魂魄の狐神

天道の真髄は如何に?

【農道に私権設定できない‼「位置指定道路解説」魚拓】参考資料

2024-05-30 12:14:50 | 小悪党

 位置指定道路の維持管理に影響を与える 土地所有者の属性

三好 由美子
長野県大町建設事務所 整備・建築課(〒398-8602 長野県大町市大町1058-2)
位置指定道路は,私道であるが故の課題を内包している.そこで,機能更新時期を迎えた位
置指定道路を対象に所有者の属性を調査し,土地所有権者の属性が住宅建築時の融資に与える
影響について金融機関に聞き取りを行った.また,隣接土地所有者が位置指定道路の土地を所
有していない事例を取り上げ,位置指定道路の関係者に維持管理上の課題について聞き取り調
査を行った.本研究では,隣接土地所有者が位置指定道路の土地を所有していないために,金
銭的な負担や不利益,又は利用上の支障が発生する可能性があることを明らかにした.
キーワード 位置指定道路,私道,維持管理,所有権
1. はじめに
(1) 研究の背景
都市計画区域内における建築物の敷地は,建築基準法
第42条第1項に規定された幅員4m以上の道路(以下,「道路」という.)に2m以上に接していなければならない(建築基準法第43条第1項).
しかし,既存の道路に接していない土地であっても,
基準を満たした私道を築造することで建築が可能になる.
基準に適合し,特定行政庁からその位置の指定を受けた
道路(以下「位置指定道路」という.)は,建築基準法上の道路となるためだ.図-1の宅地c~fは,位置指定道路を築造したことで建築が可能となった宅地である.
なお,特定行政庁とは,建築主事を置く市町村長又は
都道府県知事のことである(建築基準法第2条第35号).長野県では,長野市,松本市及び上田市の区域を除き,一定規模以下の建築物については,建築主事を置く建設事務所の長に権限が委譲されている.
位置指定道路の土地所有者とその利用者が異なる場合には,両者の間に維持管理上の問題が発生することがある.長崎市では,位置指定道路を所有する不動産管理業
者が,住民から「通行料」が支払われないことを理由に,
当該道路の一部を封鎖して車両の通行を妨害した1).大町建設事務所管内(以下、「管内」という.)においても,住民から「土地所有者が,破損した側溝の修繕をしてくれない」旨の相談を2018~2019年度に受けている.
私道の維持管理は,最終的に土地所有者の責任である.
陥没や舗装の破損等が原因で事故が生じた場合,所有者が損害賠償責任を負うこともありうる.しかし,破損し
た箇所の修繕や埋設管・舗装の更新には費用が掛かるう
え,私道の所有者と利用者が異なる場合には,利用に支障があっても修繕をしてもらえないことも想定される.
また,相続の手続きが適切に行われない,私道を所有している法人が解散してしまうなど,土地所有者が不明となることもありうる.
管内で指定された位置指定道路の延長は,2021年1月1日時点で延べ68,949.44mである.その多くが私道として管理されていれば,長崎市の事例のように,所有者と利用者が異なることによる問題の発生が想定される.
(2) 研究の目的
本研究では,位置指定道路の土地所有者に着目し,土地所有者の属性,道路及び上下水道の維持管理状況並びに維持管理上の課題を調査し,位置指定道路のみに接する土地を現在所有する者(以下,「隣接土地所有者」という.)が位置指定道路の土地を所有していないために,金銭的な負担や不利益,又は利用上の支障が発生する可図-1 位置指定道路による開発例 能性があることを明らかにする.
2. 位置指定道路の指定基準
位置指定道路の指定基準は,表-1のとおりである
(建築基準法第42条,建築基準法施行令第144条の4).
位置指定道路の規格については定められているものの,その維持管理をすべき主体については規定されていない.
2018年に建築基準法施行規則が改正されるまでは,位置指定道路申請書に管理者の承諾書を添付する必要もなかった.位置指定道路の管理に関する市町村との協議は、現在でも義務付けられていない.
