互いに死んだと思っていたかつての恋人、与三郎とお富は三年ごしとなる劇的な再会を果たす。「いやさお富、久しぶりだなあ…よくもおぬしあ達者でいたなあ」。与三郎が驚く。流行歌「お富さん」の題材にもなった芝居「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)」の名場面だ▼よくぞ達者でいてくれたなあ−と驚き、感激した研究者は多かったはずである。二〇二〇年は絶滅を疑われていた動物たちとの劇的な再会が、世界で多い年だったという▼環境情報のサイト「モンガベイ」が伝えているが、ニューギニアの高地では、ほえ方が独特という犬「ニューギニア・シンギング・ドッグ」が確認された。野生の個体はいないとも思われていたという。大昔、人に飼われていたと聞けば、野性的な見た目に飼い犬の面影も感じる。古い仲間との再会のようだ▼ボリビアのカエルやチョウ、マダガスカルのカメレオンなども数十年ぶりに生きているのが分かったという。コロナ禍一色の中で、生物多様性をめぐっては明るさもあった年だった▼そこに深く関係する地球温暖化問題でも、前向きな話があったとサイトは言う。将来、温室効果ガス排出を実質ゼロにする約束の列に、日本など多くの国と企業が、相次いで加わった▼今年は約束を果たすための第一歩か。コロナ禍の中で前向きな話題がまた求められよう。達者な姿で驚かせてくれた動物のためにも。