螺鈿職人になる旅 / 武蔵川工房
ゴジラ、熱さまシート。スモッグ。何のことかと思われるだろうが、いずれも「かばん語」である▼ゴジラはゴリラとクジラ、熱さまシートは熱冷ましとシート。スモッグはスモーク(煙)とフォグ(霧)。二つの異なる単語を巧みに重ね合わせた混成語のことでルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』に出てくる二つの言葉をかばんの中に一つに詰め込むというハンプティ・ダンプティのせりふから「かばん語」と呼ばれる▼大海原を飛び交う涼しげなカモメ。それに郵便のメール。「メ」でうまくつながる「かばん語」商品名の傑作の一つだろうが、お別れとなる。日本郵便はくじ付き暑中見舞い用はがき「かもめ〜る」をこの夏から発行せず、廃止するそうだ▼一九八六年から飛び続けてきたカモメだが、九三年の三億四千万枚をピークにその数を次第に減らし、昨年はピーク時の半分以下の一億四千万枚。やはり、電子メールなどに追い払われてしまったか▼郵便局員への厳しい販売ノルマなどの問題もかつてはあったが、昭和生まれのカモメが飛び去っていくのが少々、寂しくもある。年賀状ほどの利用者はいなかったが、夏の盛りに届く一枚のはがきに季節や消息を気遣ってくれる人の心を感じた人も多かろう▼お別れに浅川マキさんの「かもめ」(作詞・寺山修司)を口ずさむ。<かもめ かもめ さよなら あばよ>