意思による楽観のための読書日記

幻覚 渡辺淳一 **

美貌の36歳の精神科医で病院を経営する氷見子、小さい頃から父親っ子だったが父を亡くし病院を引き継いでいる。その病院に勤める31歳のまじめな看護士北向、氷見子を立派な先生と慕う。ある時氷見子先生に花見に誘われる北向、青山墓地にタクシーで行き、桜の小枝を口にくわえる氷見子を見て、変わった先生だと感じる。氷見子は桜の木をマニイ(躁病)だといい、氷見子自身もマニイだという。その後、氷見子は北向を気まぐれに誘い食事をしたりホテルに行ったりするが、あくまで氷見子の気まぐれで、氷見子を慕う北向は喜んで誘いに応じるのみでそれ以上の何かを求められずにいる。北向は同じ病院の看護士中川涼子とつきあっていたが、些細なことで喧嘩別れした。その涼子が氷見子先生の治療にはおかしなところがあるという。必要以上の薬を与える患者がいて、そのために病状が悪化している、というのだ。そう言われると北向も疑念を持ったことがあるが氷見子先生を信頼していて何か理由があるはずだと自分に言い聞かせている。薬の過剰投与をされている患者は3人いて、その共通項は何だろうと考えてみるが分からない。

ある年末、その3人のうちの一人が突然死する。死因に不審を抱いた家族が病院を訴えるという。氷見子は北向にカルテの保管を指示するが、理由がわからない。改竄が目的だとしたら問題である。調べると訴えた家族の後ろには病院を辞めていた涼子がいることがわかる。裁判沙汰は週刊誌に取り上げられ「美貌の医師、過剰な医療で患者を死なせる」などとスキャンダルとなる。

なぜ氷見子は特定の患者に薬の過剰投与をしたのか。氷見子は父親との近親相姦をトラウマとして抱えていたことが最後にあかされる。同じ悩みを持つ親子から相談を受け入院してきた患者に薬を過剰投与したことが分かってくる。氷見子は自分の心の悩みを、患者にも投影していたのだ。スキャンダルと裁判、そしてその心のトラウマを抱えた氷見子は自殺する。

渡辺潤一なので立派な小説として出版されているが、これが新人作家の作品であればどんな賞でも選外であろう。読売新聞の連載小説だったらしいが、夕刊フジ向きかな。
幻覚〈上〉 (中公文庫)
幻覚〈下〉 (中公文庫)

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