誠一郎は柳生一族の表のリーダーである柳生宗冬に信頼され、柳生の奥義を伝えられて我がものとしており、宮本武蔵に鍛えられて二天一流の腕に柳生の奥義を併せ持った天下一の剣客となっているが、表向きには吉原の惣名主である。
吉原は幕府から江戸における唯一の花街として独占販売権を与えられてはいるが、岡場所とよばれる娼婦の館がある場所は点在しており、これらを取り締まるのは吉原の仕事とされている。酒井忠清は吉原の営業妨害をするため、義仙を使って、大阪の花街から女性と店管理のノウハウを入手させ、江戸に複数の岡場所を密かに開店させる。吉原への客の入りが悪くなったことから、誠一郎たちもこのことに感づく。吉原は調査によりこうした事実をつかむが、届けを受けた幕府は証拠を押さえることを取りつぶしの要件とする。そのため、誠一郎たちは現場への踏み込みを決意するが、義仙と裏柳生のもの達に妨害される。
もう一人の登場人物が荒木又右衛門、別名「お館さま」、馬鹿力の持ち主であり剣の腕も一流である。彼には柳生への借りがあり義仙を一時は助け、追ってきた吉原首代とそのリーダー玄意を切るが、最後には誠一郎が後水尾上皇の子であることと正義は誠一郎にあることを知り、誠一郎に切られるが、その時、幻斎を相打ちにする。義仙も誠一郎に切られるが最後には生き延びて、僧侶となる。
物語の所々に作者の解説が入るところが面白く、この物語でも吉原の文化が解説されるが、印象的だったのは人殺しを経験した男の見分け方である。昭和20年の終戦後戦地から引き揚げてきた男達を見ると人殺しをしてきたもの達はその目を見ると見分けがついた、と言うのだ。その時、人殺しをしてきたと大きな声で威張るものがいる一方で、そうしたもの達をかわいそうなもの達と見る冷静な目を持つ人たちもいたと良い、物語に急に戻って、その時の登場人物の目がそうした冷静な冷めた目である、という解説になるのである。
皇室と幕府、幕府と旗本、虐げられた階級である流浪の民と武士、などを物語の背景とし、そうした人たちを戦いに敗れた側、差別された側の視点から描いている。剣による戦いの描写、吉原での男女の描写も娯楽小説として面白いのだが、裏に潜む人々と権力の争いや抗争も興味深いものがある。徳川家康の出身階級に関する秘密、後水尾天皇と幕府の確執、柳生一族の興隆などを描いた他の作品もある、よんでみたい。
隆慶一郎全集第七巻 かくれさと苦界行 (第4回/全19巻)
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