2021年11月時点の中国では、冬季五輪を前にして感染対策を維持し、厳しい感染拡大抑制策を講じているように見えるが、中国国民は、コロナ禍で実用化された各種技術や制度を活用しながら、すでにコロナ後の世界に向かっているという。欧米各国でも、ワクチン普及による致死率低下を確認しながらの、コロナとの共存を図っているように見える。慎重で感染に対する恐怖心がまだ根深い日本では、政治家も含めて国民全体のコロナとの共存の覚悟はまだない。過度な恐怖は国家競争力低下に拍車がかかってしまう懸念もある。日本とは対象的な対応を行っている中国の対策を紹介するのが本書。
コロナを世界にばらまいた国、として非難された中国では強力な対策が国をあげて実施され、当初の感染拡大はいち早く収束に向かった。感染抑制政策の中には、「マスクをしているかどうかをドローンが監視・警告」「GPSで感染リスクを徹底的に追跡」「5Gを活用して遠隔診療」「ロボット看護」「ウイルスを故意に拡散するような行動には厳罰」など、技術と監視、強権発動で抑え込んだという報道は、「独裁的国家でしかできない」とも評価されたが、その後の欧米諸国では、当初の中国並みのロックダウンが実施され効果を上げた。
テクノロジー活用では、AIと5Gを活用、駆使した専門病院が開設された。無人店舗や非接触サービスも広がり、消費者サイドには「健康コード」が普及して、行動監視によるウイルス感染者の徹底的な追跡が可能となったため、ある意味で安心して買い物ができるようになった。追跡技術の一つとして、ビットコインなどで使われたブロックチェーン技術も使われ、中小企業債権債務管理やマスク購入のための消費者確認にまで使われた。小中高大学ではオンライン授業は当初から活用された。
当初、コロナウイルスを警告した医師のアカウントが閉鎖され、感染を隠蔽しようとした地方政府や中央政府も非難された。その勤務医がコロナで死亡したことが非難に拍車をかけた。この反省から、司法は徹底した厳罰で感染拡大を防ごうとした。IT企業もこうした動きに協力、コロナ対策のアプリを積極的に無償で開発提供するなど、動きは早かった。日本では2020年1月にはまだまだ売られていたマスクを「爆買い」、それを中国国内で転売する動きに対しては、司法は罰金300元と厳罰でのぞんだ。
中国に駐在していた日本人からこうした中国とのんびりした対応の日本を比べて、「日本は本当に大丈夫なのか」と不安が広がっていたという。緊急、非常時対応が徹底している中国から比べると、何事にも平時対応の仕組みを延長してうまくやり過ごそう、なんとか時間稼ぎをして感染の山を低くして、現状の体制で対応できるよう頑張ろう、という対応に不安を感じた。プライバシーや移動の自由、時には発言までも抑え込むような対応に眉をひそめる、という報道もあったが、緊急時対応にはそうした面も出てきてしまうこと、中国人は受け入れていたように見えた。政府の対応を厳しく見ながらも信頼する中国人に比べて、政府の対応を不安視し、信頼していないように見えたのが日本人だった。早く抜け出した国が新しい世界をリードできるのではないか、中国人たちはすでにその先を見ているように思える。本書内容は以上。
中国と日本の格好の文化比較になっている。企業対応でも、在宅勤務に及び腰だった組織でも対応が迫られた「Work at home」、実際どの程度進んだのだろうか。感染者数が減少してきたら、さっさと元通りになる、という組織がこの先のグローバル競争下に生き残っていけるのだろうか。EV対応に世界が猛スピードで向かう中、トヨタはEVに加えて水素、FCV、ハイブリッドの4点張りだそうだ。環境変化が徐々に起きてくれるのならそうした安全運転経営でも生き残れるが、この先のエネルギーと環境激変にも対応できるのか、多くの日本人は不安に感じているはずだと思う。