麻里が大学病院での研修、臨床医としての経験を経て、曳田の経営する病院に勤務を始めたのは30歳になる頃であった。曳田の病院は近代化が進んだ病院であったが、経営は苦しく、医療法人として株式会社となり病院経営に乗り出す不動産会社が理事会メンバーになっていた。MRとの癒着問題、国立大学系列の病院との勢力争い、医師のステータスや処遇が以前より悪くなり、患者からの訴訟も増えてきてなり手が減ってきている問題などが取り上げられている。最大の問題として取り上げられているのが誤診、患者側への情報提供が公正にされていない、それは医師側の良心にのみ依存する問題であることが描写されている。患者側にも医師を恐喝したり訴訟に持ち込む悪質なヤクザが居たりするために、医師側もそれに対抗する手段を用意していることも紹介されている。問題は単純ではない。
なぜ誤診が起こったのかを解明したい麻里は曳田の生い立ちや境遇を調べ、異常な性癖の原因を知るが、それがなぜ誤診につながったのかは釈然としない。麻里の母紗江子はギランバレー症候群だったことが想定される症状であるにも関わらず、曳田はなぜそれを見抜けなかったのか、優秀な医師でも患者の症状を誤診することがあること、新薬投与は院長の指示で行えること、院内処方の場合には薬の組み合わせチェックはされないことなどがあげられ、誤診が起きてしまう裏側が描かれる。麻里は曳田の病院を去るが、曳田も欠席した理事会で解任決議が了承され、院長を馘首されてしまう。
誤診はあってはならないことのはずであるが、実際の現場では誤診が起きてしまう環境、状況が数多くあるのだ、ということがよく分かる。患者側からの理不尽な訴えは「モンスターペアレント」がいる学校と同じ構図である。悪いことばかりが紹介されているようだが、曳田が徹底的な悪者だとは描かれていないのが救いになる。
誤診 (小学館文庫)
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