意思による楽観のための読書日記

螺鈿迷宮 海堂尊 ***

終末医療を手がける桜宮病院は碧翠院という老人介護施設と併設されていたが、医療に絡んで不正が行われているかもしれない、との疑惑があり、調査をすることになった。調査を依頼されたのは東城大学医学部の落ちこぼれ天馬大吉、幼なじみの記者葉子に潜入して調べてくることを頼み込まれた。医学生ということで介護のボランティアとして潜入するが、桜宮病院では患者がよく死亡することに気がつく。院長の桜宮巌雄は死んだ患者はすべて医学検索のため解剖しているという。巌雄は言う。「死亡時医学検索は医学の基本だ。そして医療における警察の役割を果たす。そこに金を拠出しない国家は警察にカネを出さない国家に等しい。闇にまぎれて悪がのさばり、医療の世界には警察官がいない犯罪ユートピアなのだよ。」

死亡時医学検索には解剖だけではなく、オートプシーイメージング(Ai:画像診断)である。巌雄はAiを桜宮病院で導入していた。白鳥は天馬に解説する。「日本の死亡時医学検索の剖検率は4%、のこりは体表検査だけで死因判定が行われている。大学病院やがんセンターのような先端施設ではもっと剖検率が低く0.5%などというセンター病院もあるくらいだ。剖検率が100%という桜宮病院は異常なのだよ。」「死因が分からなければ治療の正しさが判断できない。犯罪が見過ごされる可能性がある。Aiは非常に有効な死因解明効果をもち、ある法医学者が遺体をCT検査してみたら、体表検索の20%に間違いがあることを報告している。そうしたことに金を出してこなかった国の無策がこんな状況を招いたんだ。死人に金を出すな、生きた人に使え、というのが厚生労働省の金科玉条なのだ。」

厚生労働省からも桜宮病院には白鳥と姫宮が医師と看護師として潜入、病院の実態を探る中で、殺されかけた天馬を助ける。

巌雄院長は終戦直後、警察や愚連隊との付き合いから医療面で双方にメリットがある手助けをした。医療行為と死亡診断である。こうしたことから警察やヤクザから一目置かれる存在になった。そして桜宮病院と碧翠院を併設した。結婚して3人の娘、葵と双子の小百合、すみれを医師に育てた。しかし、葵が少年に大怪我をさせられその結果自殺してしまう。巌雄の戦争体験、天馬大吉の死んだ両親を車でひき殺してしまった人間とその息子の関係、大吉とこの病院の幼い日の関係がからみ合って謎解きは進む。自殺サイト、エバーリング(死体保存)技術、シャトル病院、自殺幇助、剖検率100%の理由、など絡みあうキーワードが最後には解きほぐされる。巌雄医師が剖検することで、デスコントロールを行えるシステムが確立されていた。

白鳥は最後に部下の姫宮に言う。「死亡時検索の最大の検査である解剖が犯罪隠匿になる問題はAiを死亡時医学検索に組み込めば簡単に解決する。そうすれば解剖はAiを監査し、Aiは解剖を監査するという二重監査システムが完成する。日本には1万台ものCTスキャンがある稀有な国だ、あとは官僚が検査の意義を理解しそこに予算をつければいいだけさ。」

チームバチスタの栄光の続編なのか、現代医療が抱える問題を提起しながらも、エンタテインメント性が高い作品である。螺鈿迷宮

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