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意思による楽観のための読書日記

文化復興1945年 娯楽から始まる戦後史 中川右介 **

1945年8月15日からその年の年末まで、歌舞伎、映画、音楽、出版、プロ野球と大相撲などのスポーツ界はどのような動きをしていたのか、事実を調べて列挙し、検証してみようという一冊。当然ではあるが、文化領域の担い手の多くは徴兵、徴用されたり、疎開したりで、もちろん戦死、負傷してしまった人も多い。劇場や映画館、様々な設備も空襲で焼けて被害が出たケースも多い。それに加えて、GHQによる検閲があり、それまでの日本軍部による検閲とは全く異なる不自由があった。

登場してくる芸能人とは黒澤明、今井正、原節子、山本嘉次郎、高峰秀子、山田五十鈴、長谷川一夫、菊田一夫、木下恵介、田中絹代、高峰三枝子、五所平之助、佐々木康、並木路子、佐野周二、小津安二郎、嵐寛寿郎、阪東妻三郎、稲垣浩、丸根賛太郎、片岡千恵蔵、市川右太衛門、永田雅一、溝口健二、尾上菊五郎、中村吉右衛門、市川猿之助、水谷八重子、杉村春子、中村伸郎、滝沢修、土方与志、古関裕而、出羽海一門、双葉山、鈴木龍二、大下弘、小川菊松、丸山定夫。

8月の映画、驚くことに製作中だったものもあり、8月下旬には興行が再開されている。9月には歌舞伎も再開、美空ひばりの少女時代を支えた美空楽団も結成された。GHQによる初めての松竹、大映などへの通達は次のような内容を除外せよ、というもの。
1.仇討ち復習
2.国家主義的、好戦的
3.歴史的事実の曲解
4.人種あるいは差別待遇を取り扱うもの
5.封建的忠誠を連想させるもの
6.軍国主義を謳歌せるもの
7.自殺の是認
8.婦人の服従
9.死、残虐、悪の栄えるもの
10.反民主主義
11.子供の不法私用
12.国家、州、人種、天皇、皇室への個人の奉仕を謳歌するもの
13.ポツダム宣言の主旨に反するもの
これでは、歌舞伎の時代物の演目が上演できない、と悩んだという。

プロ野球の最初の対戦、メンバーがほとんどいなくなった中、東西対抗戦が11月に開かれた。東軍、古川清蔵、金山次郎、千葉茂、加藤正二、大下弘、楠安夫、飯島滋弥、三好主、藤本英雄。西軍、呉昌征、上田藤夫、藤村富美男、鶴岡一人、野口明、土井恒武、岡村俊昭、下社邦男、笠松実。入場料は6円、神宮球場での観客は5878人だった。

12月31日にはNHKラジオにて「紅白音楽試合」が放送された。記録がなく、関係者の記憶によると、放送は22時から24時まで。紅組司会が水の江瀧子、白組は古川ロッパ。紅白14組ずつの出場だった。紅組では、葦原邦子、市丸の歌、川崎弘子の六段の調べ、近藤泉のバイオリンによるユーモレスク演奏、並木路子のリンゴの唄、比留間絹子四重奏団マンドリンによるサンタルチアなど。白組は、霧島昇、加賀美一郎の歌、櫻井潔楽団によるバンド演奏、浪岡惣一郎の春雨小唄、福田蘭童の尺八演奏による笛吹童子、柳家三亀松による新内流し、などである。

このようにして始まった戦後の芸能活動。準備を始めていた中には、翌年から毎日新聞における連載が始まった手塚治虫「マァチャンの日記帳」があり、加藤和枝として活動を始めた美空ひばりがいた。ふたりとも偶然ではあるが、昭和が終わる1989年に生涯を閉じた。貴重な記録と、人によっては記憶があるかもしれない戦後直後の芸能史である。
 

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