意思による楽観のための読書日記

ニューヨーク地下共和国(下) 梁石日 ****

アメリカのブッシュ政権時代の問題を描いている。人種差別をベースにして、イラクにおける資源と利権を手に入れようとするフォスター政権、テロがNYで起きる。9.11は実話だったが、下巻での出来事はフィクション。

まずは自由の女神がテロリストに爆破される。その時自分の船にいたゼムは爆音にびっくりする。一緒にいたのはソーニャ、ゼムはウラジミールの妻ソーニャと深い関係になり、そして深く愛し合うようになっていた。そして犯行声明が出た。「ニューヨーク地下共和国」というのが声明文の出し主だった。何者であろうか、テロリストであることに間違いはないがその正体はわからない。ハドソン川に船を係留する船主はテロリストの疑いを受け船からの一時退去を命じられる。これに反発したゼムの友人2人はシーバース部長率いる警察の制止を振り切って船を出し、ロケット弾を打ち込まれて警察に殺されてしまう。一般市民への横暴であるが、警察はテロリストへの正当防衛だとして抗議を無視した。

ある日ゼムがニュースを見ているとルーベンスという男が殺されたと報道、スザンナとカウフマンを殺した犯人がルーベンスであり、ルーベンスを殺したのは兵隊でアフガニスタンから帰還して再赴任することを拒否していたジョージだった。ジョージはテロリスト集団に属しているのだろうか。

今度のテロは、3台のリモコン小型飛行機での白い粉の噴霧であった。NY市内の3つのビルから飛び立ったリモコン飛行機が小麦粉を巻いたのだ。これもニューヨーク地下共和国の反抗であり警告であった。人々はパニックに陥った。テロストはいつ何をするかわからない、という認識が市民に広がり、テロリストへの取り締まりを警察に求めたのだ。ゼムやジャック達はアフガンやイラクからのアメリカ軍撤退を求めて市民運動を繰り広げていたが、こうした市民運動がテロリストの巣窟になっている、と警察から弾圧されるようになってきた。愛国者法やテロリスト防止法では不審人物を理由なく2ヶ月も拘束できる法律であり、ゼムたちのグループは警察から目をつけられる。

ゼムたちは民主党の上院議員たちに働きかけて警察の横暴を訴えるが、公聴会に呼ばれ尋問を受けることで、市民からはテロリストとの関係を疑われるようになり活動が制約を受けるようになる。ウラジミールはロシアから逃れてくる際に金塊と原子爆弾をアメリカに持ち込んだという。それもアメリカ高官との取引条件だったというのだ。金塊と原子爆弾を隠したのはコニーアイランドの遊園地の地下、そのとき立ち会ったのがシーバース部長だったという。原爆は2個あり、一つはアメリカに発見されたがもう一つの在処がわからない。テロリストにわたっていれば大変なことになるとゼムはウラジミールに在りかを教えるように迫るが口を割るわけはなかった。

シーバース部長はウラジミールがテロリストに資金提供をしていると考え、NYの街の中にあるウラジミールの自宅を襲撃、ウラジミールは死ぬが原爆の行方は謎である。シーバース部長はウラジミールの部下により命をねらわれ、一度は助かるが、再度の暗殺者に殺される。ゼムはジョージが原爆について何か知っているのではないかと会いに行くが、ジョージは手がつけられないごろつきになっている。ジョージをテロリストとして追いつめ、警察に追いつめられたジョージはゼムの船に逃げ込む。追いかけてきた警察はゼムもろともジョージたちのテロリストたちを抹殺する。

人殺しに次ぐ人殺しでいやになるが、差別や資源問題、アフガンとイラク問題、言論抑圧、貧困問題などアメリカの現代に一つの側面を表していると思う。「アメリカから<自由>が消える 」や「ルポ 貧困大国アメリカ」で描かれた現代のアメリカがここにもあるという気もする。「血と骨」の梁石日のイメージが変わる小説である。
ニューヨーク地下共和国(下)
ニューヨーク地下共和国(上)

アメリカから<自由>が消える (扶桑社新書)
ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)
ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)
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