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意思による楽観のための読書日記

「穴場」の喪失 本村凌二、マイク・モラスキー ***

早稲田大学で国際教養学部で教鞭をとるのが一つの共通項で、ジャズ、居酒屋、ギャンブル、映画、地域性のあるもの、穴場、他にも多くの共通項があるようだ。大学で、ではなくたまたま居酒屋で出会ったという二人が交わした対談録。

テレビの旅・店紹介番組や、ネットが一般化するまでは多くの都市の片隅には「穴場」と言われるような場所があったのが、食べログとかぐるなびで紹介されたり、SNSで「映える場所」などと紹介されたりすると、次の日から行列のできる店になってしまう。そうして有名になったとしても半年やそこらで閑古鳥が鳴くことにもなりかねない。穴場は消費物として扱ってはいけないんだという。店を選ぶのは自分の目、店構え、品書き、底にいる客、そしてご主人の面構えなんかを自分が気に入るかどうか、そして相手にも気に入られるかどうかである。

本村さんが選んだ映画ヒーローは次の通り。石原裕次郎、三船敏郎、植木等、高倉健、藤純子、渥美清、浅丘ルリ子、木村拓哉。スティーブ・マックィーン、ポール・ニューマン、アル・パチーノ、ハリソン・フォード、松田優作、渡辺謙、ダニエル・クレイグ。

モラスキーさんが選んだ映画ヒーローは次の通り。三船敏郎、志村喬、平田昭彦、勝新太郎、谷川俊之、松田優作。ゲイリー・クーパー、ジェイムス・スチュワート、スティーブ・マックィーン、クリント・イーストウッド、ジャック・ニコルソン、ロバート・デ・ニーロ、マイケル・キートン、シルベスター・スタローン、トム・ハンクス。

西部劇は勧善懲悪だけではない多様性に富んでいる。西部劇に描かれる時代は南北戦争後から30-40年程度のことだが、多くのアメリカ人にとっては魂の故郷のようなもの。未開の土地、西部開拓が舞台で、ある種の正義感を期待するが、東部の人は多様な欧州価値観、ヨーロッパ文明を享受するタイプが多い。「明日に向かって撃て」や「俺たちに明日はない」には正義感のかけらもない。日本の黒澤明の用心棒は西部劇構造を取り入れている。七人の侍は武士と農村という2つの社会構造を描くが、農民も結構ずるい。酔いどれ天使の志村喬の酔っぱらいの医者と三船敏郎の闇市のチンピラは対極的に見える二人なのに精神性が似ていて面白く描かれる。何が正義なのか、ヒーローとはなにかを問うている。その後、裕次郎論、アル・パチーノ論、高倉健論が二人でかわされる。

競馬をギャンブルだから良くない、という論には二人とも与しない。馬券を買うことにより、勝ち馬を推測する、考えて参加する気持ちが持てるので、競馬場に行くなら100円券でいいから馬券を買うべき、という本村。本の執筆のために競馬競輪競艇に1週間ずつ毎日通ったというモラスキー。日本の競馬新聞は小さい紙面に多くの必要情報が全て書かれていてすぐれものだという。ギャンブル自体は悪いものではなく、耽溺することが良くない。隠れてやるのではなく、しっかり管理してやれば犯罪や中毒にならない工夫も可能。

アメリカのジャズ音楽には地域性があった。それがラジオの登場でどこでも聞けるようになり、便利になった一方でアメリカ全国で均一性が出てきてしまった。それがダウンロード時代になり、皆がイアフォンで一人で聞くようになり、良い音楽の同時共有性は失われた。コンサートに行って感動する、これは重要。

歩ける街、これも都市の楽しみの一つ。アメリカで言えばボストン、日本の大都市も同じように歩ける。アメリカでは多くの大都市が車社会になり歩けないが、日本でも地方都市は車がなければ移動もできない歩けない街が多い。穴場はそうした歩ける街にこそある。本書内容は以上。

 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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