松の内は、東京などで七日まで、関西では古くは十五日までをさしたという。明けるとともに、門松を片付けて、正月気分とお別れすることになる。<松過ぎの又(また)も光陰矢の如(ごと)く>高浜虚子。いつの年も松の内を過ぎると、新年の雰囲気が矢のように遠ざかっていくものだろう▼今年はいつもの年と違うと覚悟はしていたが、もともと薄い正月の気分が、早々と去ったかのようである。仕事始めの昨日、東京、神奈川、千葉、埼玉の四都県にまた緊急事態宣言が出される見通しとなった▼昨年のあの重苦しい日々を思い出した方は多いだろう。今回対象に入っていない地域でもまったくのひとごとと思う方はいないはずだ。一歩後戻りするような感覚も列島にあるのではないか▼感染者の増え方と医療の圧迫を考えれば、措置は納得できる。むしろ遅すぎたのではなかったかとも思えてくる▼昨年から、かたくなに緊急事態宣言に慎重姿勢だった菅義偉首相は一転して、再発令に傾いた。方針転換について、決して後手に回っているわけではない、と思わせる言葉や説明が、記者会見にはなかったように感じる▼中国の古典「菜根譚(さいこんたん)」には大切なことを成し遂げるために虎に乗るような勢いに任せれば成就しない、「一歩引くことを考えよ」とある。一歩後戻りはつらいが、踏ん張り時であろう。頑張りを支える言葉や説明もほしい。