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敵基地攻撃と憲法の矛盾明白

2023年07月29日 11時12分25秒 | 一言

 防衛省が2023年版「防衛白書」を公表しました。岸田文雄政権が昨年12月に「国家安全保障戦略」など安保3文書を閣議決定して初の白書です。3文書で決めた「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有や、今後5年間で43兆円という「これまでとは全く異なる水準」の大軍拡を正当化しようとしています。しかし、政府がこれまで敵基地攻撃や「専守防衛」などに関して示してきた見解との矛盾については一切説明できていません。

「専守防衛」とは無縁

 白書は、敵基地攻撃能力について「解説」を設け、「1956年2月29日に政府見解として、憲法上、『誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である』としたものの、これまで政策判断として保有することとしてこなかった能力に当たる」と説明しています。

 この記述には、重大なごまかしがあります。「解説」が指摘する政府見解(衆院内閣委員会、鳩山一郎首相答弁)には続きがあります。それは「他に防御の手段があるにもかかわらず、侵略国の領域内の基地をたたくことが防御上便宜であるというだけの場合を予想し、そういう場合に安易にその基地を攻撃するのは、自衛の範囲には入らない」というものです。他に防御の手段があれば敵基地攻撃は自衛の範囲には入らないということです。

 このことは、その後の政府答弁でも、敵基地攻撃を「法理的には可能」としたのは「日米安全保障条約もないというような、他に全く援助の手段がない、かような場合における憲法上の解釈の設例としてのお話」(59年3月19日、衆院内閣委、伊能繁次郎防衛庁長官)だとされています。そのため「こういう仮定の事態を想定して、…平生から他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持っているということは、憲法の趣旨とするところではない」(同前)としてきました。歴代政府が敵基地攻撃能力を保有してこなかったのは、「政策判断」としてではなく、憲法に反するからです。

 「解説」は、敵基地攻撃能力を「わが国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合」に行使するとしています。一方で「2015年の平和安全法制(注・安保法制)に際して示された武力の行使の三要件…を満たす場合に行使しうる」ともしています。

 安保法制は、米国が第三国との戦争で武力攻撃を受け、それにより日本の存立が脅かされると判断すれば、米国を守るための武力の行使=集団的自衛権の行使を可能にしました。武力攻撃されていない日本が米国の戦争に巻き込まれ、相手国から報復攻撃さえ受けるものです。白書が強調する「専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とならないとの基本理念」に真っ向から背きます。

安保環境を一層厳しく

 白書は、日本が「戦後、最も厳しく複雑な安全保障環境に直面」していることを敵基地攻撃能力保有の口実にしています。しかし、敵基地攻撃能力の保有とそのための大軍拡は、軍拡競争の悪循環―「安全保障のジレンマ」を引き起こし、安全保障環境をさらに厳しく複雑なものにするだけです。



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