃を受け沈んでいく船の映像を見ると、非常に大きい火柱が立っていることが分かる。つまり、船には大量の武器が積まれていたということにほかならない。ただのトロール漁船があんなに激しく爆発するわけがない」と述べ、IMBの主張を一蹴した。
インド海軍がソマリアの海賊船を撃沈したというニュースは、国際社会から高い評価を得ていた。
インド国防省関係者は「重要なのは船が何であったとしても、それがわれわれを攻撃しようとし、われわれの行為は正当防衛だったという点だ。
あの船舶は公海上の海賊船でその行為は挑戦的だった」と語った。(AFP)

『ソマリア沖の撃沈海賊船は民間のトロール漁船』

【ニューデリー 11月25日 IANS】タイで水産会社を経営するWicharn Sirichaiekawat氏は、沈められた船が自社の所有するトロール漁船「Ekawat Nava 5」だったと主張している。
Wicharn氏はインドのテレビ局に対し、船はオマーンからイエメンに漁業機材を搬送する途中、ソマリア沖で海賊に乗っ取られたと説明。
INSタバールに発見された時、船はすでに海賊の手中に落ちていたとしている。

Wicharn氏はまた、INSタバールからの砲撃で船の乗組員が1人死亡、14人が現在も行方不明になっていることを明らかにした。

『漁船の炎上爆発』

漁船の爆発といえば、ちょうど1年ほど前に日本の根室沖でサンマ漁船が激しい炎上の末に沈没した事例があり、その時の火災の様子が今回のインド軍提供のタイ漁船炎上の様子と酷似しています。

ソマリアの海賊行為において、船と乗組員を抑留して身代金を要求するのは当然予期せねばならない話です。
海賊に乗っ取られた船内に乗組員なり乗客なりが居ることを想定する事が当然であろう。
「知らなかった」では済まされない。
強行接舷もあるが、最悪犯人の逃亡を見逃したり船も盗られても、『人質』の生命を守るのが警察活動の基本であろう。

戦争をする為の軍隊と、治安活動が任務の警察では元々目的が違う。
民間人の命を優先する警察活動と、全てに優先して敵を殲滅する(殺す)事が主任務の軍隊による軍事行動の根本的な違いによる不幸である。

『海賊対策』

海賊対策で自衛隊派遣は愚策中の愚策。
これには、明らかに海自の戦闘艦船の本格派遣を急いでいる不純な動機が見て取れる。
新聞報道によると、中国海軍の派遣を見て対抗上日本の無力をさらしたくない、という隣人に対するみえみえの妬み。
さらには、これを機に改憲論議に引き込みたいという底意もうかがえる。

少し前まではマラッカ海峡の海賊が有名で、何しろ此方の方は数百年の長い歴史もあったが最近はインドネシアや等の周辺緒国の努力で激減している。
これには周辺諸国の連携とそれを、技術的、資金的に援助した日本の努力も大いに貢献している。
ソマリアの海賊で読売などが中東の石油がらみで報道していましたが、日本のオイルはイランのホルムズ海峡が殆んどで、ソマリア沖は関係ない。
読売報道はなんとも胡散臭い。

日本で海賊と言えば瀬戸内海の村上水軍が有名ですが、なにも、略奪ばかりしていたわけではなく海賊衆は元々、地元の漁師や地侍である。
海域を通行する船舶から通行税をとって水先案内等の通行の安全の便宜も図ってもいたらしい。
この辺の事情は現地中東でも同じで、UAEとかカタールなども元海賊で、商売もやってましたから村上水軍などとほぼ同じ。

『海賊行為は現地では擬似公共事業』

費用対効果の話ですが『志村建世のブログ』でイスラエルは1兆円以上の予算を使って自分の安全保障(軍事力)を行っているが、ガザを攻撃する代わりに同じお金で150万人のパレスチナ人を援助した方が安上がりであるとの記事が有りましたが、納得させられる説です。
パキスタン大地震の時に中東産のテントをわざわざ日本まで運んでから自衛隊機で3日もかけて運んでいた事例が有りましたが、無駄遣いの見本ですね。
イラクの給水事業の例でも判るように軍事(自衛隊)は何をやっても高くつきます。金だけ送った方が余程喜ばれる。

