ピアノの発表会。いざ特訓の成果をと弾きだそうとするが曲が思い出せない。さっきまであったはずの楽譜も消えている。どうしよう。…と、ここで、毎回、夢は覚めるらしい。子どもの時、ピアノを習っていた友人がよく見る夢だそうだ▼若い時の経験に基づく怖い夢にうなされるということはどなたにもあるのではないか。歌人の斎藤茂吉は試験の夢だったようだ。こんな歌がある。<試験にて苦しむさまをありありと年老いて夢に見るはかなしも>。一九三一年というから五十歳近い。いくつになっても夢に見るほど試験の不安と緊張はなかなか忘れられるものではない▼大学入学の共通テストが始まった。今年の<試験にて苦しむさま>を思えば胸が痛い。ただでさえ、心落ち着かぬ入試に今年はコロナ禍が加わった。感染対策にも気を使いながらの日々は受験生や家族にも大きな負担だったはずだ▼間の悪いことに新制度導入で今回から試験の内容も変わってくる。どんな傾向の問題が出るか。コロナと新制度の重荷。大人になってからどんな夢を見るかと同情する▼<朝たちて試験に行きし長男ををさなのごとくたまゆらおもふ>。これも茂吉。今度は長男の受験を心配している。自分の苦しい経験があるからだろう▼ガンバレ受験生。怖い経験だが、こんなに家族やまわりが応援してくれる日々は人生にはそうそうない。