逝きし世の面影

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ブッシュ政権にみるマニフェスト・デスティニーの呪縛

2009年02月04日 | 宗教
『ラムズフェルド発言の深層』

9・11事件を口実にしたイラク侵略戦争開戦時の、戦争に反対するフランスやドイツに対する例の有名な『古臭いヨーロッパ』というラムズフェルド国防長官の発言の真意は、案外奥が深い。
発言は正にマニフェスト・デスティニーの呪縛であり、自らの文明的・道徳的(宗教的)な優越感であろう。
いずれにしろアメリカの文明理解は、19世紀後半以来、現在まで基本的にはまったく変化していない。
現在のグローバリゼーションとアメリカナイゼーションの問題は、正にこの延長線上に位置している。
アメリカは21世紀の今日まで、一度たりとも自分以外の諸文明を相対的に、或いは並列的に考えた事はない。
常に『どちらが優れているか、劣っているか?』、『どちらが新しいか、古いか?』の様な「正邪」「優劣」「新旧」等の善悪の垂直の関係で有ると考え、しかも断定的にアメリカ文明は世界の諸文明の最高峰であるとする。
その為にアメリカは自分の文明を誇る事は出来ても、自分の文明を相対的(科学的)に考えるなどは、始めから問題外であった。

『ブッシュ演説から見えて来る文明の中身』

ブッシュは9・11以後にテロ攻撃を『文明(アメリカ文明)に対する攻撃』であると盛んに演説していたが、同時に『大儀』(Cause)という言葉も盛んに使っていた。
ブッシュの使う『大儀』(Cause)と『国家の存在理由』とは殆んど同義語であり、内容的には『自由』『理想』が強調されている。

(9・11一周年のブッシュ演説から抜粋)

『アメリカへの攻撃は、アメリカを国家として成立させている理想に対する攻撃で有る。
その理想とは『自由と平等であり,それが存在しているかどうかが、今戦っている敵とアメリカとの最大の相違である。』
『この自由と平等を私たちに与えたのは創造主(神)である。』
『私たちは、今この時、神が私たちを一つにしてくださる事を知っている。
今夜、ここで祈りを求める事は、神が私たちに目を注ぎ続けてくださる事だ。
私たちの国家は強力である。しかし、私たちの大儀は国家よりも偉大で有る。』(Our cause iseven Iarger than country)
『その大儀とは、人間の尊厳であり自由である。このアメリカの理想はすべての人類の希望で有る』

『この自由と平等を私たちに与えたのは創造主(神)である。』は独立宣言の中の同様な言葉からの 引用である。
ブッシュ演説は『文明』と『正義』そして『大儀』という言葉が何回も語られ、しかもそれが『全世界の希望で有る』として普遍的で有るかのように装う。
いわゆる『アメリカ型民主主義』を世界に広めていく『グローバリズム』のアメリカであろう。
『光』(キリスト教のアメリカ)と『闇』(イスラム教?の敵)の二元論がブッシュの世界観の特徴である。

『マニフェスト・デスティニー』

★自分たちの国とはどんな国か。?
★我々は何者であって、どこに向かっていかなければならないのか。?
★世界に対するアメリカの使命とは何か。アメリカの大儀とは何か。?

この様な自分自身の、出自来歴や存在理由や使命(大儀)を考えるなどは、普通は大人に成る前の思春期の青少年によく見られる現象(特徴)で、未熟ではあっても微笑ましい人間としての健全な発展段階である。
しかし4~50歳の普通の大人が、思春期の少年と同じ疑問を持ち続けるとしたら如何であろうか。?
新興宗教の教組にでも成る気ならともかく、現実の普通の一般社会で生活していたら不思議な可也の変人と思われる。
一般社会人の大人で、思春期の少年期と同じ疑問や理想を持ったいたら、関係ない他人からは称賛されるかも知れないが、身近な家族にとってこれ程『困った迷惑な話』はない。
大人なら、例え譲れない理想があったとしても、理想とは違う現実と上手く折り合いを付けて、他人と喧嘩せず生きていくすべを知っている。
しかし、今まで自分の主張を全て実現してきた、わがままのし放題で育った自己中の子供は違う。
自分の親父(アメリカ)が少年の理想や疑問(少年の心)を持っていたら、微笑ましいどころの話ではなく、子供(日本)にとっては単なる災難である。

しかし、アメリカ合衆国は国家として、なんと思春期時の未熟で愚かな少年同様な思考方法を、昔から現在まで一貫して、真面目に疑うことなく行っている。
しかもアメリカは非力で内気な少年ではなく、世界中の軍事予算の半分を使って世界最強の軍事力(破壊力)を持った唯一の超大国(世界帝国)でも有る。

今第三世界では、未だ判断力が育っていない子供の兵隊による残虐行為が問題とされているが、カラシニコフ突撃銃を持たされた少年兵程度の危険性よりも、心が未熟で不安定な思春期の子供程度の思考方法しか知らない(しかも狂信的な)国家の大量破壊兵器の方が遥かに問題であろう。

『典型的なアメリカの戦争。米西戦争』

内紛に揺れるメキシコ共和国から国土の半分を奪い、インデアン(ネイティブ・アメリカン)を虐殺して駆逐し1890年頃にアメリカ合衆国はアメリカ大陸の西の端、太平洋岸にまで達してフロンティアは消滅する。

この時からマニフェスト・デスティニーは『文明化の使命』と渾然一体となって海を超えて世界へと広がっていく。
その契機になった戦争こそが当時落日で国力が疲弊していた、往年の大帝国スペインとの戦争であった。

『メイン号事件』

アメリカは自作自演臭いメイン号事件をきっかけにスペインと戦争を起こし、植民地を次々と奪い取った。 
事件の経過は9・11事件と良く似ていて興味深い。

1898年1月24日「メイン号事件勃発」
スペインと革命勢力との緊張が高まっていたキューバに派遣されたアメリカの戦艦メイン号がハバナ港に停泊中に爆発が起こって沈没し、260人の乗組員が死亡した。
「事故説」と「外部からの攻撃説」があったが、ピュリッツァー賞で有名な「ニューヨーク・ジャーナル」や「ニューヨーク・ワールド」等のマスコミがスペインによるものと決めつけ、戦争を煽る。
4月24日「米西戦争勃発」
マッキンリー米大統領はスペインとの戦争を決定。
5月1日、フィリピンのマニラ湾でスペイン艦隊を撃破。
フィリッピンはその後6月エミリオ・アギナルドの指導の下、独立宣言を発して翌年1月には東アジア最初の共和国が生まれるが、アメリカ軍により破壊され再植民地化される。

5月19日、キューバでスペイン艦隊を湾ごと封鎖。撃破しキューバを保護国にする。
7月25日、プエルトリコにも上陸し併合した。
さらにグアムも奪った。
8月12日米西戦争のドサクサに紛れて当時独立国だったハワイがアメリカに併合される。

『イエロー・ジャーナリズム』

アメリカの戦争の特徴は、典型的なイエロー・ジャーナリズムの大活躍であろう。
現在でも殆んど事情は変わらないが、アメリカが戦争をしそうな時には『すべてのアメリカの世論は右から左まで全部同じ考えに統一される』
アメリカにおいては、戦争を煽り立てるのは何も日本のように軍人の仕事ではなく、政治家の仕事でもなく、もっぱら世論を誘導するイエロー・ジャーナリズムの仕事である。
この民主主義が本質的に持っている『欠陥』を突く方法は、今でもアメリカによって頻繁に利用され、また残念な事にほとんどは成功している。


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