意思による楽観のための読書日記

川の深さは 福井晴敏 ***

「目の前に川がながれているとして、あなたはどこまで深い川だと思うか。 ①くるぶし ②膝 ③腰 ④肩」情の深さを試すこの設問、主人公の元マル暴担当警部で今は警備会社の警備員桃山は④、気に入った相手ならとことん付き合うほど情が深い男。桃山が警備しているビルに忍びこんできた若い二人連れ、増村保と葵をかくまってやったことから物語は始まる。保は20代の若者であるが、若い頃から徹底的に軍事的訓練を受けたサイボーグのような戦闘能力と強靭な精神力をもった人物、保は葵を命をかけてでも守ると言っている。葵が「川の深さ」を保に問うと保も④と答える、桃山と同類なのだ。誰に追われているのか、ビルの周りにはヤクザがうろついている。桃山はヤクザを追い払おうとして、昔情けをかけてやった金谷がそのヤクザグループを取り仕切っていることを知る。

なぜ、ヤクザが若いふたりを追っているのか、桃山は背後にある事件に知らず知らずに巻き込まれていく。保と一緒に訓練を受けた女性自衛官が涼子、自衛隊の再編・強化と今回の捕物が絡んでいることを桃山は掴むが、実際にはそれ以上の背景があったのだ。桃山に助けてもらった保と葵は恩義に感じてその後桃山が事件に巻き込まれて陥った窮地をなんども救う。それも自分たちが逃れるためではあるが、情の深さを保と蒼も持っているということ。その情の深さに涼子は惹かれる。涼子は桃山のような情の深い男に出会ったことがなかったのだ。

警察、自衛隊、ヤクザ、オウム真理教と思しき神泉教、北朝鮮、中国も絡んでの展開に、マシンガンや手榴弾、手製爆弾、アパッチヘリコプターまで登場して派手な打ち合いもある物語、著者がいつも主張する、日本の国家防衛の脆弱さと国民の防衛意識の薄さ、これがこの物語でもあぶり出される。自衛隊と警察の連携、政府と自衛隊、シビリアンコントロール、マスコミの意識などが、現代世界情勢にいかにあっていないかを主張する。

ガンダム好きの筆者が書き連ねる日本の現実に、問題を感じ共感するか、それはないだろうと思うかは、読者次第である。

川の深さは (講談社文庫)
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