
久々のお休みです。
その昔、小学校の机は二人用だった。一つの机に二人が並んで使う。明治期の資料によると二人用の採用は経費上の判断なのだそうだが、これによって、過去の小学生は一人机の導入まで、不毛な領土争いに巻き込まれたとは大げさか▼使った世代は覚えているか。あの机は境界がどうも不明瞭で、同席した子ども同士の口喧嘩(くちげんか)が起きやすい。「消しゴムが、はみ出ている」「足が(机の)地下の国境を越えた」。大人なら、ほぼ中央を境と見なし、互いに挑発しない知恵もあるが、あの年ごろではそうもいかぬ▼深刻な境界の乱れや消失が問題の背景になっている。人間とクマの境界である。秋田県鹿角市で、男女四人が相次いでクマとみられる動物に襲われて亡くなった▼いたましい事故のほかにも、今年は、東北地方で臆病なはずのツキノワグマの出没が目立っていると聞く▼山村では過疎化などに伴い、耕作放棄地が増加し、かつて人とクマをうまく隔てていた中山間地帯が消えかかっている。人の生活圏とクマの生息地がじかに接しあるいは重なるようになり、悲劇につながっている。人とクマがあの机に座っている。事故はさらに増えるだろう▼人里と山林の間の緩衝地帯をどう取り戻すか。それは農山村をどう再生させるかという人間の問題でもある。最近の若者の田園回帰の志向を聞かぬでもないが、その道は険しい。