筆者の名前は「イホコ」、この音を分析すると、「先頭母音のイは相手の中に飛び込むスペクトル、ホは温かさと包容力、最後のコは賢さ、可愛らしさがあり全体としてほっこりとしたカジュアルさがあるという。これがシホコなら切ない感じがあり華奢なイメージで手を貸してあげたくなるという。ミホコとなると女らしさが増すが現実感も増えて、チホコにすると華があってちゃっかりしたイメージ、リホコになると知性派で先生と呼ばれる職業にも似合う。田中真紀子がマユコ、マサコ、マミコ、マユコだったらどうだろう。磯野貴理子がキミコ、キヨコだったら、などと考えるとイメージが違うことがわかる。
Sは爽やかさを感じ、Tには確かさを、Hは開放感、Nには慰撫され、Kには鼓舞される。このように言葉の音から潜在脳に浮かぶイメージをサブリミナルインプレッションと言える力を人に与えているという。認知科学ではこれを「クオリア」と呼ばれる。言語発生から東西への拡大の道のりはインド・ヨーロッパ祖語から発し、サンスクリットなどの古代インド語、ペルシャ語、ラテン語、ギリシャ語、ゲルマン語、スラブ語、イタリア語、フランス語、スペイン語、英語などと西へ広がり、東へは梵語、漢語を経て日本語へと広がってきたという。これら約300にも登る言語に共通するのが擬態語・擬音語(オノマトペ)のクオリアである、というのが筆者の着眼点。
B音のオノマトペはボンボン、ビンビンなどの膨張、バンバン、バリバリなどの力強さ、ボサボサ、ボウボウなどの増大、バラバラ、ベラベラなどの分散、ベタベタ、ベトベトなどの粘性であり、膨張し破裂するB音のイメージである。S音は滑りがよくサラサラ、固いK音ではカラカラ、とろみのあるT音ではタラタラなどとなる。
こうした音の感性を視覚化することを筆者は試みているが、世界にはこうした研究がないといい、その理由は日本語のみが母音語であるからだという。日本語は5つの母音と15の子音の二次元一覧表で50音+濁音が表される。子音中心の英語などでは言葉の音声は構造化できないリニアな音声並びであると見ているので、何千種類ものパターン認識を行って音声を聞き分けている。日本人は母音5音を軸に2次元構造で見ているので、音声は母音を区切りにした拍ごとに認識し、拍ごとの読み表記文字であるかな文字をもっている。
商品名では日本でもCの文字を使うことが多い、音としてはKもしくはSになるが、曲面、回転をイメージさせる製品ではKの音にKではなくC文字を使うことが多い。車の名前に多いのがカローラ、コロナ、カリーナ、クラウン、カムリなどであり、セドリック、シビックもCである。外国でもカマロ、コルベット、シボレー、シトロエンなど数多い。ゲルマン語系ではボルボ、ベンツ、ポルシェなどブレークスルー系のB音、P音も多い。KTPなどの清音にはH系の音があり、ドライ感、温感、空気感などリラックス、未来などのイメージを持つ。N系も清音であるが、密着、粘性、癒し、ナイーブ、私的な感じを表す。
N音を名前先頭にもつ女性は恋人・女房には適するがキャリアウーマンには徹することができない。T音、K音が名前にあるならそちらで呼んでもらえば仕事では得することが多い。M音は柔らかさ、丸さ、母性、満ち足りた思いがある。R音には弾性、理知的、哲学的なリズム感を持つ。
一方BGDZの濁音は膨張、放出、振動の発音構造であり、BはHの濁音とされるが、Pの濁音と考えたほうが現代日本語の発音構造からは妥当であるという。KTPの清音が男性の生殖行為における意識を刺激するのに対し、BGDZの濁音は力強さと膨張感があり、オトコ子供の好きな音、ジャンプ、マガジン、サンデー、モーニングとブレークスルー系と呼ばれるPKT、BGDZ系の音が多い。昔からあるのがゴジラ、ガメラ、ピグモン、ガンダム、デビルマン。ガンダムの話の中にはガンタンク、ガンキャノン、ザク、ドム、ジムゲルググなどが登場する。
S音は思春期から第一子妊娠までの女性脳を癒す音。親の干渉を疎ましがる時期にはKT系を好む。12歳まではBPを愛しMに癒されていた少女たちがいきなりSKT音に傾倒するようなるのが初潮期の変化なのだという。全女性に愛されるM音にSKTを加えるとパンダ、ムーミン、ミッフィー、ミニーとなり、サンリオ、キティー、セブンティーン、ディズニーへと変遷する。同時期の男の子が好むBGDZは同世代の少女には憎らしいくらいなのだが女性ホルモンが安定してくるとBPに対してもタフになりRと組み合わせて華やかさを感じるようになる。ブルガリ、プラダ、バーバリーなど、リボン、バラなどと合わせてのブランドマントラになるという。
母音語には日本語以外にはポリネシア語があるが、母音一文字で単語になるのは日本語の大きな特徴だという。吾a、胃、井i、卯、兎、鵜u、絵、柄e、尾oなどアーネスト・サトウだったかミットフォードだったか英国人外交官が書いた日本日記のなかにも、日本には一文字母音の単語があることに驚いたというような記述があったと記憶する、英国人が知ったら大喜びするはずだ。母音を言語優位脳である左脳で聞くのは世界で日本人だけだという研究をしているのが医学博士の角田忠信さん。日本人以外では日本人が出す「あー」「ウー」などという音声を人間の音声と認識しにくいのだという。欧米人に「胃」「絵」などと発音しても聞き取りにくいことになる。左脳右脳を繋ぐ神経が太いのが女性脳、細いのが男性脳というのが筆者のもう一つの主張であり、これと日本人の特性を加えた研究も期待したいところだ。
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