灯台守のミステリー。1900年に起きた、スコットランド西方のヘブリディーズ諸島の沖合にあるアイリーン・モア島の灯台で3人の灯台守が突然失踪したミステリーがモチーフになっている。物語に登場する人物名と地名がユニークなミステリーで、主人公は灯台守の物理波矢多(もとろい・はやた)、時代は戦後すぐの頃で、東北地方にある九指岩(くしいわ)という名の断崖に立つ灯台が舞台。船での接岸か、一日以上かかる徒歩でのアプローチでしか近づけない轟ケ崎(ごうがさき)灯台に赴任するという話から始まる。前の赴任地は関東にある丑緒(うしお)の太咆崎(たいこうざき)で、波矢多は自殺しようとしていた12-3歳の少女を救ったことがある。
赴任するため灯台に近い網引(あじき)という港町から漁船でアプローチしようとしたが波のため近づけず、徒歩で行くことになる。旅館の女将に地図を書いてもらうが、途中で道に迷い一軒の小屋で老婆と少女に救われた。老婆は少女の祖母であるといい、母は旅芸人の男と駆け落ちしておらず、少女は18歳、この小屋で巫女の修行中だとのことだった。次の日になり、少女に書いてもらった地図を頼りにようやく灯台に到着する。灯台に働いている灯台長が入佐加孝蔵(いりさか・こうぞう)、その妻路子、そして独身の浜地職員が働いていた。
灯台長の入佐加の経験談を聞いていると、戦前の独身時代に轟ケ崎灯台に赴任して、ここで妻になる路子さんと知り合い、その後札幌、千島の灯台に赴任したが終戦で千島の灯台が閉鎖されこの轟ケ崎灯台に戻ってきたという。灯台長が語ってくれた路子さんとの出会いは、轟ケ崎の近くにある白子神社お祭りで、神主の一人娘だった道子さんと出会い、駆け落ちのようにして二人で札幌の次の赴任地に向かったという。その時、道子は路子と名前を変えたのだとのこと。しかしその地で授かった娘の花実は小さいときに行方不明になってしまった。
波矢多は灯台長の経験談を聞いて、自分の経験と重なる部分を感じていた。ひょっとしたら、路子さんは自分が助けてもらった少女の母ではないのか、旅芸人というのは灯台長のことだったのではないか、自分が太咆崎で救った少女が実は小屋にいた少女だったのではないかと。そうすると、灯台長と路子さんの行方不明になった娘がその少女だ、ということに繋がるのではないかということに思い当たる。何という偶然、巡り合わせであろうか。はたまた、これは魔物のしわざなのか。気がつくと波矢多の手元には灯台長が書いた日記があり、灯台長も路子さんも浜地も姿が見えないではないか。
波矢多は轟カ崎灯台に赴任してからの記憶を失うほどの衝撃を受け、結局灯台守を辞職する。一体、灯台で何があったのか、真実は何なのかは灯台を包む霧の中に消えてしまったようだ。本書内容は以上。
ミステリーなので読んでみなければ本書の魅力は伝わらないが、地名や人名も物語のおどろおどろしさに迫力を加えていることは確か。ベッドに入って読み始めると途中で眠れなくなる。ぜひ「想像の翼を広げて」読みたい。