歴史物語や日本史の一部分が登場する読み物を理解しようとするときに、気になるのはそこに至る背景や経緯。渋沢栄一が生まれた頃の幕末史と養蚕農家、藍生産農家の暮らし、北条義時が執権となる前の土地所有、武士と農民たちとの関係などが気になる。どの国でも、その歴史では農業開始以降は土地所有が食糧生産につながり、生産物を税として権力者が集めるという仕組みの収奪が権力闘争につながってきたからである。
飛鳥時代の末に始まった土地国有制度と徴税の仕組みが、開拓荘園となり私有化が進む過程と朝廷と有力貴族、土地豪族たちのせめぎあいが平安時代の前期にはあったはず。摂関家が土地所有をめぐり土地の防衛のために雇った武力集団が武士となり、荘園からの上がりを国に吸い上げられないようにする寄進荘園が増えて、土地の国有を前提とした律令制が崩壊する平安中期。
院政のはじまりと武家勢力の台頭、同時に進んだのが地方の知行国が朝廷から切り離されていく分権化。源平合戦の背景には、そうした地方分権化された土地所有の権威付けを武家の頭領に求める動きがあった。武家政権として始まる鎌倉幕府は、承久の乱、建武新政、南北朝分立と、朝廷の権力巻き返しの動きに度々翻弄される。その後の足利政権も土地所有では脆弱だった。形式で縛ることにより権力を維持しようとした朝廷とそれを利用しようとする管領家や地方守護勢力。中央での権力争いは応仁の乱をきっかけに全国に展開し、地方に帰った守護と地方に育った豪族たち同士の戦国時代に突入する。
土地所有に一応の決着を付けたのが太閤検地で、江戸時代はその延長線上で土地管理を行った。明治維新は近代的税制導入と土地登記制度導入により、こうした土地所有の全国分散管理と地方豪族所有にピリオドを打った。
こうした大きな流れをつかむには、歴史の流れを短期間で通読する必要があると思った。一年ほども前に、子どもたち向けに買ってあった石森章太郎の「マンガによる日本の歴史」を30年ぶりに読んだのはそうした思いがあったからだったが、30巻ほどもあったため、通読するには予想以上に時間がかかり、「一気に読む」という目的達成は達成せずじまいだった。本書を読んでみたのはこうした目的。しかし、読んだそばから、手から砂がこぼれるように忘れていくことに、残念な気持ちになってしまう。また読もう。