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新聞配達に関するエッセー2019年

2021年01月23日 | Weblog

審査員特別賞

届いた声

佐々木ささき 美和みわ(34歳) 北海道北広

 毎朝玄関の前に立っているおじさんがいる。あいさつしてもみけんにシワを寄せ口をつぐんだまま。次の日も「明日は休刊日です」と新聞を差し出すと、無言で取り上げ玄関に戻って行く。

 半年たった頃、おじさんがいなかった。ポストに入れると玄関からおばさんが出てきた。

 「あなたが毎日、新聞を届けてくれる子ね。主人は新聞が来るのを楽しみにしてたのよ。実はのどのがんでお話ができなかったの。耳もほぼ聞こえなくてね。毎日、新聞と私しか相手が居なかったから。でもいつしかあなたが来るのを待ってたわ。1時間も前から何度も外に出て行ったり来たり。最近具合が悪くて入院してるのよ。これからはポストに入れてちょうだい」
 それから半年後、おじさんが立っていた。「おはようございます。お久しぶりです」。

おじさんがいつものように顔色を変えずに受け取った。
 でも玄関に入るときに笑顔が見えた。私の声も届いた気がした。


今日の筆洗

2021年01月23日 | Weblog

 米連邦議会はキャピトルヒルと呼ばれる小高い丘にある。詩人のアマンダ・ゴーマンさんが詩を書いていたのは、暴徒と化した人々がその丘を登り、議事堂を襲撃していた、その時だったという▼「私たちが登る丘」。二十二歳の黒人女性であるゴーマンさんが、バイデン大統領の就任式で、読むことになる詩である▼「私たちは深く悲しみながらも成長した」「この分断を終わらせる。私たちは、未来を大切にするならば、まずは違いを脇に置かなければならないことを知っているから」。登るべき本当の場所を示しているのだろう。世界中が見た就任式の後、大きな反響を呼んでいるという▼自ら「奴隷の子孫で、シングルマザーの家に育ったやせた女の子」と境遇を語りつつ、人々の和解や再び理想に向かうことへの願いがつづられている。足りない読解力がうらめしいが、辞書をにらみつつ読めば、称賛される理由は伝わってくる▼天地を動かし、鬼神を感動させるのが歌だとわが国の古今和歌集も言っている。朗読で数分間の詩ではあったが、無数の言葉を連ねる政治家の演説をしのぎ、人の心を動かす力があったようだ▼ディールなどと言って、理想よりも取引に勝つことに指導者が重きを置いていた時代である。米国の器の健在ぶりにほっとした国民もいるのではないか。登るべき丘の道は長く険しそうではあるけれど。