無戸籍で生まれてきてしまった女の子赤沢幸代が16歳になるまでシングルマザーの母親と地方を転々とし、東日本大震災で娘を亡くした心優しい母子と出会って家族となり戸籍を取り戻すまでの物語。
幸代の母、裕子は勝ち気で外交的。学生時代は奔放な生活で補導されたりもしたが21歳で腕のいい植木職人と結婚した。8年間の夫婦生活で子供ができなかった夫婦は妊活に疲れ、夫は浮気と家庭内暴力をするようになり、裕子は家を飛び出した。その9ヶ月後に生まれたのが幸代。しかし暴力的な夫に見つけられるのを心配し、裕子は離婚手続きをしないままで、幸代は無戸籍の子供のままで成長することになる。裕子は家を出る前までに、稼ぎが良かった家計から結構な預金を手にしていた。シングルマザーになってからは水商売での稼ぎで経済的に困ったことはないが、子育て、子供の教育、食育などはおざなりだった。裕子の頭にあるのは、夫に見つかりたくない、幸代の無戸籍が世間にばれないように、という二点に絞られていた。
幸代が4歳になった時、近所で偶然であった石坂夫婦は、頭はいいのに不思議と他人とのコミュニケーションが取れない、同世代の子供にしては痩せっぽちな幸代に出会い、一緒にいた裕子に申し出て幸代を昼間は預かることになる。2年間ではあったが、石坂夫婦は食べることの大切さ、本を読むことの重要性、人との接し方、図書館や辞書の有用性、九九と読み書きなどを教える。幸代が小学校に上る直前になり、裕子と幸代は逃げるように転居していくので、石坂夫婦は幸代に広辞苑とネックレスをプレゼントする。
石坂夫婦に感謝していたのは裕子だけではなく、幸代も得難い知識と経験をしたと感じていたので、離れがたい気持ちがあったが、小学一年生では一人で行動することは叶わなかった。転居先で再び一人ぼっちになった幸代だったが、石坂夫婦に教えてもらった図書館利用と食事の大切さは幸代の身にしみていた。転居先では小学生の同年代の子供達が学校に通うのを目にし、羨みながら近所の図書館で本を読んだ。幸代は算数以外は辞書と図書館で知識を身に着け、自分で料理もするようになり成長していった。16歳になる直前に宮城県に引っ越したときに知り合ったのが、母の裕子よりも年をとった寂しそうな女性、戸沢素都久(そとく)だった。
素都久には家族があったが、同居していた二人の孫、息子の嫁を東日本大震災での津波で失っていた。素都久も悲しかったが息子の阿喜良(あきら)は失った息子と娘、そして妻のことが頭から離れず震災後の7年間を亡霊のように過ごしていた。そんな息子のことを気に病んでいたのが素都久だった。自殺も考えた素都久だったが、幸代に出会い、16歳の女の子である幸代が抱える深刻な事情を察した素都久は、無戸籍であることを知り、幸代を自分の家族にして息子にも立ち直ってほしいと考えるようになるが、なかなか息子には言い出せないまま、脳卒中で亡くなってしまう。
素都久の通夜に参列していた幸代に目を留めたのは素都久の妹の安代だった。家出をしてきたという幸代を戸沢家に泊めてやり、話を聞いてやることにした。聞いたのは、素都久と幸代のやり取り、親戚や家族の誰にも話してこなかった素都久の本心が幸代の口から語られた。素都久の悩みを初めて理解した阿喜良は、無戸籍の子供の戸籍復活の手順を調べ、養女縁組の手続きについて調べ始める。幸代の母は家出した幸代の操作願いも出さずに行方知らずとなっており、幸代が日本人であることを証明するには手間がかかりそうだった。幸代の話にでてきた石坂夫婦に幼い日の幸代を証言してもらうことが最大の手がかりだと考えた阿喜良は、石坂夫婦の住所に幸代を連れて行った。物語はここまで。
無戸籍の子供は日本中に1万人はいると言われる。東日本大震災で家族や大切な人を失った人は数万人以上いるだろう。そうした人たちが偶然出会う物語で、ハッピーエンドのストーリーに見えるが、いずれの登場人物も世間から見れば薄幸だ。それでも、希望を捨てずにいた人たちに訪れた幸せの一瞬を描いた物語。日映りとは太陽の日差しに照らされた対象物が太陽に照らされて輝く様をいう。世間に知られることなく成長した幸代は、世間を図書館と辞書で学んだ知識だけで世の中を見ていた。同世代の子どもたちは元気そうに学校に通うし、両親と楽しそうに食事もしている。自分に差し掛かる太陽の光を求めていた幸代が出会ったのも、希望を見いだせない老女の素都久。そんな二人が希望の光を見出した瞬間が日映りの時だったのかもしれない。