中島みゆきの「糸」物語の小説化。菅田将暉と小松菜奈主演で映画化されたので見た方もいるかも知れない。
平成元年富良野生まれの高橋漣は、12歳の時に隣町の美瑛で開かれた花火大会に友人の竹原直樹と自転車で来ていた。そこで出会ったのが園田葵。漣の父は自動車整備士、普通の家庭だったが、葵の母はシングルマザー。しかしその母も夕食を作ってくれないため、葵は近所に暮らす節子さんが作る食事で命を繋いでいた。母が連れてくる男達は長くはいつかず、葵は自分の存在を消し自我を殺して生きる術を身につけようとしていた。漣と葵はすぐに惹かれ合ったが、葵の家庭事情は二人の付き合いを許さなかった。
8年後、漣はチーズ工場で働き、同じ職場で働く香と付き合いはじめていた。竹原直樹が東京で結婚式を挙げるので呼ばれた漣は、式場で葵と再会する。葵は大学生になり、東京で投資家の水島と暮らしていた。葵は漣との出会いのあとも、母のニグレクトがあり、母が連れてくる男たちからの理不尽な扱いに耐えながらそこまで辿り着いていたのだ。しかし、漣には自分の生活が北海道にあった。
漣は香との間に結という女の子を授かるが、香は結が3歳のときに癌で亡くなる。漣は昼間は結を実家に預けながら必死でチーズ工場で働き結を育てる。
葵は、高校卒業と同時に家を出て、東京でキャバクラで働くようになる。そこで知り合ったのが玲子。人には優しくする、というのがモットーの玲子は、何も知らない葵を見かねて、同居することになる。キャバクラの客だった水島には大変世話になった。東京のキャバクで働く葵を大学にまで通わせてくれたからである。しかし水島は投資活動が上手く行かず、逃げるように沖縄に行ってしまい、葵も水島を追う。
そしてシンガポールでネイルサロンに勤めていた玲子から電話がある。こちらに来ないかという。世話になっていたが再び失踪した水島のあとは追わず、葵はシンガポールに行くことを決意する。ビジネスは成功して独立し、葵は事業拡大をすすめる。しかし、共同経営者の玲子が不動産投資に失敗。行き先を失った葵は生まれ故郷の富良野を目指す。
チーズ工場で働き、新製品が三ツ星レストランで採用されることになっていた漣は、結をこの地で育てていく自信を深めていた。節子さんの家は今や子ども食堂として有名になっていた。節子さんの子ども食堂にチーズを提供していた漣、その配達に行っていた結が出会うのがシンガポールから来た葵。
葵を知らない結が、知らない女性が節子さんの子ども食堂で食事をして泣いていたと言うのを聞いた漣は、その人は葵だと直感、函館に向かったという葵を追いかける。物語は以上。
『なぜ めぐり逢うのかを
私たちは なにも知らない
いつ めぐり逢うのかを
私たちは いつも知らない
どこにいたの 生きてきたの
遠い空の下 ふたつの物語』
現代版「君の名は」、映像版のほうが印象に残るのかもしれないが、自分のペースで読める本では、ストーリーを自分に引き寄せながらしみじみと読めるかもしれない。感動の再開物語。