なお,区域区分を定めた線引き都市計画区域の市街化区域で1,000㎡,区域区分を定めていない非線引き都市計画区域で3,000㎡を超えた開発は、位置指定道路の築造ではなく,都市計画法第29条の規定による開発許可(以下,「開発許可」という.)が必要になる.
開発許可による道路の構造・管理基準は、位置指定道路の基準よりも厳しい。道路の構造は,市町村の定める基準又は道路構造令に適合しなければならない.また、許可申請前に道路を含めた公共施設の管理・帰属について市町村と協議しなければならない.公共施設の管理者
は原則として市町村で,公共施設の土地は,開発許可を受けた者が自ら管理するものを除き,市町村に帰属する.
管内で行う1,000㎡以下の宅地開発は,位置指定道路よりも図-2に示す路地状敷地の方が合理的である.
2019年度に大町建設事務所で確認申請を審査した建売住宅は,平均敷地面積が342㎡であった.1,000㎡以下の開発では3~4区画の敷地となる.路地状敷地であれば,敷地所有者が、敷地として維持管理を行うことができる.なお,市街化の状況等により特に必要があると認められる場合には,条例で区域を区切り,開発許可が不要な面積を300㎡まで引き下げることができる.
3. 調査の方法
(1) 土地所有者の属性管内の位置指定道路413件のうち,30年と仮定した機
能更新時期を迎えたア~ウの条件を満たす70件(1975年度~1989年度の指定)を調査対象とした(図-3).
ア 大町市内
イ 指定から30年以上経過
ウ 開発許可が必要になった1975年度以降に指定
(1975年度より前に着手した開発は除く)
所有者は,調査対象である土地の不動産登記情報甲区
(所有権に関する事項)欄に記載されている者とした2).
位置指定道路が複数の地番で構成されている場合には,公道に一番近い地番の所有者を対象とした.
次に,所有者を表-2の区分により分類した.なお,
相続人等には,購入及び贈与による取得者を含んでいる.
(2) 住宅建築時の融資
新築住宅の建築・購入のみに利用できる融資(以
下,「住宅ローン」という.)の審査に土地所有者の権利関係が与える影響について,聞き取り調査を行った(2020年12月10日,長野県労働金庫大町支店).道路の形状,土地所有者及び地目以外の条件は,借入れの基準を満たすものとした.また,今回の判断は長野労働金庫において調査時点で適用されていた審査基準であり,今後の借入時及び他の金融機関では異なることもありうる.
図-2 年度別指定件数
表-1 土地所有者の分類
区分 内訳
行政機関 国土交通省,大町市及び大町市土地開発公社
隣接土地所有者 位置指定道路のみに接した土地の現所有者
位置指定道路申請者 位置指定道路の申請者及びその相続人等
従前所有者 指定以前からの土地所有者及びその相続人等
表-2 位置指定道路の指定基準
項目 基準
幅員 4m以上
形状
両端が他の道路に接続
袋路状道路
以下のいずれかに適合
・延長が35m以下
・終端が自動車の転回に支障がない公園,広場等に接続
・終点及び35m以内ごとに転回広場を設置
・幅員6m以上
隅切り 辺の長さ2mの隅切りを設置
表面 砂利敷きその他ぬかるみとならない構造
勾配等 縦断勾配12%以下,かつ,階段状でないこと排水施設 道及びこれに接する敷地の排水に必要な側溝等を設置
図-3 路地状敷地による接道
(3) 関係者への聞き取り調査
位置指定道路の維持管理に関する課題と解決策について,大町市建設課及び上下水道課の担当職員,位置指定
道路の申請者である開発者並びに隣接土地所有者に聞き取り調査を行った.
対象地は,表-3の条件を満たす箇所から選定した.
4. 土地所有者の属性
対象となる位置指定道路70件の位置は,図-4のとおりである.現在の中心市街地周辺又は幹線道路周辺に築造され,従前の地目は農地が59件(84%)である.また,現在の地目は,28件(40%)が公衆用道路ではない.
