情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

自衛隊の自衛隊による自衛隊のための強制捜査~国民の知る権利無視:読売事故情報提供事件

2007-02-18 11:10:29 | メディア(知るための手段のあり方)
 読売新聞記者への情報提供が問題とされている事件(末尾引用1)で、毎日新聞が【機密漏えい:「秘密」にすべき情報だった? 識者は批判】という見出しで、大々的に紙面展開した(末尾引用2)。事故を防ぐためには有益な情報だったにもかかわらず、それを隠した自衛隊こそが非難されるべきであり、事件化するのは問題だ、という批判は正しい。

 そもそも、この問題は二つの点で重大な問題をはらんでいる。一つは表現の自由への侵害、そしてもう一つは自衛隊内部の組織による強制捜査の適正さへの疑問だ。
 
 最初の点については、末尾引用記事にまかせ、ここでは第2の点について書きたい。

 自衛隊犯罪捜査服務規則なるものが存在し、また、当然ながら強制捜査については裁判所のチェックが入ることにはなっているが、今回のような形式的には犯罪に該当する事件を裁判所がとめることは期待できない。

 こういうときこそ、政府が自衛隊をどこまで押さえられるかというシビリアンコントロールが問われているはずだ。ここで、自衛隊の行きすぎをきちんと政府、各党が指導、批判できないのでは、「9条を変えることで逆に自衛隊を法律によって縛ることができる」などという議論が単なる口実に過ぎないことが明らかになるはずだ。日本は戦前、軍部の独断専行に歯止めをかけることができず、戦争に突き進んだ。二度とそのような愚かなことを繰り返さないためにも、自衛隊の情報が適切に外部にも報道されることが必要だ。

 自民党、公明党、民主党改憲派の皆さん、ちゃんとシビリアンコントロールしてね!

 そういえば、自民党の新憲法案では、軍事裁判所の新設が予定されているが、これは怖い…。たとえば、上司の命令に反して外国の軍隊を攻撃したとしたが、それが自衛隊内部で好戦派を中心に歓迎されていたとしよう。その場合、仮に軍事裁判所(裁判官も検察も弁護人も全て自衛隊員)がごく軽い刑罰しか下さなかったとしても、自衛隊検察官は自衛隊のメンバーだから控訴をしない。ということは、既成事実が次々とつくられ、戦争を拡大する方向で進んでしまう。…これが戦前にも起きたのです。私たちは歴史に学ばないといけない。

 ※メディアの論調は、自衛隊批判に傾いているようだ。そういう意味では、読売でよかった。朝日なら今頃、各社の記事の論調が「行きすぎた取材への捜査は当然だ」などというものになったのではないだろうか?!


■■引用1開始(朝日)■■

中国海軍の潜水艦が南シナ海で事故のため航行不能になっていると報じた05年5月の読売新聞記事をめぐり、自衛隊内の警察組織である警務隊が、読売新聞側にこの情報を伝えたのが防衛省情報本部の1等空佐(49)だったとみて、自衛隊法違反(秘密漏洩)の容疑で事情聴取や自宅の捜索をしていることが分かった。警務隊による捜査は「秘密保持の徹底」を自衛隊員に強く意識させる狙いがあるとみられ、現時点では読売新聞側は捜査対象とされていない模様だ。ただ、報道機関側への情報提供者をめぐる捜査は極めて異例で、国民の「知る権利」や報道の自由との兼ね合いで議論を呼びそうだ。

 この記事は05年5月31日付朝刊に掲載された。潜水艦を中国海軍所属の「明」級のディーゼル式攻撃型潜水艦と特定し、「300番台の艦番号がつけられている」ことなどを日米両国の防衛筋が確認したと報じた。

 関係者によると、記事中には米側から提供された極秘情報も含まれていたとされる。この点を重視した当時の防衛庁調査課は記事掲載後、被疑者不詳のまま自衛隊法違反(秘密漏洩)の疑いで警務隊に刑事告発した。

 00年に明らかになった海上自衛隊3佐による在日ロシア大使館武官への秘密漏洩事件を直接のきっかけに、01年10月の自衛隊法改正で、防衛庁長官(現・防衛相)が指定する「防衛秘密」を漏らす罪が新設された。隊員だけでなく、防衛省と契約関係がある防衛産業などの民間企業にも守秘義務が課せられた(違反した場合は5年以下の懲役)。防衛秘密は電波情報、画像情報など10項目が列挙され広範囲に及ぶが、防衛相の指定を厳格に制限する規定がなく、指定が乱発されて防衛情報が広く国民の目から隠される可能性がある。

 さらに、防衛秘密漏洩を「教唆」する罪も新設され(違反した場合は3年以下の懲役)、防衛庁(当時)側の説明では、防衛情報を取材・調査する記者や研究者の活動も、脅迫や贈賄、男女関係など情を通じた実態があれば「教唆」と認定されるとされた。「知る権利」が著しく阻害される可能性が指摘され、国会でも取り上げられた。

■■引用終了■■


■■引用2開始(毎日)■■

 読売新聞記者に軍事情報を伝えたとして、防衛省情報本部所属の航空自衛隊1等空佐(49)が自衛隊法違反(秘密漏えい)容疑で強制捜査を受けた問題は16日、メディア関係者や政府内に波紋を広げた。01年の米同時多発テロ事件をきっかけに改正された自衛隊法には秘密漏えい罪への罰則強化などが含まれており、当時から「取材の自由を侵害する恐れがある」との指摘が出ていた。法の運用を巡り今後も議論を呼ぶとみられる。

