日本書紀の記述から事代主は出雲にいてニニギノミコトにつづきタケミカヅチとフツヌシという神がやってきてさかな釣りをしていた事代主は抵抗せず隠れたという。後世の人は事代主をエビス神として祀っている。事代主は奈良の山中にも祀られていて、古くから狩猟や漁撈に従っている人々がエビスと呼ばれたのではないかと推察している。その後、大和朝廷の支配者たちと比較的接触の少なかった東北のエビスタチがエビスとよばれ未開を意味するように取られるにいたったとしている。事代主神をエビスと言うようになったのは古くは狩猟神として祀られていたのが延喜式には御巫の祭神八座の中に祀られるようになった。
日本には狩猟や漁撈を主として生計を立てる者がいて、捕鳥を主とする部民には鳥飼部がいて、その地名を鳥取郷と称した。早くから土着していた民を日本書紀や風土記では国樔(くず)もしくは土蜘蛛と呼んでいる。竪穴式住居に住んでいたので土蜘蛛と呼ばれたらしい。日本列島は古くからエビスや土蜘蛛たちの世界であり、エビスを神として祀っていた。大陸文化の影響を受け統一国家を形成したものはこうしたエビスたちを異種異民として捉えエゾと呼んだ。
北方からの文化は黒竜江省の下流地方にいた粛慎(しゅくしん)がもたらした。後漢の武王の時にいた民族であり紀元前1050年頃のこと、その粛慎も海の彼方にいる顔つきが異なる人々、つまり当時の日本にいた北方縄文人たちに関心を持っていた。彼らが鉄器をもたらしたのではないかと推察している。アイヌの中では海の向こうの人を「レプンクル」と呼び、住居を接近して住んでいて交易もしていたモロヨ人のことを指している。斎明天皇の658年には阿倍比羅夫が今の秋田や能代(淳代)に攻め入り平定した。さらには粛慎(みしはせ)にまで船を進めたという記述もある。
琉球の文化について、済州島の漂流民が与那国島にたどり着きそこから西表島
波照間島、新城島、多良間島、伊良部島、宮古島と渡って故郷に帰りついたという記録がある。記述によればそこの文化は南洋―フィリピンにつながる文化圏であることを示し、アワ・キビ・ムギを主食とする農耕民がいたという。赤米は琉球列島を通じて日本列島に伝えられたと推測している。
焼畑の起源は大陸にあった。武蔵はムサシと読むが、サシとは焼畑を意味する朝鮮語であるという。武蔵から甲斐にかけてサシまたはサスという言葉のついた地名が多い。指・差の字があてられ、そういうところではたいてい焼畑を行っていた。相模もサシガミから来ているという。東北ではカノ・カジノ、中部ではゾーリ、ゾーレで草里、草連、蔵里、反の字が当てられる。静岡・奈良・九州の山地ではヤブ・ヤボといい、中国地方ではキリハタ、九州ではコバで木庭・木場・古庭などという字が宛てられる。言葉からみると焼畑が伝わったルートは朝鮮半島からだけではないという。
秦人が住んでいた場所には大和、山城、河内、摂津、和泉、近江、美濃、若狭、播磨、伊予など近畿地方を中心に広がっていた。山城伏見の稲荷神社も秦氏が祀った。餅を的に矢を射ると餅は白鳥になって飛び上がり山の上の峰にいたり、稲が生えそだった、そこで社の名前を稲成とした、という伝説が伝えられる。京都に太秦という地名がある。その地には広隆寺があり、秦河勝が建立した。当時は蜂岡寺と言われた。全国に幡、幡多、八多、幡田という地名があるが秦氏の勢力であろう。古事記、日本書紀によると、秦はハタと読んでいる。渡来した頃にはシンに近い発音だったはずだが、焼畑をするひとから火田(ヒタ)ビト、ハタという変化をたどったと推測する。
瀬戸内海の島を調べたとき、山口県萩沖の見島では浦と地方(じがた)に分かれ、それぞれに庄屋がいてこれを治めたという。氏神は地方が八幡宮、浦は住吉神社であり両者では通婚もなかった。地方の家は田の字で引き戸が付いているが、浦は並列型の間取りで蔀戸(しとみど)を持っていた。蔀戸は上下二枚の戸で上は吊り上げ、下は倒すと縁側になる。浦は漁師である。船住居をしていた人が陸住したときに船の住まいの形を残したと推測されるという。
日本で床ができたのは庶民では明治になってから、それまでは土間だった。殿上人と呼ばれた貴族は平安時代からつちに触れることを穢れるとして嫌がり土を踏まない生活を送ったという。殿上人の反対語は地下人であり、殿上人は外出するときも牛車にのり土に触れない生活を心がけたというのだ。
解説の網野善彦は筆者の民俗学者としての姿勢を徹底するさま、広い調査、フィールドワークの積み重ね、民族・民具資料の造詣について尊敬の念を持つことを語っている。卓越した日本文化論だという評価である。日本における民俗学の大家としての筆者の存在は大きいのだろう。
日本文化の形成 (講談社学術文庫)
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