道路の形態が袋路状のものは,63件(90%)である.
土地所有者を分類した結果が,図-5である.位置指定道路を日常的に利用しているのは隣接土地所有者だが,所有している位置指定道路は,全体の3割に満たない.
日常的に利用することが想定されない位置指定道路申請者及び従前所有者が所有している割合は,57%である.
土地所有者の死亡・法人の解散等で所有権が適切に継承されなかった場合,位置指定道路の維持管理を行うことができる者が不在となる.本調査対象地の所有者にも,1974年に売買取得した個人の従前所有者や,解散した法
人の位置指定道路申請者が含まれている.
なお,行政機関11件の内訳は,通り抜けできるために市道に認定された道路,道路整備により国道・市道の一部となった道路,大町市土地開発公社が開発した住宅地内の道路である.
5. 住宅建築時の融資
位置指定道路のみに接している土地に住宅を建築する際,住宅ローンを利用するためには,次のア又イの条件を満たす必要がある.
ア 借入者が位置指定道路の土地を所有又は持ち分登
記している場合は,所有部分に抵当権を付ける
イ 第三者が位置指定道路を所有している場合は,通
行地役権の設定又は土地所有者全員の通行承諾書
を取得(以下,「通行承諾等」という.)する
図-6は,宅地m~pの所有者とは別の所有者X及びYが位置指定道路を所有している事例である.宅地m~pの所有者が住宅ローンを利用する場合,X及びY両方の通行承諾等が必要になる.また,位置指定道路の地目が公衆用道路以外の場合には,審査上不利な条件となる.
土地所有者全員の通行承諾等を得られない場合には,改修や借換えにも利用でき,担保が不要な住宅向けの融
資(以下,「無担保住宅ローン」という.)が利用可能である.住宅ローンに比べ,無担保住宅ローンは金利,融資限度額及び返済期間で不利な条件となっている.
2020年12月10日時点の長野労働金庫における住宅ローン表-3 事例研究対象地項目 条件
土地所有者 開発し,現在も営業している宅地建物取引業者
道路形状 袋路状
区画数 10区画以上
建築物の用途 開発地内の多数が一戸建ての住宅
図-4 位置指定道路の分布
図-5 土地所有者の属性
図-6 位置指定道路の所有者が複数存在する事例
と無担保住宅ローンとの比較は,表-4のとおりである.
6. 関係者への聞き取り調査
対象地は,中心市街地に近接した約7,500㎡の開発地

である(図-7).位置指定道路の土地所有者及び開発
事業者は,現在も大町市内で営業しているZ不動産である.位置指定道路に接している建築物の敷地は,16 区画である.15区画が住宅,1区画が事業所となっている.
位置指定道路の概要は,表-5のとおりである.
(1) 大町市
市道の維持管理を行っている建設課及び上下水道を所管する上下水道課の担当職員に,位置指定道路の所有権移譲及び上下水道管の維持管理について聞き取り調査を行った(2020年12月8日~17日).
a) 道路の所有権
・所有をめぐる将来のトラブルを防止するため,ア~オ
の基準を満たした位置指定道路は,申し出により大町市へ所有権の移譲が可能である4).
ア 市の道路築造基準に適合していること
イ 袋路状道路の終端には転回広場があること(幅
員6m以上の場合には不要)
ウ 道路に隣接して3戸以上の住宅が所在すること
エ 道路の維持管理及び除雪を当該道路に接する土
地所有者が行う旨の確約があること
オ 道路の敷地は,市に無償譲渡されること
・上記エにより,隣接土地所有者による維持管理がなされることを確認するものの,将来,側溝の敷設替えや舗装の改修が必要になったときに,相続・売買等で所
有者が変わった場合に対抗できるか懸念している.
・図-7の位置指定道路は,改修しないと道路築造基準を満たさない.
b) 上下水道管
・下水道の本管は,大町市が敷設している.
