こうした事実を銀行の歴代経営者は知りながら、申し送り事項として引き継いできていることを渡瀬は知る。実際の融資は銀行の総務部が実行していることも判明するが、総務部でも上からの要請であるから断れなかったのだ、と嘯く。顧問弁護士も「法律上の問題はない」などと社内会議で解説するのだが、それに対して経営者達が、先生が問題なしと言ってくれるなら安心だ、などというのに渡瀬は激怒、頭取や専務、常務がいる会議の席上、次のように渡瀬が発言するのがこの小説の最大の山場である。「こんな融資を私は教えられたことはありません。きちんと融資使途を確認して担保を取って、融資して、そして返済される、融資はもっと厳格なものです。生きて使われ、きちんと返済されてこそ融資だとあなた方は教えてくれたのではありませんか。」「どこの銀行に大蔵省検査をごまかすのは当然だ、どこでもやっている、などと発言する役員がいますか!」
ちょっと格好良すぎる気もするが、江上さんは本当にそういう発言をしたのだろうと思える。それは、銀行を辞めて、そのことを小説、と言う形で告発し、その後も小説家として次々と作品を出しているから。江上さんの講演会を聞いたことがある。席上質問をした。「不祥事で不正をはたらいた経営者達は責任を取って退任をする、しかし、次世代の経営者達はこうした経験をしていない、つまり懲りていない。どうしたら企業不祥事の再発を防止できるのでしょうか。」これに対して江上さんはこう答えた。「社員が気づくしかないのです。法律的に問題がない、などという法律の専門家の話は信用できない、社会人としての常識から、それはおかしい、と社員が感じたら、それは変だ、と発言すること、できる会社であることが、不祥事発生抑止力だと思います」「そのためには社員がやる気やりがいを感じて働ける会社であることが重要なんです」
江上さんは懲りたんですね。社会人としての常識が通じる会社、会社の常識が社会常識とはかけ離れている実態。セミナーでは「ちょっとおしゃべりが過ぎるおじさん」という印象だったのだが、小説はリアリティが迫る迫力がある。銀行不祥事告発の向こうには江上さんにとっては何があるのであろうか。それが課題だと思う。
座礁 巨大銀行が震えた日 (朝日文庫)
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