審査員特別賞
届いた声
佐々木 美和(34歳) 北海道北広
毎朝玄関の前に立っているおじさんがいる。あいさつしてもみけんにシワを寄せ口をつぐんだまま。次の日も「明日は休刊日です」と新聞を差し出すと、無言で取り上げ玄関に戻って行く。
半年たった頃、おじさんがいなかった。ポストに入れると玄関からおばさんが出てきた。
「あなたが毎日、新聞を届けてくれる子ね。主人は新聞が来るのを楽しみにしてたのよ。実はのどのがんでお話ができなかったの。耳もほぼ聞こえなくてね。毎日、新聞と私しか相手が居なかったから。でもいつしかあなたが来るのを待ってたわ。1時間も前から何度も外に出て行ったり来たり。最近具合が悪くて入院してるのよ。これからはポストに入れてちょうだい」
それから半年後、おじさんが立っていた。「おはようございます。お久しぶりです」。
おじさんがいつものように顔色を変えずに受け取った。
でも玄関に入るときに笑顔が見えた。私の声も届いた気がした。