『君たちはどう生きるか』
恐らく、本当に宮崎駿の最後の長編だろうと言われる作品ですが、
その割に全く広告を打たず、ビジュアルもアオサギ男の顔のみという
まさか、最後の作品で、こんな実験的な事をやってくるとは
ビックリなカードを切ってきたので、逆に気に成って見に行ってしまった口ではあるのですが
確かに、この作品は前情報無しで見るべき作品でしたね。
それ故に、鑑賞者が一人一人、全く違った受け取り方が出来る作品なのかなと思います。
むしろ、宮崎作品に触れてきたアナタに、その最後のエンディングを飾る権利を
譲渡してくれている、その為の施策だったのかなと感じました。
さて、ここから先は
そんな権利を私なりに行使させて貰いたく思いますので、
ネタバレNGの人は勿論、まだ観ていない人は、映画鑑賞後に読む事をお勧め致します。
私に、とってのこの作品は、
一つの『答え』を見せてくれた作品でした。
この作品やっている事は『二ノ国』と同じだという事に気付いたのですよね。
それが意図したものなのかどうかは解りませんが
(恐らくそんな意図は全くないと思いますが)
設定や構成が凄く似ていて、それ故に「これ二ノ国じゃないか?」と気付いてからは、
「宮崎駿が二ノ国を作ったらどうなるのか?」という興味で私はいっぱいになりました。
そして、
否応も無く、その実力差をまざまざと見せつけられました。
演出や映像美のクオリティは言うまでも無く、
死んだ母親との邂逅や、母を失う運命と向き合う主人公の成長の描き方。
もう全てにおいて、天才の実力がそこにありました。
あの日、手探りながらにも、ゲームでジブリの再現を試みて、
でも全く寄せられる気がせずに藻掻いていたあの日々が蘇りました。
常に頭の片隅にあった「これ宮崎駿監督ならどう描くのだろう」というクエッションの
アンサーが、今、目の前に展開されているのだと思うと、
筆舌にし難い複雑な感情の波に襲われ、
恐らく人生で初めて体験する、おおよそ私にしか味わえないであろう
感動をもたらしてくれた作品でした。
さしずめ、コペル君がおじさんから貰った手紙の
あの感覚を、私自身に向けられた手紙として宮崎駿から受け取った感じかもしれません。
もし観客の一人一人が、この手紙を受け取っているのだとしたら
こいつは、とんでもない作品なのではないかと改めて感じさせられました。
あと、もう一つ、
今回、劇場公開記念として、金曜ロードショーの三週連続ジブリ映画のラインナップ、
映画を見る事で、その秀逸さを改めて感じさせられました。
『風の谷のナウシカ』『コクリコ坂から』『もののけ姫』
この三本な訳ですが、ナウシカと、もののけは、まあそうだろうなという感じですが、
何故か、公開初日にあたる日に宮崎駿作品では無いコクリコ坂が選ばれたのか
ずっと不思議だったのですが、
なるほど…
これは、もう、コクリコ坂しか考えられない内容でしたね。
恐らく、石の世界は宮崎駿が構築してきた
ジブリブランドそのもののメタファーで、
積木は、それを保つ為の努力が形となったものなのでしょうけれど
それを引き継ぎたいと思った相手からは「自分にその資格はない」と断られ
利権だけが欲しいインコキングが横から無理やり積木を組んだ事で
石の世界が崩壊して終わるという、なんとも物悲しい結末な訳ですが、
この積木を宮崎駿以外が組んで、ちゃんと良作として世に出た
『コクリコ坂から』を、このタイミングで見られる事は、
石の世界にとっての最後の希望にも見える気がするのですよね。
まあ、私はインコキング側で、歪な積木しか組めなかった人間ですので
なんかもう、見ているだけで申し訳ない気持ちでいっぱいになりましたが、
でも、最後石の世界の崩壊後、そこに囚われていた鳥達が
外の世界に飛び立っていく姿を見て、
駿さんは、ジブリブランドに固執するのではなく、
そこから解放されて、各々が羽ばたいていって貰いたいという
メッセージにも感じられました。
映画の前のCMに、スタジオポノックの最新作が流れたのも
この演出の一部なのではないかと思える程ですね。
このまま、ジブリブランドが崩壊してしまうのも勿体ない気はしますが
その技術は思想といった遺伝子は確実に日本の、そして世界のアニメ作品に
脈々と受け継がれるであろう事は確かでしょうから
そこまで悲観する様な事では無いのかも知れませんね。
一つの歴史が終わりを迎えたとしても、世界はまた新たな歴史を紡いでいく
生き方こそがクリエイティブであり、その影響を受けた全てのクリエイターが
その後継になりうる、そんな、日本の、そして世界のクリエイティブが
まだまだ、広がっていく余地があるのだという、
ワクワクする様な感覚をくれる作品でした。
私も、微力ではありますが、頂いたアンサーと、新しいクエッションを胸に
「どう生きるべきなのか」という答えを、探し続けたいと思います。
スタジオジブリというアニメ史を大きく動かした存在を胸に抱いて。