意思による楽観のための読書日記

ペルシャの幻術師 司馬遼太郎 ***

奇妙な読後感を持つ短編集。特に、兜率天(とそつてん)の巡礼は印象的だ。京都の大学の教授で閼伽道竜(あかどうりゅう)は北畠顕家に関する南朝の新説を太平洋戦争中に唱えて大学を追放された。閼伽道竜の妻は波那、終戦の日に発狂して死んだ。その死の原因は妻の先祖にあると考えた閼伽道竜は調査する。妻は兵庫県赤穂の大避神社の禰宜が実家であり、その祖先はユダヤ人だったことを突き止める。彼らは古代キリスト教の一派である景教(ネストリウス教)で、秦氏の一族としてダビデの礼拝堂を建立、これは仏教伝来より以前のことであったという。ユダヤ人は井戸を掘る、イスラエの井戸が当地に伝わっているともいわれる。その祖先をたどっていくうちに大和路から洛西の廃寺であった蓮台院の弥勒堂に兜率天曼陀羅の絵図を見つける。なんとその絵図のなかに妻の波那がいるではないか。ろうそくの明かりで妻の波那にそっくりな姿を見ているうちに弥勒堂もろとも燃え尽きて死んでしまう、という幻想のようなお話。景教の伝来が仏教よりも前で、それを伝えたユダヤ人が祖先という奇想天外な話を軸にしていて、引き込まれてしまう。京都の太秦がその地である、やすらい井戸がイスラエル井戸だ、というのももっともらしい。

飛び加藤、果心居士の幻術の二話も幻術使いと忍者の話であり、幻術使いが戦国武将たちをたぶらかす話はおもしろい。また下請忍者では伊賀忍者たちの悲惨な生活と老後を描き、下忍たちがどのようにして教育され仕事をしてきたのかが分かって興味深い。白戸三平の影丸伝よりもこちらの方がリアリスティックである。牛黄加持では真言密教の安産祈願で藤原得子の安産を祈って得子の産道に精液と牛の角を混ぜ合わせた液体を塗り祈祷する、という奇想天外な描写に驚き、外法仏では異形の僧侶の首を手に入れたい女がどのようにしてその僧侶の首を手にしたかという奇妙きてれつな話、いずれも手が込んだ話である。
ペルシャの幻術師 (文春文庫)

読書日記 ブログランキングへ

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「読書」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事