『ソマリアに通行料を払う』

ソマリアに通行料を払う方が余程安くつくでしょうし、地元の実情にも合致しています。
仏教の喜捨やキリスト教の慈善、奉仕と同じように、地元ソマリアのイスラム社会には『ザカート』の考えが有り、金を持っている者は持たざるものに対して喜捨する義務がある。
ザカートの考え方が有るアフガンやパキスタンでは、困った事に誘拐で身代金を払うのが常識らしく、パキスタンのアフガニスタン大使が部族地域で地元部族に捕まって身代金を払う事件まで有りました。
イスラムの教えでは、金の有るものが、貧民に喜捨するのは魂の救済で大事な『行』でも有り『義務』でも有るので『金持ちから身代金を取る行為』はそれ程罪の意識はないようです。

コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ブッシュ政権にみるマニフェ... | トップ | 日本は官僚社会か?  »

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
海賊というと (kaetzchen)
2009-02-06 14:37:59
インドネシア海軍が東ティモールを追い詰めた時に,自ら海賊となって「税金」を盗りまくったという話は結構有名ですね.

要するに,誰が「海賊」「テロリスト」と呼ばれるかという,レッテル貼りの問題に過ぎない気がします.
返信する
海洋国家としての日本 (ブログ主)
2009-02-07 13:17:43
海賊なんて日本と縁遠い話と思っているが、東アジアで一番有名なのは日本の倭寇ですね。
何しろ中国の漢民族の大明帝国が衰退した滅んだのも朝鮮の王朝が滅んだのもみんな日本の海賊(倭寇)が絡んでいるという説も有るくらいです。
陸の世界と違い、海には何処にも柵も仕切りがないので、多くの西日本の漁師は倭寇と関係が有ったようで、密かに倭寇とか密貿易とかをやっていたらしい。
我が家の先祖も、親父の話によると祖父の代まで広島県の島で網元だったので独自の船印も有り、その昔は間違いなく海賊だったのだろう、との事です。
返信する
ソマリアについて調べてみると (kaetzchen)
2009-02-11 20:34:18
どうも91年の内戦で政権が崩壊して以来,領海を守るための海上護衛隊が機能不全に陥ってしまったらしいんですね.

ところがそれを良いことに,ギリシアや日本などの漁船がソマリア海域に集結して,魚を獲りまくった.長い不況の90年代に回転寿司が儲けを出していたのは,このソマリア産の魚のおかげだったらしいのです.もちろん,回転寿司店が開発した寿司握り機が世界中の大都市へ行き渡り,スシバーブームが世界中で爆発したこともあるらしい.しかも魚を採り尽くしてしまった海域に,フランスが核廃棄物を棄てたもんだから,さすがにソマリアの人々は怒った.

(ここまではアル・ジャジーラの引用)

だから「海賊」というより「誘拐団」という方が実状に合っているんじゃないかなぁ.結局,人質の身の代金をインターネットで交渉しては「無事に人道的に」人質を帰すらしいし.そういう意味ではブログ主さんの言われる通り「ザカート」の概念で考えるべきで,刃を向いてケンカを仕掛けるべきなのは無責任に核廃棄物を棄てた誰かさんですよ(笑)
返信する
小さくしか報道されませんが (ブログ主)
2009-02-12 10:51:07
海賊問題で日本や西欧が軍艦を派遣して軍事対応しようとしている同じ時期に、対岸のイエメンに行こうとしていたソマリアの難民船が沈没し300人ほどが水死しています。
難民の乗るボロ舟では、少しの嵐でも簡単に沈む。
海が荒れるとひとたまりも有りません。
対岸のアラビア半島だけではなくアフリカ大陸のケニアやタンザニアにも逃げていっているようです。
ようはソマリア国内では食えないのですよ。今のソマリアの最も有力な国内産業は海賊かもしれませんね。
日本や西欧は海賊問題が最重要問題かもしれませんが地元ではそうではない。
人は食う為にはなんでもします。これをナントカしないとどうしようも有りません。

それに海賊は犯罪ではあっても戦争ではない。
海上警察である沿岸警備隊や海上保安庁の仕事です。
特に日本の海上保安庁は2000キロ以上有る世界有数の広い領海を持っているために遠洋での警察活動も可能でしょう。
日本は、国土は狭いかも知れませんが海も含めた領海だと大国なんですよ。

戦争対応の軍が出て行けばインド海軍フリーゲート艦のように被害者の船員もろとも撃沈なんて事は当然起こります。
まあソマリア沖を含めてアラビア海もインド洋なので、インド海軍としては自分の海と思っているのかもしれません。
返信する

コメントを投稿

軍事、外交」カテゴリの最新記事