意思による楽観のための読書日記

天切り松闇がたり第四巻 浅田次郎 ***

天切り松とは松蔵のこと、盗みに入ったところが東郷元帥の部屋、説教されて元帥にその名をもらった。元帥は病み疲れた瞼を静かにおろした。「名もない盗ッ人に勲章を奪われるわけにはいくまい。俺がおはんに二ツ名をくれちゃる。天切りの技を使う松蔵ならば、天切り松でよかろう。以後、そのように名乗られよ」軍神から頂いた名前なら、安吉親分も文句はあるまいと考えた松蔵、「ありがとうござんす、天切り松の二ツ名、しっかりと胸に括らしていただきやす」

松蔵の仕事は屋敷の屋根瓦を外して忍び込む盗賊。物語は、年老いた松蔵が拘置所語りはじめると、警察官や看守たちが集まってきて皆その話に聞き入る、これが闇語り。親分は目細の安、安吉、強いやつにはひじ鉄を食らわすが、一銭の儲けにもならない人助けをして、子分たちもそれに巻き込むという人情派、彼らはすりの一味である。メンバーは安吉親分と松蔵の他には、常兄ィ、どこで仕入れたのか底知れない知性の持ち主。栄二兄ィ、とにかく格好いい、二つ名は黄不動。おこん姉さん、美しく凛々しい女すり。そして虎兄ィ、男の中の男。

天切り松シリーズの第4巻、昭和の時代になって、安吉一家も様変わり、舞台は大正から、関東大震災から復興した、モガとモボが闊歩する街に様変わっていく昭和初期の東京・銀座。時代は重苦しく、日本は戦争を起こし中国大陸に進出していた。安吉親分にも老いが押し寄せている。このシリーズの基本にあるのは人情、目細の安吉親分一家の面々は、世のため人のためにとんでもない盗みをしたり、奇想天外な騙しを展開していく。松蔵の師匠「黄不動」は結核に、死の予感を漂わせている。昔はパシリだった松蔵は、黄不動の兄貴の跡目を継いだ頃、目細一家は世の道理と人情を貫く仕事を目論む。

第一話 昭和侠盗伝 寅兄ィが面倒を見ていた戦争未亡人の子供に召集令状がきたことに憤慨した松蔵、振袖おこんと書生常兄ィとともに勲章を狙う、それもとびきりのものを。爆弾三勇士と軍神を両天秤に、国家に対する松蔵たちの大仕事に人々や読者までも仰天する。この話の中で、松蔵が“天切り松”を名乗る逸話が語られる。

第二話 日輪の刺客 二・二六事件の半年前に起こった陸軍相沢中佐による永田軍務局長斬殺事件、ひょんなことで安吉親分が助けた田舎ものは、永田軍務局長斬殺決行直前の皇道派強硬派の相沢三郎中佐だった。松蔵は相沢の知られざる一面を語る。

第三話 惜別の譜 たまたま知り合ったという縁を感じ、死刑が決まった相沢中佐の妻米子が抜け弁天一家の助けを借りて夫との最後の別れを果たす。彼女に託された遺書にある「和以」の真意とは。「日輪の刺客」の後日譚であはるが、相沢中佐と米子の愛の物語。

第四話 王妃のワルツ  関東軍によって画策された満州国の皇帝溥儀の弟溥傑と嵯峨侯爵家の姫との婚姻、事件に関わっていく松蔵たちを描く。「黄不動の栄治」ファンの嵯峨侯爵家のお嬢様、政略結婚のため愛新覚羅溥傑にお嫁に行かされる彼女の独身最後の願いを託された松蔵と病み上がり栄治が活躍する。

第五話 尾張町暮色 おこんを主人公にしたお話。銀座三丁目の松屋で銀ブラを楽しむおこんが遭遇したのは、かって妹分だったフラッパァのお銀こと銀子。第一銀行の行員と幸せな結婚をしてカタギになったはずの彼女がここにいるのか。銀子は震災の前年足を洗ってから十年経って金に困ってつい手を出し、おこんに助けられる。

第1巻から3巻までとは少々異なる味付けだが、これも天切り松の世界、人情話を語らせれば天下一品、浅田次郎の面目躍如の逸品。
天切り松闇がたり〈第4巻〉昭和侠盗伝 (集英社文庫)
闇の花道―天切り松 闇がたり〈第1巻〉 (集英社文庫)
残侠―天切り松 闇がたり〈第2巻〉 (集英社文庫)
天切り松 闇がたり3 初湯千両 (集英社文庫)
草原からの使者―沙高樓綺譚 (徳間文庫)
天国までの百マイル (朝日文庫)
あやし うらめし あな かなし (双葉文庫)
歩兵の本領 (講談社文庫)
椿山課長の七日間 (朝日文庫)
鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)
月のしずく (文春文庫)
勝負の極意 (幻冬舎アウトロー文庫)

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