日米同盟の強固さを中国に誇示する目的は果たした。会談した菅義偉首相とバイデン大統領だ。ただし、米中の狭間(はざま)にある日本は、米国一辺倒というわけにはいかない。バランス感覚が必要である。
バイデン氏が大統領就任後、初めて対面する外国首脳に菅氏を選んだのは、中国との「新冷戦」に当たって日本の協力に大きな期待をかけている表れだ。
折しも米国は中国をにらんで外交攻勢をかけているさなかの首脳会談である。公表されていないものの、踏み込んだ注文や提案が米側からあったとみるのが自然だろう。
バイデン政権が重視する人権問題では、両首脳は香港と新疆ウイグル自治区の人権状況に「深刻な懸念」を共有した。ただ、ウイグル問題で対中制裁に踏み切った欧米とは日本は一線を画している。
菅氏は会談後の共同会見で「日本の取り組みを大統領に説明し、理解を得られた」と述べたが、はたしてこれですむかどうか。欧米からの同調圧力と同時に、中国からも圧力が強まることが予想され、日本は板挟みだ。
バイデン氏は第五世代(5G)移動通信システムの普及や、半導体のサプライチェーン(部品の調達・供給網)構築で日本と協力を進める、と共同会見で表明した。
米国は先端技術の保護のため中国への輸出規制を強めるとともに、ハイテク製品の原料となるレアアース(希土類)などの供給網を見直し「脱中国化」を図る方針だ。日本はじめ同盟国に同調を求めている。
中国と経済的な結びつきの強い日本にとってこの中国締め出し政策は厳しい。菅氏は日本の立場を率直に説明したのだろうか。会談は、両首脳が対中政策を綿密にすり合わせる機会になったはずだ。
地理的にも歴史的にも中国とつながりの深い日本は、米中との間合いを測った外交が必要である。
米中は互いが国内世論を意識して激しい言葉をぶつけ合っている。これでは外交上の選択肢が狭まり、衝突軌道を突き進むだけではないか。強い危惧を覚える。求められるのは自制と理性である。
加えてコミュニケーションも不可欠だ。日米両政府が出した共同声明も、中国との「率直な対話」の重要性を認識し、中国に懸念を直接伝えていくことをうたった。
米中が意思疎通を積み重ねるような環境づくりに日本が貢献できる余地はあるはずだ。