意思による楽観のための読書日記

影踏み 横山秀夫 *****

横山秀夫と言えば警察小説を書く人、と紹介されることもあるが、僕はこの小説、というかお話はそうしたジャンルを超えた作品だと思う。ミステリーなので謎が提示され主人公がその謎を解く、という展開であるがその中に人間の感情や生い立ち、心の動きなどが巧みに組み込まれている。組み込まれた謎のプロットが細かく周到に冒頭から用意され、なにげない台詞の中にもヒントがある。読み手はなかなかそれに気づくことはできないのだが、タネはちゃんと示されている。

双子の弟と母親、そして父親までも母親自身の手による火事で失った主人公の真壁修一、死んだ弟は啓二というが、不思議なことに修一の耳の中に生きていて類い希なる記憶力で「ノビカベ」と渾名される泥棒の兄を助ける、という特異な設定。修一は泥棒ではあるが目の前に示された証拠などを元になぜそうなったのかを徹底してこだわりを持ちながら調べる。警察ものが多い横山秀夫、この小説では主人公はこの泥棒の修一、もちろん警察官はたくさん登場する。修一が出所する場面から始まるが、収監される原因となった事件が修一は気になっていた。忍び込んだ家の夫婦、妻の葉子は起きていて、夫を殺害しようとする寸前だったのではないかと考えている。調べてみるが、妻は夫をその後殺害してはいないという。なぜ修一はそんなにその家の妻の行動が気になるのか、啓二の記憶力によって、その家にあるべきものがないことに気がついたからである。修一と啓二には同時に愛した女性、久子がいたのだが、二人は久子を巡って争い、久子は修一を選んだ。啓二はそのことを根に持ち泥棒になってしまう、これが原因となって母親が自宅に放火、啓二をとも連れにして死んだ。同級生で刑事をやっている吉川や刑務所仲間からの情報をもとに、葉子を捜し謎を解き明かしていく。その後友人である刑事の吉川が殺され、その謎を解く。さらに久子の勤める保育園での盗難事件、地元の泥棒仲間が次々と暴力団の手により手ひどく痛めつけられる事件、と修一の目の前であったり身の回りに起きる事件を、泥棒の修一が説いていくというお話。忍び込む技が持ちネタである「ノビカベ」の力と弟啓二の記憶力を使って、さらには修一のもつ勧善懲悪の信念と行動力、ヤクザを前にしても動じない胆力などで謎を解き明かしていく。こうした中で最後には弟啓二がなぜ死んだのか、母親はなぜ啓二を殺そうとしたのかが啓二の告白で示される。久子とは結ばれるのかどうかは示されない。「動機」「半落ち」「クライマーズハイ」とこの人の小説にははずれがない、また読んでみたい。
影踏み (祥伝社文庫)
クライマーズ・ハイ (文春文庫)
動機 (文春文庫)
半落ち (講談社文庫)

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