 ■潜水艦火災…公表必要な「安全」関連情報だったのでは

 今回の事件は国民の「知る権利」や「報道の自由」を制約するという点で大きな課題を残した。さらに、中国潜水艦の火災事故という日本国民の安全に密接に関連する情報を、読売新聞が報道するまで明らかにしなかった防衛庁(当時)の秘密体質への批判も識者から相次いだ。

 「潜水艦が事故を起こした周辺海域で日本の漁船が航行していたら被害に巻き込まれる恐れがあり、生命にかかわる問題だった。本来であれば防衛庁自身が一刻も早く公開すべき情報だった」。大石泰彦・青山学院大教授(メディア倫理法制)はそう指摘する。大石教授は「1等空佐が読売記者に教えた行為は情報漏えいではなく、公益性のある情報提供だと言える」と話す。

 また大石教授は「改正案が提出された時の懸念が現実になったといえ、こういう防衛省の情報開示の姿勢では、拡大解釈されたのかさえウオッチできない」と述べた。

 服部孝章・立教大教授(メディア法)も「生命にかかわる緊急情報さえ開示されないのでは何が秘密に当たるのかの議論もできない」と厳しく批判する。その上で「このような事案が秘密漏えいとして処罰の対象となるのでは記者への情報提供についての萎縮(いしゅく)効果は計り知れない。内部告発者を保護する公益通報者保護法があるが、防衛省内ではうまく機能しないだろう」と述べる。

 一方、軍事評論家の小川和久氏は、今回の強制捜査について「防衛省はファイル交換ソフトを介した情報流出があったため、秘密保全に対する危機感が高まっていた」と背景を解説した。さらに「米軍再編などで同盟国との関係が一層緊密化する中で、米国に対しても情報管理を徹底するという意思を示す象徴的なことであり、一罰百戒の要素が強いのではないか。報道機関はその中でもいろいろな角度から情報収集を続け、国民に伝えていくべきだ」と話した。

 ■政府・自民党 統制強める動き

 政府は昨年12月にカウンターインテリジェンス推進会議(議長・的場順三官房副長官)を設置し、秘密保全を強化するための政府全体の仕組み作りに着手している。そこでは報道機関への情報提供のあり方も検討対象となる見通しだ。菅義偉総務相も放送法などの関連法を見直す考えを示すなど、政府・自民党内で情報統制を強める動きが出ている。

 塩崎恭久官房長官は16日の記者会見で、1等空佐の情報漏えい問題に関連し、推進会議について「当然、情報の管理ということで幅広い議論をしないといけない」と述べ、報道機関への情報漏えい問題も検討対象との認識を示唆した。

 推進会議は、省庁ごとに設けられている秘密保全の規則について、来年度中に政府内で統一基準を設けることを検討中。背景には、在上海総領事館の男性職員が04年5月に中国当局から機密情報の提供を強要されて自殺したとされる問題などがあり、外国の秘密情報活動などを念頭に、報道機関との接し方も含めた職員の行動基準を策定する意向だ。基準策定後に罰則強化などの法改正の必要性を唱える声もある。

 メディアへの国の関与を強める動きも目立ち始めている。関西テレビ(大阪市北区)のねつ造問題発覚を受け、菅総務相は「報道の自由は当然だが、事実と異なったことを報道する自由はない」と、再発防止のための条項を盛り込んだ放送法など関連法改正案を今国会に提出する意向を重ねて主張した。菅総務相は昨年11月にもNHKの短波ラジオ国際放送で拉致問題を重点的に放送するよう命じ、論議を呼んだ。

 一方、自民党の中川秀直幹事長も16日の会見で情報漏えい問題について「一部に知る権利との関係の指摘があるが、公務員が機密を漏えいすることはあってはならない」と厳しい対応が必要だとの認識を示した。

 ■ことば 自衛隊法改正 防衛秘密を新たに定めて秘密漏えいの罰則を強化し、報道関係者を含む民間人も処罰対象に加えた改正自衛隊法は01年10月、わずか1カ月足らずの審議で成立。秘密漏えいの場合は5年以下の懲役で、教唆・共謀は3年以下の懲役と規定された。同年9月の米同時多発テロを受けたテロ対策特別措置法とのセットだった。

 当時の法案審議でも、秘密漏えいを教唆、扇動するなどした民間人の処罰規定について、「報道・取材の自由」「表現の自由」を侵す恐れがあるとの指摘が専門家から出ていた。防衛庁側は記者の取材が教唆に当たる例として、贈賄や脅迫などの犯罪行為のほか「(男女の)情を通じる」といった社会通念上許されない行為を挙げていた。

 防衛秘密の10項目は、防衛に関して収集した電波情報・画像情報▽防衛用施設の設計など抽象的で幅広い。

 また改正法は、民間人を処罰対象とした点などで「表現の自由を侵す」などと批判され、85年に廃案になった国家秘密法案(スパイ防止法案)との類似性も指摘されていた。

■■引用終了■■






★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
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