・φ50mm以上の上水道管は,開発完了時の申出により,
寄付を受けている5)
・個人所有の上水道管から漏水した場合,道路の陥没による事故を防止するため,土工事は市の負担で行う.
材料費等は,道路所有者の負担となる.上水道管の更新をする場合には,全額所有者の負担である.
・図-7の位置指定道路の場合,関係する住民も多く,
上水道管が破損した際の影響が大きい.位置指定道路
1-1に埋設されたφ75の管は,Z不動産からの申し出により市への所有権移転を検討してもよい(ただし、無償譲渡).それ以外の枝管は,管径も細く,老朽化しているため,市で引き取ることはできない.
(2) 開発事業者
当該位置指定道路の所有者であるZ不動産は,管内で22件の位置指定道路の指定を受けている.第4章で行った調査対象70件のうち,9件がZ不動産の開発である.
Z不動産代表のZ氏に,図-7の調査対象地だけでなく,過去に開発した位置指定道路全般について聞き取り調査を行った(2020年12月8日).
a) 現状
・1973年頃から不動産業をやっているが,この10年ほどは宅地開発をやっていない.
・側溝などの修繕は,居住者から連絡が来た時に数ヶ所行った.修繕費を居住者に請求できないと思っている.
修繕費用は,当時の収入から支払った.
・除雪は,居住者が自分達で行っている.
・30年ほど前の開発から,袋小路となっている置指定
道路の所有権を隣接土地所有者の持ち分登記にしてい
る.それまでは,そうしたやり方を知らなかった.売
買契約書に持ち分登記する旨を記載している.売れる
たびに登記を変更したのでは手間と経費が掛かるため,
全ての区画が売れるまでは登記の変更をしていない.
・宅地建物取引業の後継者がいない.
表-4 住宅融資の比較3)
区分 住宅ローン 無担保住宅ローン
変動金利 0.925% 1.75%
融資限度額 7,000万円 2,000万円
最長返済期間 40年 25年
図-7 調査対象地
表-5 位置指定道路の概要
道路番号 幅員 延長 舗装 上水道管 開発面積 指定年度
1-1 6.3m 134.7m As φ75
4,617㎡ 1976年度
1-2 4.3m 194.4m 未舗装 φ50
2 6.0m 66.0m 未舗装 φ75 2,878㎡ 1989年度
b) 今後の課題
・廃業後には,位置指定道路の維持管理ができなくなる.
・大町市に位置指定道路の所有権を移すのが最善の策だと思うが,道路の構造が大町市の基準に合っていない.
・Z不動産名義の所有権を隣接土地所有者に移したいが,
「売却時にやらないで今になって」と言われるのでは
ないかと危惧している.隣接土地所有者に対して,所
有権の無償譲渡に関する意向調査を行ったことはない.
位置指定道路の所有権移転に関する交渉を隣接土地所
有者にする際は,行政にも関わってもらえれば,少しは安心して話を聞いてもらえるのではないかと思う.
(3) 隣接土地所有者
位置指定道路に接した土地を所有し,開発時から居住
しているA氏,B氏,C氏,D氏の4人に聞き取り調査
を行った(2020年12月7日~16日).住宅の位置をA~
Dで図-7に示した.図-8・図-9(撮影位置を図-7に示す)は,位置指定道路の現状,表-6~表-9は,聞き取った内容である.
(4) 管内他町村の状況
袋路状位置指定道路の所有権移転に関する周辺自治体
の状況についても確認するため,都市計画区域を持つ管
内の市町村に聞き取り調査をした結果が表-10である.
表-6 A氏からの聞き取り事項
項目 内容
懸念事項 上水道管の老朽化
現状
・住民負担の敷設替えに50~100万円/戸必要だ
が,破損したときに考えればよいという人もい
て,居住者の中にも温度差がある.
望ましい対応策
・上水道管の所有権を大町市に移譲し,維持管理
を委ねる.
