意思による楽観のための読書日記

三重構造の日本人 望月清文 ****

日本人のルーツといえば、アフリカ大陸からでた新人が数万年かけてユーラシア大陸に拡散、アジアの東端である日本列島には、何回もの波があって移住者たちは、大陸から陸伝いに北の樺太、南からは海伝いに沖縄諸島経由で、そして朝鮮半島経由で移り住んできたものだと思っていた。最初には狩猟民族が棲み着いて縄文人の祖先となり、その後稲作や銅器などの技術を持った弥生人が移り住んできたので、先住民族だった縄文人は北と南に追いやられアイヌと琉球人として残った、いわゆる二重構造になっているのだと。

本書はそれを共通感覚というDNAでも考古学でもない視点から分析、日本人は最も古い日本人-1から日本人-2、日本人-3という大きく3つ、つまり三重構造になっていると主張する。調査考察のもとは言葉と五感との係わりを調べるアンケート調査。アンケートは筆者が広辞苑から選びぬいた165の言葉に、被験者が結び付きが強いと感じた五感、つまり視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚、それに気分を加えた6つの感覚を調べるというもの。165の言葉は感性を表す「明るい」「爽やか」など。これらの言葉と6つの感覚との係わりが「共通感覚」の現われとして把握される調査である。これを統計的手法で分類していくと日本人を上記3つの分類に分けられるという。

調査の検証をDNAミトコンドリア分析と突合点検し、驚くべき一致を見る。従来の調査では各国民族をひとかたまりで捉えていたため見えにくかった民族間の類似性が、この共通感覚とDNA分析で明らかになる。日本人に3種類あるように、中国人、スエーデン人やイギリス人、ポルトガル人にも2種類の類型があるという。DNA分析を行った宝来聡は大きく全世界の現世人類をC1-C5に分類、最も古いC1がアフリカ人でそこから時系列にC2-C5が派生してきたと分類した。筆者はそれをさらに28民族に類型した。それによるとC-2という最も古い類型にスエーデン人-1、イギリス人-1、ポルトガル人-1とともに日本人-1も分類できると言い、アフリカ大陸から出た最初の新人もしくはクロマニヨン人がユーラシア大陸の東西の端に残った結果であると分析した。

続くC-3にはアルゼンチン人、メキシコ人、バスク人、韓国人、日本人-3、中国人-1、スエーデン人-2、トルコ人、ヨルダン人、エジプト人、インドネシア人が分類され、C-4にはドイツ人、イギリス人-2、スペイン人、フランス人、が、C-5にはモンゴル人、タイ人、タミル人、日本人-2、ポルトガル人-2、北インド人、イタリア人、中国人-2、フィリピン人が分類されるとした。

この共通感覚は数世代では身につくものではなく、1万年以上の年数を経てその民族が過ごした風土と生活の積み重さなりで定着するという。実験として、生まれついての盲目の人にも同じ共通感覚の実験をしているが、健常者との差異がないという。また、メディアの影響、言語の違いによる影響よりも共通感覚は強いというのである。

日本人の三つの類型を日本国内の地方別に分類し、各類型がどのように日本列島に入り拡散したのかも類推、最も新しいのが日本人-3で約2万年前に南方から琉球列島沿いに入ってきたグループと同じグループが大陸を経由して樺太から入ってきたグループに分けられるがいずれも狩猟民族として定着、その後同じグループが朝鮮半島経由で弥生人として移り住んだと考えた。日本人-2はそれより前のグループではあるが、トラヴィダ族が大陸から海沿いに日本列島に移り住んだと考え、稲作文化を最初に持ち込んだメインはこの日本人-2だったとする。このトラヴィダ族を淵源に持つ日本人-2が稲作文化を定着し始めた頃、日本人-3の民族が朝鮮半島から中国地方に渡来しさらに近畿地方に移動してきた。その動きが日本人-2を中部地方に追いやったという。

更にその前、日本人-1は旧石器時代の民族としてユーラシア大陸に広がり、45000年ほど前に中近東レバント地方から移動し30000年ころには日本列島に到達していた。同じグループはヨーロッパにも広がり、やがてくる次の波のグループにより大陸の両端に追いやられたというのである。

日本人-1がクロマニヨン人の狩猟民族で最も古い石器時代に日本列島に到達し、その後トラヴィダ族の末裔が日本人-2として南方から稲作をもたらして九州から近畿まで広がっていた中に、日本人-3は南北と朝鮮半島から日本列島に到達した。多分日本人-3は何回にも分けて到達したと思われる。日本列島はユーラシア大陸の中では中近東から最も遠く、何度も新しいグループが到達できる距離の東のはてに位置した、ということから三重構造のグループが形成された珍しい地域ということになる。日本人の習慣やタミル語、バスク語、グルジア語と日本語の共通点もこうした考察からある程度の理解が得られるのではないだろうか。ルーツ探しには学問横断、学際研究協力が重要という証左のような主張である。

三重構造の日本人


↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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