意思による楽観のための読書日記

呪い歌 川崎草志 ***

やはり川崎草志は只者ではなかった、これも面白い。第一作の「長い腕」が横溝正史ミステリ大賞を受賞したのが2001年、その続編である本書が発刊されたのは11年後だったが、やはりその物語には数多くの仕掛けが隠されて、更なる続編もほのめかしている。

プロローグでは6つのエピソードが現れて読者は一時的メモリーの不足に悩みながら読み進むことになる。一つ目は「長い腕」でも現れた嘉永年間の伊予の国早瀬の宮大工の一家に起きた悲劇、2つ目は江戸末期に江戸城無血開城で有名な西郷隆盛と勝海舟の会談、3つ目は関東大震災の中を逃げ惑う親子、4つ目が太平洋戦争の敗戦直後に早瀬にあった高射砲基地で起きた失踪事件、そして今から20年前に1作目でも登場し本書の主人公になる島汐路の家族が20年前に経験した不思議な体験、そして6つ目が現代の東京を襲った大地震、その時地下鉄に乗り合わせてしまった親子の話。これらがどのようにつながっていくのか、第一作以上に大掛かりな仕掛けを感じさせる書き出しである。

そして今回は現代の早瀬に帰郷していた島汐路と同時進行のように描かれる勝海舟の江戸城無血開城の20年前勝麟太郎の時代の話、この2つがどう関係してくるのか、キーとなるのはどうも「かごめかごめの歌」である。その歌にはどんな秘密が隠されているのか、これがタイトルにもなっている。

前作では島汐路はゲーム開発会社を退職、故郷の早瀬に帰り同僚の心中や中学生の殺人事件を探る間に従兄姉の死とともにその一つの家が滅びてしまう場面に出会った。それは江戸の昔に村で迫害にあったケイジロウが年月を超えて仕掛けた罠の一つの結果でもあった。しかしその罠はそれでは終わらなかったのである。それが今回の物語。

汐路の友人でフリーライターのエリカは早瀬での事件を聞きつけ、なにか記事になりそうなニオイでも感じたのかケイジロウの謎を探り始めた。汐路は早瀬の村では旧家の一つ島家の跡取りの姫御、旧家の定例会議に呼ばれ、長谷川という老人の世話を依頼された。長谷川は太平洋戦争の最後に早瀬の高射砲基地で部下の二人を見失い、その行方が今でも気になっているという。基地のあったのは亀釣山、その出来事を聞いた汐路は自分の家族が20年前に経験した出来事と関係していると気がつく。そんな時、東京で起きた大地震で早瀬出身のもう一人の姫御が死亡し遺児が二人で汐路の助けを待っているという。その姫御と汐路は年賀状を交換する程度の間柄ではあったが子供二人を放っては置けないと汐路は東京の病院にいき、もう一人の姫御三井礼子の家に行ってみる。礼子の兄がいたはず、しかしその行方は分からなかった。礼子はケイジロウにつながりの有りそうな遺品を残していたが、その遺品の謎もわからないままだった。

早瀬の町にあった旧家、それは上古倉と下宇賀、東と西、本藤と島などと対を成している。なにあオドロオドロしい謂れがありそうな気がする名前、横溝正史バリだというのも頷ける。

そしてキーとなるかごめの歌。元歌は次のようなものだという。『かがめ かがめ かごの中の鶏は いついつでやる 夜明けの番に つるつるつべった なべのなべのそこぬけ』徳川家康は江戸の町を開くときに大工の棟梁の二人にそれを託した。鶴正昭と甲良宗広、甲良は亀で鶴亀は江戸では大工の先祖と崇められるという。その鶴と亀がすべる、鶏とは酉であり水の神様、酉の出番があるということは火が出るということ、江戸を取り囲んで夜が明ける前の晩に火を放つぞ、つまり江戸の町を焼き払うぞという脅し歌になる。徳川家の後ろの正面にいたのは倒幕軍の大将西郷隆盛であろうか。

こういう仕掛けがいっぱいあって、物語が進めばそうしたなぞなぞが解かれる、読者は憑かれたように読み進むしかない、という話なのである。

話は汐路がエリカを死体で見つけ、さらにケイジロウが仕掛けたと考えられる洞穴を発見し、そこに潜んでいた人物を見つけることで急展開、前作でも登場した元上司の石丸、その友人の源田が再登場、一気に幕切れに進むが、それでもケイジロウの仕掛けは残っている気がする、というところで終わる。必ずや続編があるという終わり方、これは続々編を読むしかないではないか。


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