表-7 B氏からの聞き取り事項
項目 内容
懸念事項 側溝の維持管理
現状
・側溝がU字溝240で開発規模の割に小さく,大
雨が降るとあふれてしまう.また,側溝が壊れ
たとZ不動産に言っても,直してもらえない.
・未舗装のところから流れてきて側溝に溜まった
土砂を,年に数回は上げている.
望ましい対応策
・所有者であるZ不動産に適切な維持管理を行っ
てもらう.
表-8 C氏からの聞き取り事項
項目 内容
懸念事項 維持管理全般
現状
・土地購入時に,Z不動産から将来舗装すると言
われたが,まだ行われていない.
・所有者がZ不動産のため,住民が道路を補修す
るにしても思うようにできない.経緯があるの
で,維持管理を住民がやることもやむを得ない
と考える.自宅前の側溝も傷んでいたため,自
費で直した.
・通常は小型の除雪機で住民が除雪するが,50cm
にもなると重機でなければ対応できない.その
ような事態であれば大町市に除雪してもらえる
が,1日遅れになる.堆雪所もなく,砂利道の
除雪にも苦慮している.
・袋路状のため,舗装の傷みは少ない.
望ましい対応策
・大町市の所有が望ましいが,大町市の基準に合
わないのであれば,Z不動産から隣接土地所有
者に土地を無償譲渡してほしい.
・利便性・防災面からは,通り抜けできる形状の
方がよい.
表-9 D氏からの聞き取り事項
項目 内容
懸念事項 未舗装部分の舗装
現状
・自宅前が未舗装で,畑からも土が流れてくる.
とにかく舗装してほしいが,地元だけで舗装す
るのは金銭面で無理だ.除雪時には,砂利と一
緒に雪を畑に飛ばしている.
・破損した側溝の改修は,舗装と同時にすればよ
い.上水道管が破損したら,そこだけ直せばよ
い.20万円/戸で舗装ができるという話もあっ
たが,道路の維持管理にお金をかけたくない.
望ましい対応策
・所有権を大町市に移譲できる基準で造成し,売
却時に適切な手続きをすべきであった.
図-8 破損した側溝
図-9 未舗装の位置指定道路
表-10 袋路状道路の所有権移転
町村名 可否
池田町 転回広場がなければ不可
松川村 不可
白馬村 村道認定基準に適合するもの以外は不可
「町村道として管理できる状態になければ引取らない」
ことが共通している.
また,白馬村では,管理者が開発事業者のまま、袋路
状位置指定道路の所有権を譲渡してもらったことがある.
しかし,開発事業者が倒産してしまった後は,村が住民
からの維持管理に対する苦情の窓口になったため,現在
では所有権の移譲のみを受けることは行っていない.
7. おわりに
(1) 研究のまとめ
位置指定道路が公道となっている場合を除き,位置指
定道路の土地を所有していない隣接土地所有者に,金銭
的な負担や不利益,又は利用上の支障が発生することが
明らかになった.
まず,位置指定道路の所有権を持たない隣接土地所有
者が住宅ローンを利用するためには,通行地役権を設定
するか,土地所有者全員の通行承諾書を取得する必要が
ある.所有者の死亡や法人の解散などで所有者が実質的
に不在の状態になれば,住宅ローンよりも金利・融資限
度額・最長返済期間の面で不利な無担保ローンを利用せ
ざるを得ない.これは,住宅の改築時や土地の売却時に
不利な条件となる.
次に,位置指定道路の維持管理に伴う金銭的な負担や
利用上の支障が発生する.多雪区域では,住民だけでで
きる除雪には限度がある.舗装,側溝,上水道管などの
改修・機能更新に対して義務を負う土地所有者が対応を
しなければ,隣接土地所有者は不便な状況を受忍して利
用し続けることになる.限度を超えれば,自ら修繕等を
行わなければならない.小平市では,私道修繕費の9割
を市が負担し,設計・工事の発注を行っている 6).し
かし,市町村の財政状況によっては,同様の支援は困難
であろう.私有財産に対する補助も,公共福祉の観点か
らの判断が必要だ.
こうした課題を解決するためには,位置指定道路の所
有権を市町村に移すか,隣接土地所有者が所有権を取得
すべきだ.しかし,道路築造基準を満たさない道路構造
や袋路状の位置指定道路では,公道としての管理ができ
ないため,市町村への所有権移譲は難しい.また,隣接
土地所有者に所有権を移す場合にも,隣接土地所有者で
合意形成ができるか,無償譲渡できるか,所有者が不
在・所在不明な場合にどうするか,などの課題が残る.
特に,従前所有者から相続が適切になされていない場合
などは,所有権移転が困難になることが想定される.
(2) 今後の展望と課題
特定行政庁としては,位置指定道路の維持管理にまで
責任を持つものではない.
しかし,一部の位置指定道路が,将来,隣接する土地
の宅地利用を妨げるかもしれないインフラであるならば,
土地利用やまちづくりを担う行政庁として,何らかの対
応をしてもよいのではないか.金銭的な負担や不利益,
又は利用上の支障が発生する位置指定道路にのみ接する
宅地は,土地利用の優先度が低くなることが想定される.
土地利用の優先度が低いことは,将来の未利用地・空
き家を発生させる要因ともなる.住宅ローンを利用でき
ない宅地であれば,売買する際に不利な条件となり,買
い手が見つからないこともありうる.上水道管の更新が
できない場合には,居住を継続できないおそれもある.
今後は,開発計画策定時に位置指定道路の維持管理も
考慮する「しくみ」が必要である.現在,位置指定道路
の形状や所有権について市町村と開発者が協議を行うこ
とは,義務ではない.しかし,築造された道路の管理・
帰属について市町村と開発者が協議する場を作るため,
非線引き都市計画区域においても,開発許可が必要とな
る面積を市街化区域並みの1,000㎡超に引き下げるなど
の思い切った政策を検討してもよいのではないか.
開発済みの位置指定道路に対しては,何らかの形で行
政が支援することも必要であろう.土地の所有権を市町
村へ移譲することが望ましい.市町村が受け取れない構
造・形態の場合は,隣接土地所有者に無償譲渡できるよ
う,行政の関与も求められている.また,所有者が不
在・不明となった場合の救済策も検討が必要である.
位置指定道路に接した宅地の売却時には,位置指定道
路の維持管理に伴う負担を宅地建物取引業者が十分に説
明することで,将来の無用な揉め事を減らせるだろう.
今回の調査では,大町市内の機能更新時期を迎えた
3,000㎡以下の開発地を対象とした.他の地域・他の年
代に築造された位置指定道路についても調査・分析する
ことで,位置指定道路に伴う課題がより明確になる.課
題がはっきりすることで,位置指定道路を指定し,土地
利用やまちづくりも担う行政庁として対応すべきことも
見えてくるのではないだろうか.
謝辞
本論文作成にあたり、聞き取り調査に御協力いただい
た関係者の皆様に,心より感謝を申し上げます。
参考文献
1) 西日本新聞HP (https://www.nishinippon.co.jp/item/n/548628/
2020/12/16) 位置指定道路を長崎市に譲渡するための整
備費に充てるため,当該不動産管理業者が,住民に「通
行料」の支払いを求めた.住民側は,封鎖解除などを求
める仮処分を長崎地方裁判所に申し立てた.
2) 登記情報提供サービス(https://www1.touki.or.jp/2020/10/28~11/09)
3) 金利は調査時点で一番有利なもので,借入者の状況により変
動する.また,抵当権の設定費用は考慮していない.
4)「大町市位置指定道路敷地の寄附受納基準等に関する要綱」
5) 「大町市特設配水管の規定」(1975年)
6) 小平市HP (https://www.city.kodaira.tokyo.jp/kurashi/051/051863.html
2020/12/16



最新の画像もっと見る

コメントを投稿